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勇者辞めます編
7話 ツインお団子巨乳、黒髪ピンクメッシュ巨乳 イラストあり
王都ケリオール、高級飲食店街。
その一等地に店を構える鉄板焼き屋のカウンター席にて、勇者一行は腰を下ろしていた。
「……で、諸々の準備が整っちゃったわけだけど……君たち、本当に僕について来てくれるの?」
食前酒のシャンパンで口を湿らせつつ、ユーリは横並びに腰掛ける一行に声をかける。
「明日、僕が引退することは、正式にクランのみんなに知れ渡ることになってる。で、その後の退任式で、正式に引退。
株価が暴落しないように、世間にはまだ情報は降ろさないし、しばらくは役員待遇って形で籍は残すけど、実質的には引退だし、30%くらい持ってる自社株も手放さなきゃいけない。
そしたらもう、『アンペルマン』になんの影響力もなくなる。僕は勇者じゃなくて、ただのユーリなるんだ。
……本当に、それでいいの?」
すると、当然のようにユーリの左右に腰掛けたセイラとマホが、これも当然のように告げた。
「構いません。私たちは『アンペルマン』ではなく、勇者様についてきたのですから」
「セイラに同じ。バカがいねーと仕事面白くねえしな」
「勇者はつけようか」
「断る」
ユーリはマホをチョップし、彼女は手をクロスさせてそれを防ぐ。そんな戯れに苦笑しながら、ブレイダとエンリエッタも口を開いた。
「坊ちゃんがしたいことが、私のやりたいことなんですよ」
「それにぃ、これからは勇者様のお家をアジトにしていいんでしょ? えへへ、勇者様のおうちってネット環境良いし、この世のすべてのサブスク見られるじゃないですかー。テレビ見放題ゲームし放題って最強過ぎますよー!」
ネットとは、デバイスを介して世界中に張り巡らされた、魔力によるネットワークのことだ。
正式名称は、ウィザードリー・ネットワーク。
本来は魔法使いたちが、世界中の同士と情報共有を行うために開発した技術なのだが、昨今ではケータイ技術やSNS、そして動画や静止画を映し出す映像魔導具(テレビジョン)など、様々な用途に役立っている。
動画のサブスクリプションサービスもその一環で、エンタメ好きのユーリは、この世にあるほぼすべてのサブスクに入会していた。
はしゃぐエンリエッタの頭に、「仕事しろ!」とチョップをしてから、ファイフはカラカラと笑う。
「それに、新人の冒険者からリスタートって、なんか面白そうじゃん? まあでもあたし、ケンカ以外はほんっとにからっきしだから、どこまで役に立てるか分からんけどさ……」
そこでふと疑問にを覚えたようにユーリに向き、
「そういえば、引退した後のあたしたちの肩書ってどうなるのかな? 元勇者パーティ? 普通に冒険者パーティ? 名前とかもまだ決めてないし……」
「んーまあ、それはおいおい……」
ユーリがそう言ったとき、カウンターの向こう側から、ふたりの美女が顔を覗かせた。
「にひひぃ。まあまあ、仕事の話は食べてからにしなって」
そう言って一同の前に料理を提供したのは、くすんだ灰色の髪をふたつのお団子にまとめた女の子、カリナだ。
どこか人を食ったような猫目と、コックコートを盛大に押し上げる大きな胸が特徴的な、この店の看板シェフである。
「そうですわ。鉄板焼き屋でお料理が冷めたら、もったいないですもの」
もう一人の美女は、長い黒髪の所々にピンクのメッシュを入れた、おしとやかそうな印象のシェフだ。陶器のような白い肌と、抱けば折れてしまいそうな細い体も、その印象を後押ししている。
ただし、その胸はカリナと同じように激しく自己主張をしているので、モデルのような見事なプロポーションだった。
彼女はハンナ。もうひとりの看板シェフにして、カリナの妹だ。
料理を配し終えると、彼女は上品な仕草でお辞儀しながら言う。
「お待たせいたしました。本日のランチは、
トリュフ香る鴨のコンフィヴォローヴァン仕立て
奇跡の海老“クレダの宝石”と真鯛の石窯焼き
東国のアンチョビ シオカラとの出逢い
ユリウス産赤ワインのグラニテ
ユリウス牛ロースのロティ
濃厚なジュ・ド・ブッフソースと白瓜漬けの和合
以上となります。コースでお持ちしますので、ごゆるりと召し上がってくださいな」
「デザートはデュオショコラ作ってあるんだけど、他のがいいって人は適当に言ってねー」
と、妹の丁寧な説明を、姉が雑に締めくくる。容姿も性格も正反対のふたりなのだが、これで双子というのだから驚きだ。
「おお、ありがとうはカリちゃむ、ハンナさん! 今日も美味しそうだね!」
「にひひぃ~。美味しくない料理なんか作ったことないからね♪」
「ありがとうございます。勇者様にそう言っていただけて、光栄ですわ」
そんな雑談をしながら料理に口をつけ始める。ユーリは五年以上もこの店の常連で、ふたりとも旧知の仲なのだ。
いや、それ以上の関係であるといってもいい。
なぜなら、
「んん~! 美味しい! いや、これから毎日この料理が食べられると思うと、テンションぶちあがるよ~!」
勇者を引退したのち、ふたりはユーリの専属料理人になる契約をしているからだ。
ユーリが勇者を辞めることを伝えたら、彼女らもこの店を辞め、専属料理人になりたいという申し出をしてきた。
この店に申し訳ないから、と、最初は断っていたユーリだったが、ふたりの熱心な申し出に口説き落とされ、そのような契約を結んだのだった。
鉄板の上で大きなエビを焼きながら、カリナが犬歯を見せて笑う。
「にひひぃ。そんな褒めたって、美味しい料理とかわいい笑顔しかあげないよー。あ、あとちょっといいもの見せてあげよっか。チラッ♡」
「ちょ……」
カリナはコックコートの胸元を僅かに下げる。奥行きの深い谷間を支える、紫色のブラジャーがのぞき、ユーリは思わず息を呑んだ。
「それに、私たちが勇者様を口説き落とした時のことを思い出すと……あぁ♡ あの熱い夜が、まだ忘れられません……♡」
ハンナはハンナで白い顔を赤く染めながら、とろん、とした目でユーリを見つめ、赤い舌でちろりと舌なめずりをした。清楚な印象の美女に、恍惚とした表情で見つめられると、なんとも背徳的な艶めかしさを感じてしまう。
「い、いや、ハンナさん。それだとなんか、違うことしたみたいに聞こえるから……ってかふたりとも、ご飯中にからかうのやめてってば!」
ともあれ、ちょっと過激な冗談を言い合える間柄ではあるのだ。きっとうまく付き合っていけるだろう。
ユーリがそんなふうに思っていると、マホが料理をつつきながら──マホは病的な偏食家であるため、ひとりだけ別メニューなのだが──ぼそりと呟く。
「ったく。この若さでFIREして、一等地にある豪邸住んで、シェフまで雇って……なんなのお前、貴族なの?」
「ふっふっふ。まあ、そのために頑張って来たからねえ。そんで実際、名誉貴族だし」
「挙げ句の果てには、ボクらをハーレムにぶち込んで、手篭めにしようってんだからな。贅沢な貴族様だぜ」
「ふっふっふ。そうそう。君たちをハーレムに……って、いやいやいや! だからしないってば、そんなこと!」
と、否定した時にはすでに、エンリエッタは顔を真っ赤に染め上げて、胸元をつまんでローブの下を確認しつつ、
「えっ? えっ? 勇者様……ちょ、ちょっと待ってください! 今日私……子供っぽいパンツ履いて来ちゃったので! 縞々のやつで来ちゃったので~!」
「いやぁん♡ 坊ちゃん。そうならそうって言ってよぉ~。今日の私のパンツ、オープンクロッチですよ♡」
ブレイダも悪ノリを始めたところで、ファイフもモジモジとし始め、
「えっと、えっーと……あ、あたしは、スポブラについてきたショーツなんだけど……あはは、さすがに色気なさ過ぎ、かな?」
するとカリナとハンナまで、ユーリに色目を使いながら会話に加わってきた。
「にひひぃ。カリナは紫のシースルーのやつだよ~♡ チラ♡」
「わたくしは、今日はなにもつけていませんの♡ 勇者様、確認していただけます?」
「なんでこの後すぐそうなるみたいになってんのさ!? ちょ、み、みんなまでからかわないでってば! そんで、なんでまんざらでもない感じ出すんだよ!」
と、ユーリがツッコミを入れたところで、セイラがポツリと、
「まんざらでもないから……だと思いますけど?」
「……え?」
と、ユーリが疑問を呈したとき、ユーリのケータイが着信を告げる音を鳴らす。
「あ、改装工事の業者さんから念話だ。ごめん、ちょっと出てくるね」
そう言って足早に出入口へと向かうユーリ。
その後姿を眺めながら、マホとセイラは小さく溜息を吐く。
「……ったく。あんだけヤリチンのくせに、なんで肝心な時だけバキバキ童貞のメンタルなんだよ、アイツ」
「童貞みたいに真面目なヤリチンですからね」
「童貞と真面目とヤリチンってそれぞれどういう意味だっけ?」
「ともかく、そういうお方だからこそ……『大事な仲間だから』という部分に縛られているのだと思います」
「んー……まあ、」
チラリ、と、マホはセイラの横顔を視野に収めつつ、
「それだけが理由じゃあ、ねえと思うけどな」
「……ですね。すいません」
「セイラが謝ることじゃねえよ。むしろこっちのほうがごめん」
「でもどのみち、ここまあじゃあ……」
マホがぐしゃぐしゃとセイラの頭を撫でていると、ブレイダが相変わらずのニコニコ顔で……。
──いや、
「やっぱり私たち、坊ちゃんを裏切らないといけなくなるかもね……♡」
嗜虐的に嗤いながら、そう言った。
「はい、はい、……うん、はいはいはい、分かった! ありがとー! すぐ行くね!」
そんな不穏な会話が成されていることなど露知らず、勇者は念話を切りながら戻ってくると、ニコニコ顔で一同を見回す。
「なんだよ勇者、みんなの下着想像して、興奮してんのか?」
「ぴゅいいぃ!? やっぱり、ちゃんとしたヤツ履いてくるんだった!」
「い、いや、もうその話題から離れようよ……」
マホとエンリエッタの言葉にツッコんでから、ユーリは仕切り直すように言った。
「僕のおうち、改装工事終わったって! 食べ終わったら、みんなでルームツアー行こ!」
■
王都ケリオールの街の造りは、他国の首都と概ね同じ構造だ。
町の中心には王城。それを囲うようにして貴族用の居住区と、高級アパレル店や高級飲食店街が軒を連ねる区域がある。
更にそれを囲うようにしてオフィス街や各ギルドがあり、その外側に一般的な住宅街と冒険者向けの宿などが立ち並んでいる。
ちなみに、北は工房などが多く立ち並んでいるので、『職人街』、南には冒険者ギルドがあることから『冒険者街』と呼ばれていた。
ユーリの邸宅があるのは貴族用の居住区。それも、伯爵家やセレブ俳優などが居を構える、王都の中でも一等地に位置する場所だ。
十メートルはあろうかという巨大な門を抜けて、歩くことしばし。
「「「「「「「おぉ…………!」」」」」」」
勇者一行にカリナとハンナを加えた一同は、そこにたどり着いた。
上は三階建て、横は見渡す限りに壁が続いているような、巨大な白亜の豪邸。
しかも、
「おいバカ勇者……なんか増えてんぞ」
「うん。増築がメインの工事だったからねー」
そのとてつもなく大きな豪邸が、三つ。
本館が一棟。その両端から折れ曲がるようにして、一棟ずつ。
中庭を囲うようなコの字型の形で、どっかりと鎮座していたのだった。
「目の前のこれが本館ね。これはほとんど今まで通り、客間とか多目的会場、図書室、調理場、宝物や魔導具の保管庫、トレーニングジムとかだね。
で、左側棟が僕たちのアジト。あと僕のお部屋と僕たち用の調理場、小さいジム、シアタールーム、温泉、サウナとかが入ってるよー。
そんで右手の棟が丸々お客さん用の宿泊施設。1LDK~4LDKくらいまでの部屋を、60部屋くらい用意してあって、ジムも温泉もプールもあるから、みんなも好きなときに泊っていってね。
じゃあ、まず僕たちのアジトから行こうか」
ペラペラと頭のおかしいことを喋りながら、雄々しいライオンのレリーフが付けられた扉を開ける。ふかふかの絨毯が敷かれた大理石の床に、吹き抜けの高い天井。正面にある大階段から、二階と三階にいけるようになっており、そこにも十分な数の部屋があった。
絶対にこの棟だけでもどうにかなったと思うのだが、それをさらに二つ、ユーリはぶっ建ててしまったらしい。
マホはユーリの後ろをついて歩きながら、指先でこめかみを押し回した。
「元々頭おかしいくらい広い家だったけど、更にIQ1億くらい下がってやがる……」
「改装費用はその10倍ほどかかっていますけどね」
「え゛ぇッ!? セ、セイラさん、そ、それってつまり……10億ルードッ……!?」
ゾッとしたようなファイフのつぶやきを残して、一同は新アジトへと向かって行った。
その一等地に店を構える鉄板焼き屋のカウンター席にて、勇者一行は腰を下ろしていた。
「……で、諸々の準備が整っちゃったわけだけど……君たち、本当に僕について来てくれるの?」
食前酒のシャンパンで口を湿らせつつ、ユーリは横並びに腰掛ける一行に声をかける。
「明日、僕が引退することは、正式にクランのみんなに知れ渡ることになってる。で、その後の退任式で、正式に引退。
株価が暴落しないように、世間にはまだ情報は降ろさないし、しばらくは役員待遇って形で籍は残すけど、実質的には引退だし、30%くらい持ってる自社株も手放さなきゃいけない。
そしたらもう、『アンペルマン』になんの影響力もなくなる。僕は勇者じゃなくて、ただのユーリなるんだ。
……本当に、それでいいの?」
すると、当然のようにユーリの左右に腰掛けたセイラとマホが、これも当然のように告げた。
「構いません。私たちは『アンペルマン』ではなく、勇者様についてきたのですから」
「セイラに同じ。バカがいねーと仕事面白くねえしな」
「勇者はつけようか」
「断る」
ユーリはマホをチョップし、彼女は手をクロスさせてそれを防ぐ。そんな戯れに苦笑しながら、ブレイダとエンリエッタも口を開いた。
「坊ちゃんがしたいことが、私のやりたいことなんですよ」
「それにぃ、これからは勇者様のお家をアジトにしていいんでしょ? えへへ、勇者様のおうちってネット環境良いし、この世のすべてのサブスク見られるじゃないですかー。テレビ見放題ゲームし放題って最強過ぎますよー!」
ネットとは、デバイスを介して世界中に張り巡らされた、魔力によるネットワークのことだ。
正式名称は、ウィザードリー・ネットワーク。
本来は魔法使いたちが、世界中の同士と情報共有を行うために開発した技術なのだが、昨今ではケータイ技術やSNS、そして動画や静止画を映し出す映像魔導具(テレビジョン)など、様々な用途に役立っている。
動画のサブスクリプションサービスもその一環で、エンタメ好きのユーリは、この世にあるほぼすべてのサブスクに入会していた。
はしゃぐエンリエッタの頭に、「仕事しろ!」とチョップをしてから、ファイフはカラカラと笑う。
「それに、新人の冒険者からリスタートって、なんか面白そうじゃん? まあでもあたし、ケンカ以外はほんっとにからっきしだから、どこまで役に立てるか分からんけどさ……」
そこでふと疑問にを覚えたようにユーリに向き、
「そういえば、引退した後のあたしたちの肩書ってどうなるのかな? 元勇者パーティ? 普通に冒険者パーティ? 名前とかもまだ決めてないし……」
「んーまあ、それはおいおい……」
ユーリがそう言ったとき、カウンターの向こう側から、ふたりの美女が顔を覗かせた。
「にひひぃ。まあまあ、仕事の話は食べてからにしなって」
そう言って一同の前に料理を提供したのは、くすんだ灰色の髪をふたつのお団子にまとめた女の子、カリナだ。
どこか人を食ったような猫目と、コックコートを盛大に押し上げる大きな胸が特徴的な、この店の看板シェフである。
「そうですわ。鉄板焼き屋でお料理が冷めたら、もったいないですもの」
もう一人の美女は、長い黒髪の所々にピンクのメッシュを入れた、おしとやかそうな印象のシェフだ。陶器のような白い肌と、抱けば折れてしまいそうな細い体も、その印象を後押ししている。
ただし、その胸はカリナと同じように激しく自己主張をしているので、モデルのような見事なプロポーションだった。
彼女はハンナ。もうひとりの看板シェフにして、カリナの妹だ。
料理を配し終えると、彼女は上品な仕草でお辞儀しながら言う。
「お待たせいたしました。本日のランチは、
トリュフ香る鴨のコンフィヴォローヴァン仕立て
奇跡の海老“クレダの宝石”と真鯛の石窯焼き
東国のアンチョビ シオカラとの出逢い
ユリウス産赤ワインのグラニテ
ユリウス牛ロースのロティ
濃厚なジュ・ド・ブッフソースと白瓜漬けの和合
以上となります。コースでお持ちしますので、ごゆるりと召し上がってくださいな」
「デザートはデュオショコラ作ってあるんだけど、他のがいいって人は適当に言ってねー」
と、妹の丁寧な説明を、姉が雑に締めくくる。容姿も性格も正反対のふたりなのだが、これで双子というのだから驚きだ。
「おお、ありがとうはカリちゃむ、ハンナさん! 今日も美味しそうだね!」
「にひひぃ~。美味しくない料理なんか作ったことないからね♪」
「ありがとうございます。勇者様にそう言っていただけて、光栄ですわ」
そんな雑談をしながら料理に口をつけ始める。ユーリは五年以上もこの店の常連で、ふたりとも旧知の仲なのだ。
いや、それ以上の関係であるといってもいい。
なぜなら、
「んん~! 美味しい! いや、これから毎日この料理が食べられると思うと、テンションぶちあがるよ~!」
勇者を引退したのち、ふたりはユーリの専属料理人になる契約をしているからだ。
ユーリが勇者を辞めることを伝えたら、彼女らもこの店を辞め、専属料理人になりたいという申し出をしてきた。
この店に申し訳ないから、と、最初は断っていたユーリだったが、ふたりの熱心な申し出に口説き落とされ、そのような契約を結んだのだった。
鉄板の上で大きなエビを焼きながら、カリナが犬歯を見せて笑う。
「にひひぃ。そんな褒めたって、美味しい料理とかわいい笑顔しかあげないよー。あ、あとちょっといいもの見せてあげよっか。チラッ♡」
「ちょ……」
カリナはコックコートの胸元を僅かに下げる。奥行きの深い谷間を支える、紫色のブラジャーがのぞき、ユーリは思わず息を呑んだ。
「それに、私たちが勇者様を口説き落とした時のことを思い出すと……あぁ♡ あの熱い夜が、まだ忘れられません……♡」
ハンナはハンナで白い顔を赤く染めながら、とろん、とした目でユーリを見つめ、赤い舌でちろりと舌なめずりをした。清楚な印象の美女に、恍惚とした表情で見つめられると、なんとも背徳的な艶めかしさを感じてしまう。
「い、いや、ハンナさん。それだとなんか、違うことしたみたいに聞こえるから……ってかふたりとも、ご飯中にからかうのやめてってば!」
ともあれ、ちょっと過激な冗談を言い合える間柄ではあるのだ。きっとうまく付き合っていけるだろう。
ユーリがそんなふうに思っていると、マホが料理をつつきながら──マホは病的な偏食家であるため、ひとりだけ別メニューなのだが──ぼそりと呟く。
「ったく。この若さでFIREして、一等地にある豪邸住んで、シェフまで雇って……なんなのお前、貴族なの?」
「ふっふっふ。まあ、そのために頑張って来たからねえ。そんで実際、名誉貴族だし」
「挙げ句の果てには、ボクらをハーレムにぶち込んで、手篭めにしようってんだからな。贅沢な貴族様だぜ」
「ふっふっふ。そうそう。君たちをハーレムに……って、いやいやいや! だからしないってば、そんなこと!」
と、否定した時にはすでに、エンリエッタは顔を真っ赤に染め上げて、胸元をつまんでローブの下を確認しつつ、
「えっ? えっ? 勇者様……ちょ、ちょっと待ってください! 今日私……子供っぽいパンツ履いて来ちゃったので! 縞々のやつで来ちゃったので~!」
「いやぁん♡ 坊ちゃん。そうならそうって言ってよぉ~。今日の私のパンツ、オープンクロッチですよ♡」
ブレイダも悪ノリを始めたところで、ファイフもモジモジとし始め、
「えっと、えっーと……あ、あたしは、スポブラについてきたショーツなんだけど……あはは、さすがに色気なさ過ぎ、かな?」
するとカリナとハンナまで、ユーリに色目を使いながら会話に加わってきた。
「にひひぃ。カリナは紫のシースルーのやつだよ~♡ チラ♡」
「わたくしは、今日はなにもつけていませんの♡ 勇者様、確認していただけます?」
「なんでこの後すぐそうなるみたいになってんのさ!? ちょ、み、みんなまでからかわないでってば! そんで、なんでまんざらでもない感じ出すんだよ!」
と、ユーリがツッコミを入れたところで、セイラがポツリと、
「まんざらでもないから……だと思いますけど?」
「……え?」
と、ユーリが疑問を呈したとき、ユーリのケータイが着信を告げる音を鳴らす。
「あ、改装工事の業者さんから念話だ。ごめん、ちょっと出てくるね」
そう言って足早に出入口へと向かうユーリ。
その後姿を眺めながら、マホとセイラは小さく溜息を吐く。
「……ったく。あんだけヤリチンのくせに、なんで肝心な時だけバキバキ童貞のメンタルなんだよ、アイツ」
「童貞みたいに真面目なヤリチンですからね」
「童貞と真面目とヤリチンってそれぞれどういう意味だっけ?」
「ともかく、そういうお方だからこそ……『大事な仲間だから』という部分に縛られているのだと思います」
「んー……まあ、」
チラリ、と、マホはセイラの横顔を視野に収めつつ、
「それだけが理由じゃあ、ねえと思うけどな」
「……ですね。すいません」
「セイラが謝ることじゃねえよ。むしろこっちのほうがごめん」
「でもどのみち、ここまあじゃあ……」
マホがぐしゃぐしゃとセイラの頭を撫でていると、ブレイダが相変わらずのニコニコ顔で……。
──いや、
「やっぱり私たち、坊ちゃんを裏切らないといけなくなるかもね……♡」
嗜虐的に嗤いながら、そう言った。
「はい、はい、……うん、はいはいはい、分かった! ありがとー! すぐ行くね!」
そんな不穏な会話が成されていることなど露知らず、勇者は念話を切りながら戻ってくると、ニコニコ顔で一同を見回す。
「なんだよ勇者、みんなの下着想像して、興奮してんのか?」
「ぴゅいいぃ!? やっぱり、ちゃんとしたヤツ履いてくるんだった!」
「い、いや、もうその話題から離れようよ……」
マホとエンリエッタの言葉にツッコんでから、ユーリは仕切り直すように言った。
「僕のおうち、改装工事終わったって! 食べ終わったら、みんなでルームツアー行こ!」
■
王都ケリオールの街の造りは、他国の首都と概ね同じ構造だ。
町の中心には王城。それを囲うようにして貴族用の居住区と、高級アパレル店や高級飲食店街が軒を連ねる区域がある。
更にそれを囲うようにしてオフィス街や各ギルドがあり、その外側に一般的な住宅街と冒険者向けの宿などが立ち並んでいる。
ちなみに、北は工房などが多く立ち並んでいるので、『職人街』、南には冒険者ギルドがあることから『冒険者街』と呼ばれていた。
ユーリの邸宅があるのは貴族用の居住区。それも、伯爵家やセレブ俳優などが居を構える、王都の中でも一等地に位置する場所だ。
十メートルはあろうかという巨大な門を抜けて、歩くことしばし。
「「「「「「「おぉ…………!」」」」」」」
勇者一行にカリナとハンナを加えた一同は、そこにたどり着いた。
上は三階建て、横は見渡す限りに壁が続いているような、巨大な白亜の豪邸。
しかも、
「おいバカ勇者……なんか増えてんぞ」
「うん。増築がメインの工事だったからねー」
そのとてつもなく大きな豪邸が、三つ。
本館が一棟。その両端から折れ曲がるようにして、一棟ずつ。
中庭を囲うようなコの字型の形で、どっかりと鎮座していたのだった。
「目の前のこれが本館ね。これはほとんど今まで通り、客間とか多目的会場、図書室、調理場、宝物や魔導具の保管庫、トレーニングジムとかだね。
で、左側棟が僕たちのアジト。あと僕のお部屋と僕たち用の調理場、小さいジム、シアタールーム、温泉、サウナとかが入ってるよー。
そんで右手の棟が丸々お客さん用の宿泊施設。1LDK~4LDKくらいまでの部屋を、60部屋くらい用意してあって、ジムも温泉もプールもあるから、みんなも好きなときに泊っていってね。
じゃあ、まず僕たちのアジトから行こうか」
ペラペラと頭のおかしいことを喋りながら、雄々しいライオンのレリーフが付けられた扉を開ける。ふかふかの絨毯が敷かれた大理石の床に、吹き抜けの高い天井。正面にある大階段から、二階と三階にいけるようになっており、そこにも十分な数の部屋があった。
絶対にこの棟だけでもどうにかなったと思うのだが、それをさらに二つ、ユーリはぶっ建ててしまったらしい。
マホはユーリの後ろをついて歩きながら、指先でこめかみを押し回した。
「元々頭おかしいくらい広い家だったけど、更にIQ1億くらい下がってやがる……」
「改装費用はその10倍ほどかかっていますけどね」
「え゛ぇッ!? セ、セイラさん、そ、それってつまり……10億ルードッ……!?」
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ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!?
ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。
「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。

