21 / 75
心酔
4
しおりを挟む「圭さん、芸能人だったんですね」
成実さんは、目を丸くした。
「嘘でしょ、知らなかったの?」
私は頷くと、開かれたページを見た。
撮られた写真に写ってるのは、間違いなく圭さん。
後ろにおぶってるのは、キャップで顔は見えないけど…私で間違いない。
圭さんの首に回した腕。
その腕の先の手に、私のバッグと花束が握られてた。
これは送別会の日。
ただキャップは私のじゃない、見覚えがある圭さんの物。
たぶん顔を隠してくれたんだろう。
記事は
“深夜、駅前コインパーキングまで泥酔彼女を密着おんぶ。
その後二人で車に乗り込んで、行き着いた先は真田邸。ゲート内へとしっぽり消えて行った”
とあった。
「圭を知らないなら、もちろん私のことも知らないでしょ?」
「知ってます、モデルさんですよね?」
成実さんは、やれやれといった表情で首を横に振った。
「元モデル。卒業して今は女優」
成実さんが専属モデルだった雑誌は、いつの頃からか読まなくなった。
女優に転向したことも知らなかった。
一人暮らしを始めてからは、テレビを見るのは朝のニュースくらいだった。
「圭と私、今ドラマで競演してる」
成実さんは指を曲げて、ネイルを見ながら言った。
私の位置からも見える。
ストーンで装飾された綺麗なフレンチネイル。
「そうなんですか」
あの日、ピアノの鍵盤上で重ねた手。
圭さんは色気のない私の爪を見てどう思ったんだろう。
成実さんの視線はネイルから週刊誌に、それから最後に私を捉えた。
「圭と付き合ってるのは私なのに、どうしてこんな写真、撮られるかなって」
二人が並んだところを想像してみた。
すごくお似合いだ。
文句のつけようのない美男美女。
この二人の間に割って入ろうなんて、タフなハートの持ち主はいないと思う。
静かに週刊誌を閉じてローテーブルに置いた。
「記事は誤解です。デートでもなんでもありません。
酔っ払って、調子に乗って…圭さんに絡んでしまいました。
本当にすみませんでした」
私は手を揃えると、膝に付くくらい深く頭を下げた。
「なんで、ここに住んでるの?」
顔を上げて成実さんを見ると、許してくれた表情ではなかった。
「私、圭さんのお父さんと婚約してるんです」
「へぇ、圭のお父さんってどんな人?」
興味を引かれたのか成実さんは、ほんの少し態度を軟化させたように見えた。
婚約者設定がこんな形で役に立つとは思わなかった。
遠目に見てた職場の中の専務は、部下を従えてスマートに仕事をしてる印象。
反面、家の中ではくつろいだ姿も垣間見えた。
聞き上手で、私みたいな小娘の話でも穏やかに耳を傾けてくれる人。
「包容力があって、もうすぐ50になるとは思えないほど格好良いですよ」
「成実、なんでここにいんの?」
突然、圭さんがリビングに現れた。
びっくりした…
一体いつ帰ってきたの?
「葉山さん、むやみに人を中に入れちゃダメって、言われなかった?
それにこんな夜に玄関の鍵、開けっ放し」
「ご、ごめんなさい…」
「幼稚園児でも聞き分けるよ」
圭さんは、テーブル上の週刊誌をチラッと視界に入れた。
そして今、ものすごーく機嫌が悪い。
「圭、お帰りなさい、お邪魔しちゃった」
それなのに悪びれない成実さんには、
「まったく…」って、呆れるだけで特に怒った様子も見せなかった。
成実さんは圭さんの元に歩み寄ると、腕を絡ませた。
「ねぇ、圭の部屋見せて」
「ダーメ、外に出るぞ」
そう言って、絡まる成実さんの腕を引いた。
成実さんは帰り際、
「弥生さん、明日10時からのドラマだから見てね」
玄関でそう言い残して去って行った。
二人と入れ違いに、ちょうど准君が塾から帰ってきた。
「弥生ちゃん、今の冴島成実じゃない?」
靴を脱ぎながらそう聞かれた。
「うん、そう。綺麗だったね」
「綺麗だけど、性格悪そう」
さほど興味もなさそうに、准君は荷物を置きに部屋へと上がって行った。
0
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
皇帝陛下!私はただの専属給仕です!
mock
恋愛
食に関してうるさいリーネ国皇帝陛下のカーブス陛下。
戦いには全く興味なく、美味しい食べ物を食べる事が唯一の幸せ。
ただ、気に入らないとすぐ解雇されるシェフ等の世界に投げ込まれた私、マール。
胃袋を掴む中で…陛下と過ごす毎日が楽しく徐々に恋心が…。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
一億円の花嫁
藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。
父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。
もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。
「きっと、素晴らしい旅になる」
ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが……
幸か不幸か!?
思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。
※エブリスタさまにも掲載
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる