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フレディの嫁とり

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 またコットと蒼山に向かっている。出かける際にエンカをたくさん撫でてきた。
「忘れ物ないわよね?」
 心配性の私とは対照的に、コットは馬車の中で私の手を握るだけ。寒いからって横に並んで、窮屈だけれど確かに温かい。向かい合っているより同じ方向を向いているほうが好きかもしれない。
「寒くないか? 昨日雨だったから馬車も揺れるな。リンネット、足の間においで」
「大丈夫よ」
 これでも王妃だからそんな子どもみたいな真似はできない。空気はすっきりしているのに曇り空。
 蒼山にはもうエリー姉様の姿があった。隣りにいるのは旦那様かしら。背は高くないけれど、落ち着いた感じの人だわ。
「リンネット」
「姉様」
 旦那様にご挨拶がしたいのに、
「聞いた? フレディのお相手、イネスじゃないんだって。しかも、フレディより倍以上の年齢らしいわよ」
 とエリー姉様が早口で伝える。
「なんですって?」
 私とエリー姉様が話している間に、コットはエリー姉様の旦那様にご挨拶していた。そういえば、付き合いがあると話していた。
 エリー姉様の旦那様のアレック様は爽やかな顔して惚気たりしないのかしら。コットは? あの二人、笑いもせず、へこへこもせず、似ている。
「リンネット、姉様」
 サイカ姉様と旦那様のリュール様もご到着。久しぶりに会うサイカ姉様は化粧が濃くなった気がする。
「ちょっと、フレディの相手、亭山の出戻り娘らしいじゃない。どういうことなの?」
 サイカ姉様の声が響く。そちらも情報を掴むのがお早いですね。
「どうしてそんな人を選んだのかしら」
 サシャがやってきて、私たちはようやく広間でお茶を飲む。
「昔、当家の先祖が亭山に助けられたかららしいですわよ」
 とサシャが教えてくれた。フレディはどんな気持ちなのだろう。
 遅れてベルダ姉様とその旦那様もやって来た。ベルダ姉様がずっと扇で口元を押さえていることに違和感はあった。
 フレディの嫁の話になって、
「は?」
 と言ったときに見えてしまった。
「ベルダ姉様、その歯どうしたの?」
 サイカ姉様には話してなかったようだ。ベルダ姉様は夫に聞こえぬように、小声で答えた。
「結婚した者はこうする風習なんですって」
「痛かったでしょう?」
 エリー姉様がベルダ姉様を抱き締める。サイカ姉様は自分のほうが大変だったという顔をして声もかけない。
 夫たちは窓から外を眺めている。さすがにこの季節は花も少ない。こっちは姉妹で、あっちは他人だけれど、親族ではある。不思議。
 ベルダ姉様の旦那様はおじさんで、禿げていた。細い目の小太りで、下品な感じがする。それでももう身内なのだ。
 コットに手招きをしてトイレに連れて行ってもらったときに聞いてしまった。
「婚姻はします。その暁にはイネスを側めにという約束です」
 フレディが父様に懇願しているようだった。
 そのためにずっとフレディは動いて来たのだ。小姑である私たちを売るように金を得て、父様の役に立ってきたつもりなのだろう。
「考えよう」
 父様のその言葉を聞いてしまった私は震えた。
 コットとそ知らぬ顔で皆の元へ戻る。
 フレディも若干顔に暗い影を落としたまま新妻と挨拶に来た。どんな女かと思っていたが、きれいでびっくり。
「亭山より参りましたイリハと申します」
 エリー姉様と同じ歳くらいに見える。
「姉様方、この度はわざわざお集まりいただきましてありがとうございます」
 フレディももう子どもの顔じゃない。なにかを諦めて吹っ切った人間の顔をしている。大切なものを得るために別の大切なものを失うということは世の中ではよくあることなのかもしれない。
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