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最終話 犬と飼い主
しおりを挟むご主人様は僕の事を見ないまま話を始めた。
「もう、俺達別れよう」
「ちょっと待ってくださいよ!いくらなんでも急過ぎじゃないですか!!」
「そういう事だ、来週一杯で出てってもらうから準備しとけ」
「来週ってそんな……僕なんかしましたか!?ご主人様の嫌がる事しましたか!?こんなのおかしいですよ……」
僕の言葉には耳を貸さずに、ご主人様は自分の部屋に戻っていってしまった……
僕は何をしたんだろう……
その日はいろいろ考えて、考え過ぎて寝れなかった。
次の日の朝。
いつもの休み、ご主人様がいる普通の生活、では無い。
ご主人様の家の中で僕はひとりぼっちだ……
もうこの関係は戻らないのかなぁ……
気分転換に僕は外に出る事にした。
頭の中はご主人様で溢れて、零れて、落ちそうになるのを一滴も落とさない様に歩いた。
そういえば、ご主人様のところに来た時は僕は何にも出来なかったなぁ……
安いスーパーを探して、行ったり来たりを毎日繰り返して、ご主人様が喜んでくれるかなって考えてる時間が好きだったし、もどかしかった。
そんな事を考えていると、通い詰めたスーパーに着いていた。
何で僕はここに……もう作る事なんてないのに……
「あれ?安野くんじゃん!」
「……夏川さん?」
「昨日はびっくりしたよー、突然走って帰っちゃうんだもん」
「すいません……ちょっと色々あって……」
話しながら僕の中で塞いでいた栓が外れて、溢れた。
涙が止まらなくてどうしたらいいか分からなくなった。
「ちょ、ちょっと安野くん!大丈夫!?」
「ぼ、僕はどうしたら……」
「私でよければ話聞くよ?」
その場で動けなくなってしまった僕は、強制的に夏川さんの家に連行された。
普通はここで、これが夏川さんの部屋かぁ~花の香りがするなぁ~なんてワクワクする所だがそれどころではない。
無理やり座らされ、夏川さんに促される。
「ほら、ちょっとは落ち着いて。これ使っていいから」
「あ、ありがどうございまず……」
ティッシュを一箱もらい僕は涙と鼻水を拭った。
何分経ったのか分からないけど少し落ち着いて来た。
僕は夏川さんにどうしてこうなったのか聞いてみた。
「……夏川さん、もし付き合ってる人が突然別れを告げてきたらどう思います?」
「え!?あー……突然言われたらそりゃびっくりするよ」
「ですよね……」
「え、安野くん振られたの?」
「いや、”もし”の話ですよ!」
「そ、そう……でも別れようって言われたんなら何か理由があるんじゃないの?」
「理由……ですか」
「だって好きで付き合ってるなら、別れる必要ないでしょ?別れたい理由が出来たから別れるわけじゃん?」
「……じゃあ嫌われたって事?」
「んー、安野くん何かしたんじゃないの?」
「そ、そんな!僕は普通にしてましたよ」
「やっぱり安野くんの話じゃん」
「あ……」
夏川さんに話を聞いてもらって僕は少しスッキリした。
いや、全然スッキリしてないんだけどちょっとは考えられる様になった。
どうして、ご主人様……教えてよ……
「そうだ!何でか気になるなら聞いちゃえばいいじゃん!」
「……え、でもそんな事」
「どうせ振られるんだったら、スッキリして振られた方がいいでしょ!」
「どうせって……」
でも確かにそうだ。
ご主人様が別れたい理由を聞かなければ僕はずっとこの呪縛から逃れられないと思う。
何かを見逃していたんだ、それを聞かなくちゃ……
僕は変わったんだ、ご主人様のために。
その日の夜僕はご主人様の部屋をノックした。
「……ご主人様?ちょっといいですか?」
「……」
返事はない。
でも僕は続けた。
「僕いろいろ考えました。何か悪い事したかな?とか気に障ることしたかなとか……でも、結局わからないんです。僕の何がいけなかったんですか……?」
やっぱり返事はない。
でも、少しスッキリした。
だってそれぐらい嫌われちゃったって事だもん。
自分の部屋に戻ろうとした時、ドアが開いた。
「……ちょっと出かけるか」
ご主人様は僕を連れて外に出た。
僕達は無言で歩き続けた。
外はポツポツと雨が降り出してきた、けど傘はない。
しばらく歩いた僕達はある場所についた。
「ここは……」
「……懐かしいな」
それは”誓いの橋”だった。
でも何でまたここに……
普段はカップルで賑わっているが、今は雨。
人は1人もいない。
「犬、向こう側行け」
「え、は、はい」
今、犬って……
何で今さら……
ご主人様はこっちを見つめ、歩き出す。
そして話しだした。
「お前何か勘違いしてるぞ」
「……勘違い?」
「俺は、好きだよお前のこと」
「え、でも何で!?」
「仕事をする前のお前がな……」
「な、何でですか!!ご主人様は喜んでくれたじゃないですか!!」
「そりゃな、あんなにポンコツだったお前がこんなにしっかりとした人間になって俺は嬉しいよ」
「だったら何で別れようなんて!」
ご主人様は足を止めた。
「俺はあいつが忘れられないみたいだ」
「……え、あいつって…………」
「どっかにあいつの影をお前に重ねてたのかもな……お前が頑張って頑張って成長する程、心はお前から離れていった」
「そんな!!僕は何のために……」
「本当に悪かった……でもお前の成長を喜んでたのは本心だ」
「そんな事今さら言われても……」
「もう、お前に俺は必要なくなったんだよ」
「違う!!僕はまだご主人様が必要だ!!」
その一瞬ご主人様は微笑んだ、
今まで見た中で一番嬉しそうに笑ってくれた。
でも、その顔が僕には向かない。
ご主人様はこ”誓いの橋”で視線を外した。
それは僕達の愛を誓わないという決意の表れだろうか。
「やだよ!!ご主人様!!」
僕はご主人様の元へと走った。
でももう遅い。
そう、僕がご主人様の元へ来た時点でたぶんそれは続かない愛なんだ……
この誓いの橋では目線を逸らせば愛は誓えない。
最後まで僕を見て欲しかった……
だから走り続けた……
「僕は!まだご主人様が好きだ!!」
そう言いかけたところで、雨に濡れていた橋のせいで盛大に転んだ。
何でこんな時に……
最後がこれなんて恥ずかし過ぎて顔を上げられないよ……
その場で僕は倒れたままでいる事しか出来ない。
「そういうとこだよ」
「……え?」
気付いたらご主人様が近くまで来ていた。
「ほら、立てよ。風邪引くだろ」
ご主人様に引っ張られながら僕は立ち上がる。
パラパラ降っていた雨は豪雨になっていた。
「そういうとこって……なんですか?」
「最後にその姿が見れてよかったよ、そういうポンコツなところが」
「……ポンコツって」
「ちゃんと俺はお前の事好きだったよ」
そう言ってご主人様は僕の事を抱き寄せた。
雨に濡れてるからなのか、それとも嬉しいからなのか……
僕の身体は暖かくて心地よい。
「今日までだからな」
そう言ってご主人様は僕の唇にキスをした。
神様、お願いです。
最後だから、この人の胸のなかで泣かせてください……
僕達が繋がっていた理由は、犬と飼い主。
所詮それまでだ。
鎖で繋がれて、要らなくなったら捨てられる。
でも僕は幸せだったよ。
ご主人様のひと時が、少しでも満たされたならそれで良い。
だって僕はこんなに立派な人になれたんだから……
ありがとう……ご主人様……
END
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