伝えし言葉

pulun

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消失

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 しばらく経ってお腹も満たされ気持ちはかなり落ち着いてきた

うとうとと一眠りしたのも良かった

疲れはピークでいつ寝落ちたのかも覚えていない。夢も見ず深い眠りへといざなってくれたジャズは今もゆったり流れている

もう一度骨董屋へ行って、みらいに話を聞こう。まずはそこからだ

勢いでここまで来たが、ここからは少し慎重に行こう。あいつへの怒りよりも、みらいは誰なのだという好奇心が勝ってしまっている

不謹慎な僕の好奇心が足早に骨董屋へ向かわせる。大切な人を失ってしまった痛みはこれほど早く忘れてしまうものなのだろうか。嫌なことから逃げるように消えていく喪失感。目の前のことだけ考えていたいのだ。

 またすぐ店に顔を出すのはおかしな客だと思われるかもしれない。扉の前まできて我に帰った

いや、一度出てまた店を訪れる、そんな客ごまんといるだろう。自分に言い訳して店の中へ入った

さっきまであんなに重かった扉が今度は軽くさえ感じるのだから、人の感覚なんて気分次第、全てが自分の世界だけに作られた記憶でしかないのかもしれない

鈴の音は同じだが少しも緊張なんかしない

僕はみらいを探した。店には相変わらず客は数人しかいない

みらいだ

店の奥で商品を動かしている。やはり店員のようだ。近づいて声をかける

「みらいさん」

みらいは振り返る。ニコッと笑ってくれた

「お母さん。また来てくれたね」

みらいはまた僕には見えないお母さんに話しかけている。キョロキョロと一応あたりを見回してみるが、誰もいるわけはない。僕はその事は既に受け入れているので怖さも何も感じない

「みらいさんに聞きたいことがあって」

単刀直入に聞くのが1番だ、それが僕の出した結論だった

「はい。商品のことですか?私でわかることならお答えできます」

先ほどよりしっかりとした受け応えだ。やはり先ほどは突然知らない男に話しかけられて、みらいも驚いていたのだろう

「僕は樫夜木さんという男の人に会いに来ました。みらいさんが知っていたらどこにいるのか教えて欲しいのですが、、」

君は誰なの?という今1番聞きたい質問は言えなかった

みらいは他の客に気を使っているのか、一瞬後ろのほうをを見渡してから、僕の方を見てこう答えた。

「今日はー、」

今日は、、と言うことはやはりこちらで今も働いているのかもしれない

「どこに行けば会えますか?」

みらいは少し考えているようだ。突然来た見知らぬ男に父親の居場所なんて言わないだろう。僕はみらいはあいつの娘だと決めつけている

「少しここでお待ちください」

みらいは店のバックヤードに向かって歩いていく。万が一、あいつが一緒に出てきたらどうしよう、今日この店にあいつはいないと決めつけていた僕は、その可能性がいきなり頭を占領し激しい動悸がとまらない







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