高卒サラリーマンが脱サラして田舎でスローライフするだけの話

らいお

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夢への足掛かり編 第八話

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7月17日

 ツーリングから帰宅したその翌日から青央あおさんとメールでやりとりをしていたが、17日、つまり今日が空いている日らしくバイクの受け渡しをする事になった。
 ちょっと前にバイクの洗車は済ましていたので、今はピカピカの状態だ。エンジンオイルも洗車と同時に交換したので、今このバイクは絶好調だろう。
 青央さんは「喜多くんの家に直接受け取りに行くから待ってて!」と言っていたが、どうやって持っていくのだろうか?俺の家まで公共交通機関を使ってくるのかな?でも青央さんは公共交通機関が大が付くほど嫌っているような人だ。

 青央さんから「そろそろ着くよ!」という連絡を受けたので外でバイクを出して待っていると、家の前に一台の軽トラックが止まった。

「喜多くん!久しぶり!おはよう!」

 軽トラックの車窓から身を乗り出して青央さんはそう言った。

「おはようございます、青央さん。お久しぶりですね。その軽トラにバイク積むんですか?」
「そうだよ、このために借りてきたんだ!」

 なるほど、そういう事か。確かにこれなら、バイクくらいなら楽々と運搬できるだろう。

「それで喜多くん。バイクの調子はどうだい?」
「絶好調ですよ。この前霞ヶ浦の方までツーリングに行ったんですけど、良く回ります。ツーリング後にオイル交換もしたので、今が絶好調ですよ。あ、そうだこれ。霞ヶ浦のお土産です」

 そう言って俺はお土産を渡した。

「おぉ、干し芋!確か茨城はサツマイモの産地だったよね。いいね、美味しそうだ」
「喜んでもらえてよかったですよ。そうだ、荷台に積む前にエンジン音聞いときます?」
「是非聞かせてもらうよ!」

 俺は鍵を取り出しエンジンをかける。キュルキュルとセルが回ると、すぐにエンジンがかかった。

「うん、バッテリーも問題無しだね。そして…このエンジン音!2気筒のこの排気音は最高だよ!いいねぇ、滾ってくる!」

 青央さんは興奮気味に語る。

「ヘルメット持ってきてるから、ちょっと周辺を走ってきてもいいかな?」
「えぇ、構いませんよ。ただ、あんまり回さないようにしてくださいね。回すのは持って帰ってからにしてください。」
「承知っ!それじゃあ早速行ってくるよ!」

 青央さんは軽トラックの助手席からヘルメットを取り出し、すぐにかぶってバイクに跨る。ギアはニュートラルのままで、アクセルを軽く捻り空ぶかしをし、音を改めて確認する。

「うん、良さそうだ。それじゃあ、行ってくるよ!」
「はーい、遠くまで行き過ぎないでくださいねー」

 青央さんはギアを1速に入れ、颯爽と走っていく。初めて乗ったバイクにも関わらず最初の走り出しでエンストしないのは流石は長年バイクを愛し、沢山の車種に乗った経験があるからこその技量と言えるだろう。前に俺は青央さんが持っている250ccの2ストのバイクに乗らせてもらったことがあったが、最初の走り出しでエンストをしてしまった事がある。確かにあのバイク自体癖の強いバイクだったという事もあったが、なかなか他の人のバイクに初めて乗った時にエンストをさせないで発進させる事は難しい。どうしても自分のバイクの感覚で扱ってしまうので、その差異でエンストしてしまうのだ。

 さて、青央さんの事だからあと30分は帰ってこないだろう。軽トラックは迷惑の掛からない所に止められているので大丈夫だが、さて、俺は青央さんが帰ってくるまで何をしていようか。

「…車の整備でもするかな」

 俺は、車の整備をする事にした。実は3日前にこの前買った車が納車されたのだ。もちろん納車前にディーラー側で色々と整備はされているだろうが、自分の目で見て確認しておきたい所だ。
 俺は家から工具を持ってきて、整備を始める。エンジンオイルやタイミングベルトなど一般の人が整備する時に確認する事以外に、前の会社で取り扱っていた俺が分かる範囲の部品類の確認もしておこう。





 整備をして少しすると、聞きなれたバイクの音が近づいてくるのが分かった。青央さんが帰ってきたらしい。

「喜多くん、最高だったよ!…あれ、その車は?」
「おかえりなさい、青央さん。この車、つい先日買ったんですよ。なので整備してました」
「なるほど、そうだったのか。ボクも手伝ってもいいかい?2人でやればすぐに終わるだろう?」
「お、ありがたいです。そしたら、俺はフロント側のサイドドアロックとバックドア見るんで、内張り剝がしちゃっていいんでPSD見てもらってもいいですか?あとヒンジあたりも」
「了解、工具借りるね」

 そして俺と青央さんは車の整備に取り掛かった。何とも懐かしい感覚だ。この人とも何度か同じ仕事をした事があったが、あの時もやり易かった。

 2人でやった整備は、あっという間に終わった。特に手を入れるところも無く、この車は良い状態だった。

「喜多くん、良いの買ったね。中古でこんなに状態のいい車は、なかなか出回らないよ」
「ですね、特に目に見える範囲でガタがきてないのは嬉しいですよ。ほんとは作動時間とか測定してモーターの状態も確認したかったんですけどね」
「はははっ、測定する機器が無いじゃないか。まさか、ウン百万もする機器を買うつもりなのかい?」
「まさか、そんなつもりは無いですよ。そもそも、作動時間測るだけならオシロスコープだけでいいから10万もしないじゃないですか。なにデーレコ買わせようとしてんですか」

 俺たちは冗談を交えながら軽く談笑する。

「手伝わせちゃってすみませんね。それじゃ、バイク荷台に積みこんじゃいましょうか」
「そうだね、パパっと終わらせちゃおう」

 バイクを軽トラの後方に止め、俺たちは積み込み作業を開始した。流石にこの作業は1人では危険なので2人で作業する。
 荷台の後方部を開け、そこにハシゴをかけ、そこからバイクを積み込む。この作業は一時的にバイクが地面を離れるのでとても危険だ。2人で左右からバイクを支えながら積み込む。その後はバイクを荷台でスタンドをかけ止め、ロープを使って動かないように固定する。左右からしっかりと固定しないと、輸送中カーブなどで左右に傾いた際転倒するので両側からテンションが掛かるように固定する。フレームに直で固定するのが良いだろう。一番安定すると思う。

「よし、これで大丈夫だろう」
「お疲れ様です。これ、降ろすときは大丈夫ですか?」
「あぁ、心配ご無用だよ。ガレージに昇降機付きの整備台があるから、それ使って降ろすさ」

 なんと、青央さんは良いものを持っているな。羨ましい限りだ。

「さて、積み込めた事だし、ボクはそろそろ帰るとするよ。早くこのバイクを乗り回したいしね」
「分かりました、安全運転で帰ってくださいね」
「あぁ、もちろんだよ」

 そして、青央さんはバイクを載せた軽トラックで帰っていった。車の整備も手伝ってもらえたし、ありがたかったよ。
 ……はて、何か忘れている気がするな。

(あっ、バイクの金貰い忘れた)

 その日の夜、青央さんに連絡すると、青央さんもすっかり忘れていたらしい。後日、俺の口座にしっかりと25万円振り込まれていた。

 さて、バイクも手放したし後はもう引っ越しの手続きと準備をするだけだ。こっちでやる事も少なくなってきて、少し寂しさを感じる。だが、これは俺のやりたい事への第一歩だ。しっかりと準備をし、万全の状態で移住しようと思う。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――
今回は少し専門用語が出てきたので軽く解説しますね。
・フロント側:車の前側、運転席と助手席がある方の事。後ろ側はリアと言う
・サイドドアロック:ドアと車体を保持するドアについた部品
・PSD:パワースライドドアの略。電気的にドアを自動で開閉することができる機構
・ヒンジ:ドアと車体の間にある、ドアを開閉させるための部品
・作動時間:部品に組み込まれている機構が電気的に何ミリ秒で作動するかの時間
・オシロスコープ:電流や電圧などを測定することができる機器
・デーレコ:データレコーダーの略。オシロスコープよりも高機能な測定ができる高価な機器
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