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一話
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女は振り乱し、髷と後れ毛を気にも留めず、荒い息遣いと共に闇夜を駆ける。
一縷の望みをかけて月明かりすら差し込まぬ参道を疾駆していた。
喉の奥から込み上げる怨嗟の声に纏わりつくような鉄の味。
彼女は一顧だにせず、三途の川で溺れる死者の如く四肢をみっともなくばたつかせている。
『心から慕っていたのに』
陳腐でありきたりな表現では決して表しきれない悔恨と悲しみの中にいた。
そんな切望と絶望も参道の果ての暗がりに浮かぶ灯りを目にした瞬間、霧散する。
『もう少し!』
その時だった。
後ろから複数人の力強い息遣いが聞こえてくる。間違いなくあの人だと直感した。
おそらく早駕籠を使ったのだろう。
女も駕籠を使ってこようとしたのだが、後の支度金の為に途中で徒歩に切り替えたのだ。
「いいいくなあぁぁ、おたまぁ!おえっゔぇっ」
舌を噛みそうなほどに震えるえずき。
怒声にも近い声が鬱蒼と生い茂る山林に木霊する。
上等な上田縞の着物を泥で汚しながらやや内股で手を外に向けながら気持ちの悪い走り方をしていた。
声の主はおたまと呼ばれた女の亭主、越後屋茶吉。
呉服屋を営み、それまで庶民の手が届かなかった着物を画期的なやり方で庶民も楽しめる娯楽へと変え、一代で巨万の富を築いた。
おたまはこの茶吉に男として夫として耐え難い不満があったわけではなかった。
歌舞伎役者も羨む整った顔
大関が構えるような大らかで柔和な物腰
火消し頭も舌を巻く冷静な手腕と知識
およそ夫として持つべきはすべて持ち、男として備えるべき度量を十全備え、その上で民の尊敬を集める大店の主人ときている。
おたまに対しても常に優しく気遣いを忘れない。
そんな茶吉にあって何故おたまは大変な労苦を負ってまで縁切り寺に駆け込むのか。
唯一おたまが我慢ならなかったもの……それは茶吉の笑顔だった。
茶吉の笑顔は一言でいえば邪悪だった。
目は三日月型の白目、目尻には深いシワが刻まれ、裂けんばかりに開く粘ついた口からは涎が垂れる。
笑う度ににちゃりにちゃりと汁気多めの耳障りな音色が奏され、脳天にこびり付いていく。
この世の強欲を寄せ集め、呪詛が形を成した邪鬼のような笑みが張り付いていた。
その笑顔を見る度に妻は恐怖に怯え、産まれた娘が鏡に写したように同じ笑みを見せる度、絶望に苛まれたのだ。
輪をかけておたまを苛んだのは茶吉の優しさだ。
朝に顔を合わせれば具合はどうだいにちゃ、昼には荷物を持とうかしちゃ、夜は夜で今日の飯も格別だうちょ。
優しければ優しいほどその笑顔は目にこびり付き、脳天を虫唾のように這い回る。
気がつけば床に、柱に、土間に、頭を打ち付けて身体の芯に巣食おうとするなにかを振り払おうとしていた。
もはや限界だったのだ。
そして……離縁を切り出した。
しかし妻がいくら懇願しても茶吉は離縁状である三くだり半だけは頑として書こうとはしなかった。
当たり前だ。
茶吉はおたまが大好きなのだから。
話し合いは纏まらず妻はついには縁切り寺に駆け込むことを決めた。
亭主はおそらく金に物をいわせて無理を通し早駕籠を雇ったのだろう。早駕籠は兎にも角にも早いのだが乗り心地は最悪で運賃も庶民が聞けばひっくり返るほど高い。現に茶吉は鉄砲水が吹き出るように吐瀉物を撒き散らしている。
あの笑顔さえなければ……女は苛立ちを隠せなかった。
だがその苛立ちも灯りの元へたどり着けばすべて終わる。
「うぉぉぉ!邪鬼に捕まってたまるかぁ!」
「いくなぁ、おたまぁ!」
参道の先にある寺の門に複数の人影が見える。先に文を打っているので寺の門徒たちが待機してくれていたのだ。
「おたまさん!もう少しだ、急いで!後ろに邪鬼が来てるよ!」
縁切り寺の門に掴まり幾人もの門徒が手を差し出して待っている。
門徒たちは基本的に寺から出て縁切り寺に駆け込む女を保護することが出来ない。だが自らの一部もしくは身に付けたものの一部でも境内に入れば保護できる。
束ねた髪でも草履でも帯でもいい、簪が門に突き刺さっても構わない。
間に合わないと悟ったおたまは簪を引き抜いて門に向かって渾身の力を振り絞って投擲した。
「おるあぁぁぁー!」
しゃらん。
簪の音が静寂を常とする山々に響き渡る。しかしその音は無情にも簪が門に届かず参道に苔むす石畳に落ちたことを意味していた。
門徒たちは天を仰ぎ門前僅か五寸(15cm)で横たわる簪を口惜しそうに眺めるほか手立てはない。
へたりこむおたまの腕を亭主が掴む。
精根尽き果てたおたまはまたあの日々に戻るのかと心を手放したい想いでいっぱいだった。
「おたま、おたま……すまねぇ、本当にすまねぇ。俺が悪かった……」
ふと顔を向けると妻以上に汗と泥に塗れ、涙と涎で顔をしわくちゃにした亭主がいた。
「……なんだい、その顔は」
「お前がそこまで本気だとは思ってなかったんだ……」
「お前さん……」
江戸から縁切り寺まで十三里(50km)、必死に妻を追いかけた亭主の顔がそこにはあった。
こんなに想われているとはおたまも想定していなかったのだ。
ふっと、肩の力が抜けた気がした。
一度は壊れかけた夫婦が縁切り寺までの道を通じて思い返し、絆を取り戻す。
これもまた縁切り寺からの一景であった。
再び抱き合う夫婦の姿を門徒たちは眺めつつ、境内へと引き返した。
だが……
「またやり直そう、おたま」
「そうだね、また一から……」
にちゃり
湿り気のある満面の邪悪な笑顔がおたまに再び襲いかかる。
「うわあぁぁぁぁ!」
宵も明けようかという参道に再び響いたのはなにかを殴ったような鈍く重い音だった。
あと一歩届かなかった女が目指したその場所は鎌倉山東慶寺。
江戸幕府開闢以来、縁切り寺と公儀に認められた寺である。
一縷の望みをかけて月明かりすら差し込まぬ参道を疾駆していた。
喉の奥から込み上げる怨嗟の声に纏わりつくような鉄の味。
彼女は一顧だにせず、三途の川で溺れる死者の如く四肢をみっともなくばたつかせている。
『心から慕っていたのに』
陳腐でありきたりな表現では決して表しきれない悔恨と悲しみの中にいた。
そんな切望と絶望も参道の果ての暗がりに浮かぶ灯りを目にした瞬間、霧散する。
『もう少し!』
その時だった。
後ろから複数人の力強い息遣いが聞こえてくる。間違いなくあの人だと直感した。
おそらく早駕籠を使ったのだろう。
女も駕籠を使ってこようとしたのだが、後の支度金の為に途中で徒歩に切り替えたのだ。
「いいいくなあぁぁ、おたまぁ!おえっゔぇっ」
舌を噛みそうなほどに震えるえずき。
怒声にも近い声が鬱蒼と生い茂る山林に木霊する。
上等な上田縞の着物を泥で汚しながらやや内股で手を外に向けながら気持ちの悪い走り方をしていた。
声の主はおたまと呼ばれた女の亭主、越後屋茶吉。
呉服屋を営み、それまで庶民の手が届かなかった着物を画期的なやり方で庶民も楽しめる娯楽へと変え、一代で巨万の富を築いた。
おたまはこの茶吉に男として夫として耐え難い不満があったわけではなかった。
歌舞伎役者も羨む整った顔
大関が構えるような大らかで柔和な物腰
火消し頭も舌を巻く冷静な手腕と知識
およそ夫として持つべきはすべて持ち、男として備えるべき度量を十全備え、その上で民の尊敬を集める大店の主人ときている。
おたまに対しても常に優しく気遣いを忘れない。
そんな茶吉にあって何故おたまは大変な労苦を負ってまで縁切り寺に駆け込むのか。
唯一おたまが我慢ならなかったもの……それは茶吉の笑顔だった。
茶吉の笑顔は一言でいえば邪悪だった。
目は三日月型の白目、目尻には深いシワが刻まれ、裂けんばかりに開く粘ついた口からは涎が垂れる。
笑う度ににちゃりにちゃりと汁気多めの耳障りな音色が奏され、脳天にこびり付いていく。
この世の強欲を寄せ集め、呪詛が形を成した邪鬼のような笑みが張り付いていた。
その笑顔を見る度に妻は恐怖に怯え、産まれた娘が鏡に写したように同じ笑みを見せる度、絶望に苛まれたのだ。
輪をかけておたまを苛んだのは茶吉の優しさだ。
朝に顔を合わせれば具合はどうだいにちゃ、昼には荷物を持とうかしちゃ、夜は夜で今日の飯も格別だうちょ。
優しければ優しいほどその笑顔は目にこびり付き、脳天を虫唾のように這い回る。
気がつけば床に、柱に、土間に、頭を打ち付けて身体の芯に巣食おうとするなにかを振り払おうとしていた。
もはや限界だったのだ。
そして……離縁を切り出した。
しかし妻がいくら懇願しても茶吉は離縁状である三くだり半だけは頑として書こうとはしなかった。
当たり前だ。
茶吉はおたまが大好きなのだから。
話し合いは纏まらず妻はついには縁切り寺に駆け込むことを決めた。
亭主はおそらく金に物をいわせて無理を通し早駕籠を雇ったのだろう。早駕籠は兎にも角にも早いのだが乗り心地は最悪で運賃も庶民が聞けばひっくり返るほど高い。現に茶吉は鉄砲水が吹き出るように吐瀉物を撒き散らしている。
あの笑顔さえなければ……女は苛立ちを隠せなかった。
だがその苛立ちも灯りの元へたどり着けばすべて終わる。
「うぉぉぉ!邪鬼に捕まってたまるかぁ!」
「いくなぁ、おたまぁ!」
参道の先にある寺の門に複数の人影が見える。先に文を打っているので寺の門徒たちが待機してくれていたのだ。
「おたまさん!もう少しだ、急いで!後ろに邪鬼が来てるよ!」
縁切り寺の門に掴まり幾人もの門徒が手を差し出して待っている。
門徒たちは基本的に寺から出て縁切り寺に駆け込む女を保護することが出来ない。だが自らの一部もしくは身に付けたものの一部でも境内に入れば保護できる。
束ねた髪でも草履でも帯でもいい、簪が門に突き刺さっても構わない。
間に合わないと悟ったおたまは簪を引き抜いて門に向かって渾身の力を振り絞って投擲した。
「おるあぁぁぁー!」
しゃらん。
簪の音が静寂を常とする山々に響き渡る。しかしその音は無情にも簪が門に届かず参道に苔むす石畳に落ちたことを意味していた。
門徒たちは天を仰ぎ門前僅か五寸(15cm)で横たわる簪を口惜しそうに眺めるほか手立てはない。
へたりこむおたまの腕を亭主が掴む。
精根尽き果てたおたまはまたあの日々に戻るのかと心を手放したい想いでいっぱいだった。
「おたま、おたま……すまねぇ、本当にすまねぇ。俺が悪かった……」
ふと顔を向けると妻以上に汗と泥に塗れ、涙と涎で顔をしわくちゃにした亭主がいた。
「……なんだい、その顔は」
「お前がそこまで本気だとは思ってなかったんだ……」
「お前さん……」
江戸から縁切り寺まで十三里(50km)、必死に妻を追いかけた亭主の顔がそこにはあった。
こんなに想われているとはおたまも想定していなかったのだ。
ふっと、肩の力が抜けた気がした。
一度は壊れかけた夫婦が縁切り寺までの道を通じて思い返し、絆を取り戻す。
これもまた縁切り寺からの一景であった。
再び抱き合う夫婦の姿を門徒たちは眺めつつ、境内へと引き返した。
だが……
「またやり直そう、おたま」
「そうだね、また一から……」
にちゃり
湿り気のある満面の邪悪な笑顔がおたまに再び襲いかかる。
「うわあぁぁぁぁ!」
宵も明けようかという参道に再び響いたのはなにかを殴ったような鈍く重い音だった。
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