【いちゃラブ】私を好きって本当ですか? ~自己肯定感の低い私が結婚したら幸せすぎでした~

吉沢 月見

文字の大きさ
22 / 39
桃山の戴冠式

22

 蒼山へ行くことが決まったら、あれやこれや準備が大変。
「コット、マットをサイカ姉様にもあげたいわ。お年だから父様にもあげたいわね」
 サシャにも。
「うんうん」
「石鹸はエリー姉様に送ったから、これがサイカ姉様の分で…」
 そういえば私ったら贈り物は姉様にしかしていないから、お姑さんや他の家族から姉様たちが白い目で見られたりしていないかしら。
 姉様、旦那様、ご家族分。私の指では数えられない。
「リンネット、そんなに荷物が増えても困るぞ」
 とコットに指摘されてしまった。
「そうよね。蒼山からエリー姉様の霧山に送ったほうがいいかと思ったけど、これは諦めるわ」
 コットは特に準備もしない。自分のパンツの枚数くらい数えればいいのに。
「コットと遠出も初めてね」
「ああ」
「一緒に行って蒼山に一泊。私はそのまま泊まって、コットは桃山に一泊。帰りに蒼山に寄って一泊だから全部で三泊か」
 二人で初めての小旅行だ。
「ああ。他の姉様方やその伴侶も桃山へ行くのか?」
 コットが聞く。
「どうかしら? 聞いていないから行かないのでは?」
「桃山は代替わりの儀式がきっちりしているからな」
「サイカ姉様の旦那様のお姉様が後目を継ぐのよね」
「そうだ」
 うっかりしていたけれど、ベルダ姉様とエリー姉様も私と同じ状況にはならないのかしら。つまり、旦那様は桃山へ行って、私たちは蒼山へ里帰り。
 なんて、無理な望みよね。私には義両親がいないからこんなに自分の家族を大事にできるのかもしれない。コットの親がいたらいい顔はしないだろう。姉様方にも都合がある。
「リンネット、出立が早いのだ。もう寝よう」
「はい」
 コットって、ものすごく寝つきがいい。ベッドの中でお話ししたいことがあるのにもうすぴぃと寝息を立てている。私も人のこと言えないけど。
 それなのに私の腕やら肩を擦る。
 布団を厚いのにしたからそんなに寒くないですよ。あなたは温かいし。
 あなたと自分の実家に泊まることが嬉しいの。私の好きな景色を見せてあげる。

 私とコットが出かける日、たくさんの兵士が見送ってくれた。
 当然、バーリーさんが残る。
「どこの王も桃山に出かけているから狙うとすれば山賊くらいだろう。頼むぞ」
「必ずお守りします」
 トルル元大尉と婆も城から見送ってくれた。
 みんなにお土産を持って帰ろう。
 アンナとキュリナは他の馬車に乗っている。
「あなた一人だったらすんすん行けたでしょう?」
 兵士が馬車を囲ってくれているが、コットも馬に乗るのが好きなはず。
「よいではないか。初めての旅行だ。今日は蒼山に辿り着ければいい」
 コットは体も大きいし膝を開いて座るから馬車が揺れるたび私の脚に当たるのよね。
「結婚するときもこの道を通って来たわ。ベルダ姉様と来たのよ。昨日のことのよう。コット、お腹すいてない? ジャムサンドを作ったわ。あとお茶もあるからね。あら、もう国境ね。あそこ、黒峠というのよ」
 コットは私ばかり見ている。
「リンネットを見ているほうが楽しいし、心が休まる」
 そういうものなのかしら。嬉しいのは私も同じ。
 お昼過ぎに城を出て、蒼山についたのは夕刻。コットの馬ならば半分ですむだろう。お尻の大きな馬で、コットの馬だからコット以外が乗るとその者は死刑らしいけれど、私も乗りたいから法律を変えてもらった。
 王が許した者は王の馬に乗ってよし。
 今日は私たちにくっついてきていた。ゆっくり歩いて明日の出番を待っている。
 蒼山の王宮が見えてきた。そわそわしちゃう。ずっとここで育って、一年足らず出ていただけなのに。
「父様」
「おお、リンネット。よく来た」
 久しぶりの我が家。でも、昔みたいに騒がしくない。いつも誰かの高笑いが聞こえていた。娘がいないとこんなに静かなのね。
「父様、白髪が増えましたね」
 私は見たままを言った。
「リンネットは、元気そうだな」
「ええ」
「お久しぶりです、お義父上様」
 コットが緊張するなんて珍しい。
「ああ」
「この度は、ありがとうございます」
 ぎこちない。男の人同士だからだろうか。
 コットが私を抱きかかえるとちょうど父様の目線になる。
「父様、私の部屋ってそのまま?」
「うん」
「じゃあコット、行きましょう。疲れちゃった」
 体を伸ばしたい。
「あっちでサシャがお茶を用意しているよ」
 父様が言った。
「はーい」
 コットはいつも以上にいい姿勢で、余計疲れるのではないだろうか。
「リンネット様」
「サシャ。サシャも白髪が増えたわね」
「こちらが旦那様ですね」
「コット、私たちの教育係のサシャよ」
 部屋でゆっくりしたかったのに大広間でお茶を飲むことに。そうか。もうこうやってもてなされる側なのだ。
「素敵なスロープですね」
 コットが王宮を褒める。
「私のせいで階段が少ないの。でも入り口のあのスロープは急だから、カトでも一人じゃ降りられない」
 アンナとキュリナも席を用意されていて困っている。端であっても、紅山ではメイドが王と同席などありえない。コットだけでなく父様もいる。
「奇妙な服だな」
 と父様が私を見る。
「気に入ってるのよ。足の太さの違いも気にならないし」
 私は言った。
「リンネットはドレスのほうが似合う」
 これはあれだ。舅の婿いびりみたいなものだ。コットは黙ってお茶を飲んでいる。
「カモミールですね」
 キュリナが気づく。
「正解よ、キュリナ。そうだ、サシャはもち肌だけど皺が増えたから顔エステしてあげて」
「お任せください」
 そわそわしていたキュリナは役目を与えられてほっとしたようだ。存分にその腕を見せつけて。

感想 0

あなたにおすすめの小説

忘れられた幼な妻は泣くことを止めました

帆々
恋愛
アリスは十五歳。王国で高家と呼ばれるう高貴な家の姫だった。しかし、家は貧しく日々の暮らしにも困窮していた。 そんな時、アリスの父に非常に有利な融資をする人物が現れた。その代理人のフーは巧みに父を騙して、莫大な借金を負わせてしまう。 もちろん返済する目処もない。 「アリス姫と我が主人との婚姻で借財を帳消しにしましょう」 フーの言葉に父は頷いた。アリスもそれを責められなかった。家を守るのは父の責務だと信じたから。 嫁いだドリトルン家は悪徳金貸しとして有名で、アリスは邸の厳しいルールに従うことになる。フーは彼女を監視し自由を許さない。そんな中、夫の愛人が邸に迎え入れることを知る。彼女は庭の隅の離れ住まいを強いられているのに。アリスは嘆き悲しむが、フーに強く諌められてうなだれて受け入れた。 「ご実家への援助はご心配なく。ここでの悪くないお暮らしも保証しましょう」 そういう経緯を仲良しのはとこに打ち明けた。晩餐に招かれ、久しぶりに心の落ち着く時間を過ごした。その席にははとこ夫妻の友人のロエルもいて、彼女に彼の掘った珍しい鉱石を見せてくれた。しかし迎えに現れたフーが、和やかな夜をぶち壊してしまう。彼女を庇うはとこを咎め、フーの無礼を責めたロエルにまで痛烈な侮蔑を吐き捨てた。 厳しい婚家のルールに縛られ、アリスは外出もままならない。 それから五年の月日が流れ、ひょんなことからロエルに再会することになった。金髪の端正な紳士の彼は、彼女に問いかけた。 「お幸せですか?」 アリスはそれに答えられずにそのまま別れた。しかし、その言葉が彼の優しかった印象と共に尾を引いて、彼女の中に残っていく_______。 世間知らずの高貴な姫とやや強引な公爵家の子息のじれじれなラブストーリーです。 古風な恋愛物語をお好きな方にお読みいただけますと幸いです。 ハッピーエンドを心がけております。読後感のいい物語を努めます。 ※小説家になろう様にも投稿させていただいております。

余命僅かな大富豪を看取って、円満に未亡人になるはずでした

ぜんだ 夕里
恋愛
傾きかけた家を救うため、私が結んだのはあまりにも不謹慎な契約――余命いくばくもない大富豪の辺境伯様と結婚し、彼の最期を穏やかに看取ることで莫大な遺産を相続する、というものだった。 しかし、人の死を利用して富を得るなど不正義! そう考えた私が立てたのは、前代未聞の計画。 「そうだ、遺産が残らないくらい贅沢の限りを尽くしてもらえば、すべて丸く収まるじゃない!」

刺繍妻

拓海のり
恋愛
男爵令嬢メアリーは魔力も無くて、十五歳で寄り親の侯爵家に侍女見習いとして奉公に上がった。二十歳まで務めた後、同じ寄り子の子爵家に嫁に行ったが。九千字ぐらいのお話です。

【完結】「元カノが忘れられないんでしょう?」と身を引いた瞬間、爽やか彼氏の執着スイッチが入りました

恋せよ恋
恋愛
「元カノが忘れられないなら、私が身を引くわくべきよね」 交際一周年、愛するザックに告げた決別の言葉。 でも、彼は悲しむどころか、見たこともない 暗い瞳で私を追い詰めた。 「僕を捨てる? 逃げられると思っているの、アン」 私の知る爽やかな王子の仮面が剥がれ落ち、 隠されていた狂おしいほどの独占欲が牙を剥く。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

契約結婚から始まる公爵家改造計画 ~魔力ゴミ令嬢は最強魔術師の胃袋をつかみました~

夢喰るか
恋愛
貧乏男爵令嬢エマは、破格の報酬に惹かれて「人食い公爵」と恐れられるヴォルガード公爵邸の乳母に応募する。そこで出会ったのは、魔力過多症で衰弱する三歳のレオと、冷酷な氷の魔術師ジークフリート。前世の保育士経験を持つエマは、自身の「浄化魔力」で作った料理でレオを救い、契約結婚を結ぶことに。エマの温かさに触れ、ジークフリートの凍りついた心は次第に溶けていく。

恐怖侯爵の後妻になったら、「君を愛することはない」と言われまして。

長岡更紗
恋愛
落ちぶれ子爵令嬢の私、レディアが後妻として嫁いだのは──まさかの恐怖侯爵様! しかも初夜にいきなり「君を愛することはない」なんて言われちゃいましたが? だけど、あれ? 娘のシャロットは、なんだかすごく懐いてくれるんですけど! 義理の娘と仲良くなった私、侯爵様のこともちょっと気になりはじめて…… もしかして、愛されるチャンスあるかも? なんて思ってたのに。 「前妻は雲隠れした」って噂と、「死んだのよ」って娘の言葉。 しかも使用人たちは全員、口をつぐんでばかり。 ねえ、どうして?  前妻さんに何があったの? そして、地下から聞こえてくる叫び声は、一体!? 恐怖侯爵の『本当の顔』を知った時。 私の心は、思ってもみなかった方向へ動き出す。 *他サイトにも公開しています

報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を

さくたろう
恋愛
 その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。  少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。 20話です。小説家になろう様でも公開中です。

【完結】帳簿係の地味令嬢、商会の不正を見抜いて王宮に見出されました。

夏灯みかん
恋愛
王都の商工会議所で働く、地味な帳簿係エミリー。 真面目に記録をつけることだけが取り柄の彼女は、同僚から軽く扱われ、雑用を押しつけられる日々を送っていた。 そんなある日――エミリーは、孤児院への配給物資の記録に、わずかな“ズレ”があることに気づく。 数量は合っている。 だが、なぜか中身の重量だけが減っている。 違和感を覚えたエミリーは、自ら倉庫へ足を運び、現物を確認する。 そこで見つけたのは、帳簿では見えない“静かな不正”だった。 しかしその矢先――不正の責任を押しつけられ、職場から追い出されそうになってしまう。 それでもエミリーは諦めない。ただ一つ、自分が積み上げてきた“記録”を信じて。 「では、正式な監査をお願いいたします」 やがてその記録は、王宮の政務監査官リオンの目に留まり―― 隠されていた不正はすべて暴かれる。 そして、彼女を軽んじていた者たちは、その代償を支払うことになる。 これは、地味で目立たなかった一人の帳簿係が、 “正しく記録した”ことで不正を暴き、王宮に見出されるまでの物語。