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勇者辞めますの真相編
12話 A子とB子と帝国勇者 イラストあり
飛空艇の点検を終えたユーリとマホ──結局あの流れでもう一回おっぱじまったので、さらに一同を待たせることになったのだが──は、セイラたちを船内に載せ、帝国へと旅立った。
「あっはっはぁ~~~! すっげ~~~!! 空飛んでるよ、空! 雲ちっか! 街小さ
っ! そんで速ぁ~~~!」
「いっぺんに十人以上も乗れるし、これなら飛行魔法いらずですね! 付与魔法も使わな
てて済むから、楽ちん楽ち~ん♪」
「すんすん……でもなにか匂いませんか? スルメみたいな匂い……」
「んっんー! セイラさん、それにみんなも、お菓子いっぱい持ってきたから、食べて食べ
て! ほら、スルメもあるよ!」
「あ、坊ちゃん、スルメくださいな。ちょうどおつまみ欲しかったんだ~♡」
「ん? ん? ブ、ブレイダさん、そのお酒、僕が楽しみに取っといたやつ……しかもそれ一番高いブランデーじゃない!?」
「てへ☆」
「可愛いので許します」
「わぁ~い! 可愛くて良かった~♡」
「……お前ら、ちょっとだけ静かにはしゃいでくんねえかな。こっちは高度7000メートルを運行中なんだわ」
と、初めての空の旅に、一同はおおいにはしゃぎ、あっという間に帝国へと辿り着いたの
だった。
……そこまでは、良かった。
そこまでは。
■
「この度は、遠路はるばるご足労いただき、まことにありがとうございます、勇者殿。いやあ、わざわざわたくしなどに表敬に来ていただけるなど、恐悦至極に存じます」
帝国に到着してから、謁見の手続きに一時間。
そしてさらに、十人も入れないようなこの小部屋に通されてから一時間。
自分から呼びつけておいて、二時間も勇者一行を待たせたその人物は、特に詫びることもなく一同の前に着席し、心にもない社交辞令を舌の上に乗せていた。
この小太りで初老の男性が、ルミエ帝国外務大臣、ガイム・グレイリス。
ユーリたちを帝国へと呼びつけた男である。
元は小さな領地の領主に過ぎなかったこの男が、このポストまで上り詰めることができたのは、たった一つの才能に恵まれていたからだと言われている。
剣の才、ではない。
魔法の才、でもない。
政(まつりごと)の才、とも言い切れない。大臣という要職を任される程度の器量はあるものの、それが突出しているかと問われれば、首を傾げざるを得ないからだ。
では、彼はどのような才に恵まれているのか。
「ああ、いえ、もう勇者ではないのでしたね。はは、失敬、失敬」
「………………っ!」
「……ファイフさん」
ガイムの言葉に腰を浮かせそうになるファイフを、セイラが小声で制した。
──人の足を引っ張り、蹴落とす才能。
ガイムをこの役職まで押し上げてきた才能は、それである。
他者の弱みや粗を探し、そこを徹底的に攻撃して、前線から退かせる。
『アンペルマン』を縛る条約規約も、この男が発案し、国連や『勇者連合』に可決させたものがほとんどだった。
ユーリの首につけられているチョーカーも、ガイムが提案したもので、管理権限も握られている。
ユーリが【勇装龍気】を発言させたら、たちどころにガイムへと連絡がいくようになっているのだ。
あらゆる形で、彼はユーリのことを雁字搦めにしているのだった。
しかもそれは、国益のためではない。
帝国内での自分の出世のため、だ。
強力な勇者の力が制限されることで、魔王軍へのけん制が薄れ、全人類の命が危険に晒されることになる。
が、それはそれ。
王国の勇者の力が弱まれば、帝国の勇者が幅を利かせやすくなり、ガイムの評価は上がる。
ゆえに彼は、容赦なく人類存亡の要を攻撃するのだ。
ガイムとは、そういう男だった。
そんな男に対して、最も被害を被っているユーリは……。
「いや~、そうなんですよ! 産まれたときから勇者って言われてたんで、なんか変な感じなんですけどぉ、でも旅行とか行けるから、それはそれでまあまあまあって感じですね! 僕ってほら、ほぼメディア出演してないから、あんまり顔バレしていないじゃないですか? だからどこ行っても顔指されないし、自由に動き回れるのが嬉しいですね~!」
めちゃくちゃ軽快にアイドリングトークをしていた。
ユーリにとってガイムとの会話は、腹の探り合い……つまり、完全な仕事である。
それゆえ、感情とは切り離して行うことが可能なのだ。
しかしセイラたちはそうもいかない。ガイムが嫌みを言うたび、下卑た笑いを浮かべるたび、感情が露出しないように──ファイフだけはあからさまにそれが漏れ出しているが──抑えるのに苦労していた。
そして、それを増長させる理由は、他にもある。
「ねえヘルデン様ぁ~、さっき行った店、メインの料理がクソマズかったんだけどぉ~」
「写真も全然いいの撮れなかったぁ~。なんで天井から真俯瞰で撮れねえんだよあの店。クッソ使えねえ」
「エニファーもビーリッシュもうるせえな。分ぁかったよ、今日の夜、ヒルトンエニーサイド連れてってやるからよ~」
ガイムの隣の席に座っている、ひとりの人物。
やたらと化粧が濃い女と、ずっとケータイを触っている女を両膝に乗せている、大柄な男。
帝国が新しく擁立した勇者、ヘルデン・ウォーデンだ。
帝国の勇者パーティ『FUCK THE STAR』のリーダーにして、ガイムが推挙して抱え上げた勇者である。
彼は入室した瞬間から、ユーリ一行とは一切目を合わせずに、侍らせている女の子とイチャついているのだった。
会話の内容から察するに、彼らが食事をしていたため、ユーリ一行はこの小部屋で待たされていたらしい。
そのうえ、こちらの存在を完全に無視し、女の子のお尻やら胸やらを触りながらニヤついているのだから、腹に据えかねるというものだった。
「お、ヘルデンくん、エニーサイド行くの? いいなあ~! あそこあれ美味しいよ。あの最上階レストランの、エビと舌平目のグラタン……」
「は? キモ。話入ってくんじゃねえよ」
時折ユーリが話しかけても、この対応である。一国の勇者に対して……いや、客人に対してとる態度ではなかった。
ユーリにそう吐き捨てて、ケバい系女子とケータイずっと持ってる系女子との会話に戻るヘルデンに、ファイフは殺傷効果を生みそうなほどきつい目で睨みながら、小声でボソりと、
「……ねえセイラさん。ごめん、あたしもう限界だわ。あいつらのアバラ、ちょっとだけつまんじゃっても大丈夫だよね?」
「チョコをのつまむ感覚で人のアバラを折らないでください。それに、そんなことをする必要はありません」
セイラはケータイを取り出し、タプタプとなにやらメールを打ちながら、
「エニーサイドホテルにも、うちの別班部隊が潜伏しています。彼らに頼んで、料理にトリカブトとカルフェンタニルを混入しておくように指示しますので、大丈夫ですよ」
「友達の機嫌取る感じで猛毒とダウナー系のデスドラック盛ろうとすんじゃねえよ。あとサラッと別班とか言うな、マジで」
ズビシッ、とセイラにチョップをするマホ。ユーリがデカい声で喋り続けているから良いものの、『アンペルマン』の特殊部隊の潜伏先を敵地で話すなど、とても正気とは思えない。
まあ、セイラもその程度には腹に据えかねている様子だし、自分の腹具合も似たようなものだが……。
「それで、勇者殿」
マホがそんなことを思っていると、ガイムが少しだけ前のめりになってそう告げる。
そして、そこからが本題だとばかりに、僅かに声のトーンを落とすと、
「……最近、『アンペルマン』の次席勇者のヒィロ様が、随分と頼もしくなられた、と……少し小耳にはさんだのですが……なにかあったのですかな?」
「…………」
『アンペルマン』内部の者にしか知り得ない情報を、さらりと口にした。
ユーリはニコニコ顔を少しも崩さないまま、少しだけ前のめりに座り直すと、
「いえ特になにも。うちのヒィロはずっと頼もしいですよ~! いやあ、先輩として立つ瀬がないですよ、ほんと!」
「なるほど、なるほど……しかし小耳にはさんだ話によると、なにやら勇者様とお話をされてから、急に様子が変わられたとのこと」
更に前のめりに座り直すと、ガイムは瞳の奥に鋭い光を灯し、
「困りますなあ、勇者殿。約束と違うことをされては」
「…………」
ピクリ、と、ほんの僅かにユーリの目元が微動し、そのニコニコ目の奥に、凄まじい速度で深謀遠慮が蠢いていくのが分かった。
駆け引きが始まった、と。
一同がそれを感じ取る中、ユーリは軽薄な口調のまま口を開いた。
「約束と違うこと? してませんよ~、そんなこと! そちらの提示した条件の通りに動きましたし、現にほら! 僕は勇者を引退することになった! その過程においての行動でヒィロさんの心理状況になにかしらの変化が生じたとしても、そこまでは僕の感知するところじゃありませんって~」
「意図的にそれを誘発したような節があるようですが、それは契約違反になるのでは?」
「意図的? ないない! そんなこと! 僕は契約に準拠した行動しか取っていません。ただ、そちらの無茶ぶりが過ぎたので、多少は乱暴な手段を使わざるを得ない場面もありました。そういったイレギュラーが積み重なって、そちらの意に沿う帰結とは齟齬が生じたのかも知れませんね~」
「ほう。目的が達成されなかった、と。ではやはり、約束が違うと言わざるを得ませんなあ」
「嫌だなあ、目標が達成されてないなんて言ってないじゃないですか~。僕はこうして勇者を引退して、後身に全てを譲った。『勇者連合』の理事の椅子だって、そこにいるヘルデンくんにあげました。約束はなにひとつ反故にされていませんよ~」
「過程無くして結論には辿りつきませぬ。あまり無責任なことをされては困ります」
「無責任なことなんてしてませんよぉ。あ~そうそう。サザン山脈で大暴走が起きそうなのって知ってます? いま国と冒険者ギルドが動いてて、『アンペルマン』からも討伐隊を派遣しようと思っているんですけど、帝国に出した書状の返信がまだ来ていないから、なんの身動きも取れないんですよね~。無責任っていうのはそういうことを言うんじゃないかなあ」
「それについては現在協議中です。両国の関係性に関わるデリケートな問題ですからなぁ。相応の時間がかかって然るべき案件かと。それを言い始めたら……」
と、互いに一歩も譲らないまま、口調だけは穏やかな激しい舌戦が繰り広げられていく。
ガイムは人を貶める才能しかない。
しかし、たったそれだけで現在の役職まで上り詰めた男だ。
少しでもウィークポイントを晒せば、ここぞとばかりにそこを攻撃され、更なる理不尽を要求されることになる。
一瞬たりとも気を抜くことが許されない舌戦は、その後も数分ほど続き、
「……まあ、いいでしょう」
大して面白くもなさそうに息をついてから、ガイムはそのように話を締め括った。
「いやあ、ご理解いただけてなによりです! ガイム大臣とは、今後も仲良くさせていただきたいですかね。双方に禍根が残るようなことがなくて、本当に良かった! 帝国と王国の関係も、僕らみたいに仲良しこよしになれればいいのにな~!」
ニコニコとしながら話に蓋をしつつ、ユーリは内心で冷や汗を拭っていた。ここまで来て条件を反故にされるようなことを言われたら、たまったものではない。
仮にそう来られたら、こちらも本気を出さざるを得なくなってしまう。
「ええ。わたくしも、斯くあらんことを切に願っております。
……それと、」
そんな物騒なことを思っていると、ガイムは不吉な笑顔を浮かべ、
「『勇者連合』に『魔導士連合』、『剣士連合』……そしてその上。
このガイムがどこに繋がっているか……努努お忘れなきようにも、切にお願いいたしまする。
……ねえ、ユーリ殿」
「……もちろんですよ♪」
互いに穏やかな──そして、その奥に刃を潜ませた笑顔を突き合わせてから、その日の会合はお開きとなった。
「あっはっはぁ~~~! すっげ~~~!! 空飛んでるよ、空! 雲ちっか! 街小さ
っ! そんで速ぁ~~~!」
「いっぺんに十人以上も乗れるし、これなら飛行魔法いらずですね! 付与魔法も使わな
てて済むから、楽ちん楽ち~ん♪」
「すんすん……でもなにか匂いませんか? スルメみたいな匂い……」
「んっんー! セイラさん、それにみんなも、お菓子いっぱい持ってきたから、食べて食べ
て! ほら、スルメもあるよ!」
「あ、坊ちゃん、スルメくださいな。ちょうどおつまみ欲しかったんだ~♡」
「ん? ん? ブ、ブレイダさん、そのお酒、僕が楽しみに取っといたやつ……しかもそれ一番高いブランデーじゃない!?」
「てへ☆」
「可愛いので許します」
「わぁ~い! 可愛くて良かった~♡」
「……お前ら、ちょっとだけ静かにはしゃいでくんねえかな。こっちは高度7000メートルを運行中なんだわ」
と、初めての空の旅に、一同はおおいにはしゃぎ、あっという間に帝国へと辿り着いたの
だった。
……そこまでは、良かった。
そこまでは。
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「この度は、遠路はるばるご足労いただき、まことにありがとうございます、勇者殿。いやあ、わざわざわたくしなどに表敬に来ていただけるなど、恐悦至極に存じます」
帝国に到着してから、謁見の手続きに一時間。
そしてさらに、十人も入れないようなこの小部屋に通されてから一時間。
自分から呼びつけておいて、二時間も勇者一行を待たせたその人物は、特に詫びることもなく一同の前に着席し、心にもない社交辞令を舌の上に乗せていた。
この小太りで初老の男性が、ルミエ帝国外務大臣、ガイム・グレイリス。
ユーリたちを帝国へと呼びつけた男である。
元は小さな領地の領主に過ぎなかったこの男が、このポストまで上り詰めることができたのは、たった一つの才能に恵まれていたからだと言われている。
剣の才、ではない。
魔法の才、でもない。
政(まつりごと)の才、とも言い切れない。大臣という要職を任される程度の器量はあるものの、それが突出しているかと問われれば、首を傾げざるを得ないからだ。
では、彼はどのような才に恵まれているのか。
「ああ、いえ、もう勇者ではないのでしたね。はは、失敬、失敬」
「………………っ!」
「……ファイフさん」
ガイムの言葉に腰を浮かせそうになるファイフを、セイラが小声で制した。
──人の足を引っ張り、蹴落とす才能。
ガイムをこの役職まで押し上げてきた才能は、それである。
他者の弱みや粗を探し、そこを徹底的に攻撃して、前線から退かせる。
『アンペルマン』を縛る条約規約も、この男が発案し、国連や『勇者連合』に可決させたものがほとんどだった。
ユーリの首につけられているチョーカーも、ガイムが提案したもので、管理権限も握られている。
ユーリが【勇装龍気】を発言させたら、たちどころにガイムへと連絡がいくようになっているのだ。
あらゆる形で、彼はユーリのことを雁字搦めにしているのだった。
しかもそれは、国益のためではない。
帝国内での自分の出世のため、だ。
強力な勇者の力が制限されることで、魔王軍へのけん制が薄れ、全人類の命が危険に晒されることになる。
が、それはそれ。
王国の勇者の力が弱まれば、帝国の勇者が幅を利かせやすくなり、ガイムの評価は上がる。
ゆえに彼は、容赦なく人類存亡の要を攻撃するのだ。
ガイムとは、そういう男だった。
そんな男に対して、最も被害を被っているユーリは……。
「いや~、そうなんですよ! 産まれたときから勇者って言われてたんで、なんか変な感じなんですけどぉ、でも旅行とか行けるから、それはそれでまあまあまあって感じですね! 僕ってほら、ほぼメディア出演してないから、あんまり顔バレしていないじゃないですか? だからどこ行っても顔指されないし、自由に動き回れるのが嬉しいですね~!」
めちゃくちゃ軽快にアイドリングトークをしていた。
ユーリにとってガイムとの会話は、腹の探り合い……つまり、完全な仕事である。
それゆえ、感情とは切り離して行うことが可能なのだ。
しかしセイラたちはそうもいかない。ガイムが嫌みを言うたび、下卑た笑いを浮かべるたび、感情が露出しないように──ファイフだけはあからさまにそれが漏れ出しているが──抑えるのに苦労していた。
そして、それを増長させる理由は、他にもある。
「ねえヘルデン様ぁ~、さっき行った店、メインの料理がクソマズかったんだけどぉ~」
「写真も全然いいの撮れなかったぁ~。なんで天井から真俯瞰で撮れねえんだよあの店。クッソ使えねえ」
「エニファーもビーリッシュもうるせえな。分ぁかったよ、今日の夜、ヒルトンエニーサイド連れてってやるからよ~」
ガイムの隣の席に座っている、ひとりの人物。
やたらと化粧が濃い女と、ずっとケータイを触っている女を両膝に乗せている、大柄な男。
帝国が新しく擁立した勇者、ヘルデン・ウォーデンだ。
帝国の勇者パーティ『FUCK THE STAR』のリーダーにして、ガイムが推挙して抱え上げた勇者である。
彼は入室した瞬間から、ユーリ一行とは一切目を合わせずに、侍らせている女の子とイチャついているのだった。
会話の内容から察するに、彼らが食事をしていたため、ユーリ一行はこの小部屋で待たされていたらしい。
そのうえ、こちらの存在を完全に無視し、女の子のお尻やら胸やらを触りながらニヤついているのだから、腹に据えかねるというものだった。
「お、ヘルデンくん、エニーサイド行くの? いいなあ~! あそこあれ美味しいよ。あの最上階レストランの、エビと舌平目のグラタン……」
「は? キモ。話入ってくんじゃねえよ」
時折ユーリが話しかけても、この対応である。一国の勇者に対して……いや、客人に対してとる態度ではなかった。
ユーリにそう吐き捨てて、ケバい系女子とケータイずっと持ってる系女子との会話に戻るヘルデンに、ファイフは殺傷効果を生みそうなほどきつい目で睨みながら、小声でボソりと、
「……ねえセイラさん。ごめん、あたしもう限界だわ。あいつらのアバラ、ちょっとだけつまんじゃっても大丈夫だよね?」
「チョコをのつまむ感覚で人のアバラを折らないでください。それに、そんなことをする必要はありません」
セイラはケータイを取り出し、タプタプとなにやらメールを打ちながら、
「エニーサイドホテルにも、うちの別班部隊が潜伏しています。彼らに頼んで、料理にトリカブトとカルフェンタニルを混入しておくように指示しますので、大丈夫ですよ」
「友達の機嫌取る感じで猛毒とダウナー系のデスドラック盛ろうとすんじゃねえよ。あとサラッと別班とか言うな、マジで」
ズビシッ、とセイラにチョップをするマホ。ユーリがデカい声で喋り続けているから良いものの、『アンペルマン』の特殊部隊の潜伏先を敵地で話すなど、とても正気とは思えない。
まあ、セイラもその程度には腹に据えかねている様子だし、自分の腹具合も似たようなものだが……。
「それで、勇者殿」
マホがそんなことを思っていると、ガイムが少しだけ前のめりになってそう告げる。
そして、そこからが本題だとばかりに、僅かに声のトーンを落とすと、
「……最近、『アンペルマン』の次席勇者のヒィロ様が、随分と頼もしくなられた、と……少し小耳にはさんだのですが……なにかあったのですかな?」
「…………」
『アンペルマン』内部の者にしか知り得ない情報を、さらりと口にした。
ユーリはニコニコ顔を少しも崩さないまま、少しだけ前のめりに座り直すと、
「いえ特になにも。うちのヒィロはずっと頼もしいですよ~! いやあ、先輩として立つ瀬がないですよ、ほんと!」
「なるほど、なるほど……しかし小耳にはさんだ話によると、なにやら勇者様とお話をされてから、急に様子が変わられたとのこと」
更に前のめりに座り直すと、ガイムは瞳の奥に鋭い光を灯し、
「困りますなあ、勇者殿。約束と違うことをされては」
「…………」
ピクリ、と、ほんの僅かにユーリの目元が微動し、そのニコニコ目の奥に、凄まじい速度で深謀遠慮が蠢いていくのが分かった。
駆け引きが始まった、と。
一同がそれを感じ取る中、ユーリは軽薄な口調のまま口を開いた。
「約束と違うこと? してませんよ~、そんなこと! そちらの提示した条件の通りに動きましたし、現にほら! 僕は勇者を引退することになった! その過程においての行動でヒィロさんの心理状況になにかしらの変化が生じたとしても、そこまでは僕の感知するところじゃありませんって~」
「意図的にそれを誘発したような節があるようですが、それは契約違反になるのでは?」
「意図的? ないない! そんなこと! 僕は契約に準拠した行動しか取っていません。ただ、そちらの無茶ぶりが過ぎたので、多少は乱暴な手段を使わざるを得ない場面もありました。そういったイレギュラーが積み重なって、そちらの意に沿う帰結とは齟齬が生じたのかも知れませんね~」
「ほう。目的が達成されなかった、と。ではやはり、約束が違うと言わざるを得ませんなあ」
「嫌だなあ、目標が達成されてないなんて言ってないじゃないですか~。僕はこうして勇者を引退して、後身に全てを譲った。『勇者連合』の理事の椅子だって、そこにいるヘルデンくんにあげました。約束はなにひとつ反故にされていませんよ~」
「過程無くして結論には辿りつきませぬ。あまり無責任なことをされては困ります」
「無責任なことなんてしてませんよぉ。あ~そうそう。サザン山脈で大暴走が起きそうなのって知ってます? いま国と冒険者ギルドが動いてて、『アンペルマン』からも討伐隊を派遣しようと思っているんですけど、帝国に出した書状の返信がまだ来ていないから、なんの身動きも取れないんですよね~。無責任っていうのはそういうことを言うんじゃないかなあ」
「それについては現在協議中です。両国の関係性に関わるデリケートな問題ですからなぁ。相応の時間がかかって然るべき案件かと。それを言い始めたら……」
と、互いに一歩も譲らないまま、口調だけは穏やかな激しい舌戦が繰り広げられていく。
ガイムは人を貶める才能しかない。
しかし、たったそれだけで現在の役職まで上り詰めた男だ。
少しでもウィークポイントを晒せば、ここぞとばかりにそこを攻撃され、更なる理不尽を要求されることになる。
一瞬たりとも気を抜くことが許されない舌戦は、その後も数分ほど続き、
「……まあ、いいでしょう」
大して面白くもなさそうに息をついてから、ガイムはそのように話を締め括った。
「いやあ、ご理解いただけてなによりです! ガイム大臣とは、今後も仲良くさせていただきたいですかね。双方に禍根が残るようなことがなくて、本当に良かった! 帝国と王国の関係も、僕らみたいに仲良しこよしになれればいいのにな~!」
ニコニコとしながら話に蓋をしつつ、ユーリは内心で冷や汗を拭っていた。ここまで来て条件を反故にされるようなことを言われたら、たまったものではない。
仮にそう来られたら、こちらも本気を出さざるを得なくなってしまう。
「ええ。わたくしも、斯くあらんことを切に願っております。
……それと、」
そんな物騒なことを思っていると、ガイムは不吉な笑顔を浮かべ、
「『勇者連合』に『魔導士連合』、『剣士連合』……そしてその上。
このガイムがどこに繋がっているか……努努お忘れなきようにも、切にお願いいたしまする。
……ねえ、ユーリ殿」
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※小説家になろう様にも掲載しています。

