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脱サラ編 第七話
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とある哲学者はこう言った。
「人間の生きる理由には『快楽』『倫理』『信仰』の3段階がある。」
つまり、『楽しいことを求めて』『世のために』『神様の救いを信じて』の3種類が生きがいだと言うことだ。これをヒントに、自分のレベルに落としこんで生きがいを解釈すればより良い人生となるだろう。それがもし他者にとって辛い選択であっても、自分にとって生きがいと感じるのであればそれは良い選択と言えるだろう。
◇
会社を辞めると意思を固めてからの行動は早かった。
社内のイントラネットから退職願のテンプレを取ってから即記入、即提出した。
部長からは何か言われたような記憶はあるが、全て聞き流した。
退職願を提出した所を誰かに見られていたのか、すぐに俺が会社を辞める事が部内や関係部署に伝わっていた。誰だ、噂好きの人は。
俺の元へ辞めないでくれ、と懇願してくる人や、転勤で海外の拠点に行っている人から電話が掛かってきたりもした。いやぁ、愛されてるね俺。
お前が辞めたらこの仕事誰がやるんだ!と怒ってくる他部署の人もいた。お前がやれ。散々俺に甘えてきたんだ、痛い目みやがれ。
6月上旬に退職願を提出して、退職日は6月末。なんとも凄まじい行動力だ。
退職日までは、業務の引き継ぎや手順書の作成、6月末までに終わる試験であれば引き受け、報告書まで作成を行った。めちゃくちゃに忙しかったが、気は楽だった。なんと言っても、今月頑張れば開放されるわけだからね。
こんな風に楽しくも忙しい日常を繰り返して、今は退職の前日。
最近はデスクワーク中心になっていたので腰が痛い。腰痛持ちの俺にとってデスクワークは苦行と言っていいだろう。
ひとまず今やっている業務はひと段落着いたので、体を伸ばすため兼気晴らしに試験棟へ行ってみよう。
途中の屋外休憩所で、松田さんと清水さん、須藤さんが休憩していた。私に気が付いたらしく、チョイチョイ、っと手招きする。
「お疲れ様です。」
「おぅお疲れ様。手順書は終わったか?」
「ちょうど終わった所ですよ。これでやり残す事なく辞めれます。」
「そんな事言うなよたーきー!やり残しを少しでも残すために仕事投げるぞ?」
「それはまじで勘弁して下さい。」
いたって日常の、俺が茶化される会話。なんだかんだでこんな調子で7年間も時間を共有してきたんだな。7年なんて言ったら小学1年生が中学生になっている程に長い時間だ。辞めてから交流が無くなる可能性を考えると、なかなか感慨深いものがある。
「喜多、仕事辞めてどうするんだ?」
松田さんが訪ねる。そういえば辞めるとしか言ってなかったな。
「やりたい事があるんですよ。そのために辞めます。」
「何やりたいんだ?」
やっぱり聞いてくるよね。
「あー……田舎に土地でも買って、動物育てたいなって、思いまして……」
実際に自分がやりたい事を口に出すとちょっと照れ臭いな。
「あぁ、そういや喜多は動物が好きだったな。そうか……動物飼い出したら連絡くれよな。行くから。」
「お、そしたら俺も行くぞ!」
「俺も動物触ってみたいなぁ。息子でも連れて行くか。」
松田さんに全員が続く。まぁ別にいいけど、やりたい事を実現できるかは分からない。
「えぇ、実現できたら呼びますよ。」
「やったぜ! そしたら、今日はこの須藤さんが奢ってやろう! なんでも好きなのを押すといい!」
そう言うと須藤さんは俺を自販機の前まで引っ張る。奢るって飲み物をか。何でもいいのか……。
「そしたらこれでお願いしやす。」
俺は1番高いエナジードリンクを指さす。自販機のくせに300円もするなんてたいした飲み物だ。
「それ1番高いやつじゃんかよ! ちょっとは遠慮しろよぉぉ!」
騒ぐ須藤さんに無理やり買わせ、休憩を満喫した。
◇
休憩後は、試験棟を見て回ってみた。
恒温室、無響音室、強度試験室、防音室、一般試験室等々……どれも思い入れがある。こんな試験やったな、あんな失敗したな、と色々と思い馳せる。
こんな事してると未練があるんじゃないのか、と思われそうだがそれは違う。それぞれの試験設備達に別れを告げるようなものだ。使い難い試験設備達よ、今までありがとな。と皮肉混じりに。
一通り回ると最後に耐久試験室に行く。俺の最後の仕事である耐久試験の様子を見るためだ。
ガチャコン……ガチャコン……と一定の周期で聞こえるシリンダーの音をBGMに目当ての耐久を見に行くと、緊急停止していた。
ひとまず様子を確認するために軍手を取ってくる。
手動操作のボタンを押しながら少しずつ動作確認してみると、試験機自体が耐久による劣化で軸受け部分が欠損していた。そりゃ耐久止まりますわな。
こうなると試験試料にも何か不備が起きてる可能性もあるな。設備と試料の両方確認しなきゃだ。
まったく、最後まで世話を掛けてくれますな。
その後は耐久試験機の立て直しをし、試料の簡単な分解をして耐久による損傷以外の不備は見られなかったので、耐久を続行することとした。復旧した頃には定時を過ぎ、20時になっていた。なんで俺は退職前日にガッツリ残業してるんだろうな。
ともあれ、復旧はできた。耐久はまだまだ続くので、後任者に今回の事態だけはメールで報告しておくことにしよう。
さて、帰りますかね。今日はもう疲れた。今日はゆっくり寝よう。そう思いながら帰路へ着くのだった。
あ、ちゃんと残業は3時間分申請しといたよ。最後まで貰うもの貰わないとね。
「人間の生きる理由には『快楽』『倫理』『信仰』の3段階がある。」
つまり、『楽しいことを求めて』『世のために』『神様の救いを信じて』の3種類が生きがいだと言うことだ。これをヒントに、自分のレベルに落としこんで生きがいを解釈すればより良い人生となるだろう。それがもし他者にとって辛い選択であっても、自分にとって生きがいと感じるのであればそれは良い選択と言えるだろう。
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会社を辞めると意思を固めてからの行動は早かった。
社内のイントラネットから退職願のテンプレを取ってから即記入、即提出した。
部長からは何か言われたような記憶はあるが、全て聞き流した。
退職願を提出した所を誰かに見られていたのか、すぐに俺が会社を辞める事が部内や関係部署に伝わっていた。誰だ、噂好きの人は。
俺の元へ辞めないでくれ、と懇願してくる人や、転勤で海外の拠点に行っている人から電話が掛かってきたりもした。いやぁ、愛されてるね俺。
お前が辞めたらこの仕事誰がやるんだ!と怒ってくる他部署の人もいた。お前がやれ。散々俺に甘えてきたんだ、痛い目みやがれ。
6月上旬に退職願を提出して、退職日は6月末。なんとも凄まじい行動力だ。
退職日までは、業務の引き継ぎや手順書の作成、6月末までに終わる試験であれば引き受け、報告書まで作成を行った。めちゃくちゃに忙しかったが、気は楽だった。なんと言っても、今月頑張れば開放されるわけだからね。
こんな風に楽しくも忙しい日常を繰り返して、今は退職の前日。
最近はデスクワーク中心になっていたので腰が痛い。腰痛持ちの俺にとってデスクワークは苦行と言っていいだろう。
ひとまず今やっている業務はひと段落着いたので、体を伸ばすため兼気晴らしに試験棟へ行ってみよう。
途中の屋外休憩所で、松田さんと清水さん、須藤さんが休憩していた。私に気が付いたらしく、チョイチョイ、っと手招きする。
「お疲れ様です。」
「おぅお疲れ様。手順書は終わったか?」
「ちょうど終わった所ですよ。これでやり残す事なく辞めれます。」
「そんな事言うなよたーきー!やり残しを少しでも残すために仕事投げるぞ?」
「それはまじで勘弁して下さい。」
いたって日常の、俺が茶化される会話。なんだかんだでこんな調子で7年間も時間を共有してきたんだな。7年なんて言ったら小学1年生が中学生になっている程に長い時間だ。辞めてから交流が無くなる可能性を考えると、なかなか感慨深いものがある。
「喜多、仕事辞めてどうするんだ?」
松田さんが訪ねる。そういえば辞めるとしか言ってなかったな。
「やりたい事があるんですよ。そのために辞めます。」
「何やりたいんだ?」
やっぱり聞いてくるよね。
「あー……田舎に土地でも買って、動物育てたいなって、思いまして……」
実際に自分がやりたい事を口に出すとちょっと照れ臭いな。
「あぁ、そういや喜多は動物が好きだったな。そうか……動物飼い出したら連絡くれよな。行くから。」
「お、そしたら俺も行くぞ!」
「俺も動物触ってみたいなぁ。息子でも連れて行くか。」
松田さんに全員が続く。まぁ別にいいけど、やりたい事を実現できるかは分からない。
「えぇ、実現できたら呼びますよ。」
「やったぜ! そしたら、今日はこの須藤さんが奢ってやろう! なんでも好きなのを押すといい!」
そう言うと須藤さんは俺を自販機の前まで引っ張る。奢るって飲み物をか。何でもいいのか……。
「そしたらこれでお願いしやす。」
俺は1番高いエナジードリンクを指さす。自販機のくせに300円もするなんてたいした飲み物だ。
「それ1番高いやつじゃんかよ! ちょっとは遠慮しろよぉぉ!」
騒ぐ須藤さんに無理やり買わせ、休憩を満喫した。
◇
休憩後は、試験棟を見て回ってみた。
恒温室、無響音室、強度試験室、防音室、一般試験室等々……どれも思い入れがある。こんな試験やったな、あんな失敗したな、と色々と思い馳せる。
こんな事してると未練があるんじゃないのか、と思われそうだがそれは違う。それぞれの試験設備達に別れを告げるようなものだ。使い難い試験設備達よ、今までありがとな。と皮肉混じりに。
一通り回ると最後に耐久試験室に行く。俺の最後の仕事である耐久試験の様子を見るためだ。
ガチャコン……ガチャコン……と一定の周期で聞こえるシリンダーの音をBGMに目当ての耐久を見に行くと、緊急停止していた。
ひとまず様子を確認するために軍手を取ってくる。
手動操作のボタンを押しながら少しずつ動作確認してみると、試験機自体が耐久による劣化で軸受け部分が欠損していた。そりゃ耐久止まりますわな。
こうなると試験試料にも何か不備が起きてる可能性もあるな。設備と試料の両方確認しなきゃだ。
まったく、最後まで世話を掛けてくれますな。
その後は耐久試験機の立て直しをし、試料の簡単な分解をして耐久による損傷以外の不備は見られなかったので、耐久を続行することとした。復旧した頃には定時を過ぎ、20時になっていた。なんで俺は退職前日にガッツリ残業してるんだろうな。
ともあれ、復旧はできた。耐久はまだまだ続くので、後任者に今回の事態だけはメールで報告しておくことにしよう。
さて、帰りますかね。今日はもう疲れた。今日はゆっくり寝よう。そう思いながら帰路へ着くのだった。
あ、ちゃんと残業は3時間分申請しといたよ。最後まで貰うもの貰わないとね。
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