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閑話-奔走
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某日某所の山中にて。
時刻はまだ夜だ。耳を澄ませば風で煽られた木や草がカサカサと音を立て、不気味な雰囲気を感じさせる。今にも何か出てきそうだ。
我々はそんな中で周辺を警戒しながら野営をしていた。
「隊長、隊長!大変です!」
「騒ぐな!」
周辺を警戒していた者が騒がしいほどに声を荒げながら報告してきた。
「……何かあったのか?」
「はい……”ヤツ”が、現れました」
「!!」
ついに……ついに”ヤツ”が現れてしまったか!想像より速いな。早めに決断する必要がありそうだ。
我は周囲で警戒している隊員を見まわして一呼吸置くと発した。
「総員に告ぐっ!」
周りの隊員は我が声を上げた事で注目する。緊張した空気感が我々を包み込んだかのような感覚だ。
「”ヤツ”が現れた!」
「もう来たのか……」
「どうすれば……」
皆ザワつきながら心配そうな顔をしている。
「……”ヤツ”は現れたが……我々は弱い。戦って勝てるような相手では無いだろう」
「では、私達はどうすれば良いのですかっ!」
クソっ……不甲斐ない限りだが、こうするしかないのだ……
「我々は、この拠点を捨てて山を降りる!」
「なっ、戦わずに引くという事ですか隊長!」
若手の中で一番血気盛んな者が異論を唱える。……分かっているんだ、我だってこんな結果は望んでいない。
「我々は、これ以上隊員を減らすわけにはいかないのだ!」
「っ!!……くそっ!なんて無力なんだ……」
我々に残された手はもう無い。これまでの戦いで隊員は大幅に減少し、これ以上の被害は考えたくもない。
「総員、撤退するぞ!この野営地は捨てる!山の麓に向かうぞ!」
「「「「「了解っ!」」」」」
我々は直ちに撤収作業を終わらせ、麓に向けて歩みだした。
我々はどれくらい歩いたのだろうか?もう辺りは明るくなっている。
隊員には疲れがみえる。夜から歩きっぱなしだったからな。だが、もう少しで麓にたどり着くはずだ。辛抱してくれ。
「う、うわぁぁぁっ!来たぞぉぉっ!」
一番後ろを歩いていた者が声を荒げた。クソっ、もう追いついてきたのか!
「総員、走れ!もうすぐ麓だ!この山を抜ければ追ってこないはずだ!」
我々はバタバタと抗うかのように走り出す。我は走りながら後ろを見てみると、”ヤツ”のギラギラと光る眼が見えた。その下にはまるで我々をあざ笑うかのように開かれた口から鋭い牙が覗いている。
「クソッ、あいつ……この状況を楽しんでいるとでもいうのかっ!?」
ふざけてやがる、狂ってやがる。我々は必死だというのに……!
我々は必死に走る。息が切れ、脚が上がらなくなってくる。もうすぐ……もうすぐこの山から出られるはずなんだ!まだか、まだなのか!?
すると、突然視界から草木が消えた。目の前に広がるのはアスファルトの地面とその先には民家。たしか、あそこの家の庭には草が生い茂っていたはずだ。あそこなら、身を隠せるはずだ!
「総員、目の前の庭に掛けこめぇぇぇ!」
隊員が民家の庭に駆け込んだ事を確認すると、我は出てきた山を見る。すると、”ヤツ”はここまでは追ってくることは無く、山の一番手前に生えている木にクルクルと巻きつきながら俺の事を見ていた。
「ククク……いやぁ、面白い駆けっこだったよ。楽しませてもらった」
”ヤツ”は楽しそうに口元を緩ませながらそう言う。
「ふ、ふざけるな!貴様は遊んでいるだけだろうが、我々は必死なんだぞ!それに、我々が必死に生んだ卵にまで手を付けやがって!クソ野郎がっ!」
「卵?……あぁ、あれか。あれはとっても美味しかったぞぉ……ねっとりとした濃厚な食感がたまらなかったぞぉ……ククク」
不気味にほくそ笑む”ヤツ”を睨むが、今の我では太刀打ちできない……だが、”ヤツ”は人の目を嫌ってか森の外に出ることを極端に嫌がっている。今はこちら側を襲ってくることは無いはずなのでひとまずは安全だろう。
「……いずれ、仲間達の仇を取ってやる。覚悟しとけよクソ蛇野郎」
「ハハハッ!」
愉快に、楽しそうに笑う蛇。
「鶏風情にいったい何が出来るというのか!フフフ、でも……楽しみにしておくよ!君が夢破れて醜く歪むその顔を拝めるのをね!」
蛇はそう言うとスルスルと身体をしならせながら静かに山の奥へ帰っていった。
我はもう蛇が去ってただそよ風に吹かれるだけの木を見ながら考える。我々には何ができるのか、我々はこれからどうするべきなのか。
「鶏風情、か……確かに我々は蛇から見たら鶏風情だろう。だが、舐めてもらっちゃ困る。いずれ、あいつには我の爪を食いこませてやろう」
我は爪を硬く握る。必ず、蛇にやられた仲間の仇を取ってやる。
決意を示すと我は隊員が待っている民家の庭に歩いていくのだった。
「な、なんだここは……?草が、無くなって……」
民家の庭まで来た我は目の前の光景に絶句していた。あれだけ伸びていた草が、無くなっていたのだ。一体、何があったんだ!?
「た、隊長!草がっ!」
「分かっている!」
先に庭に駆け込んだ隊員が我を見つけて報告してきた。身を潜めることが出来ると思っていたが、大誤算だ。ひとまず、ここで何があったのかを調査する必要がありそうだな。
「総員、疲れている中すまないが、まずはこの庭の調査をしてくれ!草が無くなっている原因も気になるが、まずは外敵がいないかの確認だ!」
「「「「「了解!」」」」」
隊員は疲れた顔をしながらも、安全確認をするために散らばって周りをキョロキョロと見だした。さて、我も疲れた体に鞭打って動くか。
ふむ、見事なまでに草が無くなってるな……あそこは土が盛られている……ここは、どうしてしまったのだろうか。まさか、人の手が加わったか?見るからに種らしきエサになりそうなものも豊富だ。
「隊長!」
土が盛られた場所を調べていると、隊員から声を掛けられる。
「どうした?」
「あそこに人がいます!」
「……やはり、ここには人の手が加わったということか」
隊員が示した方を見ると、2人の人間と1匹のヤギがいた。そのヤギは人間を警戒している様子は無かったので、あくまで現段階では人間は危害を与えるタイプではないはずだろう。
「どうしますか?人間ですよ」
「警戒しつつ、出方を伺うぞ。ヤギを見る限りあの人間に危害を加えられているという事は無さそうだから手は出してこないと思うがな」
「分かりました、警戒しつつ出方を伺います」
「あぁ、それと……総員!ここの土に食料らしきものがあるぞ!」
皆、一目散にこちらに走ってきて地面をついばみ始めた。余程腹が減っていたんだろうな。まぁ、それもそうか。昨日の晩から今の今まで緊張状態で且つ走りっぱなしだったわけだからな。
「ちゃんと土とバランス良く食うんだぞ!」
「隊長、そんな事言われなくても分かってますって」
先ほどまでの緊張感が消え、皆リラックスしているように見える。だが、相当に疲れているはずだ。早めに野営地を探す事を考えねば。
すると、先ほどの人間2人がこちらに気が付いたのか近づいてくるのが分かった。だが、隊員は食事に夢中でそれに気付いていない。……ひとまず、人間の出方を伺うか。
「――――――――――――?」
小さいほうの人間が我に向かって話しかけてくる。こいつらの言語は理解できない。一体何を言っているんだ?
「だ、大丈夫ですか隊長っ!?」
ようやく隊員が気付いたようだ。一斉に食事を止め、人間を睨みつけていた。
「雄は雌を守るように散開、ひとまずは相手の出方を伺うぞ」
「で、ですが隊長!今奴らと一番距離が近いのは隊長です!ひとまず、逃げましょう!」
確かに人間との距離が一番近いのは我だ。もし危害を加えられるとすれば真っ先に我だろう。だが……
「馬鹿野郎っ!我々は昔、人間に飼われていた!その時の人に対する恩義を忘れたのかっ!」
「!!」
隊員は驚いたように目を丸くしている。
そう、我々は昔人間に飼われていた。待遇も良く、とても親身に接してくれていた。だから我は、常日頃から隊員には人間には攻撃するなと強く唱えていた。
「わ、わかりました……ですがっ!何かあった際はすぐに撤退の指示を!」
「分かっている……さぁ、散開しながら不審に思われない程度に地面をついばむんだ。人間からの警戒心を解く事に集中しろ」
「はいっ!」
隊員達は我の指示通り地面をついばみ始める。さぁて、人間よ。お前達は我々をどうする?
すると大きい方の人間はこの場から去っていった。何をしているんだ……?
「――――――!――――――――?」
またしても小さい人間が話しかけてくる。何を言っているかわからんぞ、小さいの。
すると、庭にまた人間が1人入ってきて、この小さい人間の横まで歩み寄ってきた。この人間は知っている。まだこの庭の草が伸びきっていたころに何度か訪れた際に、遠目から我々を見ていた人間だ。この人間もまた、我々に危害を加えることは無いはずだろう。
「―――――――?」
「――――――!――――――――!」
二人して我々を見ながら何か話し始めた。
すると、小さい人間が突然我を掴み、持ち上げた。
「た、隊長っ!?」
「大丈夫だっ!危害を加えるわけでは無さそうだ!」
隊員が心配しながら我に声を掛けてくるが、大丈夫だろう。この小さい人間の眼を見るからに、どうやら我々に興味があり、それを確かめるためにこのような行動を取っているように感じる。……本当に、キラキラとした眼だ。昔人間に飼われていた時にもこいつみたいな小さい人間はいたが、そいつも同じような眼をしていたのを思い出す。
「――――――……――――――――――――……」
先程の大きい人間が帰ってきて、まるで呆れているかのように二人を見ながら呟いた。
そしてまた何かを話すと見知った人間はどこかへ行ってしまった。人間達の考えていることはよく分からんな。さっきからいなくなったり、また来たり。
「隊長……本当に大丈夫なんですか……?」
「……あぁ、大丈夫だろう。見てみろ。この小さい人間の眼を。こんなにも純粋な、キラキラした眼をしてやがる。まるで、我々が人間に飼われていた時にいた小さい人間みたいだろう?……あの時の人間達は我々に危害を加えないどころか優しく接してくれていたはずだ。だから、我はこいつらを信じてみることにする」
「うっ、確かに、昔私達を飼っていた人間の眼にそっくりですね……」
隊員達は困惑しているだろう。だが、我はもうこの小さい人間に対しては警戒心を解いている。……結局我々は、人間に依存しないとある程度の生活を送れないんだな。情けなさを感じるものの、山でいつ襲われるかもわからない状況よりもマシに感じてしまうな。
「うぉっ!?」
「隊長っ!!」
突然小さい人間が俺を抱えながらヤギに向かって走り出した。
「こっちに来るな、鶏っ!」
ヤギが我に向かってそう言いながら距離を取る。ふむ、どうやらこのヤギは我々を警戒しているようだ。
「―――――――――――――――――」
すると後方から大きい人間が小さい人間に声を掛け、それを聞いて小さい人間は我を手放した。
こっちに来るな、と言われたからな。今は距離を取っておくとするか。
我はヤギから距離を取るために、仲間達のもとに走り寄った。
「隊長、大丈夫でしたかっ!?」
「あぁ、大丈夫だ。問題は無い」
隊員がワラワラと近づいてきた。心配させてしまったな。
我はそんな事を思いながらも脇目で先程の小さい人間とヤギを見る。ヤギは安心しきったかのような表情をしながら小さい人間に撫でられていた。
「お前達、見てみろ」
「どうかしましたか?」
「あのヤギと小さい人間だ。……どうやら、あのヤギはここにいる人間に心を開ききっているというわけだな」
「なんだか……」
隊員がヤギを見ながら呟く。
「なんだか、いいですね……安心できる環境って、これまで私達にはあまりなかったと思うので」
「あぁ、そうだな……」
隊員達はヤギを見ながら羨ましがるような、そんな表情をしていた。
我々も、あのヤギのような穏やかな表情を浮かべる日が来るのだろうか。もし可能であれば、我々もここで暮らすことはできるのだろうか。
「う、うわぁっ!」
「どうしたっ!?」
叫び声の方向をすぐさま振り返って見ると、大きい人間に隊員が抱えられ、そして籠のような場所に押し込まれていた。
「うわっ!」
「や、やめろっ!」
隊員が次々と捕まえられて籠に押し込まれていく。いったい、何が起こっているんだ……
我は隊員が捕まえられていく中、最後まで粘ったが最終的には捕まってしまい籠に入れられてしまう。
籠の前には小さい人間と大きい人間と、そして見知った人間が立っている。三人とも、まるで良い仕事をしたと言わんばかりに額ににじむ汗を拭って爽やかな表情をしていた。
すると、ヤギが籠の前までやってきた。
「はぁ、本当に最悪よ」
「……何が最悪だと言うのだ」
「何がって、タカフミとサクラコの話を聞いていなかったの?」
「話だって……?」
このヤギは、人間の会話が分かるのか?そして、タカフミとサクラコ……この人間達の名前か?
「タカフミとサクラコは貴方達を飼うと言っていたわ。はぁ……素敵な空間に邪魔が入っちゃったわよ、まったく」
「我々を、飼う……?お前は、人間の言葉が分かるのか?」
「えぇ、最初はわからなかったけど、今は少しだけ分かるわ。毎日タカフミとサクラコは私に話しかけてくれるもの。本当のバカじゃない限りは分かってくるはずよ」
そういうものなのか……?我々も昔は人間に飼われていたが、人間の言葉を理解することはできなかったが……
「わ、私達はどうなってしまうのですか、隊長……」
「……少なくとも、このヤギが本当のことを言っているのであれば安全に生活することができるだろう。だが、まずは様子見からだ。本当に状況が酷くなれば、脱出を試みるぞ」
「「「「「了解っ!」」」」」
隊員達の声に驚いたのか、ヤギが少し距離を取った。
「はぁ、そんな事考えなくても安心して生活できるっていうのに……暑苦しくなりそうだわ……」
ヤギは先程から溜息ばかりついている。そんなに我々という存在が嫌だというのか。
……兎にも角にも、我々はまた人間に飼われるというのだな。ここ数年は山で常に緊張感を持っての生活だった。久しぶりに、人間に飼われながら安全にゆっくり過ごすのも良いのかもしれないな。
こうして我々は人間に飼われることを受け入れ、新生活を始めるのだった。
時刻はまだ夜だ。耳を澄ませば風で煽られた木や草がカサカサと音を立て、不気味な雰囲気を感じさせる。今にも何か出てきそうだ。
我々はそんな中で周辺を警戒しながら野営をしていた。
「隊長、隊長!大変です!」
「騒ぐな!」
周辺を警戒していた者が騒がしいほどに声を荒げながら報告してきた。
「……何かあったのか?」
「はい……”ヤツ”が、現れました」
「!!」
ついに……ついに”ヤツ”が現れてしまったか!想像より速いな。早めに決断する必要がありそうだ。
我は周囲で警戒している隊員を見まわして一呼吸置くと発した。
「総員に告ぐっ!」
周りの隊員は我が声を上げた事で注目する。緊張した空気感が我々を包み込んだかのような感覚だ。
「”ヤツ”が現れた!」
「もう来たのか……」
「どうすれば……」
皆ザワつきながら心配そうな顔をしている。
「……”ヤツ”は現れたが……我々は弱い。戦って勝てるような相手では無いだろう」
「では、私達はどうすれば良いのですかっ!」
クソっ……不甲斐ない限りだが、こうするしかないのだ……
「我々は、この拠点を捨てて山を降りる!」
「なっ、戦わずに引くという事ですか隊長!」
若手の中で一番血気盛んな者が異論を唱える。……分かっているんだ、我だってこんな結果は望んでいない。
「我々は、これ以上隊員を減らすわけにはいかないのだ!」
「っ!!……くそっ!なんて無力なんだ……」
我々に残された手はもう無い。これまでの戦いで隊員は大幅に減少し、これ以上の被害は考えたくもない。
「総員、撤退するぞ!この野営地は捨てる!山の麓に向かうぞ!」
「「「「「了解っ!」」」」」
我々は直ちに撤収作業を終わらせ、麓に向けて歩みだした。
我々はどれくらい歩いたのだろうか?もう辺りは明るくなっている。
隊員には疲れがみえる。夜から歩きっぱなしだったからな。だが、もう少しで麓にたどり着くはずだ。辛抱してくれ。
「う、うわぁぁぁっ!来たぞぉぉっ!」
一番後ろを歩いていた者が声を荒げた。クソっ、もう追いついてきたのか!
「総員、走れ!もうすぐ麓だ!この山を抜ければ追ってこないはずだ!」
我々はバタバタと抗うかのように走り出す。我は走りながら後ろを見てみると、”ヤツ”のギラギラと光る眼が見えた。その下にはまるで我々をあざ笑うかのように開かれた口から鋭い牙が覗いている。
「クソッ、あいつ……この状況を楽しんでいるとでもいうのかっ!?」
ふざけてやがる、狂ってやがる。我々は必死だというのに……!
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すると、突然視界から草木が消えた。目の前に広がるのはアスファルトの地面とその先には民家。たしか、あそこの家の庭には草が生い茂っていたはずだ。あそこなら、身を隠せるはずだ!
「総員、目の前の庭に掛けこめぇぇぇ!」
隊員が民家の庭に駆け込んだ事を確認すると、我は出てきた山を見る。すると、”ヤツ”はここまでは追ってくることは無く、山の一番手前に生えている木にクルクルと巻きつきながら俺の事を見ていた。
「ククク……いやぁ、面白い駆けっこだったよ。楽しませてもらった」
”ヤツ”は楽しそうに口元を緩ませながらそう言う。
「ふ、ふざけるな!貴様は遊んでいるだけだろうが、我々は必死なんだぞ!それに、我々が必死に生んだ卵にまで手を付けやがって!クソ野郎がっ!」
「卵?……あぁ、あれか。あれはとっても美味しかったぞぉ……ねっとりとした濃厚な食感がたまらなかったぞぉ……ククク」
不気味にほくそ笑む”ヤツ”を睨むが、今の我では太刀打ちできない……だが、”ヤツ”は人の目を嫌ってか森の外に出ることを極端に嫌がっている。今はこちら側を襲ってくることは無いはずなのでひとまずは安全だろう。
「……いずれ、仲間達の仇を取ってやる。覚悟しとけよクソ蛇野郎」
「ハハハッ!」
愉快に、楽しそうに笑う蛇。
「鶏風情にいったい何が出来るというのか!フフフ、でも……楽しみにしておくよ!君が夢破れて醜く歪むその顔を拝めるのをね!」
蛇はそう言うとスルスルと身体をしならせながら静かに山の奥へ帰っていった。
我はもう蛇が去ってただそよ風に吹かれるだけの木を見ながら考える。我々には何ができるのか、我々はこれからどうするべきなのか。
「鶏風情、か……確かに我々は蛇から見たら鶏風情だろう。だが、舐めてもらっちゃ困る。いずれ、あいつには我の爪を食いこませてやろう」
我は爪を硬く握る。必ず、蛇にやられた仲間の仇を取ってやる。
決意を示すと我は隊員が待っている民家の庭に歩いていくのだった。
「な、なんだここは……?草が、無くなって……」
民家の庭まで来た我は目の前の光景に絶句していた。あれだけ伸びていた草が、無くなっていたのだ。一体、何があったんだ!?
「た、隊長!草がっ!」
「分かっている!」
先に庭に駆け込んだ隊員が我を見つけて報告してきた。身を潜めることが出来ると思っていたが、大誤算だ。ひとまず、ここで何があったのかを調査する必要がありそうだな。
「総員、疲れている中すまないが、まずはこの庭の調査をしてくれ!草が無くなっている原因も気になるが、まずは外敵がいないかの確認だ!」
「「「「「了解!」」」」」
隊員は疲れた顔をしながらも、安全確認をするために散らばって周りをキョロキョロと見だした。さて、我も疲れた体に鞭打って動くか。
ふむ、見事なまでに草が無くなってるな……あそこは土が盛られている……ここは、どうしてしまったのだろうか。まさか、人の手が加わったか?見るからに種らしきエサになりそうなものも豊富だ。
「隊長!」
土が盛られた場所を調べていると、隊員から声を掛けられる。
「どうした?」
「あそこに人がいます!」
「……やはり、ここには人の手が加わったということか」
隊員が示した方を見ると、2人の人間と1匹のヤギがいた。そのヤギは人間を警戒している様子は無かったので、あくまで現段階では人間は危害を与えるタイプではないはずだろう。
「どうしますか?人間ですよ」
「警戒しつつ、出方を伺うぞ。ヤギを見る限りあの人間に危害を加えられているという事は無さそうだから手は出してこないと思うがな」
「分かりました、警戒しつつ出方を伺います」
「あぁ、それと……総員!ここの土に食料らしきものがあるぞ!」
皆、一目散にこちらに走ってきて地面をついばみ始めた。余程腹が減っていたんだろうな。まぁ、それもそうか。昨日の晩から今の今まで緊張状態で且つ走りっぱなしだったわけだからな。
「ちゃんと土とバランス良く食うんだぞ!」
「隊長、そんな事言われなくても分かってますって」
先ほどまでの緊張感が消え、皆リラックスしているように見える。だが、相当に疲れているはずだ。早めに野営地を探す事を考えねば。
すると、先ほどの人間2人がこちらに気が付いたのか近づいてくるのが分かった。だが、隊員は食事に夢中でそれに気付いていない。……ひとまず、人間の出方を伺うか。
「――――――――――――?」
小さいほうの人間が我に向かって話しかけてくる。こいつらの言語は理解できない。一体何を言っているんだ?
「だ、大丈夫ですか隊長っ!?」
ようやく隊員が気付いたようだ。一斉に食事を止め、人間を睨みつけていた。
「雄は雌を守るように散開、ひとまずは相手の出方を伺うぞ」
「で、ですが隊長!今奴らと一番距離が近いのは隊長です!ひとまず、逃げましょう!」
確かに人間との距離が一番近いのは我だ。もし危害を加えられるとすれば真っ先に我だろう。だが……
「馬鹿野郎っ!我々は昔、人間に飼われていた!その時の人に対する恩義を忘れたのかっ!」
「!!」
隊員は驚いたように目を丸くしている。
そう、我々は昔人間に飼われていた。待遇も良く、とても親身に接してくれていた。だから我は、常日頃から隊員には人間には攻撃するなと強く唱えていた。
「わ、わかりました……ですがっ!何かあった際はすぐに撤退の指示を!」
「分かっている……さぁ、散開しながら不審に思われない程度に地面をついばむんだ。人間からの警戒心を解く事に集中しろ」
「はいっ!」
隊員達は我の指示通り地面をついばみ始める。さぁて、人間よ。お前達は我々をどうする?
すると大きい方の人間はこの場から去っていった。何をしているんだ……?
「――――――!――――――――?」
またしても小さい人間が話しかけてくる。何を言っているかわからんぞ、小さいの。
すると、庭にまた人間が1人入ってきて、この小さい人間の横まで歩み寄ってきた。この人間は知っている。まだこの庭の草が伸びきっていたころに何度か訪れた際に、遠目から我々を見ていた人間だ。この人間もまた、我々に危害を加えることは無いはずだろう。
「―――――――?」
「――――――!――――――――!」
二人して我々を見ながら何か話し始めた。
すると、小さい人間が突然我を掴み、持ち上げた。
「た、隊長っ!?」
「大丈夫だっ!危害を加えるわけでは無さそうだ!」
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「――――――……――――――――――――……」
先程の大きい人間が帰ってきて、まるで呆れているかのように二人を見ながら呟いた。
そしてまた何かを話すと見知った人間はどこかへ行ってしまった。人間達の考えていることはよく分からんな。さっきからいなくなったり、また来たり。
「隊長……本当に大丈夫なんですか……?」
「……あぁ、大丈夫だろう。見てみろ。この小さい人間の眼を。こんなにも純粋な、キラキラした眼をしてやがる。まるで、我々が人間に飼われていた時にいた小さい人間みたいだろう?……あの時の人間達は我々に危害を加えないどころか優しく接してくれていたはずだ。だから、我はこいつらを信じてみることにする」
「うっ、確かに、昔私達を飼っていた人間の眼にそっくりですね……」
隊員達は困惑しているだろう。だが、我はもうこの小さい人間に対しては警戒心を解いている。……結局我々は、人間に依存しないとある程度の生活を送れないんだな。情けなさを感じるものの、山でいつ襲われるかもわからない状況よりもマシに感じてしまうな。
「うぉっ!?」
「隊長っ!!」
突然小さい人間が俺を抱えながらヤギに向かって走り出した。
「こっちに来るな、鶏っ!」
ヤギが我に向かってそう言いながら距離を取る。ふむ、どうやらこのヤギは我々を警戒しているようだ。
「―――――――――――――――――」
すると後方から大きい人間が小さい人間に声を掛け、それを聞いて小さい人間は我を手放した。
こっちに来るな、と言われたからな。今は距離を取っておくとするか。
我はヤギから距離を取るために、仲間達のもとに走り寄った。
「隊長、大丈夫でしたかっ!?」
「あぁ、大丈夫だ。問題は無い」
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我はそんな事を思いながらも脇目で先程の小さい人間とヤギを見る。ヤギは安心しきったかのような表情をしながら小さい人間に撫でられていた。
「お前達、見てみろ」
「どうかしましたか?」
「あのヤギと小さい人間だ。……どうやら、あのヤギはここにいる人間に心を開ききっているというわけだな」
「なんだか……」
隊員がヤギを見ながら呟く。
「なんだか、いいですね……安心できる環境って、これまで私達にはあまりなかったと思うので」
「あぁ、そうだな……」
隊員達はヤギを見ながら羨ましがるような、そんな表情をしていた。
我々も、あのヤギのような穏やかな表情を浮かべる日が来るのだろうか。もし可能であれば、我々もここで暮らすことはできるのだろうか。
「う、うわぁっ!」
「どうしたっ!?」
叫び声の方向をすぐさま振り返って見ると、大きい人間に隊員が抱えられ、そして籠のような場所に押し込まれていた。
「うわっ!」
「や、やめろっ!」
隊員が次々と捕まえられて籠に押し込まれていく。いったい、何が起こっているんだ……
我は隊員が捕まえられていく中、最後まで粘ったが最終的には捕まってしまい籠に入れられてしまう。
籠の前には小さい人間と大きい人間と、そして見知った人間が立っている。三人とも、まるで良い仕事をしたと言わんばかりに額ににじむ汗を拭って爽やかな表情をしていた。
すると、ヤギが籠の前までやってきた。
「はぁ、本当に最悪よ」
「……何が最悪だと言うのだ」
「何がって、タカフミとサクラコの話を聞いていなかったの?」
「話だって……?」
このヤギは、人間の会話が分かるのか?そして、タカフミとサクラコ……この人間達の名前か?
「タカフミとサクラコは貴方達を飼うと言っていたわ。はぁ……素敵な空間に邪魔が入っちゃったわよ、まったく」
「我々を、飼う……?お前は、人間の言葉が分かるのか?」
「えぇ、最初はわからなかったけど、今は少しだけ分かるわ。毎日タカフミとサクラコは私に話しかけてくれるもの。本当のバカじゃない限りは分かってくるはずよ」
そういうものなのか……?我々も昔は人間に飼われていたが、人間の言葉を理解することはできなかったが……
「わ、私達はどうなってしまうのですか、隊長……」
「……少なくとも、このヤギが本当のことを言っているのであれば安全に生活することができるだろう。だが、まずは様子見からだ。本当に状況が酷くなれば、脱出を試みるぞ」
「「「「「了解っ!」」」」」
隊員達の声に驚いたのか、ヤギが少し距離を取った。
「はぁ、そんな事考えなくても安心して生活できるっていうのに……暑苦しくなりそうだわ……」
ヤギは先程から溜息ばかりついている。そんなに我々という存在が嫌だというのか。
……兎にも角にも、我々はまた人間に飼われるというのだな。ここ数年は山で常に緊張感を持っての生活だった。久しぶりに、人間に飼われながら安全にゆっくり過ごすのも良いのかもしれないな。
こうして我々は人間に飼われることを受け入れ、新生活を始めるのだった。
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