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帰郷編
70話 兄推しフィロソフィ
そんなやりとりをしていると、スールが小動物のように足元へ擦り寄ってきた。
「スーは?」
「あ、えーっと……うん! スーちゃんも可愛いよぉ~! 凄く大人っぽくなってるし、見違えた!」
エマリーの言葉に引っ掛かりながらもそう答えると、スールはジーっとユーリを見つめてから、
「……お兄ちゃんの彼女になれる?」
「か、か、か、か、可愛いこと言ってくれるなぁ~! いやもう、なれる、とかじゃなくて、彼女です! 君たち全員お兄ちゃんの彼女です!」
抱き上げると、スールは満足げに髪を擦りつけてきた。
「じゃあちゅーして」
「いいよ。ちゅー」
「ねーエマエマも!」
「ちゅー!」
そんな激ヤバな光景が展開されているなか、ふと視界の端で所在なさそうに立っているシェスカが目に入った。ユーリは微笑んで声をかける。
「シェスカちゃんも可愛いよ。もともと大人っぽいから、黒がよく似合うね」
「……あ、ありがとうございます」
わずかに頬を染めたシェスカ。その反応に、ユーリはそっと二人を床に降ろし、玄関先に待たせておいた馬車のドアを開けた。
「じゃあ行こうか。お着替えとタオルは持ったんだよね?」
「持ったー! エマお兄ちゃんの隣乗る!」
「スーが乗る」
「エマが最初に言ったからエマ!」
「スーが乗る」
「じゃあ最初はエマちゃんで、途中コンビニ寄るから、そこでスーちゃんに交代しよう」
そこでユーリはもう一度シェスカに視線を移す。彼女は会話に入りたそうにもじもじしていた。
「帰りはシェスカちゃん。そんでまたどっか寄って、最後はじゃんけんで誰が乗るか決める。それでいいね?」
「……はい。あ、ありがとうございます」
小さく笑ったその表情に、ユーリは満足げに頷いた。
■■■
車内でも会話の主導権はエマリーとスールだったが、ユーリが自然と話題を振ることで、シェスカも少しずつその輪に入っていく。まるで四人で小旅行にでも来たような、柔らかく甘い空気が車内を満たしていった。
ユーリの人たらしは生まれつきのものだが、ただの天性だけでここまできたわけではない。距離の詰め方が驚くほど絶妙なのだ。
“兄に甘えたい。でも恥ずかしい。どう接すればいいか分からない”
そんな彼女の思春期特有の戸惑いを察し、急がず、離れすぎもせず、そっと横に並ぶように距離を取る。
そのおかげで目的地に着く頃には、シェスカの表情も柔らかくなり、笑顔が何度も見られた。
「受付2階だっけ? 僕久々であんまり覚えてないから、案内してよ、シェスカちゃん」
そろそろいいだろう、と判断して肩を軽くポンと叩いた――が。
「……ふぎッ」
驚いたように跳ねると、シェスカは逃げるように入り口へ向かった。
「そ、そうです。でもその前にお手洗い行きたいので、そ、先に行って待っててください!」
それだけ言い残し、足早にトイレの方へ駆けていく。
(ボディタッチはまだ早かったか。僕もまだまだだなぁ)
少し反省しつつ、ユーリはエマリーとスールを連れてドアの奥へ入っていった。
■■■
(ヤバっ…ちょっと触られただけで、こんなに…)
トイレの個室にて。
どことは言わないが、そこがそうなってはいけないことになってるのを確認し、シェスカは荒い息──もとい、ため息を吐いた。
(ダメ……ダメだよ。兄さんがせっかく、私も話しやすい雰囲気にしてくれてるのに、こんなことになっちゃ…)
賢しらなシェスカはそれを感じ取っていた。が、その気遣いに応えるどころか、ゴリッゴリに性的な目で見てしまっていることに罪悪感を覚える。
反面で、こんな気持ちになってしまうのも仕方ない、と思う自分もいた。
ユーリと最後に会ったのは数年前。その間、毎日彼のことを思い焦がれていた。写真もたくさん集めたし、SNSで近況をチェックして思いを馳せていた。時々センテンススプリング砲をブチ食らっているのを見て、臍を噛む思いもしたものだ。
そんな憧れの相手に、ほとんど推しのアイドルのように思っている彼に、やっとのことで出会えたのだ。
感動や嬉しさ──そして、興奮や性欲などの感情がごちゃ混ぜになるのも、ある程度は仕方がないことだと思う。
……しかし、
(た、確かに私は、兄さんの事が男の子として好き……でももちろん、兄さんとしても好き…今日はそっちの気持ちにスイッチを入れるの……!)
当たり前だが、ユーリもそのつもりでシェスカに接している。そちらの関係性にチューニングを合わせれば、きっと今よりも自然体で接することができるはずだ。
(そうすれば、もっといっぱい自然にボディタッチして貰え……じゃなくて、写真もいっぱい撮らせてもらえ…でもなくて! とにかく、変なこと考えちゃダメ。ダメなんだから…!)
雑念その他諸々を拭き取ると、シェスカはトイレから出ていった。
「スーは?」
「あ、えーっと……うん! スーちゃんも可愛いよぉ~! 凄く大人っぽくなってるし、見違えた!」
エマリーの言葉に引っ掛かりながらもそう答えると、スールはジーっとユーリを見つめてから、
「……お兄ちゃんの彼女になれる?」
「か、か、か、か、可愛いこと言ってくれるなぁ~! いやもう、なれる、とかじゃなくて、彼女です! 君たち全員お兄ちゃんの彼女です!」
抱き上げると、スールは満足げに髪を擦りつけてきた。
「じゃあちゅーして」
「いいよ。ちゅー」
「ねーエマエマも!」
「ちゅー!」
そんな激ヤバな光景が展開されているなか、ふと視界の端で所在なさそうに立っているシェスカが目に入った。ユーリは微笑んで声をかける。
「シェスカちゃんも可愛いよ。もともと大人っぽいから、黒がよく似合うね」
「……あ、ありがとうございます」
わずかに頬を染めたシェスカ。その反応に、ユーリはそっと二人を床に降ろし、玄関先に待たせておいた馬車のドアを開けた。
「じゃあ行こうか。お着替えとタオルは持ったんだよね?」
「持ったー! エマお兄ちゃんの隣乗る!」
「スーが乗る」
「エマが最初に言ったからエマ!」
「スーが乗る」
「じゃあ最初はエマちゃんで、途中コンビニ寄るから、そこでスーちゃんに交代しよう」
そこでユーリはもう一度シェスカに視線を移す。彼女は会話に入りたそうにもじもじしていた。
「帰りはシェスカちゃん。そんでまたどっか寄って、最後はじゃんけんで誰が乗るか決める。それでいいね?」
「……はい。あ、ありがとうございます」
小さく笑ったその表情に、ユーリは満足げに頷いた。
■■■
車内でも会話の主導権はエマリーとスールだったが、ユーリが自然と話題を振ることで、シェスカも少しずつその輪に入っていく。まるで四人で小旅行にでも来たような、柔らかく甘い空気が車内を満たしていった。
ユーリの人たらしは生まれつきのものだが、ただの天性だけでここまできたわけではない。距離の詰め方が驚くほど絶妙なのだ。
“兄に甘えたい。でも恥ずかしい。どう接すればいいか分からない”
そんな彼女の思春期特有の戸惑いを察し、急がず、離れすぎもせず、そっと横に並ぶように距離を取る。
そのおかげで目的地に着く頃には、シェスカの表情も柔らかくなり、笑顔が何度も見られた。
「受付2階だっけ? 僕久々であんまり覚えてないから、案内してよ、シェスカちゃん」
そろそろいいだろう、と判断して肩を軽くポンと叩いた――が。
「……ふぎッ」
驚いたように跳ねると、シェスカは逃げるように入り口へ向かった。
「そ、そうです。でもその前にお手洗い行きたいので、そ、先に行って待っててください!」
それだけ言い残し、足早にトイレの方へ駆けていく。
(ボディタッチはまだ早かったか。僕もまだまだだなぁ)
少し反省しつつ、ユーリはエマリーとスールを連れてドアの奥へ入っていった。
■■■
(ヤバっ…ちょっと触られただけで、こんなに…)
トイレの個室にて。
どことは言わないが、そこがそうなってはいけないことになってるのを確認し、シェスカは荒い息──もとい、ため息を吐いた。
(ダメ……ダメだよ。兄さんがせっかく、私も話しやすい雰囲気にしてくれてるのに、こんなことになっちゃ…)
賢しらなシェスカはそれを感じ取っていた。が、その気遣いに応えるどころか、ゴリッゴリに性的な目で見てしまっていることに罪悪感を覚える。
反面で、こんな気持ちになってしまうのも仕方ない、と思う自分もいた。
ユーリと最後に会ったのは数年前。その間、毎日彼のことを思い焦がれていた。写真もたくさん集めたし、SNSで近況をチェックして思いを馳せていた。時々センテンススプリング砲をブチ食らっているのを見て、臍を噛む思いもしたものだ。
そんな憧れの相手に、ほとんど推しのアイドルのように思っている彼に、やっとのことで出会えたのだ。
感動や嬉しさ──そして、興奮や性欲などの感情がごちゃ混ぜになるのも、ある程度は仕方がないことだと思う。
……しかし、
(た、確かに私は、兄さんの事が男の子として好き……でももちろん、兄さんとしても好き…今日はそっちの気持ちにスイッチを入れるの……!)
当たり前だが、ユーリもそのつもりでシェスカに接している。そちらの関係性にチューニングを合わせれば、きっと今よりも自然体で接することができるはずだ。
(そうすれば、もっといっぱい自然にボディタッチして貰え……じゃなくて、写真もいっぱい撮らせてもらえ…でもなくて! とにかく、変なこと考えちゃダメ。ダメなんだから…!)
雑念その他諸々を拭き取ると、シェスカはトイレから出ていった。
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