俺はモブなので。

サイドストーリー③皇太子の復讐10

この景色も今日で見れなくなるのかと揺れる馬車の中で外を眺めていると、突然その揺れが止まった。


「シン様。」

そして騎士の一人が扉を開けると、僕に三枚の封筒を渡す。


「これは...？」

「シン様にお渡ししてほしいと、第二王子殿下からお預かりしました。」

「レイが？」

「はい。馬車の中で見てほしいと仰られていましたので。」

「分かった。ありがとう。」

騎士が出て、また馬車がゆっくりと動き出す。


(封筒の名前は...え？)


四枚の封筒には、自分がよく知る差出人の名前が記載されていた。


「っ...」
 
父母と弟、そして晴人からの手紙。

少し緊張気味にまず父からの封筒を開けると、二枚の紙が入っていた。
 
一枚目は家の契約書。そして二枚目には口座番号と父からのメッセージが書かれていた。

『その口座にはお前が今まで国に貢献してきた分のお金が入っているから、好きに使うように。

それと海に近く家を買っておいたから自由に使いなさい。前に話していた事にでもな。

返品は不可だ。


だから私が知らぬ異国の地で幸せになりなさい。』


以前、父にもし自分が皇太子ではなく平民だったなら、前世の頃の夢でもあった海が見える静かな場所で喫茶店をしたいと言った事があった。
 
その事を父は覚えていたのだ。

そしてそれが本心だという事にも、気付いていたのだろう。
 


『幸せになりなさい。あなたにはその権利があるわ。』

母からの手紙には、そう一言だけ書かれていた。
 
一言だが、母からの愛が詰まったその文字に涙が零れそうになる。



『兄上へ。

兄上がどんな罪を犯そうとも、私は兄上を尊敬しています。

どうか、幸せになってください。』

レイらしい短い文章に、クスリと少し笑みが零れる。

みんな文章は短いが愛が詰まっている事が伝わってきて、涙が出そうだ。


必死に涙を堪え、最後に『織田晴人』の名前が書かれている手紙を開く。