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34.ライゾン様のお見合い
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このところ、面倒な依頼がないのかライゾン様が家にいることが多い。子どもが欲しい金持ちに孤児を売ることなど彼には造作もないこと。
「今日もお休み?」
私は聞いた。
「ああ」
もしかしたら悪いことが露呈しそうになって身を潜めているのかもしれない。こっちが探る立場のときもあれば逆もあるだろう。仕事の依頼がないのかもしれない。ライゾン様ってお仕事の何が楽しいと思っているのかしら。スリルだったら軽蔑する。
どこからか嗅ぎつけたのか、久々にあの人が来る。強烈な香水の匂いを振りまいて。
「あんまり仕事ばかりしているのはよくないわ。そうだわ、結婚したらいいのよ。かわいい奥さんがいればあなたも家にいるでしょう」
ライゾン様の予定がない日に限って来るからおば様の嗅覚がすごいのか、己の匂いで周囲を浸食しているのかもしれない。
「仕事が忙しいので無理ですよ。女性は放っておくとすねるし。今は結婚よりも仕事に注力したい」
ライゾン様、仕事のことをお相手に話せないのだろう。このおば様だって本当のことは知らない。ライゾン様の仕事を理解する名家があるとも思えない。裏家業の噂くらい流れているだろう。そうでなければ貴族から仕事が舞い込んでこない。おば様はそれを知らないからライゾン様にお見合いを勧める。身内でもおば様のような頭より口が先に動くような人は仕事に引きこめないのだろう。まだ他人の私のほうが駒になる。
「どうしても断れないの。あちらは侯爵令嬢よ。パーティでライゾンを見かけたとか」
それって、ライゾン様は仕事中だったのではないだろうか。もしや、仕事の依頼?
ライゾン様も同じように思ったのか見合いを受けてしまった。
「本当にお見合いだったらどうするの?」
おば様が帰ったあとで私は聞いた。
「それだったら断るさ」
見初められちゃったらどうするの? お相手によっては立場上、断れないし、ライゾン様が惚れちゃう場合もある。だから、極力そういう場には出向かないでほしい。
「いい歳なんだからそろそろちゃんとしてちょうだい」
というおば様の言葉が効いたのかしら。以前のようにおば様には私が婚約者だと通してよ。
お見合いの日、ライゾン様はそれなりの格好をしていった。故に、それなりにかっこいい。一瞬見とれた。帽子のせいかしら。私は今日のために、こっそりミランにお化粧を習った。ライゾン様が先方の家に出向いてお茶をするだけらしいが、こそっと客人に扮して潜入するつもり。なんとしても阻止しなければ。こちらの屋敷で今日会うことになっているまでは突き止めたが、何時からなのだろう。
「百貨店から参りました」
お嬢様のお気に入りの店を名乗ってごめんなさい。
「あら、お約束していたかしら。少しお待ちいただくかもしれませんが、どうぞ」
おとなしめの化粧にきっちりした服。服はシャーロットさんに借りた。
「あははははっ」
ライゾン様の笑い声が庭から聞こえる。ちょっと、楽しそうにしないでよ。
「こちらでお待ちください」
と私は部屋に通された。生憎、外の会話までは聞こえない。
そうか。ライゾン様が気に入れば結婚してしまうこともある。あの人のことだもん、妻を騙し続けることなど容易い。ライゾン様を愛する人だっていてほしい。子どもの私では無理だから。
ふとこんなことをしている自分が阿呆らしくなったので、使用人の目を盗んで私は屋敷をあとにした。証拠になるようなものがなくて助かる。百貨店にクレームが入るだけだ。
足に力を入れて歩く。泣きながら。人の心が買えないものであることは過去の経験から学んでいる。
気合を入れてお化粧をして挑んだのに、お腹が痛かったのだ。家に帰ってパンツに血がついていてびっくり。そういえばシャーロットさんが初潮はまだかと気にしていた。これか。
体が痛い。血が出てるんだもん、当然である。血みどろだ。シャーロットさんに伝えるとあて布をくれて、
「おめでとう」
と言ってくれた。子どもなのにこれでもう大人扱いなのだろうか。
お腹が痛くて横になっているとライゾン様が帰宅した。
「ただいま。キリーナ、大丈夫か?」
シャーロットさんがきっと具合が悪いと伝えたに違いない。
コツコツと靴音を響かせて、私のベッドに近づいてくる。あなたの家だからいいの。私はまだ子どもだし。
「ちょっとお腹が痛いだけ」
私は答えた。ライゾン様はベッドの縁に腰かけて、横になった。知らない家の匂いがする。
「休みの日はこうしているに限るな」
お見合いはどうだったのかしら。令嬢はきれいだった? 話は弾んだ? 聞きたいことはあったけど、今は寝たふり。もうすぐ、こんなふうにできなくなるのでしょう。その予感はある。
お腹というより腰に違和感。頭も痛くなって来た。いろんな箇所がズキズキ。大人って大変ね。でもこれが大人の階段をのぼっていると思えば我慢できる。待っていてねライゾン様、これから少しずつ成長するから。私が大人になるまでもう少し待って。
「今日もお休み?」
私は聞いた。
「ああ」
もしかしたら悪いことが露呈しそうになって身を潜めているのかもしれない。こっちが探る立場のときもあれば逆もあるだろう。仕事の依頼がないのかもしれない。ライゾン様ってお仕事の何が楽しいと思っているのかしら。スリルだったら軽蔑する。
どこからか嗅ぎつけたのか、久々にあの人が来る。強烈な香水の匂いを振りまいて。
「あんまり仕事ばかりしているのはよくないわ。そうだわ、結婚したらいいのよ。かわいい奥さんがいればあなたも家にいるでしょう」
ライゾン様の予定がない日に限って来るからおば様の嗅覚がすごいのか、己の匂いで周囲を浸食しているのかもしれない。
「仕事が忙しいので無理ですよ。女性は放っておくとすねるし。今は結婚よりも仕事に注力したい」
ライゾン様、仕事のことをお相手に話せないのだろう。このおば様だって本当のことは知らない。ライゾン様の仕事を理解する名家があるとも思えない。裏家業の噂くらい流れているだろう。そうでなければ貴族から仕事が舞い込んでこない。おば様はそれを知らないからライゾン様にお見合いを勧める。身内でもおば様のような頭より口が先に動くような人は仕事に引きこめないのだろう。まだ他人の私のほうが駒になる。
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それって、ライゾン様は仕事中だったのではないだろうか。もしや、仕事の依頼?
ライゾン様も同じように思ったのか見合いを受けてしまった。
「本当にお見合いだったらどうするの?」
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「それだったら断るさ」
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「いい歳なんだからそろそろちゃんとしてちょうだい」
というおば様の言葉が効いたのかしら。以前のようにおば様には私が婚約者だと通してよ。
お見合いの日、ライゾン様はそれなりの格好をしていった。故に、それなりにかっこいい。一瞬見とれた。帽子のせいかしら。私は今日のために、こっそりミランにお化粧を習った。ライゾン様が先方の家に出向いてお茶をするだけらしいが、こそっと客人に扮して潜入するつもり。なんとしても阻止しなければ。こちらの屋敷で今日会うことになっているまでは突き止めたが、何時からなのだろう。
「百貨店から参りました」
お嬢様のお気に入りの店を名乗ってごめんなさい。
「あら、お約束していたかしら。少しお待ちいただくかもしれませんが、どうぞ」
おとなしめの化粧にきっちりした服。服はシャーロットさんに借りた。
「あははははっ」
ライゾン様の笑い声が庭から聞こえる。ちょっと、楽しそうにしないでよ。
「こちらでお待ちください」
と私は部屋に通された。生憎、外の会話までは聞こえない。
そうか。ライゾン様が気に入れば結婚してしまうこともある。あの人のことだもん、妻を騙し続けることなど容易い。ライゾン様を愛する人だっていてほしい。子どもの私では無理だから。
ふとこんなことをしている自分が阿呆らしくなったので、使用人の目を盗んで私は屋敷をあとにした。証拠になるようなものがなくて助かる。百貨店にクレームが入るだけだ。
足に力を入れて歩く。泣きながら。人の心が買えないものであることは過去の経験から学んでいる。
気合を入れてお化粧をして挑んだのに、お腹が痛かったのだ。家に帰ってパンツに血がついていてびっくり。そういえばシャーロットさんが初潮はまだかと気にしていた。これか。
体が痛い。血が出てるんだもん、当然である。血みどろだ。シャーロットさんに伝えるとあて布をくれて、
「おめでとう」
と言ってくれた。子どもなのにこれでもう大人扱いなのだろうか。
お腹が痛くて横になっているとライゾン様が帰宅した。
「ただいま。キリーナ、大丈夫か?」
シャーロットさんがきっと具合が悪いと伝えたに違いない。
コツコツと靴音を響かせて、私のベッドに近づいてくる。あなたの家だからいいの。私はまだ子どもだし。
「ちょっとお腹が痛いだけ」
私は答えた。ライゾン様はベッドの縁に腰かけて、横になった。知らない家の匂いがする。
「休みの日はこうしているに限るな」
お見合いはどうだったのかしら。令嬢はきれいだった? 話は弾んだ? 聞きたいことはあったけど、今は寝たふり。もうすぐ、こんなふうにできなくなるのでしょう。その予感はある。
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