【いちゃラブ】私を好きって本当ですか? ~自己肯定感の低い私が結婚したら幸せすぎでした~

吉沢 月見

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ベルダ姉様の婚礼

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 しばらくして金山へ嫁いだベルダ姉様から手紙が届いた。
『前歯を二本、抜かれました。
 金を採掘するために山に爆薬を仕掛け幾人もの人が死んでおります。ドカーンドカーンと不穏な音が響き、眠れません。
 頭領は前妃が亡くなったために私を娶ったようです。愛人は多いようですが、私を血筋だけで選んだと申してます』
 世の中って、不公平だ。私の幸せをわけてあげたい。
 コットには話せなかった。それでも夜中に私の寝返りが増えるから、
「リンネット、心配事か?」
 と抱き締めてくれる。
「あなたと結婚できてよかったわ」
「俺もだ」
 夢の中でも抱き合っていることさえある。まだコットの妻になって一年にも満たないのに。
 そのうち、蒼山にいた時間よりもここで暮らす方が長くなるのだろう。コットを好きな時間が増えてゆく。私が生きるということはそういうこと。
 たぶん他の夫婦よりも仲がいいのは私の足のせいかもしれない。頼らざるを得ない。
 寒くなってきたからトイレが近くなる。杖で移動するにもカトに乗るのも時間がかかるから、
「コット、トイレ」
 と運んでくれるようお願いする。
「ああ」
 私が用を足すと、そのあとでコットも。互いのおしっこの音を聞き合う夫婦なんていないでしょう?
「コット、最後にびゃっと出た音がしたけど大丈夫?」
「ああ、問題ない」
 さすがに放尿シーンまでは見ないで戸を隔てて待つけれど、音を聞いて互いの健康チェック。
 普通ではないのだろう。まして王と王妃だ。
「男の人は石が溜まるって聞いたことあるわ」
「ははっ。聞いているだけで痛そうだ。寒いからベッドに戻ってもう少し寝よう、リンネット」
「うん」
 私は足の指先が冷たいけど、コットは体全体が熱い。
「あなたのおかげでアンカいらずだわ」
「アンカ?」
「石を温めて布に包むの」
 コットは知らないようだった。雪が少ないということは蒼山よりも寒くないのかもしれない。いや、気温はこっちのほうが下がると聞いているから暑がりのコットが単に知らないのだろう。こんなに温かければアンカの必要がないのだ。
 コットと同時に欠伸をして、二人でくすっと笑って、特に会話もせずにそのまま眠った。
『マットをありがとう。重宝しています。
 渓谷がきれいに色づいています。
 雨も続きます』
 エリー姉様の手紙、この間よりはましな気がする。生きる気力を少なからず感じる。文字もちゃんと姉様の字だ。
『こちらも紅葉がきれいです。
 魚をありがとうございます』
 とても臭い魚で、コットは食べるなと言うし、ラティウス料理長が言うには内臓を取り除いて生姜らしきものが入っているから保存食だろうということになり、私は食べてもよかったのだが毒見係が急に募集され、それならばとキュリナが食べたら、
「おいしい」
 とわかり、臭い魚に翻弄され、みんなで丸一日ぐったり疲れた。
 サイカ姉様からは栗が届いた。
『揚げ物が多く太った気がします。
 こちらでは夏はハンモックで寝ていたので、やっぱり床のほうが落ち着きます』
 といつも通りの短い手紙。
 栗のままなら送れるが、栗タルトは日持ちしないからサイカ姉様も作れずにがっかりだろう。紅山には距離があるから無理でも蒼山だったら大丈夫だろうか。そもそも桃山に嫁いでお菓子は作れているのかもわからない。母様もそういえば料理をしていた記憶がない。王妃たるもの厨房に入るものではないのかもしれない。
『こちらからは芋を送りますね。この芋、甘いのでスイーツ作りに適していますわよ』
 本当は私にも悩みがあるのだが書けなかった。
 医者のハイエツに相談しても、
「そんなこともございましょうね」
 と言われただけ。
 やっぱり姉様の手紙に追記しようかしら。
「リンネット、おいで。眠ろう。また手紙を書いているかい?」
 コットはこのところ忙しくないらしく、それはお山が安泰ということだから喜ばしいことだけれど、夕飯を食べてすぐに眠ろうとする。
「あなた暇なの? 南の畑の鳥獣被害は? 北の橋は復旧したの? 東に治療院を作る約束でしょう?」
「やってるよ」
 ペンを取り上げて、私を抱きかかえる。
「あのねコット、私しばらく実家に帰ろうと思うの」
 その言葉にコットはキスをやめてくれた。
「どうして?」
「結婚してから一度も帰ってないし」
「ホームシック?」
「そういうわけじゃないけど」
 コットだけでなく、男の人には察する気持ちがないらしい。キスをすれば妻がご機嫌になるとでも思っているのだろうか。
「姉上の結婚式にも帰らなかったのに? なぜだ? リンネット、申してみろ」
 言えないの。言いたくないの。
 そうこうしているうちにコットの手が私の夜着に侵入する。
「待って。あなたに体を見られたくないから」
「は?」
「コットを嫌いになったわけじゃないから誤解しないで。このところ、痣が消えないの。結婚前はなかったのに。おかしな病気だったら困るわ」
「痣? 見せろ」
 と服を脱がそうとする。
「嫌です、恥ずかしい。湿疹ではなくて、こう内出血のような」
 胸の上のそれを見せた。
「それは、こうした痕だと思うが?」
 コットが私の腕にキスをした。
「え?」
「ほうら、赤くなって来た。思い出してみろ。俺に抱かれたあとにこれが出るだろう?」
 体中に斑点のようにあって、自分でも気持ち悪いと思っていた。
「そうかも。やだ、てっきり病気なのかと。もう、誰も教えてくれないんだから。くすくす笑うだけで、ハイエツも薬がないと言うし。私、自分が病気で死ぬことよりも私が死んだらあなたでも泣くのかしらってそんなことばかり考えていたわ」
「きっと泣くよ。毎日泣いて、バーリーに怒られるだろうな」
 そんなこと姉様たちの手紙に書かなくてよかった。 
「私でもつけられますか?」
「俺の皮膚は硬いから」
「ちゅー」
 毛むくじゃらのコットも二の腕の内側とかまでは剛毛ではない。
「もっと強く吸わないと」
「こう?」
 うまくできない。
「歯形でもつけてくれ」
 コットの肌は硬くて歯形もつかなそう。人間ベッドだなといつも思う。コットの抱擁は弱いようで強く、優しいようで逃げられない。
「あなたに触られるの好き」
「俺もだ」
 家族愛とはまた別の愛しい気持ちを教えてくれたのはコットだ。それってちょっと汚い気持ちも含んでいる。ずっとこうしていたい。コットに触られていたい。
 姉様たちの夫には他の妻や愛人がいる。最初からそうならしょうがないと飲み込むのだろうけれど、自分のあとにそれらを持たれるのは嫌だわ。
 独占欲というのでしょう。それは習わなくても知っている。コットというよりも、コットの体からたくさん生えている毛が全部私を好きならいいのに。胸のもじゃもじゃも、背中のぐるぐるもずっと私だけのものならいいのに。
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