月坂寮の日々

Midnight Liar

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いたって平凡な一日

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「痛っ!」
  突然、頭に激痛が走る。
 どうやら頭を思い切り叩かれたらしい。
「ほら、起きろ」
「え? あ……」
 知らない間に寝てしまっていたようだ。
 無意識に枕にしていたのか腕が痺れている。
 顔を上げると、機嫌の悪そうな出川寮監という、寮で一番厳しい寮監が俺の机の前に立っていた。
 うわー、やってしまった。
 一瞬で目が覚める。
「自習終わったら事務室までこい」
 説教確定だ。
 出川寮監が俺を睨みつけながら自習監督の席に戻る。
「やっちまったな」
 石井がニヤニヤしながら、俺にしか聞こえないような小声で言ってくる。
「うるせぇ、起こせよ」
 小声で言い返し、ケータイで時間を慎重に盗み見ると、三コマ目ももう終わりに近い時間だった。
 一時間ぐらい寝てたのか……。
「キーン、コーン……」
 終わりのチャイムが鳴ると、出川寮監が立ち上がり、自習室を出て行く。
「はぁ」
 出川寮監が出て行くと、誰ともなく安堵の溜息をつく。
「行ってきます」
 俺が力なくそう言うと笑いが起き、その笑いに送り出される形で事務室に向かう。
「マジかぁ……」
 憂鬱だ。まさか寝言でいらんことを口走ってはいないだろうか。
 ヒヤヒヤしながら事務室のドアをノックする。
「入れ」
 と、早くも怒気を含んだ出川寮監の声が。
 覚悟を決め、ドアノブを回すと、普段は鍵が掛かっている事務室のドアが、無駄に抵抗なく開いた。
 逆に怖い。
 目の前には腕を組んだ出川寮監。
 これはヤバい。
 反抗せずに大人しくしておこう。
 しおらしく反省した感じで入っていったにも関わらず、たっぷり十五分も怒号を浴びせられた。
「すいませんでしたっ!」
 最終的に完全な体育会系のノリで謝り、ようやく解放された。
 ついでにケータイを事務室に預け、自室に引き上げる。
「どうだった?」
「かなりキレられた……」
 自室に戻った途端これだ。
 すぐさまルームメイトたちからの質問が飛んできた。
「点呼取りにきたときに機嫌悪かったら面倒だな」
「そうなったらごめん」
「あはは……」
「とばっちりとかマジで勘弁だから」
「ホント」
「だから悪いって」
「点呼、川田寮監ならいいな」
「そろそろケータイ持ってかないと」
「あ、俺もだ」
 ケータイは十一時半の点呼前までに、事務室まで持って行かないと充電してもらえない。
 俺は廊下に出て、トイレ前にある洗面所で歯を磨き、トイレを済ませると自室に戻り、明日の支度をする。
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