悪魔の隣りでお昼寝させて~幼い私があなたをお慕いしていることは誰にも内緒です~

吉沢 月見

文字の大きさ
41 / 49

41.私の仕事3

しおりを挟む
 ああ、午後になってしまった。迎えを待つしかない。王子が嫌な人のほうがいい。使者だけが来て、私のことなどひどい扱いをしてくれればいい。逆に優しいと、こちらも相応の対応をしなければ。

「お嬢様、ブラッド王子がお見えです」

 本人が来てしまったのね。大丈夫。私はリジー。リジー・ローズ・ウッドレーク。キリーナなんて名前知らないわ。

「ごきげんよう」

 王子様は私の顔を見るなり頬を赤らめた。あなたが話してくれないと誰も言葉を発せない。この空気、いたたまれない。


「久方ぶりです」
 この人、もしかして令嬢が大好きなのかしら。困ったわ。騙せ通せるかしら。

「出立の準備はできておりますが、その前にお茶でもいかが?」

 国を出たら引き返せない。

「是非」
 と令嬢の父が頭を下げる。

「そうしよう」

 王子様、腰の剣が長すぎて怖いです。

 私が座ると隣りの椅子に腰かけた。私を見るから視点を合わせると外されてしまった。

 恥ずかしがり屋さんのよう。

「ごちそうさまでした」

 一気飲み? そんなに私を連れてゆきたいのかしら。監禁でもされるんじゃないだろうか。私はなるたけゆっくりカップの紅茶を飲み切らないように心掛けた。

「猫舌?」

 王子が聞く。

「いいえ」

「ここから離れがたいか。生まれた家だもんな。君が望めば里帰りできるようこちらの国に伝えておく」
 と言ってくれた。それっていつ?

 結婚まではどれくらいあるのだろう。馬鹿なふりして妃教育を延長すればいいのだろうか。

 時間稼ぎしても無駄ね。行かなくちゃ。

「では父上、母上、お世話になりました」

 涙ながらに両親が見送る。お上手ですこと。本当の娘のことが気がかりでしょうがないのだろう。私たちの馬車が見えなくなったら血眼になって探すはず。


「リジー、こちらへ」

 え、待って。王子と同じ馬車なの? 緊張する。しかも先に乗り込んだ王子に手を差し出されたら掴むしかないじゃない。

「ありがとうございます」

 向かい合う形ではなく隣に座った。握ったままの手を離してくれない。ずっとそのままで、船に乗っても遠ざかってくれない。国外に出るのは初めてなのにちっともウキウキしない。むしろ心は冷えるばかり。

 港にライゾン様が姿を見せないのは私のためでもある。あなたを見たら、あなたから離れることが辛くなる。でも一目、最後にこの目に焼き付けたかった。

 私の知っているあなたは、優しくて、よく笑って、お酒の匂いがして、たまに意地悪そうな顔もする。なんでもできるようでそうではないから人を雇い、人を騙す。反対にひどい目に遭った日にはなんでもないと嘯く。
 私がいなくても大丈夫なのでしょう。あなたには頼りになる人が周りにいる。私にはいないけど。

「泣くな」

 王子様、寂しいのではないのです。彼の役に立つなら私はいいの。国境を越えると同時にこの気持ちが消えればいいのですが、人間というのは機械のように単純じゃありませんね。

「ようこそ、我が国へ。君を迎える日が来たことを嬉しく思う」

 王子にそこまで言わせて私がめそめそしているわけにはいかない。令嬢なら、
「私もです」
 と言うに決まっている。

 入城した私たちを近衛兵たちが迎える。立派なお城だった。ここで暮らすしかないんだわ。またあなたに会うために生きなくちゃ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】 ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る―― ※他サイトでも投稿中

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。

設楽理沙
ライト文芸
2026.1.4 73話見直した際、瑛士の台詞《本音/懺悔》を加筆しました。😇 ☘ 累計ポイント/ 200万pt 超えました。ありがとうございます。 ―― 備忘録 ――    第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。  最高 57,392 pt      〃     24h/pt-1位ではじまり2位で終了。  最高 89,034 pt                    ◇ ◇ ◇ ◇ 紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる 素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。 隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が 始まる。 苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・ 消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように 大きな声で泣いた。 泣きながらも、よろけながらも、気がつけば 大地をしっかりと踏みしめていた。 そう、立ち止まってなんていられない。 ☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★ 2025.4.19☑~

王子様への置き手紙

あおき華
恋愛
フィオナは王太子ジェラルドの婚約者。王宮で暮らしながら王太子妃教育を受けていた。そんなある日、ジェラルドと侯爵家令嬢のマデリーンがキスをする所を目撃してしまう。ショックを受けたフィオナは自ら修道院に行くことを決意し、護衛騎士のエルマーとともに王宮を逃げ出した。置き手紙を読んだ皇太子が追いかけてくるとは思いもせずに⋯⋯ 小説家になろうにも掲載しています。

「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」

歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。 「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは 泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析 能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り 続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。 婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」

さようなら、私の初恋

しょくぱん
恋愛
「さよなら、私の初恋。……もう、全部お返しします」 物心ついた時から、彼だけが世界のすべてだった。 幼馴染の騎士団長・レオンに捧げた、十数年の純粋な初恋。 彼が「無敵」でいられたのは、アリアが無自覚に与え続けた『治癒の加護』があったから。 だが婚約直前、アリアは知ってしまう。 彼にとって自分は、仲間内で競い合う「賭けの対象」でしかなかったことを。 「あんな女、落とすまでのゲームだよ」

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

忘れ去られた婚約者

かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』 甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。 レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。 恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。 サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!? ※他のサイトにも掲載しています。 毎日更新です。

処理中です...