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勇者辞めます編
2話 真面目で一途でクソヤリチン イラストあり
勇者ユーリが引退宣言をした、その日の夜。
ユーリはパーティメンバーのひとりであるセイラの家へと赴いていた。
ユーリの自宅は現在、改装工事中であるため、ここ最近は彼女の家に寝泊まりしているのだ。
勇者引退を宣言したその日である。
当然、家の中は重々しい空気が漂って……。
「ユーくんユーくんユーくぅぅぅん♡ 今日一日会えなくて、セイラ寂しかったよぉ~♡」
「セイラちゃんセイラちゃんセイラちゃぁ~ん! 僕も寂しかったよぉ~! 三十秒に一回、セイラちゃんのお写真見てたよぉ~!」
「むふふ~♡ ユーくんはセイラのこと大好きだねぇ~♡」
「当たり前だよぉ~。基本的には毎秒セイラちゃん見てないと、死んじゃうんだよ僕?」
「ええぇぇっ! ユーくん、死んじゃやぁだぁ~! セイラも死んじゃうぅ~!」
「ええぇぇっ! セイラちゃん死んじゃやだぁ~!」
……重々しい空気が、漂ってはいなかった。
ベッドの上でくっつきながら、めちゃくちゃイチャイチャしていた。
ベッドルームに漂っていたのは、ゴリゴリのエッチな匂いだけだった。
ふたりはその後も、バカップル全開でイチャつきつき──そしてやることもしっかりやりつつ、ベッドの中で身を寄せ合う。
そのまましっぽりとした時間が流れ、セイラは不意にユーリへと語り掛けた。
「……ねえ、ユーくん」
ユーリの胸板に顔を埋めると、彼はセイラの青い髪にほっぺたをくっつけながら、
「なぁに、セイラちゃん?」
「私さ、ユーくんのこと好きだよ」
「僕もセイラちゃんのこと大好きだよ」
そこでキスを挟んでから、再びセイラは口を開く。
「私たち、産まれたときからずっと一緒だったよね。
故郷の村にいたときも、ユーくんが神託を受けて勇者になったときも、勇者パーティとクランを立ち上げたときも、ずっと、さ……」
そう。
ユーリとセイラは幼馴染だ。
故郷の村で同じ年に生まれ、同じものを食べ、同じ時間を過ごして育った。
ユーリはかなり早い段階から勇者として見出されたが、セイラにも聖女としての才能があったため、ユーリのサポート役として傍にいることが許されたのだ。
故に、産まれたときから、ふたりはずっと一緒だった。
ユーリはセイラの頭を撫でながら、温かな笑みを広げる。
「うん。いまの僕があるのはセイラちゃんのおかげだよ。ありがとう」
「あ、そういう恩着せがましいこと言うつもりはないんだけど……」
セイラはやや不安げに言った。
「……これからも。
ユーくんが勇者を辞めた後も、ずっと一緒……だよね?」
「当たり前だよ」
セイラの不安を打ち消すように、ユーリは間髪入れずにそう答え、そして彼女の身体を力強く抱きしめた。
「いままで散々助けてもらったのに、勇者を辞めたらどっかに放り出すなんて、そんな無責任なことするもんか。
勇者辞めようが人間辞めようが、僕とセイラちゃんは、死ぬまでずっと一緒だよ」
「……ありがとう。嬉しい」
ユーリの逞しい手に包み込まれながら、セイラはベッドサイドに置かれた小物に視線を馳せる。
ビスクドールやガラス細工、ケリオールでは採取されない水晶など、そこには様々な土産品が陳列されていた。
ユーリは遠方に行くときに、必ずセイラにお土産を買ってきてくれる。
ときには名産品なども買ってきて一緒に食べ、そこで出会った吟遊詩人の話なども面白おかしく聞かせてくれる。
──ユーリは優しいのだ。
「でも、さ」
思い出の品々に視線を馳せながら、セイラはやや声を固くして訊ねた。
「それでもやっぱり……私と、付き合ってはくれないん、だよね?」
「…………」
そう。
ふたりは交際関係ではない。
幼馴染であり、勇者と聖女の関係であり、ビジネスパートナーであり、肉体関係まであるのに、交際はしていないのだ。
極めて歪な関係性である。
しかし、もちろん。
それには深い──深い理由があるのだ。
「……そう、だね。うん……セイラちゃんと付き合うことは、できない……」
シュボ、と、ブックマッチでタバコに火をつけ、その煙を肺に送り込むユーリ。
ふたりが付き合えないのは、ひどく複雑で大変な理由があるからだ。
タバコでは吸わなければ、そんな話はしていられない。
紫煙が漂うシリアスな雰囲気の中、ユーリは重々しく口を割った。
「──だって僕、女の子大好きだから、めちゃくちゃ浮気しまくっちゃうもん!!」
「死ねええええええぇぇぇぇぇェェェェェェッ!!!!!!」
ガヅッ! と、水晶でユーリの頭をぶん殴ってから、セイラはショートの青髪を掻きむしった。
「ねぇーもうホンット最悪! なんでこんなヤツ好きになっちゃったんだろう!?」
「イケメンでスタイル良くて金持ちだからじゃないかな!?」
「自分で言うな!! まあでもそれはあるけど!」
「あとあれ、ビジネスと体の相性が最高だったから!」
「もう喋らないで!! それもあるけど!」
ユーリとセイラが初めて関係を結んだのは、かなり昔のことだ。
お互いに初めてだった。
当然、セイラはユーリと付き合うつもりでいたが、『いやぁ、そういうのはアレ……もっと大人になってから、とかじゃない?』と、のらりくらりとはぐらかされた。
そうこうしているうちに、ユーリは他の女の子とも関係を持つようになった。セイラは何度も注意したが、ユーリの女癖の悪さは収まらず。
それでも定期的に逢瀬を重ねるようになっていたので、そのままズルズルと関係が続き、なんとなく愛人的な距離感が定着してしまったのだ。
セイラはベッドの上に割座すると、両手で顔を覆っておいおいと泣き始めた。
「ひどいよぉ! 私、ユーくんのために色々頑張ってきたのに! 一生懸命ついてきたのに! あんまりだよぉ! 責任取ってよぉ!!」
「ご、ごめんごめんごめん! そ、そうだよね! いつまでもこんな関係、嫌だよね!」
と、タバコを押し消してからセイラの目の前に座り、その肩に手を置こうとするが、
「うぇーん! もうユーくんなんか知らない! 責任取ってくれないなら、死んでやるぅ!」
「…………」
なんとなく、その泣き声に違和感を覚えた。
「…………」
ユーリはセイラの両手をガッと掴み、グググ、と下げて顔から降ろしてみると、
「…………」
彼女は涙など流していなかった。
めちゃくちゃ真顔だった。
「…………」
「…………」
セイラはセイラで、まあまああざとい系女子なのだった。
ユーリは苦笑しながらセイラの頭を撫でると、
「あざと可愛い」
「そういうの嫌い?」
「ううん。好き」
そう言ってセイラにキスをすると、そのまま彼女の身体を押し倒した。
「あぁん♡ ちょっとぉ、エッチなことしてはぐらかさないでぉ♡」
「えぇ~、じゃあもうしない?」
「やぁだ~♡ いっぱいするぅ~♡」
そうして、なし崩し的に二回戦が始まるのだった。
大体いつもこんな感じの流れになり、セフレ的な関係が続いている。
勇者と聖女、などという大層な肩書きがついてはいるが、その実態は、ただのヤリチンとチョロい女なのだ。
とはいえ、ユーリがセイラとの交際を断る理由は、他にもあった。
それは……。
「あん♡ あ、ちょっと……♡」
「ああ、セイラちゃん!」
なし崩しで始まったそれは、二回戦では終わらない。
三回戦でも終わらない。
四回戦、五回戦、六回戦でも終わらない。
そうして、七回戦目を迎えようとしたとき、
「ご、ごめっ……もう、無、理……ッ」
──セイラは、バッタリとベッドに倒れ込んだ。
「……うわ! ああ、あ! ごめん! ごめんねセイラちゃん! つい夢中になっちゃって!」
ユーリはセイラの身体を仰向けにして寝かせ、ベッドサイドにあった水をゆっくりと唇にあてがう。
コクコクと細い喉を鳴らして水を飲むと、セイラは何度か深く呼吸をして、力なく笑った。
「う、うん。大丈夫。いつもごめんね? 最後までできなくて……」
「いや、僕の方こそ、ごめん。こんな化け物性欲で……」
そう答えてから、ユーリも悲しげな笑顔を浮かべる。
「……僕の女癖の悪さが直ったとしても、やっぱり僕、セイラちゃんとは付き合えないよ。
っていうか、他の誰とも付き合えない……。
……僕が本気出したら、女の子を壊しちゃうもん」
「……ユーくん」
物心ついた頃から、ユーリの性欲は凄まじかった。
絶倫といえば聞こえは良いが、本当に満足をしたことはなく、1人の女性に受け止められる性欲ではないことも自覚していた。
ユーリはセイラのことが本当に好きだった。
しかし、自分の性欲を全開にしてしまったら彼女を壊してしまう。
好きだからこそ付き合えないというジレンマを抱えていた。
そんなユーリの心中を察するように、セイラは彼の手をギュッと握り、
「で、でもいつか、それを受け止められるように、頑張るから……」
「……無理だよ。セイラちゃんが色んなトレーニングして頑張ってくれてること、僕知ってるもん。
これ以上はもう負担かけられない……」
ユーリはセイラの手を握り返し──そして、その手を離してポツリと呟く。
「誰かひとりの人と付き合ったら、きっと僕はいつか、その人をセックスで殺してしまう……!」
傍目から見れば、ここは笑うところなのか、悲しむところなのか、エロい気分になるところなのか、いやエロい気分にはならないだろうが、ともかく、感情が迷子になることだろう。
しかし、少なくともユーリは真剣だった。
ユーリはセイラを抱き寄せて、涙声で告げる。
「……セイラちゃん、大好きだよ。
でも、だから、浮気してセイラちゃんを悲しませたくない。
エッチし過ぎて壊したくもない。
だから……君とは付き合えない」
ベッドの下に降りて、ユーリは正座して床に頭を擦り付けた。
いわゆる土下座の姿勢で、もう一度きちんと謝罪を口にする。
「無責任なことして、本当にごめんなさい」
「そ、そんな! やめて、やめてよ!」
セイラは慌ててベッドから降りると、グイグイと身体を引っ張ってユーリの姿勢を正す。
そうして彼女も正座すると、正面からしっかりとユーリを見据えた。
「私の方こそ、ごめん。そういうことは全部分かってるつもりだし、納得もしてた……。
でも、勇者を辞めるっていうなら、ワンチャンあると思って、言ってみただけなんだ。
だからもう、気にしないで」
「セイラちゃん……」
「それに、ユーくんは無責任なんかじゃないよ。もう私に、いっぱいよくしてくれてるじゃない」
そう。
セイラが共に上京してきた時点で、ユーリははセイラに対して、金銭的な面倒を見ることに決めていた。
例えクランを辞めても、他の誰かと結婚しても、一生涯一定額を援助する契約を結んでいる。
セイラは何度も断ったが、ユーリは頑として譲らなかった。
結婚することはできないから、それに近しいような保証をしたい、という、彼の意思の表れだったのかもしれない。
金銭的にも精神的にも、ユーリはセイラに対して十分な誠意を見せている。それはセイラも充分承知の上だった。
しかしやはり、彼氏彼女という一般的な関係になりたくて、思わず口に出してしまったのだった。
「だから気にしないで、ユーくん……このままの関係でも、私は満足だよ」
「……うん。ごめんね」
「謝らないでってば」
「うん……じゃあまたこうやって、時々とエッチしてくれる?」
「え~! 時々じゃ、やぁだぁ♡ もっといっぱいしたい~♡」
「ぼぉ~くぅ~もぉ~! え、じゃあ毎週?」
「ん~ん~。毎日ぃ~♡」
「やった~! じゃあいっぱいする!」
「私もしたい~~~~っ♡」
傍目からは激イタカップルにしか見えないふたりにも、色々あるのだった。
「……さて、じゃあ明日も早いし、お風呂だけ入って寝ますか」
一通りイチャイチャし終えると、セイラはタオルを巻いて立ち上がった。
そうしてその目に、僅かに悲しげな光を灯し、
「明日から本格的に、始めないと、だね……」
「……うん」
ユーリも同様に伏し目がちとなり、老人のように疲れた声音で応じる。
「そうだね……終わるための、準備を始めよう」
「……ユーくん」
心配そうにそう告げるセイラに、ユーリは微苦笑をしながら立ち上がると、彼女の細い身体を力いっぱい抱きしめた。
「大丈夫だよ。僕は大丈夫。心配してくれてありがとうね」
……それよりいまは、みんなのこと──クランのことを考えよう」
「……うん」
そんなやりとりをしつつ、ふたりは浴室に向かうのだった。
「はぁ~い♡ じゃあセイラはぁ、ユーくんの背中洗う係さんで~す♡」
「じゃあ僕は、セイラちゃんのおっぱい洗う係さんです!」
「いやぁん♡ も~、ユーくんのえっち~♡」
で、もう一回おっぱじまった。
ユーリはパーティメンバーのひとりであるセイラの家へと赴いていた。
ユーリの自宅は現在、改装工事中であるため、ここ最近は彼女の家に寝泊まりしているのだ。
勇者引退を宣言したその日である。
当然、家の中は重々しい空気が漂って……。
「ユーくんユーくんユーくぅぅぅん♡ 今日一日会えなくて、セイラ寂しかったよぉ~♡」
「セイラちゃんセイラちゃんセイラちゃぁ~ん! 僕も寂しかったよぉ~! 三十秒に一回、セイラちゃんのお写真見てたよぉ~!」
「むふふ~♡ ユーくんはセイラのこと大好きだねぇ~♡」
「当たり前だよぉ~。基本的には毎秒セイラちゃん見てないと、死んじゃうんだよ僕?」
「ええぇぇっ! ユーくん、死んじゃやぁだぁ~! セイラも死んじゃうぅ~!」
「ええぇぇっ! セイラちゃん死んじゃやだぁ~!」
……重々しい空気が、漂ってはいなかった。
ベッドの上でくっつきながら、めちゃくちゃイチャイチャしていた。
ベッドルームに漂っていたのは、ゴリゴリのエッチな匂いだけだった。
ふたりはその後も、バカップル全開でイチャつきつき──そしてやることもしっかりやりつつ、ベッドの中で身を寄せ合う。
そのまましっぽりとした時間が流れ、セイラは不意にユーリへと語り掛けた。
「……ねえ、ユーくん」
ユーリの胸板に顔を埋めると、彼はセイラの青い髪にほっぺたをくっつけながら、
「なぁに、セイラちゃん?」
「私さ、ユーくんのこと好きだよ」
「僕もセイラちゃんのこと大好きだよ」
そこでキスを挟んでから、再びセイラは口を開く。
「私たち、産まれたときからずっと一緒だったよね。
故郷の村にいたときも、ユーくんが神託を受けて勇者になったときも、勇者パーティとクランを立ち上げたときも、ずっと、さ……」
そう。
ユーリとセイラは幼馴染だ。
故郷の村で同じ年に生まれ、同じものを食べ、同じ時間を過ごして育った。
ユーリはかなり早い段階から勇者として見出されたが、セイラにも聖女としての才能があったため、ユーリのサポート役として傍にいることが許されたのだ。
故に、産まれたときから、ふたりはずっと一緒だった。
ユーリはセイラの頭を撫でながら、温かな笑みを広げる。
「うん。いまの僕があるのはセイラちゃんのおかげだよ。ありがとう」
「あ、そういう恩着せがましいこと言うつもりはないんだけど……」
セイラはやや不安げに言った。
「……これからも。
ユーくんが勇者を辞めた後も、ずっと一緒……だよね?」
「当たり前だよ」
セイラの不安を打ち消すように、ユーリは間髪入れずにそう答え、そして彼女の身体を力強く抱きしめた。
「いままで散々助けてもらったのに、勇者を辞めたらどっかに放り出すなんて、そんな無責任なことするもんか。
勇者辞めようが人間辞めようが、僕とセイラちゃんは、死ぬまでずっと一緒だよ」
「……ありがとう。嬉しい」
ユーリの逞しい手に包み込まれながら、セイラはベッドサイドに置かれた小物に視線を馳せる。
ビスクドールやガラス細工、ケリオールでは採取されない水晶など、そこには様々な土産品が陳列されていた。
ユーリは遠方に行くときに、必ずセイラにお土産を買ってきてくれる。
ときには名産品なども買ってきて一緒に食べ、そこで出会った吟遊詩人の話なども面白おかしく聞かせてくれる。
──ユーリは優しいのだ。
「でも、さ」
思い出の品々に視線を馳せながら、セイラはやや声を固くして訊ねた。
「それでもやっぱり……私と、付き合ってはくれないん、だよね?」
「…………」
そう。
ふたりは交際関係ではない。
幼馴染であり、勇者と聖女の関係であり、ビジネスパートナーであり、肉体関係まであるのに、交際はしていないのだ。
極めて歪な関係性である。
しかし、もちろん。
それには深い──深い理由があるのだ。
「……そう、だね。うん……セイラちゃんと付き合うことは、できない……」
シュボ、と、ブックマッチでタバコに火をつけ、その煙を肺に送り込むユーリ。
ふたりが付き合えないのは、ひどく複雑で大変な理由があるからだ。
タバコでは吸わなければ、そんな話はしていられない。
紫煙が漂うシリアスな雰囲気の中、ユーリは重々しく口を割った。
「──だって僕、女の子大好きだから、めちゃくちゃ浮気しまくっちゃうもん!!」
「死ねええええええぇぇぇぇぇェェェェェェッ!!!!!!」
ガヅッ! と、水晶でユーリの頭をぶん殴ってから、セイラはショートの青髪を掻きむしった。
「ねぇーもうホンット最悪! なんでこんなヤツ好きになっちゃったんだろう!?」
「イケメンでスタイル良くて金持ちだからじゃないかな!?」
「自分で言うな!! まあでもそれはあるけど!」
「あとあれ、ビジネスと体の相性が最高だったから!」
「もう喋らないで!! それもあるけど!」
ユーリとセイラが初めて関係を結んだのは、かなり昔のことだ。
お互いに初めてだった。
当然、セイラはユーリと付き合うつもりでいたが、『いやぁ、そういうのはアレ……もっと大人になってから、とかじゃない?』と、のらりくらりとはぐらかされた。
そうこうしているうちに、ユーリは他の女の子とも関係を持つようになった。セイラは何度も注意したが、ユーリの女癖の悪さは収まらず。
それでも定期的に逢瀬を重ねるようになっていたので、そのままズルズルと関係が続き、なんとなく愛人的な距離感が定着してしまったのだ。
セイラはベッドの上に割座すると、両手で顔を覆っておいおいと泣き始めた。
「ひどいよぉ! 私、ユーくんのために色々頑張ってきたのに! 一生懸命ついてきたのに! あんまりだよぉ! 責任取ってよぉ!!」
「ご、ごめんごめんごめん! そ、そうだよね! いつまでもこんな関係、嫌だよね!」
と、タバコを押し消してからセイラの目の前に座り、その肩に手を置こうとするが、
「うぇーん! もうユーくんなんか知らない! 責任取ってくれないなら、死んでやるぅ!」
「…………」
なんとなく、その泣き声に違和感を覚えた。
「…………」
ユーリはセイラの両手をガッと掴み、グググ、と下げて顔から降ろしてみると、
「…………」
彼女は涙など流していなかった。
めちゃくちゃ真顔だった。
「…………」
「…………」
セイラはセイラで、まあまああざとい系女子なのだった。
ユーリは苦笑しながらセイラの頭を撫でると、
「あざと可愛い」
「そういうの嫌い?」
「ううん。好き」
そう言ってセイラにキスをすると、そのまま彼女の身体を押し倒した。
「あぁん♡ ちょっとぉ、エッチなことしてはぐらかさないでぉ♡」
「えぇ~、じゃあもうしない?」
「やぁだ~♡ いっぱいするぅ~♡」
そうして、なし崩し的に二回戦が始まるのだった。
大体いつもこんな感じの流れになり、セフレ的な関係が続いている。
勇者と聖女、などという大層な肩書きがついてはいるが、その実態は、ただのヤリチンとチョロい女なのだ。
とはいえ、ユーリがセイラとの交際を断る理由は、他にもあった。
それは……。
「あん♡ あ、ちょっと……♡」
「ああ、セイラちゃん!」
なし崩しで始まったそれは、二回戦では終わらない。
三回戦でも終わらない。
四回戦、五回戦、六回戦でも終わらない。
そうして、七回戦目を迎えようとしたとき、
「ご、ごめっ……もう、無、理……ッ」
──セイラは、バッタリとベッドに倒れ込んだ。
「……うわ! ああ、あ! ごめん! ごめんねセイラちゃん! つい夢中になっちゃって!」
ユーリはセイラの身体を仰向けにして寝かせ、ベッドサイドにあった水をゆっくりと唇にあてがう。
コクコクと細い喉を鳴らして水を飲むと、セイラは何度か深く呼吸をして、力なく笑った。
「う、うん。大丈夫。いつもごめんね? 最後までできなくて……」
「いや、僕の方こそ、ごめん。こんな化け物性欲で……」
そう答えてから、ユーリも悲しげな笑顔を浮かべる。
「……僕の女癖の悪さが直ったとしても、やっぱり僕、セイラちゃんとは付き合えないよ。
っていうか、他の誰とも付き合えない……。
……僕が本気出したら、女の子を壊しちゃうもん」
「……ユーくん」
物心ついた頃から、ユーリの性欲は凄まじかった。
絶倫といえば聞こえは良いが、本当に満足をしたことはなく、1人の女性に受け止められる性欲ではないことも自覚していた。
ユーリはセイラのことが本当に好きだった。
しかし、自分の性欲を全開にしてしまったら彼女を壊してしまう。
好きだからこそ付き合えないというジレンマを抱えていた。
そんなユーリの心中を察するように、セイラは彼の手をギュッと握り、
「で、でもいつか、それを受け止められるように、頑張るから……」
「……無理だよ。セイラちゃんが色んなトレーニングして頑張ってくれてること、僕知ってるもん。
これ以上はもう負担かけられない……」
ユーリはセイラの手を握り返し──そして、その手を離してポツリと呟く。
「誰かひとりの人と付き合ったら、きっと僕はいつか、その人をセックスで殺してしまう……!」
傍目から見れば、ここは笑うところなのか、悲しむところなのか、エロい気分になるところなのか、いやエロい気分にはならないだろうが、ともかく、感情が迷子になることだろう。
しかし、少なくともユーリは真剣だった。
ユーリはセイラを抱き寄せて、涙声で告げる。
「……セイラちゃん、大好きだよ。
でも、だから、浮気してセイラちゃんを悲しませたくない。
エッチし過ぎて壊したくもない。
だから……君とは付き合えない」
ベッドの下に降りて、ユーリは正座して床に頭を擦り付けた。
いわゆる土下座の姿勢で、もう一度きちんと謝罪を口にする。
「無責任なことして、本当にごめんなさい」
「そ、そんな! やめて、やめてよ!」
セイラは慌ててベッドから降りると、グイグイと身体を引っ張ってユーリの姿勢を正す。
そうして彼女も正座すると、正面からしっかりとユーリを見据えた。
「私の方こそ、ごめん。そういうことは全部分かってるつもりだし、納得もしてた……。
でも、勇者を辞めるっていうなら、ワンチャンあると思って、言ってみただけなんだ。
だからもう、気にしないで」
「セイラちゃん……」
「それに、ユーくんは無責任なんかじゃないよ。もう私に、いっぱいよくしてくれてるじゃない」
そう。
セイラが共に上京してきた時点で、ユーリははセイラに対して、金銭的な面倒を見ることに決めていた。
例えクランを辞めても、他の誰かと結婚しても、一生涯一定額を援助する契約を結んでいる。
セイラは何度も断ったが、ユーリは頑として譲らなかった。
結婚することはできないから、それに近しいような保証をしたい、という、彼の意思の表れだったのかもしれない。
金銭的にも精神的にも、ユーリはセイラに対して十分な誠意を見せている。それはセイラも充分承知の上だった。
しかしやはり、彼氏彼女という一般的な関係になりたくて、思わず口に出してしまったのだった。
「だから気にしないで、ユーくん……このままの関係でも、私は満足だよ」
「……うん。ごめんね」
「謝らないでってば」
「うん……じゃあまたこうやって、時々とエッチしてくれる?」
「え~! 時々じゃ、やぁだぁ♡ もっといっぱいしたい~♡」
「ぼぉ~くぅ~もぉ~! え、じゃあ毎週?」
「ん~ん~。毎日ぃ~♡」
「やった~! じゃあいっぱいする!」
「私もしたい~~~~っ♡」
傍目からは激イタカップルにしか見えないふたりにも、色々あるのだった。
「……さて、じゃあ明日も早いし、お風呂だけ入って寝ますか」
一通りイチャイチャし終えると、セイラはタオルを巻いて立ち上がった。
そうしてその目に、僅かに悲しげな光を灯し、
「明日から本格的に、始めないと、だね……」
「……うん」
ユーリも同様に伏し目がちとなり、老人のように疲れた声音で応じる。
「そうだね……終わるための、準備を始めよう」
「……ユーくん」
心配そうにそう告げるセイラに、ユーリは微苦笑をしながら立ち上がると、彼女の細い身体を力いっぱい抱きしめた。
「大丈夫だよ。僕は大丈夫。心配してくれてありがとうね」
……それよりいまは、みんなのこと──クランのことを考えよう」
「……うん」
そんなやりとりをしつつ、ふたりは浴室に向かうのだった。
「はぁ~い♡ じゃあセイラはぁ、ユーくんの背中洗う係さんで~す♡」
「じゃあ僕は、セイラちゃんのおっぱい洗う係さんです!」
「いやぁん♡ も~、ユーくんのえっち~♡」
で、もう一回おっぱじまった。
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"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!?
ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。
「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
