高卒サラリーマンが脱サラして田舎でスローライフするだけの話

らいお

文字の大きさ
25 / 71

奮闘、庭づくり編 第五話

しおりを挟む
 サクラコと一緒に料理をする事になった。さて、何を作ろうかな。

「手、洗ったよ!」

 サクラコが洗った手をブンブンと振りながらアピールしてくる。手を拭いてから振りなさい。

「そこにタオルあるからそれで手拭いてな」
「あいっ!」

 俺は近くにあるタオルを指さしながら指示する。サクラコの返事は元気がいいなぁ。
 今俺の家にある材料は大量のジャガイモと玉ねぎ、後は夏野菜が少々だ。冷蔵庫にはこの前買ったベーコンが残ってるし、ジャーマンポテトでも作るか。

「よし、サクラコ。今日はジャーマンポテトを作るぞ」
「なにそれ?」
「昨日ジャガバターを食べただろ?それよりも味が濃いやつだ。美味しいぞ」
「美味しいなら作る!」

 美味しくなかったら作らないのか……?
 まぁいい。ひとまず作ってみよう。

「まずはこのジャガイモと玉ねぎに土が付いてるから、水でしっかり洗ってくれ。できるよな?」
「できる!」

 サクラコにジャガイモと玉ねぎを数個渡すと、丁寧に洗いだした。

「しっかり土落とすんだぞー。じゃないと、できた料理に土が混ざっちゃうぞー」
「綺麗にする!」

 おー、張り切ってるなぁ。
 サクラコが洗っている間に俺は、ベーコンを適当なサイズに切っていく。

「孝文、綺麗になったよ!」

 綺麗に土を落としたジャガイモと玉ねぎをサクラコは見せてきた。

「おー、上手に洗えたなぁ。じゃ、これを切るからちょっと待っててなー」

 サクラコからジャガイモと玉ねぎを受け取り、ジャガイモは2cm角に切り、玉ねぎはくし切りにして細かくする。

「わたしもそれやりたいー」
「包丁は危ないからまた今度な。サクラコ、このジャガイモをそこの透明な皿に入れてくれるか?」
「わかったー!」

 サクラコは指示した通り、ジャガイモをボウルに入れていく。

「いいね、上手だぞ」
「やったー!」

 結構サクラコって聞き分けがが良いんだな。正直、あれやりたい、これやりたいって騒がれると思っていたから意外だった。

「できたよ!」
「おー、偉いぞー。そしたらこれをレンチンしていくぞー」
「れんちん?」
「レンジでチン……あー、レンジで温めていくぞ」

 なんでレンチンって言うのかな。今まで特に疑問を抱かずに使ってきた言葉だな。でも実際なんでこんな不思議な言葉が生まれたんだろうな。
 俺はサクラコがボウルに入れたジャガイモを500Wで3分、レンジで温める。

「ぐるぐる回ってるね!」
「そうだなぁ、ぐるぐるだなぁ」
「なんで回ってるの?」
「そうだなぁ……レンジってな、温かい風が出てるんだけど、それをしっかり当てるために回ってるんだよ」
「そうなんだ!」

 実際には風が出ているわけでは無く、食品内に含まれる水分をマイクロ波で振動させる事で水分子がお互いに擦れ合って生まれた摩擦熱で温まる、とかそんな感じだったが、これをサクラコに言っても理解されないだろう。ひとまずは熱風ということでお茶を濁しておこう。

「孝文っ!」
「うん?」
「レンジから!チンって!音なったよ!!」

 あぁ、もう温まったか。考え事をしていると時間が過ぎるのは早いな。

「音が鳴ったのはな、レンジが『温め終わったよー』って教えてくれたんだよ」
「へぇ!レンジさん偉いね!」
「はははっ、そうだなぁ、レンジさんは優秀だなぁ」

 子供の無邪気な発言は面白いな。レンジさんは偉い、か。そんな事考えた事も無かったよ。

「次は何するの?」
「次はな、炒めていくぞ」
「炒める?」
「フライパンで焼く、って事だ」

 レンジからジャガイモを取り出し、オリーブオイルを引いたフライパンでジャガイモ、玉ねぎ、ベーコンを炒めていく。

「わたしもそれやってみたい!」

 言うと思ったよ……さて、どうしたものか。火傷させるわけにもいかないが、そこまで難しい作業でもないからなぁ……

「よし、じゃあやってみるか」
「やったっ!」
「じゃ、そこの椅子をここまで持ってきてくれ」
「あい!」

 サクラコは指示通り椅子を持ってくる。

「じゃ、そこに膝立ちしてな」
「こう?」

 なぜ椅子を持ってきたかというと、今調理している台はサクラコの身長では少し高すぎるからだ。流石につま先を立ててやらせるわけにもいかないので、椅子に乗ってもらう、ってわけだ。

「そうそう。そしたら、俺がフライパンを持っておくから、サクラコはこれで炒めてくれ。いいか、フライパンは熱いから絶対触るんじゃないぞ」
「わかったー!」

 俺がフライパンを支え、サクラコがターナーで炒める。これなら余程のことが無い限りは火傷しないだろう。

「ぐるぐる混ぜるの?」
「そうだな、強くやっちゃうと零れちゃうから、優しく混ぜるんだぞ」
「あい!」

 サクラコは恐る恐る、といった感じだったがしっかりと食材を炒めていく。おぉ、結構上手いじゃないか。

「上手いぞ。その調子で混ぜていこうな」
「あいっ!」

 最初は恐る恐るだったが上手いと言われて自信が付いたのか、さっきよりも軽快に炒めていくサクラコ。
 子供はコツを掴むのが早いな。いい具合に炒められている。
 玉ねぎが透明になってきたので、塩コショウを追加する。ほんとはここでマスタードを入れたいところだが、子供の舌には少し辛いだろうから控えよう。

「いいにおい!」
「よし、そろそろ大丈夫そうかな。サクラコ、もういいぞ」

 ジャガイモの形が少し崩れてきたので、もうそろそろ良い頃合いだろう。俺は火を消してサクラコからターナーを受け取る。

「もうその椅子片付けちゃっていいぞ」
「あいっ!」

 サクラコがいそいそと椅子を元あった位置に戻している姿を横目に見ながら、俺は爪楊枝でジャガイモを刺して焼き加減を確認する。
 スルッと小気味良く刺さった。うん、完璧だ。
 フライパンから皿に移して、ジャーマンポテトの完成。まだ食べてはいないが、きっと美味しいだろう。
 茶碗を2個取り出し、昨日の晩から保温にしたままだったご飯をよそう。ほんとはこんなに長時間保温しちゃダメなんだけどね。電気代もかかるし、味も落ちるし。

「サクラコ、できたぞー」
「やったー!孝文、はやくはやく!」

 サクラコは待ちきれんばかりに手をバタバタとさせながら催促してくる。自分が手伝ってできた料理だからな。はやく食べたいだろうな。
 俺はジャーマンポテトとご飯をテーブルに置き、椅子に座った。

「よし、じゃあ食べるか」
「たべるー!」

 サクラコは箸を持つと、行儀良く「いただきます!」と言い食べだした。こういう所作を見る限り、サクラコは育ちが良いんだよな。どうしてこんなにお転婆な子になったんだろうか。

「孝文!すごい!ものすごく美味しいよ!」
「そうか、よかったな。しっかり噛んで食べるんだぞ」

 俺も食べてみたが、サクラコの言った通りとても美味しかった。やはり、美味しいジャガイモを使うと一段と味が引き締まるな。

 俺たちはそのまま食べ続け、あっという間に完食してしまった。

「どうだ、サクラコ。満足したか?」
「お腹いっぱい!美味しかった!」
「そうか、よかったな」

 サクラコは本当に満足したような表情をしている。こっちに移住してから、食に関しては俺も満足だな。やはり美味いものを食べると生活が充実する気がする。都会にいた時は外食できる場所が多かったが故に、自炊なんてほとんどしなかったからな。

「うー……」
「どうした、サクラコ」

 唐突にサクラコが唸り出した。表情もどこか曇っている。

「もっと遊びたいんだけどね、まだ宿題終わってないの……」

 宿題?あぁそうか。まだ8月末だから小学生は夏休みか。

「夏休みの宿題、終わってないのか?」
「うん、後でやろう、って思ってたらできなくて……」
「だったら、早く帰ってやりなさい。もうすぐ学校も始まるんだろ?」
「……明日も、来ていい?」
「もちろん良いが……来るなら午後な。午前中は買い物に行ってるからいないはずだ」

 明日は晴れの予定なので、ホームセンターに柵と小屋の材料を買いに行くつもりだ。どういった物にしようかはまだ書き出してはいないが、頭の中ではもう図面は完成している。

「宿題持ってきてもいい?」
「あぁ、いいぞ。分からない所あったら教えるくらいはできるはずだ」

 小学校低学年の勉強であれば、いくら高卒の俺でも分かるはずだ。きっと教える事もできるだろう。

「わかった!じゃあ明日も来るね!」
「了解。帰ったらしっかり宿題やるんだぞ?」
「うんっ!」
「気をつけて帰れよ」
「あいっ!孝文、またねー!」

 そうして、サクラコは帰っていった。
 今日は朝から色々あったせいでちょっと疲れたな。でもこの疲労感は、庭作業をして感じるものとは違って、どこか満足感のあるものに感じた。

「さて、図面でも書くかなぁ」

 俺は伸びをするしながらそう言うと、図面を書くためにパソコンを立ち上げに行くのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。 休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。 啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。 異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。 これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...