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爆発

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 数日経って、蒼山から見舞いの品が届いた。包帯などが足りなかったから助かる。霧山からは薬が、桃山からはアロエが届いた。
 ベルダ姉様は私の姉だからいつまでだってここにいていい。愛人たちの出身地を聞いてコットが采配を取る。
「瓜山は海側から行けるだろう。事情を実家に伝えて、落ち合う日時を伝えてください。国境までなら送れます。才山は遠いな。しばらくここにいて、迎えが来れるかを確認していただけますか?」
「はい」
 コットが頼もしい。私の前ではデレデレしているだけだけれど、こうして仕事をしていると素敵。
「私、王様の側室になりたいわ」
 愛人の一人が言い出した。嫌だ。嫌だけど、まだ子どもができる兆候もない。
 愛人の従者も見つかって、生きることに必死な彼女たちはコットに側室にしてほしいと懇願する。
「私はリンネットが愛しいので、妻はリンネット以外必要ありません」
 なんて言ったらますます女は惚れるものなの。
 しかし、コットは私を抱きかかえてばかりいるし、うっかりお風呂のあとで裸を見てしまった人には、
「あの胸毛はないわ」
 と言われた。
 みんなあれが気持ち悪いの? 
「ほぼ熊ね」
 愛人たちと従者は一人、また一人と紅山を去っていった。そのたびにコットを取られなくてほっとしている。
 ベルダ姉様が側室になるのは断固阻止したい。ベルダ姉様はようやく、あっちが痛い、ここにやけどがあると言い出した。
「ベルダ姉様、アロエです」
「ありがとう。きっと痕に残るわ。もう結婚もしたからいいのか。どうせ傷物だもの」
 お山が滅ぶことは稀にある。今回のように噴火や、敵に乗っ取られたり。ベルダ姉様は正妃なのに金山が心配ではないのだろうか。噴火後でも、金欲しさに山族などが集まっていると聞く。
「ただの火傷ですよ」
 と私は姉様の首の後ろにアロエを乗せた。本当は皮がただれている。でも本人が見えないのだから指摘する必要もない。
 コットがまた部隊を率いて金山へ向かった。
「あなたの旦那さんは本当にいい人だと思う。結婚式に来てくれた日、うちでは来賓の男性に女をあてがうのだけれど、気になって見ていたらそれも当然断っていたもの」
 王の浮気を咎める国は少ないのかもしれない。
「そうでしたか」
 浮気も嫌だけど怪我はもっと嫌で、コットが死んじゃうのが一番嫌。
 ベルダ姉様が泣くのは誰のためなのだろう。ほろほろと、寂しそうに。
 夫のサイゼン様の遺骨すらない。お金が必要だろうとコットは愛人たちが紅山を出るときに彼女たちから預かった宝飾品を返した。サイゼン様との思い出の品だったのかもしれない。
 国を統治するのにはお金がかかる。蒼山だってそんなに豊かではなかった。豪華な品はあったけれど、生活水準は一般家庭に毛が生えた程度。でも食いっぱぐれることもない。紅山はコットがうまくやっている。コットだけでなく民たちも商人気質。金山はどうだったのだろう。金ばかりに頼っていたように思う。金を採掘し、装飾品にして売りさばく。金がなくなったらと考える民はいなかったのだろうか。金脈が有限でないことくらいわかるだろうに。
 今のベルダ姉様には聞けやしない。
 城の外に避難している金山の人たちも親戚を頼って出てゆく。ベルダ姉様が無口になるなんて、嫌な予感がする。元気を取り戻してほしいけれど、時間の経過を待つしかない。
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