8 / 49
8.学園への潜入2
しおりを挟む
制服ってドレスとはまた違ってなんというか背筋がぴんとする。
春休みが終わって新しい学期が始まってしばらく経った頃、いよいよ学園へ潜入。
さてさて、寄宿舎に部屋を用意したって言ったけど、ここって物置きじゃない。
「うわっ、蜘蛛の巣」
教室への出入りは難しいみたい。ここに身を潜めつつ生徒に紛れ、いなくなった令嬢を探し、彼女が見つからなければ学園の休み時間に生徒たちに聞き込みをする算段。
自分で言うのもなんだけど、女優が向いてるんじゃないかしら。前髪ぱっつんで地味っ子を演出。ミランさんが選んでくれた眼鏡をかければどこにでもいる女の子。年相応に見えるようにお化粧もしていない。
寄宿舎の料理人の一人がライゾン様の手下のようだった。料理人では好き勝手に動けず情報を得られないのだろうか。彼から、依頼人の生徒のクラスメイトを教えてもらう。
どの子がいいだろう。女の子はおしゃべりが大好き。しかし派閥もあるし、実際に親しくない子では困る。よし、あの子にしよう。
「ここ、空いてる?」
寄宿舎ではごはんの時間だけが自由なようだった。目星をつけた女の子のとなりに座る。
「ええ。あなた、見ない顔ね」
女の子ばかりなのによく見分けがつくわね。私なんてどの子も似たり寄ったりに見える。
「春休みのあとに転校してきたばかりなの。二年生よ」
学年が違うほうが、このあと接点を持つ必要もない。
「私は三年生。よろしく」
彼女がいつも一人でごはんを食べていることは料理人から聞かされていた。いじめとかではなくて、彼女は本当に一人が楽だと思っている。いなくなった依頼人の娘さんのクラスメイトらしい。
それにしても女の子300人程が同じ建物で暮らしているなんて不気味な光景。同じものを食べ同じ勉強をしているのに違う人格になるのだから不思議ね。
「この感じ、いまだに慣れないわ」
私は言った。がやがやと会話と食器を片づける音がうるさい。
「前の学校はもっと生徒が少なかったの?」
「ええ」
と嘘をつく。
「ここは王子の妃候補が通う学校だもの。私には関係ないけど」
現王妃がこの学校の卒業生だからって、この学校はそんな触れ込みで生徒を集めているのね。
「卒業前にいなくなる生徒もいるんでしょう?」
私は聞いた。
「結婚が決まったりしてね。よくあることよ」
彼女は答えた。
「オリヴィアも?」
私は尋ねた。
「彼女ならそこにいるじゃない?」
と友達と笑う女の子を指差した。
「オリヴィアじゃなかったかしら。ええと」
やばい。
「ミッシェルのこと?」
私が聞かされたのは確かにオリヴィアだった。
「不思議よね。忽然と消えるなんて」
どういうことだろう。家族から捜索してと依頼されたオリヴィアは普通に生活をし、違う女の子がいなくなっているなんて。この状況をライゾン様に知らせたほうがいいのかしら。
オリヴィアに接触を図るべきなのだろうか。しばらく様子見。
私はこっそり誰かに成り代わって授業に入り込んだりした。幸いなことに授業は同じ席に着かなくてよかった。こういう能力は本当に長けている。変に緊張しなければいい。堂々と本を開く。
オリヴィアのクラスの女の子に食堂で声をかけたのは失敗だった。おかげでクラスに紛れられない。この後悔が更に私をずる賢くさせる。
料理人を通して知り得た情報はライゾン様のところへ行っているはず。彼ならどうするのだろうか。自分の用件は済んだから、いなくなった女の子のことなんて気にしなくていい?
なぜオリヴィアが家に帰らないかはすぐにわかった。学校の先生と恋仲だったのだ。どうしてわかったかというと、裏庭でキスをしているのを見てしまったから。脇が甘いわ。こんな偵察に来たばかりの私に見られるのだから誰かにも知られているのではないだろうか。
「卒業したら結婚しよう」
「ええ、絶対よ。他の女の子なんて見ないで」
「君しか見ていないさ」
あと数ヶ月経ったら何の問題もないのだから、二人の将来のために自重すべき。その甘い言葉も学校ではないところで囁いて。
二人の考えは理解に苦しむが、その会話に聞き耳を立てていた私は背後から伸びてくる手に気づくのが一瞬遅れた。
春休みが終わって新しい学期が始まってしばらく経った頃、いよいよ学園へ潜入。
さてさて、寄宿舎に部屋を用意したって言ったけど、ここって物置きじゃない。
「うわっ、蜘蛛の巣」
教室への出入りは難しいみたい。ここに身を潜めつつ生徒に紛れ、いなくなった令嬢を探し、彼女が見つからなければ学園の休み時間に生徒たちに聞き込みをする算段。
自分で言うのもなんだけど、女優が向いてるんじゃないかしら。前髪ぱっつんで地味っ子を演出。ミランさんが選んでくれた眼鏡をかければどこにでもいる女の子。年相応に見えるようにお化粧もしていない。
寄宿舎の料理人の一人がライゾン様の手下のようだった。料理人では好き勝手に動けず情報を得られないのだろうか。彼から、依頼人の生徒のクラスメイトを教えてもらう。
どの子がいいだろう。女の子はおしゃべりが大好き。しかし派閥もあるし、実際に親しくない子では困る。よし、あの子にしよう。
「ここ、空いてる?」
寄宿舎ではごはんの時間だけが自由なようだった。目星をつけた女の子のとなりに座る。
「ええ。あなた、見ない顔ね」
女の子ばかりなのによく見分けがつくわね。私なんてどの子も似たり寄ったりに見える。
「春休みのあとに転校してきたばかりなの。二年生よ」
学年が違うほうが、このあと接点を持つ必要もない。
「私は三年生。よろしく」
彼女がいつも一人でごはんを食べていることは料理人から聞かされていた。いじめとかではなくて、彼女は本当に一人が楽だと思っている。いなくなった依頼人の娘さんのクラスメイトらしい。
それにしても女の子300人程が同じ建物で暮らしているなんて不気味な光景。同じものを食べ同じ勉強をしているのに違う人格になるのだから不思議ね。
「この感じ、いまだに慣れないわ」
私は言った。がやがやと会話と食器を片づける音がうるさい。
「前の学校はもっと生徒が少なかったの?」
「ええ」
と嘘をつく。
「ここは王子の妃候補が通う学校だもの。私には関係ないけど」
現王妃がこの学校の卒業生だからって、この学校はそんな触れ込みで生徒を集めているのね。
「卒業前にいなくなる生徒もいるんでしょう?」
私は聞いた。
「結婚が決まったりしてね。よくあることよ」
彼女は答えた。
「オリヴィアも?」
私は尋ねた。
「彼女ならそこにいるじゃない?」
と友達と笑う女の子を指差した。
「オリヴィアじゃなかったかしら。ええと」
やばい。
「ミッシェルのこと?」
私が聞かされたのは確かにオリヴィアだった。
「不思議よね。忽然と消えるなんて」
どういうことだろう。家族から捜索してと依頼されたオリヴィアは普通に生活をし、違う女の子がいなくなっているなんて。この状況をライゾン様に知らせたほうがいいのかしら。
オリヴィアに接触を図るべきなのだろうか。しばらく様子見。
私はこっそり誰かに成り代わって授業に入り込んだりした。幸いなことに授業は同じ席に着かなくてよかった。こういう能力は本当に長けている。変に緊張しなければいい。堂々と本を開く。
オリヴィアのクラスの女の子に食堂で声をかけたのは失敗だった。おかげでクラスに紛れられない。この後悔が更に私をずる賢くさせる。
料理人を通して知り得た情報はライゾン様のところへ行っているはず。彼ならどうするのだろうか。自分の用件は済んだから、いなくなった女の子のことなんて気にしなくていい?
なぜオリヴィアが家に帰らないかはすぐにわかった。学校の先生と恋仲だったのだ。どうしてわかったかというと、裏庭でキスをしているのを見てしまったから。脇が甘いわ。こんな偵察に来たばかりの私に見られるのだから誰かにも知られているのではないだろうか。
「卒業したら結婚しよう」
「ええ、絶対よ。他の女の子なんて見ないで」
「君しか見ていないさ」
あと数ヶ月経ったら何の問題もないのだから、二人の将来のために自重すべき。その甘い言葉も学校ではないところで囁いて。
二人の考えは理解に苦しむが、その会話に聞き耳を立てていた私は背後から伸びてくる手に気づくのが一瞬遅れた。
0
あなたにおすすめの小説
🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。
設楽理沙
ライト文芸
2026.1.4 73話見直した際、瑛士の台詞《本音/懺悔》を加筆しました。😇
☘ 累計ポイント/ 200万pt 超えました。ありがとうございます。
―― 備忘録 ――
第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。 最高 57,392 pt
〃 24h/pt-1位ではじまり2位で終了。 最高 89,034 pt
◇ ◇ ◇ ◇
紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる
素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。
隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が
始まる。
苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・
消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように
大きな声で泣いた。
泣きながらも、よろけながらも、気がつけば
大地をしっかりと踏みしめていた。
そう、立ち止まってなんていられない。
☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★
2025.4.19☑~
君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】
ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る――
※他サイトでも投稿中
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
王子様への置き手紙
あおき華
恋愛
フィオナは王太子ジェラルドの婚約者。王宮で暮らしながら王太子妃教育を受けていた。そんなある日、ジェラルドと侯爵家令嬢のマデリーンがキスをする所を目撃してしまう。ショックを受けたフィオナは自ら修道院に行くことを決意し、護衛騎士のエルマーとともに王宮を逃げ出した。置き手紙を読んだ皇太子が追いかけてくるとは思いもせずに⋯⋯
小説家になろうにも掲載しています。
「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」
歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。
「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは
泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析
能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り
続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。
婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」
さようなら、私の初恋
しょくぱん
恋愛
「さよなら、私の初恋。……もう、全部お返しします」
物心ついた時から、彼だけが世界のすべてだった。 幼馴染の騎士団長・レオンに捧げた、十数年の純粋な初恋。 彼が「無敵」でいられたのは、アリアが無自覚に与え続けた『治癒の加護』があったから。
だが婚約直前、アリアは知ってしまう。 彼にとって自分は、仲間内で競い合う「賭けの対象」でしかなかったことを。
「あんな女、落とすまでのゲームだよ」
愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました
由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。
尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。
けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。
そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。
再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。
一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。
“尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。
静かに離婚しただけなのに、
なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。
忘れ去られた婚約者
かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』
甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。
レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。
恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。
サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!?
※他のサイトにも掲載しています。
毎日更新です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる