【完全版製作記念連載再開】金貨1,000万枚貯まったので勇者辞めてハーレム作ってスローライフ送ります!!

夕凪五月雨影法師

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勇者辞めます編

3話 銀髪ロリは魔法使い  イラストあり

「あ、ねえ。なんか雨降りそうな天気になってきた。洗濯物どうしよ」

 そして翌日。
『アンペルマン』アジト、五階建てのビルへと出社したユーリとセイラは、執務室で事務作業をしていた。
『アンペルマン』は勇者クランであると同時に、数々の傘下企業やスポンサーを持つ大企業である。
 ゆえに、辞めるといってその日に辞めるわけにもいかないので、こうして引き継ぎ業務の事務作業などに勤しんでいるのだった。

 加えて、まだ一般のクランメンバーには引退を公表していない。
 違和感を持たれることがないよう、通常運行で業務をする必要があるのだ。
 もっとも、幹部の構成員は上から下への大騒ぎなのだが……。
 それはともかく、

「え、ランドリールームに干したんじゃないの?」

 ユーリの何気ない呟きに、セイラはコポコポとお茶を淹れながら言葉を返す。
 執務室はかなり広い。扉を開けて正面にユーリのデスクがあり、右手側にはコの字型のソファと大きなダイニングデスクが鎮座している。

 左手側の壁には、世界各国から送られてきた賞状や盾、そして子どもたちからのお手紙や絵などが飾ってあり、更にその奥に小さな給湯室まであるのだ。
その給湯室から出てきたセイラは、お盆に乗せたコーヒーをユーリのデスクに置いた。

「はい。砂糖2つにミルク無し。今日はちょっと寝不足気味みたいだから、濃いめに淹れといたよ」

 セイラは聖女であると同時に、ユーリの第一秘書のような役割も兼任している。
 ゆえに、彼の好みや嗜好とするものなども細かく把握しているのだ。

「ありがと~。さすが、シゴデキ聖女は違いますなぁ~」

「むふふ~。ユーくんの事なら、なんでも分かる系聖女ですからなぁ~」

 セイラはユーリの膝の上に腰掛けると、首に腕を回して顔を寄せる。

「……それで、なんだっけ? えっと、洗濯物、ランドリールームに干したんじゃなかったの?」
「ああ、そうそう。今日朝は晴れそうだったから、外干しちゃった。ごめん」
「いいよいいよ。今日多分午前時間空くから、どっかの時間で、」

 そのとき、執務室のドアをノックする音が聞こえた。
 瞬間、セイラは一瞬でユーリから離れ、素早く彼の背後へと回り込むと、秘書よろしく良い姿勢で屹立する。

「私が回収に行って参ります、勇者様」
「そうかい。頼んだよ、セイラさん」

 そんなやり取りをしつつ、何事もなかったように部下を執務室に招き入れた。

「失礼します、勇者様。決算書をお持ちしましたので、確認と決済印をお願いします」
「ありがとう」

 部下に渡された書類をパラパラとめくりながら、ユーリは徐々に顔を険しくしていく。

「……ねえ、セイラさん? 開発部門に釘刺しといてって言ったよね?」
「……はい」
「だったらなんでこんな経費爆上がりしてんの? 前年比の1、5倍はさすがにイカついて」
「申し訳ありません。おそらくまた、ハンニバルさんの独断かと」
「ダメだよー。ちゃんと言っといてくれないとさ。魔導体が高騰してどんだけ経つと思ってんのさ。いままでの肌感でやられたら困るんだって」
「申し訳ございません。再度厳重に声掛けしておきます」
「頼むよほんとー。あ、ごめんね。君はもう下がってもらって大丈夫だよ」

 ユーリの声かけで、部下の女性は一礼して部屋を去っていった。
 途端、セイラは再びユーリの膝の上に飛び乗った。

「もぉ~、ごぉ~めぇ~ん~! あんまり怒らないで♡」
「ん~、僕の方こそごめん! だってさっきの人、経理のケイリーさんだったから、ちょっと厳しく言わないとって思って。ごめんね、怖かった?」
「ううん、ユーくん、クラマスさんだもんね。言いたくないことも言わなくちゃいけないから、大変だよね。セイラはちゃんと分かってるから大丈夫だよ!」
「もぉ~! 理解のある聖女~!」

 再び身を寄せ合ってイチャイチャしながら、セイラはとろんとした目でユーリを見つめ、

「ねえ、今日晩ご飯、ユーくんの好きなの作ってあげるよ。何がいい?」
「あ、そっか今日セイラちゃんが料理当番か。んー、なんでもいいよ」
「ねー、なんでもいいが一番困るって、前にも言ったでしょ!」
「えーだってセイラちゃんのお料理、本当になんでも美味しいんだもん」
「いや嬉しいけどー! 嬉しいけどさー、それはさー、ちゃんとさー」

 そこで再びノックの音がして、ふたりは一瞬で身体を離すと同時に、衣類の乱れを秒で直した。
 キリっとした表情になったセイラは、凛とした口調でユーリに言う。

「はっきり言って頂かないと困る案件ですので、ご検討の方をよろしくお願い致します」
「そうだね。ブレストしていこう」

 そうして再び部下を迎え入れ、用事を済ませて退室させると、ふたりは再び身を寄せ合った。

「えーなにがいいかな。あ、じゃあアレにしよう。僕が二番好きなヤツ」
「二番好きなヤツ……あー。あーあー、アレね……」
「え、ちょっと待ってちょっと待って。えー、あはは、本当に分かってる?」
「分かってるよお。えへへ。疑うのよくないよぉ」
「えーじゃあ一緒に言おうよ」
「えー? えへへ……いいよぉ……じゃあ、せーの、」
「──もうやめてくれえぇぇぇぇ!!」
「「!!」」

絶叫しながらソファから現れたのは、元祖勇者パーティのひとりであるマホだ。
驚愕するふたりだったが、マホはそれ以上に憤慨した様子でふたりに詰め寄る。

「こんの激イタカップルどもがよぉ! 人が徹夜で仕事して、ようやくソファで一寝入りできたと思ったら、クソキモな会話聞かせやがってカスコラァ!!」

突如としてその場に姿を見せた彼女に、セイラはこれ以上ないほど同様しながら口を開く。

「マ、マママママママ、マ、マホちゃん……じゃ、じゃあ、最初から、そ、そこに……?」
「おお、居たよ! でもお前らが激イタ会話始めっから、出るに出られなくて、ソファの影でガタガタ震えてたよ! 超怖かったよ! 一生こっから出られねえと思ったわ!」
「いい、いるならいるって言ってくれれば良かったじゃないですか!」
「言おうと思ったよ! でも目の前で『ごぉめぇん~』とか言ってんだぞ! 割り込むタイミング激ムズだろ! でも会話聞いててゲロ吐きそうになってきたから、もう限界だったんだよ! 激イタのデッドロックからようやく解放されたよ! ありがてえわ!」
「ちょ、ケンカはやめてよ二人とも! そりゃ僕はイケメンだけどさ、みんなのイケメンだから! 平等に楽しんで!」
「お前が一番死ね!」

 力いっぱいそう叫んだのち、マホはすべてを使い果たしたように、『……もういいわ。あー、SAN値ごっそりイかれた』などと呟きながら給湯室へと向かった。
 彼女の名はマホ・マクマホン。肩口で切りそろえた銀髪と、くりくりの緑青色の大きな瞳が特徴的な、魔法使いウィザードの女の子だ。

 卵型の輪郭に収まった童顔と、百五十センチに満たない身長が相まって、十代半ば……いや、下手をすれば十代前半にすら見えてしまうが、ユーリやマホと同い年で、元祖勇者パーティの古参メンバーだった。

 給湯室の保冷庫からジュースを取り出して、もきゅもきゅと喉に流し込む彼女に、セイラは恐る恐るといった調子で声をかけた。

「マ、マホちゃん。その、いま見たことは、そのどうか内密に……」
「言わねえよ。ってか、お前らの激イタ見るの、別にこれが初めてでもねえし、まあまあみんな知ってんだから」

 ぷはっ、とジュースの瓶から口を離すと、少しからかうような口調でふたりを見やり、


「ってかセイラ、それもうやめろよ。その、勇者とふたりでいるときは甘え言葉になって、誰かいると事務的な口調になるやつ。
お前らがそういう関係だってのは、元祖メンバーはほとんど知ってんだからよ、別に隠す必要ねえだろ」

 ユーリとセイラは愛人関係にある。他のクランメンバーには知られていないことだが、昔からいた面々からしたら、それはまあまあ共通認識だ。中途半端に隠されると、逆にこっちが気を遣ってしまう。

 別に勇者と聖女が付き合っていけないわけではないし、そもそも、ふたりの激イタを見てしまったのも一回二回ではない。
 そんな思いから、マホは何度も同じ声掛けをしているのだが、そのたびにセイラは首を振り、

「いえ。聖女として公私を混同するわけにはいきませんので、この口調も崩すわけにはいきません」
「さっき仕事中にめちゃくちゃペッティングしてなかったか?」
「あれは勇者と聖女による神聖な儀式です」
「聖女がサラッと神を売ってんじゃねえよ。あんま聞いたことねえんだよ、生臭聖女って」

 そんなやりとりをしながらセイラの横に並び立ったマホは、その顔を覗き込みながら口を開く。

「ってかさ、この際だから聞いとくけど……お前ら、あれだよな? ほんとに付き合ってはいねえんだよな」
「な、なんですか、急に?」
「いーじゃん別に。付き合ってんの? 付き合ってねえの?」
「そ、それは……」

 セイラはチラリとユーリのほうを見ると、彼も気まずそうな顔でこちらを見ている。
 昨日、あんな話をした手前、その話題には触れづらいのだろう。
 しかし、セイラには分かっている。

 確かにセイラとユーリは付き合ってはいない。しかし、お互いのことが大好きであることに変わりはないのだ。
 彼氏彼女というものは、所詮は形式上のものに過ぎない。肩書と同じだ。
自分たちは、もっと深いところで繋がっているのだ。

 セイラはそれをしっかりと理解している。
 だから、『付き合っていない』と、はっきり言うことができる。
 そんな形式的なものはいらない。自分たちの関係は、もっと深いものなのだから、と。
 そんな思いを胸に、セイラは口を開いた。

「え~~~……え、付き合ってる、とかぁ、付き合ってないとかはぁ、あんまぁ、よく分からないですけどぉ……あのなんかぁ、お互いの家の鍵は持ってますし? 泊まることもあるし? まあまあまあ、ふたりっきりでテーマパーク行くこともあるんですけどぉ……。まそうですね、付き合ってるとか付き合ってない……とかぁ、だとぉ……。まあ、ご想像にお任せする感じ~? ですかね~、はぁい」
「確実にひとつの結論に行きつかせようとする委ね方やめろ。逆に下手かよ、匂わせが」

 だって付き合ってるって思われたいんだもん~! などということは言えずに口ごもっていると、マホはポリポリと頬を掻き、

「つまり、付き合ってはねえって事だよな?」
「……ん~。まあまあまあ、はい、はい……。ん~? まあ、どうですかね?」
「往生際悪ぃな。じゃあ質問変えるよ。やることはやってるし、お互い好きな気持ちはあるけど、交際っていう形の関係性ではねえんだよな」
「……はい」

 逃げ場を塞がれた質問に、セイラはシュンとしながら頷く。
 するとマホは何とも言えない表情を浮かべた後、ちらりとユーリのほうを見て、再びポリポリと頬を掻いた。

「ふぅ~ん。あ、そ。まあ、それならいいや」
「な、なんですか!? 人のメンタルに削るだけ削っといて、そのリアクション! どういう意図の質問だったんですか!?」
「ま、いーじゃん別に。そんな怒んな……あ、いや、『あんまり怒らないでぇ♡』だっけ?」
「こ、このぉ……!」
「ま、まあまあまあ! ふたりともその辺にしとこうよ!
 そういえばマホちゃん、こんな所で寝るなんて珍しいね。なんかあったの?」

 ユーリが話題を逸らすための質問を振ると、マホはチラリと時計を見やる。

「ああ。たぶんだけど、もうそろそろ……」

 それと同時、執務室の外からドタドタと足音が迫ってくるのが聞こえてきた。

「もうそろそろここに、うるせえのが来ると思ってな。待ち伏せしてた」

 バン! と、猛烈な勢いで執務室のドアが開き、ひとりの人物が部屋に飛び込んできた。

「ゆ、勇者様! ゆ、ゆゆゆゆ、勇者をやめるって……ど、どういうおつもりですかぁ!?」

 と、口角泡を飛ばす勢いで怒鳴り込んできたのは、ショートの茶髪と、低身長の割に異様に大きな胸が特徴的な女の子だ。
 彼女はヒィロ・ウィルキングス。
 ユーリと同じく勇者の信託を受け、彼の元で修行中の女勇者だ。

 いわばユーリの直弟子で、この組織のNo2である。
また『アンペルマン』の次席パーティ『レスティンピース』のリーダーでもあり、クランメンバーからの信頼も厚い。

「魔王四天王のひとりを討ち取り、これから本格的に魔王討伐を始めるというときに……なにを考えていらっしゃるんですかぁ!?」

そして、潔癖と言えるほどの真面目気質。
勇者という仕事を神聖視し過ぎている節があり、ユーリのことも崇拝と言えるレベルで信奉している。
 また、自分も斯くあろうと思いからか、自身に禁欲的な生活を課し、真面目に愚直に質実に、日々の業務に勤しんでいるのだ。
要は堅物である。

 いやいや、僕って死ぬほど自堕落な生活送ってるんだけどな。特に女の子関係……などと思いつつ、ユーリは苦笑を浮かべてソファを指差すと、

「ま、まあまあ、落ち着いてよ、ヒィロさん。とりあえず座って……」
「これが落ち着いていられますか! そんな重大な判断を、自分になに一つ相談も無く、しかも自分が出張で不在の際に決めるなど……いよいよなにをお考えなのですか!?」
「うん。君が出張のときを見計らって言った。多分うるさく言われると思ったから」

 実際うるさく言われているし。

「うるさく言うに決まっているでしょう! 現役の勇者が個人的な理由で、その責務を放棄するなど、許されていいことではない!」

 ダン! と、デスクを両手で叩き、ヒィロはユーリと鼻先を突き合わせた。

「『アンペルマン』はこれからの組織なんです!
 自分は絶対に、認めませんから!!」
「……うーん。困ったねえ」

 と、おどけた口調で言ったものの、内心では少し焦っていた。
 彼女はユーリの直弟子であり、立場的には『アンペルマン』のNo2だ。
 ただの冒険者パーティやクランなら知れないが、この巨大組織においてのNo2なのだ。

 ユーリがトップであるとはいえ、ヒィロの決定権も決して無視できるものではない。
 ユーリが引退する上で、彼女が最も大きな障害になることは必至だった。
 さてどうしたものか……などと考えていると、ヒィロは更に興奮気味に言葉を継ぐ。

「それに、勇者様が急にそんなことを言われたものですから、上層部も混乱し、あなたの良からぬ噂まで流れているのですよ!」
「良からぬ噂ってのは?」
「……え、えっと」

 そこでヒィロは、怒りとは別の理由で頬を紅潮させて、

「そ、その……ゆ、勇者様が、その……ハ、ハ、ハーレム? なるものを、作るために、勇者をやめるなどと……。
も、もちろん、そんな事を吹聴する連中は一喝しました。勇者様がそんな下劣で淫猥なこと言う訳がないと……!」
「あ、ごめん、それ言った」
「言ったんかいいいぃぃぃぃィィィィッ!!!」

 ヒィロは頭を抱えながら頽れた。
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