彼と私は時々キスをする

美衣

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1章

確信

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結局、唇を重ねながらどちらからともなく、寄り添ったまま眠ったらしい。

あれから毎日のように飲みに行っているけれど、あの日の出来事が嘘だったかのように、彼は何もしてこないし、私もいつも通りに振舞った。
翌日の夕方には奥様も子供もお店に遊びに来ていたが、彼は特別慌てるそぶりを見せることが無く、あの夜まで繰り広げられていた日常が、翌日からも変わらず続いていた。
あの夜はだいぶお酒も飲んでいて相当酔っ払っていたし、キスは私の思い違いで本当は何も無かったのかもしれないとさえ思えてしまっていた。


「あ、幸助こうすけが迎えに来てくれるそうなんで、私もM駅で降りますー」


今日もいつも通り、営業後に2人で飲んでいた帰り道。いつもは彼だけが降りて、私は電車の中で1人になる駅で、今日は一緒に降りた。
あれから、何度か終電を逃してるけれど彼から再び何かしてくることは無かった。
そして何も知らない彼氏は、私が終電を逃す度に迎えに来て、自宅まで送り届けてくれる。もう付き合って4年になる彼氏の幸助こうすけ


「彼氏君、ほんと良いやつだね。一昨日おとといも迎えに来てなかった?」


「わたしこんなんだから、よく変な奴らに絡まれるんですよ。それを幸助に話してから、なんか過保護になっちゃって」


「ああ、そういえばこの前も、俺が降りてから、なんかいたんだっけ」


私は見た目が派手だからか、度々変な人に絡まれる。彼と一緒に帰ってる時は特に問題は無いのだけれど、彼の方が降りる駅が早く着くため、途中からは私は電車の中でひとりになる。そうすると大体変な人の的になる。この前は彼が降りた途端、酔っぱらいのサラリーマンに声をかけられた。降りたホームから発車した電車を見送る彼から、その状況が見えたらしく電話が掛かってきて、そのまま家に着くまで電話を繋げていてくれた。


「あはー、そのせつは本当に助かりました。あの時は本当にどうしようかと……」


私はその時を思い出し苦笑いをした。


「おまえは、スキがありすぎるんだよ。…で、彼氏何時に着くって?」


「あー……っと、多分もうぼちぼちつくと思うから、高城たかぎさん、先帰ってていいですよ?私、コンビニにでも行って待ちますし」


駅の改札を抜けたら駐輪場があり、彼はいつもそこに自転車を止めている。


「今こんな話した後で、ほっとけるわけないだろー。M駅なんて、もっとあぶねーんだから。」


そう言いながら駐輪場を通り過ぎ、彼の後を追って歩き続けていると、もう営業時間が終わっている真っ暗な塾の駐車場に行き着いた。
いつもより少し酔っ払っているのかもしれない。彼の口調が普段より荒い気がする。


「…心配?」


強めの口調で心配してくる彼に、何処か有頂天になってしまったのかもしれない。私が調子にのって聞くと、少し前を歩く彼は足を止め、こちらを振り向きながら答えた。


「…心配だよ。」


私の目をじっと見つめ真面目なトーンの彼。
いつだかのように、一気に自分の体が熱くなるのがわかった。

そんな言い方、卑怯だよ。それじゃまるでー…


「…俺、日下部くさかべの事……好きだから。」


「…え」


金縛りにあったみたいに体が動かなくなった。彼が私から目をそらさないから、私も彼から目をそらせない。周りの音もいつの間にか聴こえなくて、全神経が彼に集中していた。


「この前ので、気付いたかと思ったんだけどね。日下部……志乃しのは朝も平気で俺の腕の中で寝てるし、店でも普通だから、やっぱり周りが言う通りの小悪魔なんだなぁって思ったんだけど」


そう言いながら少し後ろに立ち止まる私の元に近づいてきて、そっと私の頬に触れた。


「顔、熱いね。」


なん……て、答えたら正解なの?


「っちょ、…まって……っ!」


「うん?」


「え、あの、その、明日とか……仕事、気まずくなったり……」


「…気まずくなる?」


「な……ったり…しない、けど」


「…しないよね」


そう言いながら頬に触れていない方の腕が、私を彼のもとに引き寄せた。彼の顔が近すぎて、呼吸の仕方分からない。でも、何故だか目をそらせなかった。


「その顔はちょっとクるね。この前と同じ顔。俺、その顔好き」


「私っ、彼氏いるし…っ、た…高城さんだって、奈々さんとかなでくっ………ふっ……」


彼の家族を声にした私の口は彼の唇によって塞がれた。

彼は既婚者で奥さんも子供も居て、私にだって彼氏がいて、今の状況が自分的にも世間的にもダメなことは分かっているのに。大した抵抗も出来ないのは、私に問題があるのだと思う。
それが、大人の男性との禁断の恋愛への好奇心だけではないような気がして。

完全に抵抗を無くし、彼の首に腕を回して求める私の上着のポケットで、着信によって携帯電話が震えていた。




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