コガレル

タダノオーコ

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手当ての最中、なんで倒れたのかと聞いたら、どうやらと言うか案の定、車の光が要因だったようだ。
食べてない、寝てない、とも言ってたけど、最終的には光のせいで気が遠くなったって。


「悪かったな」

もう無闇に人にライトを浴びせるのは止めにしよう、心に誓った。

俺の声は届かなかったみたいで聞き返された。
二度も謝罪するか、そんなガキみたいなことを思って口を閉ざした。

しばらく無言が続いた後、先に口を開いたのは葉山さん。
俺に看護師かと聞いた。
やっぱり俺が誰かを分かってないらしい。

手当てが慣れてるって言うけど、救急箱を開けたのは久しぶりだった。
流石に准も落ち着いて、けんかの傷を作ることはなくなったから。

膝に絆創膏を貼って終わり。
救急箱を片付けた。
その隙に葉山さんはバッグを手に立ち上がって、すっと後ろに下がった。
分かりやすく、俺から距離を開いた。

…誰も奪い取らないって。

なんか手当ての礼も言われたけど。
その足には絆創膏からはみ出て見える痣と、まるで意味を持たなくなったビリビリのストッキング。

痛々しくもあり、卑猥な感じもする。
…お願いだから早く脱いで捨てて、何度そう思ったことか。

そんな時、聞き覚えのある声がした。
「奥様、」と呼ばれた葉山さんは、明らかに奥様を探してるし。

…あんたでしょ。
思わず深くため息が出た。
本人も自覚してないけど、俺も認めたくなかった。

何かが胸に引っかかる。
親父とこの人の夫婦らしい姿をまだ見てない。
もしかして、なんかのドッキリだったりしない?

「和乃さん、」

自己紹介しあう二人に、なんで俺が否定してんのか分からなかった。
でもこの人は今現在、奥さんじゃなくてただの婚約者なのが事実。

それも正直納得いかないんだけど…

俺をじっと見上げてくる和乃さんから、目を逸らした。
いつだって和乃さんは要らないことは口にしない。
その分、見透かした何かを腹の底に秘めてるような気がして落ち着かなかった。

親父は和乃さんを絶対的に信頼してて、代わりの家政婦を探すのに苦労してたみたいだ。
俺の仕事柄もあるし、誰でも良いって訳にはいかないらしい。

それにしても親父、和乃さんにラインを教えこんでるとはね。
葉山さんは難しい表情でそのトークを読んでる。

俺も画面をのぞき込んだら、ほぼ業務連絡の内容だった。
電話でいいじゃん、操作の慣れない和乃さんが気の毒だった。

「俺にも来てる」

晒した俺のスマホ。
こっちの画面をのぞき込んだ葉山さんは、難しい顔に加えてさらに肩を落としたように見えた。

荷物を運ぶのを手伝ってやれ、って指示の何がそうさせたのかは分からなかった。

ともかく風呂場を教えて戻ってきた葉山さんから、あの破れたストッキングは消え失せてた。
それはそれで直視するのも、はばかられた。
すぐに脚から目をそらした。

渋っていたように見えても、それでも朝飯を食べることにしたらしい。
いつもは和乃さんだけで静かなキッチンから、何か会話してるのが漏れ聞こえてきた。

出来上がって席に着けば、葉山さんも前に座った。
俺が食べ始めたら、「いただきます」とナイフとフォークを手にした。

このテーブルで女性が食事してるのが変な感覚だった。
いつもは男共しかいないから。
和乃さんは誘っても、絶対にここでは食事をしない。

それにしてもいい食べっぷりだった。
美味そうに食ってる。

丸二日は食べてないって言ってたし、これじゃ足りないくらいかもな。
俺のを分けてやったら、

「太りそうです」

そう言ったけど、こう昨日抱えた感じじゃ、背中から腰にかけても、回された腕も無駄な肉は感じなかった。
もう少しあっても許容範囲なくらい。

見慣れた女優とかアイドルのコは無駄に痩せ過ぎて、色気も削ぎ落としてる気がするし。

まあ、目の前のこの人にソレを求めるのは間違いだけど。

何を勘違いしたのか知らないけど、必死に胸の辺りを隠しだした。
面白い、コントみたいに分かりやすい奴だ。

食事が終わると、出かける支度をして声をかけた。
テーブルを拭いていた葉山さんは振り返ると、手の中のクロスをモジモジと揉みだした。

「一人で大丈夫です」

出てきた言葉がそれだった。
この言葉といい、さっきの俺のラインを見た反応といい、俺と出かけるのが嫌なのかと思い当たった。

なんかイラッとしてきた。
ここに住むことさえ、親父と考え直したいとか言い出す始末…

…俺のせいかよ。
そんなに嫌がられんなら放っておきゃいいと思う反面、なんか意地にもなってた。
行くのか、行かないのか、睨みを効かせて聞いてやった。

「い、行きます?」
「行きますぅ?」

なんで答えが疑問形なんだよ!
ビクッとした後、明らかに観念した表情で車で帰ることに決めたようだ。

俺がガレージに歩き出すと、黙って後ろを付いてきた。
助手席に座るように言うと、大人しく乗り込んだ。


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