知ったかぶりのヤマネコと森の落としもの

あしたてレナ

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『うわばみの細道』

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『ニシダカやま』へ向かう知ったかぶりのヤマネコ、こわがりのネズミ、食いしんぼうのイノシシ。
 三びきは雨がやみ、ふたたび太陽が顔を出すとあらためて目的地もくてきちをかくにんしました。
「やあ、わたしたちは西に向かっていたけれど、南のほうへきてしまったようだね」
「でも『ニシダカやま』が見えるなら安心だよ」
「北西に進める道はあるかなぁ」

 話し合いながら三びきは進みます。ときどき、食べもののにおいをかぎつけて走り出そうとするイノシシを落ち着かせたり、かん高い鳥の鳴き声や木のざわめきにこわがるネズミを勇気ゆうきづけたり、うそか本当かわからない話をするヤマネコにあきれながらもあいづちを打ったりしながら、三びきは歩きました。

「ねぇ、今どのへんを歩いているんだろう?」
 ネズミがぎもんを口にします。「えぇと……」とヤマネコが少し考えたあと、答えました。
「『ウワバミの細道ほそみち』じゃないかな」
「えぇっ!? ヘビがうじゃうじゃいるってうわさの!? も、も、も、もどろうよ! ぼく、いやだ!」

 ネズミがあんまりあわてているので、ヤマネコとイノシシはわらいました。
「だいじょうぶだよ、道がくねくねしているからそんな名前がつけられただけさ」
「そんなにこわいなら、またおいらの頭の上に乗ったらいいよ」
 イノシシが言うが早いか、ネズミはイノシシの頭の上にぴょんとび乗ります。
「ど、どうしてもこの道を通るの……?」
「『ニシダカやま』へ行くにはここを通るのが一番だよ」
「ほかの道だとずいぶん遠回りだもの」

 ヤマネコとイノシシがだいじょうぶだと言うので、ネズミはしぶしぶ、このまま『ウワバミの細道ほそみち』を進むことを聞き入れました。

 道はくねくねくねくねと、まるでヘビの体のように曲がっています。
『ウワバミの細道ほそみち』の真ん中あたりまできたときのことです。イノシシがなにかを見つけました。
「プゴッこれはなんだろう?」
 上手に鼻に引っかけると、それを二ひきに見せました。
 とてもうすく、長く、はばがあり、あみ目のようなもようがついています。
「ふむ、これは……」とヤマネコが顔を近づけてじっと見ていると、イノシシの頭の上で悲鳴がしました。

「どうしたんだい、ネズミくん」
「こ、これっ、これは……これはヘビのぬけがらだよ! やっぱりここは、ヘ、ヘビがいるんだぁ!」
「落ち着いて、ネズミくん。もうすぐ冬だよ。ここらにヘビが住んでいたって、もう冬眠とうみんしているさ」
「で、でもぉ……」
「ネズミくん、そんなに大きな声を出していたらヘビも起きちゃうよ」
 イノシシがネズミをからかうようにわらいますが、ネズミはき出しそうな顔になり、イノシシの毛にかくれるようにじっと動かなくなりました。

 そんなネズミにはかまわず、ヤマネコとイノシシは話しつづけます。
「これはずいぶん大きなぬけがらだね。五センチメートルといったところかな」
「五メートルでしょ……」
 イノシシの頭の毛の中から、ネズミのくぐもった声がします。そして「ご、五メートル!? ヘビってだっぴをしながら大きくなっていくんでしょ!? じゃあ、じゃあ今はもっと……」と自分が言ったことにおそろしくなってしまいました。
「イノシシくん、ヘビのぬけがらを持っているとさがしもの運が上がるらしいよ」
「本当!? じゃあおいしい食べものがたくさん見つかるようになるかなぁ」
「きっとなるよ。そうだ、ぬけがらを短く切ってしっぽにむすんであげるよ」
「うん!」
 イノシシはうれしそうに、ヤマネコのほうにおしりを向けました。ヤマネコはじまんのツメでぬけがらを切ると、イノシシのしっぽにりぼんのようにむすびつけました。
 二ひきのやりとりはネズミにも聞こえていましたが、ヤマネコのまちがいを直す元気はありませんでした。

 知ったかぶりのヤマネコ、イノシシの毛にかくれたネズミ、しっぽにヘビのぬけがらをむすんだイノシシはふたたび『ウワバミの細道ほそみち』を進みます。

 あたりが暗くなってきたころ、ヤマネコが言いました。
「今日はこのあたりで休むとしよう」
「えぇっ!? こんな所で!? まだ『ウワバミの細道ほそみち』をぬけていないでしょう!?」
「それはそうだが、このあたりならもし雨がふってもしのげるだろう?」
 たしかにヤマネコの言うとおり、あたりは大きな岩がごろごろ転がっていて、雨から身を守れるようなほらあなもありました。
 冬が近づいている森にふる雨は体がこごえそうなほどつめたいのです。雨に当たるのはネズミもいやでした。

 三びきは広々としたほらあなを見つけ、そこで夜をこすことにしました。
 中は暗いので、ヤマネコが先頭に立って歩きます。
「ね、ねぇ……まだ、おくに行くの? そんなに進んだら月明かりが入らなくて真っ暗だよ」
「おくのほうがあたたかいじゃないか。なあに、ねむるだけだし、朝になれば、おくだって少しは明るくなるよ」
「おいら、おなかが空いちゃったなぁ。虫でもいないかなぁ」

 三びきの声はほらあなの中でよくひびきます。
「ヤマネコくん! もういいよぅ! このへんでねむろうよぅ!」
「ブヒヒッ! ネズミくんは本当にこわがりだなぁ」
「ハハハッ! そうだね、どうやらもう一番おくまできたようだよ。ここらでねむろうか」
 三びきがになってさわがしく話していると、ヤマネコの後ろでなにかがもぞりと動きました。
 しかし、三びきはまったく気づいていません。

「シャアーーーーーーーーーーーーーーー!」

 いかくするような声がほらあなにひびきます。三びきは体をびくっとふるわせ、声のしたほうを見ました。

 そこには、冬眠とうみんから起こされてとてもきげんの悪そうな、大きな大きなヘビがとぐろをまいていたのでした。

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