彼と私は時々キスをする

美衣

文字の大きさ
5 / 21
1章

あの夜 Ⅲ

しおりを挟む





どうして、こうなったのか。

確か私達は、朝まではしご酒をすると決めてお店を出たはず。
そうして夜の街に出て、次にお酒を交わす場所を探し歩いていた。

…それなのに。どうして。


「日下部、シャワー浴びれば」


私達はここにいるのか。普通の宿泊施設とは明らかに雰囲気の違う部屋。テレビと、お風呂と、トイレと、部屋の中央に大きいベッドが1つあるのみ。


「いー!こんな状態でシャワーなんて浴びたらアルコールが回りすぎて吐いてしまうー。と、いう事で日下部はもう寝ます!」


わたしは荷物を投げ捨てて、ベッドに倒れ込む。ソファ1つ無いこの部屋じゃ、どう考えたって寝る場所はこのベッドになってしまう。彼がベッドに来やすいように、一応端っこのほうにしておいた。


「た、高城さん、あたしはいいからシャワー浴びてきなよー」


なんでも無いフリをして、彼にそう言うので精一杯だった。




しばらくして、お風呂場の方から水音がしてきた。どうやら、彼はシャワーを浴びに行ったらしい。

…まったく眠く無いんですけど。…なにこの状況。なんで私、高城さんとラブホテルなんて入ってるの。大丈夫なの?いや、大丈夫か。高城さん結婚してるし。…いやいや!尚更まずいじゃん、………なんでこんな事になったんだっけ。くそーまさかこんなに早く店が無くなるとは。

そう。はしご酒をすると決めてお店を出たまでは良かったものの、他のお店はほとんど閉店していた。この街の人は、こんな遅くまでお酒を飲まないのだろうか。
行くあてをなくした私達は、諦めて私が行く予定だった漫画喫茶に向かった。
しかし、ここでも問題が発生でしてしまう。なんと、どこの席も空いてないらしかった。本格的に路頭に迷った私達は、お酒のノリでラブホテルに泊まることに。
お互いに相手はいるし、彼に関しては既婚者。同じ職場でこれからだって働いていくのだから、2人に限って間違いなんてあるはずない。
そう思って来たわけだけど、いざ室内に入ると独特の雰囲気になぜか緊張してしまっている。

ほんと、どうしよ…ー

なんて考えていると、お風呂場のドアの向こうから浴室のドアが開く音がした。


「わっ、どうしよ。」


つい、声に出して言ってしまう。
彼はシャワーを浴び終えたようで、つまりそれはこの部屋に帰ってくる事を意味するわけで…ー

何故か気まずく、何故か緊張した。どうにか落ち着こうと、ベッド付近にある機械をいじってみると、部屋に知らない音楽が小さく流れた。

わわっ、どうしよ、なにこれ…っ

そして部屋のドアが開き、慌てた私は咄嗟に寝たフリをした。


「あれ?日下部もう寝てるし」


彼がボソッと漏らした声が部屋に響く。何故か緊張が増した。
彼の足音がベッドに近づいてくるのがわかる。私の心臓の鼓動が自身で聴こえるくらい大きく、早くなっていた。

どうしよ、今更寝てないとか言えないし。なんなら本当にこのまま寝ちゃいたい。

ギシ……ー

彼がベッドに上がったのか、スプリングが小さい音を立てて揺れた。

高城さんが一緒のベッドにいる。本当になんなんだこの状況!!!!!!…ああ、もうこのまま意地でも狸寝入りを決め込んで…………


「……つめたっ」


決意しかけた私の顔に、何か冷たいものが落ちて、反射的に目を開けてしまった。


「あ、ごめんね。日下部が布団の上に寝ちゃってて布団がめくれないから……」


目を開けたその先には、彼の顔があった。


「びっ……くりした……。え、なに、ごめん、どく。」


彼は、運ぼうとしたのか私の頭の下に腕を入れようとしているところだったらしい。私はすぐさま自力で体を起こし、布団の中に潜った。少し離れたところに、彼も横になっていた。


「電気、消すよ?」


彼がベッドの上の方にある機械をいじっていた。
照明が消え、部屋が真っ暗になった。


「あ、真っ暗にしないで…」


「そうだった。子供かよー」


お互いの顔がほんのり確認できるくらいの薄暗い照明だけを残し、音楽も消えて部屋が静かになる。
私はしっかり目を閉じて眠りについた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

幼馴染の許嫁

山見月あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。 彼は、私の許嫁だ。 ___あの日までは その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった 連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった 連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった 女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース 誰が見ても、愛らしいと思う子だった。 それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡 どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服 どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう 「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」 可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる 「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」 例のってことは、前から私のことを話していたのか。 それだけでも、ショックだった。 その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした 「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」 頭を殴られた感覚だった。 いや、それ以上だったかもしれない。 「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」 受け入れたくない。 けど、これが連の本心なんだ。 受け入れるしかない 一つだけ、わかったことがある 私は、連に 「許嫁、やめますっ」 選ばれなかったんだ… 八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。

あんなにわかりやすく魅了にかかってる人初めて見た

しがついつか
恋愛
ミクシー・ラヴィ―が学園に入学してからたった一か月で、彼女の周囲には常に男子生徒が侍るようになっていた。 学年問わず、多くの男子生徒が彼女の虜となっていた。 彼女の周りを男子生徒が侍ることも、女子生徒達が冷ややかな目で遠巻きに見ていることも、最近では日常の風景となっていた。 そんな中、ナンシーの恋人であるレオナルドが、2か月の短期留学を終えて帰ってきた。

25年の後悔の結末

専業プウタ
恋愛
結婚直前の婚約破棄。親の介護に友人と恋人の裏切り。過労で倒れていた私が見た夢は25年前に諦めた好きだった人の記憶。もう一度出会えたら私はきっと迷わない。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

妻の遺品を整理していたら

家紋武範
恋愛
妻の遺品整理。 片づけていくとそこには彼女の名前が記入済みの離婚届があった。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

処理中です...