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月が綺麗ですね
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「月が綺麗ですね」
どうやらこの言葉には〝I Love You 〟的な意味が含まれているようだ。
英語教師でもあった有名な夏目漱石が、授業の中でそう訳したらしい。
生徒が〝我君を愛す〟と訳したところ、「日本人はそれほど直接的な愛の表現はしないだろう」ということでそうなったそうだ。
この訳は、もちろん現代でも有名な言葉として残っているが、はっきり言ってあまり腑には落ちていない。
百歩譲って当時の感覚からしたら、的確な訳だったのかもしれないが、それが今ものうのうと名言っぽく残っていることに違和感を覚える。
名言というか迷言だろとか言ってる人もこの世界のどこかに入るはずだ。
〝我君を愛す〟と訳したその生徒の方がよっぽど今にも通じる綺麗な訳ができていると思う。
またこんなくだらないことを考えながら今日も家路に着く。
ちなみに今日レンタルDVD屋にきたお客さんは6人ほどだった。
平日にしては、忙しかった方だ。
何もやることもないので、適当に歩いていると、ビルの間の狭い空の上に浮いている不完全な月が目に飛び込んできた。
普通に「綺麗な月だな」と声が漏れる。
おっと危ない、こんなの誰かに聞かれていたら、告白だと間違われる可能性すらあるのか。
夏目漱石、君は何で理不尽なことをしてくれたんだ。
僕みたいな人間には、どんだ悪魔だ。
まぁ、偶然のせいにしてでも、あの子に想いを伝えることができるのであれば、救世主にさえなってくれるのだが。
綺麗な月がちょうどビルの間に隠れてしまった頃、僕はこれまたいつものスーパーに着いた。
この時間は半額のシールが貼られたお惣菜を買うことができるからだ。
もちろん、当たり外れはあるがそれも楽しい。
半額のシールが貼ってあるだけで普段の3倍は美味しく感じる。
念の為、入り口から順路を通り、しっかりと目を凝らしながらお惣菜コーナーへ向かう。
途中の鮮魚コーナーで足が止まる。
今日は大当たりだ。
何気ない日々の何気ない幸せにして、きっとここ一時間単位で見たら、〝僕が世界で一番の幸せ者なんじゃないか〟と錯覚させてくれるあれが半額で置いてあったからだ。
季節のお刺身5種盛りセットだ。
広告の品五百円からさらに半額の二百五十円。
僕は、誰にもバレないようにこっそりと近づき、さっと買い物カゴの中に招待してあげた。
レジに向かう途中、お刺身さん一人だけのカゴの中はあまりにも可哀想なので、仕方なく発泡酒をお供としてお二人ほどカゴの中に招き入れた。
まさに不可抗力だ。
僕の意思とは関係なくまるで、磁石のS極とN極のように惹かれあっている。
せっかくのお刺身さんをお酒もなしで食べるなんてことは決してあってはいけない。
全くもって風情がないからだ。
「音のない花火」
こんな言葉がまさにピッタリだ。
「お酒なしのお刺身」と「音のない花火」
ふと、この二つの言葉は、全く同じ意味を表している言葉だと言うことを発見してしまった。
言うなれば、僕は「お酒なしのお刺身」を「音のない花火」と訳したのだ。
さっきまで、散々馬鹿にしていた夏目漱石に少し謝りたくなった。
僕の方が、全然意味のわからない、意味のない訳を楽しんでいる。
ただ、「音のない花火」は今日の中では会心の出来だったので少し嬉しかった。
漱石も「月が綺麗ですね」と訳した時こんな気持ちだったのだろうか。
僕はまだ少し暑い道を、少し早歩きで帰った。
どうやらこの言葉には〝I Love You 〟的な意味が含まれているようだ。
英語教師でもあった有名な夏目漱石が、授業の中でそう訳したらしい。
生徒が〝我君を愛す〟と訳したところ、「日本人はそれほど直接的な愛の表現はしないだろう」ということでそうなったそうだ。
この訳は、もちろん現代でも有名な言葉として残っているが、はっきり言ってあまり腑には落ちていない。
百歩譲って当時の感覚からしたら、的確な訳だったのかもしれないが、それが今ものうのうと名言っぽく残っていることに違和感を覚える。
名言というか迷言だろとか言ってる人もこの世界のどこかに入るはずだ。
〝我君を愛す〟と訳したその生徒の方がよっぽど今にも通じる綺麗な訳ができていると思う。
またこんなくだらないことを考えながら今日も家路に着く。
ちなみに今日レンタルDVD屋にきたお客さんは6人ほどだった。
平日にしては、忙しかった方だ。
何もやることもないので、適当に歩いていると、ビルの間の狭い空の上に浮いている不完全な月が目に飛び込んできた。
普通に「綺麗な月だな」と声が漏れる。
おっと危ない、こんなの誰かに聞かれていたら、告白だと間違われる可能性すらあるのか。
夏目漱石、君は何で理不尽なことをしてくれたんだ。
僕みたいな人間には、どんだ悪魔だ。
まぁ、偶然のせいにしてでも、あの子に想いを伝えることができるのであれば、救世主にさえなってくれるのだが。
綺麗な月がちょうどビルの間に隠れてしまった頃、僕はこれまたいつものスーパーに着いた。
この時間は半額のシールが貼られたお惣菜を買うことができるからだ。
もちろん、当たり外れはあるがそれも楽しい。
半額のシールが貼ってあるだけで普段の3倍は美味しく感じる。
念の為、入り口から順路を通り、しっかりと目を凝らしながらお惣菜コーナーへ向かう。
途中の鮮魚コーナーで足が止まる。
今日は大当たりだ。
何気ない日々の何気ない幸せにして、きっとここ一時間単位で見たら、〝僕が世界で一番の幸せ者なんじゃないか〟と錯覚させてくれるあれが半額で置いてあったからだ。
季節のお刺身5種盛りセットだ。
広告の品五百円からさらに半額の二百五十円。
僕は、誰にもバレないようにこっそりと近づき、さっと買い物カゴの中に招待してあげた。
レジに向かう途中、お刺身さん一人だけのカゴの中はあまりにも可哀想なので、仕方なく発泡酒をお供としてお二人ほどカゴの中に招き入れた。
まさに不可抗力だ。
僕の意思とは関係なくまるで、磁石のS極とN極のように惹かれあっている。
せっかくのお刺身さんをお酒もなしで食べるなんてことは決してあってはいけない。
全くもって風情がないからだ。
「音のない花火」
こんな言葉がまさにピッタリだ。
「お酒なしのお刺身」と「音のない花火」
ふと、この二つの言葉は、全く同じ意味を表している言葉だと言うことを発見してしまった。
言うなれば、僕は「お酒なしのお刺身」を「音のない花火」と訳したのだ。
さっきまで、散々馬鹿にしていた夏目漱石に少し謝りたくなった。
僕の方が、全然意味のわからない、意味のない訳を楽しんでいる。
ただ、「音のない花火」は今日の中では会心の出来だったので少し嬉しかった。
漱石も「月が綺麗ですね」と訳した時こんな気持ちだったのだろうか。
僕はまだ少し暑い道を、少し早歩きで帰った。
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