寂しい街のとどころ旅館

吉沢 月見

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 帰り道できむら商店へ寄って、普段は買わない小瓶の地酒を幾つか買った。
「まいど」
 きむら商店のおじいさんにさえ会釈。客が来ず、姉の電話がなければ一日に誰とも話さない日も少なくない。

 家に着いたら郵便屋さんがちょうど来た。
「ご苦労様」
 よかった。今日はたくさん人に会った。話しをした。家から出ない日すらある。雨の日は特に。配信ドラマや映画にアニメ、無料の動画まで観たいものが溜まる。暇なのに時間がうまく使えない。

 スーパーでの買い物で両手が塞がってしまったがためにスマホのことが頭から抜けた。元来のうっかりさん。だから一人身なのだろうか。両親は結婚しない私を心配し、30代まではお見合い話などを漕ぎつけてきたが、どれもまともな勤め人ばかりで、結婚してしまったらうちを手伝えないと思うと踏ん切りがつかなかった。それも運命。

 明日来る客のためにひじきやきんぴらなどの副菜を作り置き。当日になって連絡もなしに来ない人も稀にいる。例えそうなっても自分で食べればいいから好物ばかり。手のかかる煮豆などはスーパーで買ってきた。

 事前にアレルギーはないけれど生魚が得意ではないと伝えてくれるお客さんでよかった。畑で採れる野菜を想像してメニューを決める。祖母は味噌を作る人だったが母は買っていた。依って、伝承されたレシピは小魚の佃煮だけだ。長期滞在は有り難いようで正直、気が重い。客だからこちらは好き嫌いを言うつもりはない。むしろ客が無理と思ったら切り上げられることもある。だって本当にすることがないのだ。山登りをするような山は遠い、海は近いのに崖だから打ち付ける波を見下ろすことも困難。

 そろそろきのこシーズンだけれども、私が詳しくない。まだ両親が生きていた頃はきのこ採り目当ての客もいたのだが、私は密かに両親が毒きのこを欲しい人を誘導していたのではないかと思っている。それがうちの代々の役目。それを伝える前に父は亡くなってしまった。私はそんなこと継ぎたくない。なので、このまま知らず存ぜぬを突き通すつもり。

 宿泊客がいても私は自宅の風呂を入る。だが、客がいればのんびりできない。部屋に虫が出たと呼び出されることもある。だから今日だけはゆっくり。
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