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桃山の戴冠式
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蒼山の王宮からほど近いところに湖があり、フレディと一緒に水路を見学に行ったのにコットはエビの養殖が気になって一緒になって働いている。コットは力持ちだし背丈もでかいから仕事が合っているようだ。
でもね、コットは王様なのよ。
湖から戻っても、コットはなにやらメモしている。
「イーカもエビのように干してみたら?」
私は言った。保存ができたらもっと遠くのお山まで運んであげられる。輸出できればお金になる。
夕飯は干しエビのかき揚げだった。あと、おそば。
「イーカだって? あんな化け物みたいなものをリンネットに食わせているのか?」
父様はイーカを知っていた。
「私とベルダ姉様の好物よ。父様は嫌いなの?」
「どんなものです?」
フレディも興味津々だ。
「こんな形でね、こりこりというか、ねちょっとした不思議な触感よ」
ラティウス料理長が料理するときに見せてもらったら、中には黒い液体が潜んでいた。それを調味料のように使う場合もあるという。
「焼いたり揚げたり腹に米を詰めたり、いろいろな食べ方をします。紅山に来たときにはごちそうしますよ」
コットが言った。
「ありがとうございます」
名産はあったほうがいい。桃山は花が有名だ。紅山も野菜は作っているが、温泉のほうが知名度は高い。でも温泉は来てもらわないとだから、もっと気軽に物々交換できるものがあったらいい。羊毛は冬だけだし、お皿は他のお山でも作っている。
「サイカ姉様には会った?」
「うん」
コットが口ごもる。戴冠式の話はするのにサイカ姉様の話はしない。なにかあったのだろうか。
コットと一緒にお風呂に入ったときに、
「実はサイカ姉様どころかその夫らしき人も見なかった」
と言った。
「なぜ?」
「戴冠式だから女王が主役なんだろうけど、その兄弟までもその場にいないっていうのはおかしい」
「反乱?」
と私は口走っていた。
「そういう感じでもなかった」
兵の動きや配置でコットにはわかるのだろう。
父は私が生まれたときから王だった。コットも出会ったときから王だった。フレディが王になるとき、私は疑問を抱くのだろうか。
父様も宰相のゲイローから報告を受けているのかしら。王になりたい人ばかりではない。しかし殺戮の話は幼少の私の耳にも届いていた。王位とは、人を惑わすものではないはずだ。この足だからなりたくないのではない。私には荷が重い。その運命ではなかっただけのこと。
お風呂上がりに廊下で父様と出くわしたら振り返って、声もかけずに行ってしまった。
「うちには夫婦が一緒にお風呂に入る風習ないから」
夫に抱きかかえている娘を見たくないのだろうか。父親心はわからんから無視。
「謝罪したほうがいいのか?」
コットは私の部屋に戻ってもオロオロ。
「父様のことなんて気にしなくていいわ」
私は顔にいろいろ塗りたぐるけれどコットはなにもしない。
「しかし…」
「いいのよ。私の幸せが父様の幸せでもあるの。だから父様はあなたに私を託したのよ。それよりコット、抱いてほしい」
「え?」
と躊躇するくせに、私が夜着を脱いだら触らずにはいられないらしい。
「あんまり声を出さないようにするから」
あなたに満たされたい。あなたを幸せにしたい。
「わかった」
寂しい私を一掃してくれる。孤独と幸福は正反対のようで近しいのかもしれない。
「コット、どうしよう。体が動いちゃう」
過去の私、がんばってくれてありがとう。あなたが死にたいって思った数以上に幸せだなって思いたいから、こうやってコットにたくさん抱いてもらう。これって上手になったりするのかな。
「リンネット、泣いておるのか?」
「ええ。もう少しそのまま、止まらないでコット」
気持ち良すぎても女は泣くの。幸せすぎても。
でもね、コットは王様なのよ。
湖から戻っても、コットはなにやらメモしている。
「イーカもエビのように干してみたら?」
私は言った。保存ができたらもっと遠くのお山まで運んであげられる。輸出できればお金になる。
夕飯は干しエビのかき揚げだった。あと、おそば。
「イーカだって? あんな化け物みたいなものをリンネットに食わせているのか?」
父様はイーカを知っていた。
「私とベルダ姉様の好物よ。父様は嫌いなの?」
「どんなものです?」
フレディも興味津々だ。
「こんな形でね、こりこりというか、ねちょっとした不思議な触感よ」
ラティウス料理長が料理するときに見せてもらったら、中には黒い液体が潜んでいた。それを調味料のように使う場合もあるという。
「焼いたり揚げたり腹に米を詰めたり、いろいろな食べ方をします。紅山に来たときにはごちそうしますよ」
コットが言った。
「ありがとうございます」
名産はあったほうがいい。桃山は花が有名だ。紅山も野菜は作っているが、温泉のほうが知名度は高い。でも温泉は来てもらわないとだから、もっと気軽に物々交換できるものがあったらいい。羊毛は冬だけだし、お皿は他のお山でも作っている。
「サイカ姉様には会った?」
「うん」
コットが口ごもる。戴冠式の話はするのにサイカ姉様の話はしない。なにかあったのだろうか。
コットと一緒にお風呂に入ったときに、
「実はサイカ姉様どころかその夫らしき人も見なかった」
と言った。
「なぜ?」
「戴冠式だから女王が主役なんだろうけど、その兄弟までもその場にいないっていうのはおかしい」
「反乱?」
と私は口走っていた。
「そういう感じでもなかった」
兵の動きや配置でコットにはわかるのだろう。
父は私が生まれたときから王だった。コットも出会ったときから王だった。フレディが王になるとき、私は疑問を抱くのだろうか。
父様も宰相のゲイローから報告を受けているのかしら。王になりたい人ばかりではない。しかし殺戮の話は幼少の私の耳にも届いていた。王位とは、人を惑わすものではないはずだ。この足だからなりたくないのではない。私には荷が重い。その運命ではなかっただけのこと。
お風呂上がりに廊下で父様と出くわしたら振り返って、声もかけずに行ってしまった。
「うちには夫婦が一緒にお風呂に入る風習ないから」
夫に抱きかかえている娘を見たくないのだろうか。父親心はわからんから無視。
「謝罪したほうがいいのか?」
コットは私の部屋に戻ってもオロオロ。
「父様のことなんて気にしなくていいわ」
私は顔にいろいろ塗りたぐるけれどコットはなにもしない。
「しかし…」
「いいのよ。私の幸せが父様の幸せでもあるの。だから父様はあなたに私を託したのよ。それよりコット、抱いてほしい」
「え?」
と躊躇するくせに、私が夜着を脱いだら触らずにはいられないらしい。
「あんまり声を出さないようにするから」
あなたに満たされたい。あなたを幸せにしたい。
「わかった」
寂しい私を一掃してくれる。孤独と幸福は正反対のようで近しいのかもしれない。
「コット、どうしよう。体が動いちゃう」
過去の私、がんばってくれてありがとう。あなたが死にたいって思った数以上に幸せだなって思いたいから、こうやってコットにたくさん抱いてもらう。これって上手になったりするのかな。
「リンネット、泣いておるのか?」
「ええ。もう少しそのまま、止まらないでコット」
気持ち良すぎても女は泣くの。幸せすぎても。
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