【完全版製作記念連載再開】金貨1,000万枚貯まったので勇者辞めてハーレム作ってスローライフ送ります!!

夕凪五月雨影法師

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勇者辞めますの真相編

14話 奴隷紋×陰謀  イラストあり

「あれ? なあヒィロ、セイリーヌのヤツ、どこ行ってん?」

『アンペルマン』アジトの大講堂にて。
 幹部会を終えたシークエンスは、周囲を見回しながらそう告げた。

「さっきまでウチの後ろの席に居ててんけど……なんかあいつ、ちょいちょいそういうことあるよなぁ~」
「事務作業で忙しいのですよ。彼女にはかなり負担をかけてしまっていますからね」

 ヒィロはデバイスと資料を手に大講堂を後にして、シークエンスもそれに付き従った。こちらはこちらでやることが山積みなのだ。
 中でも、目下の大きな問題は……。

「……勇者引退の件、幹部連中はまあまあ飲み込んでるみたいやけど、やっぱ下のもんは納得できへんよなあ」
「……そうですね」

 ヒィロは無感慨に答えながら執務室へと歩を進め、シークエンスはキャップ越しに頭を掻いた。
 ヒィロのスピーチのおかげで、ユーリ引退による混乱は最小限で済んだ。
 が、その動揺や不安心まで拭い切れたわけではなく、未だに一般のメンバーの間には、不穏な空気が流れ続けているのだ。

 とりわけ皆が気にしているのは、ユーリ引退の真相だ。
 セイラからは体調不良が原因だと説明は成されたが、ついこの間魔王軍四天王の一角を討ち取り、『勇者連合アーサー』の理事のひとりとして精力的に活動していたユーリである。
 体調が悪いなどと言われても、俄かには信じられるわけがなかった。
 どんな組織であっても、不自然な形でトップが入れ替わると、大なり小なりの混乱を招くものだ。

 ユーリ引退の正当性と妥当性、そしてその信ぴょう性。
 一般団員の求めているものは、そういった情報だった。
 退任式にいた幹部メンバーだけはそれを知って──知っているだけで、到底納得できるものではないが──いるが、それを直接話すわけにもいかず。
 一般メンバーを『納得』させることが、目下の大きな課題となっていた。

(……って、そんなんウチが気ぃ揉むのも、おかしな話やねんけどな~)

 ヒィロがこちらを見ていないのを確かめてから、シークエンスは罪悪感を乗せた溜息を吐き出す。
 シークエンスは、ユーリ引退の真相を知っている。
 退任式でユーリがのたまわったようなふざけた理由ではなく、彼が退、真の理由を知っているのだ。

 幹部メンバーの中には、シークエンスと同じように、ユーリに真相を話された者たちが何人かいる。
 いずれも、清濁併せ吞む倫理観を持ち、小器用な立ち回りを得意とする者たちだ。
 つまり、ことの真相を知っても、仕方のないことだと割り切れる者たちだ。
 こんな理不尽なことに納得などできない。
 しかし、これが政治であると、最低限の理解は示せる者たち。

 ユーリは彼らに協力を仰ぎ、引退の準備を着々と進めていた。
 退任式でのシークエンスの立ち振る舞いもその一環だ。ユーリにヘイトを向けるため、事前に打ち合わせをしたうえで、ユーリに食って掛かったのだ。
 ユーリはクランを守るため、愛するクランの皆に嫌われるように立ち回ったのだった。

(アカン、思い出したら泣けてきた……ってか腹立って来たわ。あのボケカス大臣! どうにかトーク履歴盗み出して、センテンススプリングに売ったろかな)

 暴露系週刊誌の有料ネット記事に、あの大臣の顔が載り、そこにバッドコメントをつけまくったらどんなに気持ちいことか……などと考えたところで、アカンアカンと首を振る。
 そんなことをしたら、ユーリやセイラたちの苦労が水の泡だ。
 ユーリが辞めた真相を国民に、そしてなにより、ヒィロに明かすわけにはいかない。
 堅物の彼女には、到底飲み込めるような話ではないからだ。

(ごめんなあ、ヒィロ。半年……いや、一年くらいして落ち着いたら、ちゃんとほんまのこと話したるからな。ってかまあ、勇者のほうから説明されるやろうけど)

 とはいえ、それも『アンペルマン』の体勢を立て直してからだ。
シークエンスは気持ちを切り替えると、ヒィロの小さな後ろ姿に声をかけた。

「なあヒィロ、やっぱりな、クランに所属してるパーティを一組ずつ呼び出して、ちゃんと思ってる事の聞き取りをしたほうがええと思うねん。時間も手間もかかるけど、それが一番確実……」
「時間も手間もかかり過ぎですよ。そんなことをしているうちに、多くのパーティが『アンペルマン』から離れていってしまう」

 にべもなく言い放つと、ヒィロは振り返ることもせずに、


「……少し、強硬手段に出る必要があるかも知れませんね」
「……は?」

 不吉な言葉を言い置いて、ヒィロは執務室へと消えていくのだった。





「……報告は以上です」

『アンペルマン』内部にある、セイリーヌが書斎代わりに使っている小部屋にて。
 セイリーヌが報告を終えると、念話の相手──ガイム大臣はつまらなそうに鼻を鳴らした。

『……つまり、大した動きはないということだな。ふん、メールでも済むような内容を長々と……。時間を無駄にした』
「……申し訳ありません」

 些細なことでも報告をして来い、と、セイリーヌに厳命しているのはガイムのほうである。
 が、自分の求める情報が報告内容に無いと、いつもそのような悪態をつき、一方的に念話を切るのだった。
 横柄な態度。暴力的な口調。そして身勝手な振る舞い。
 彼を構成する要素の中で、好きになれるものなどひとつもなかった。
 ──もっとも、こんな男に仲間の情報を売っている自分自身のことが、一番好きになれないのだが……。

『……なんだ、その言い方は? なにか文句でもあるのか?』
「…………」

 そんなマイナスの情緒が、言葉に出てしまっていたらしい。
 あるいは、ユーリとの会合で思うような結果を得られず、単に機嫌が悪かっただけかもしれないが、ともかく──。
 彼は、その言葉を口にしてしまった。

『ふむ……少し仕置きが必要なようだな──隷属魔法【奴隷紋】発動』
「ちょっ!? ガイム様! おやめくださっ……うあぁっ!」

 途端、胸元にタトゥのような紋様が浮かび上がり、そこから強烈な痛みが迸る。
 セイリーヌは窓にもたれかかると、叫び声を押し殺すように懇願する。

「んん、んっ、ん、んん……!! お、おやめください、ガイム様……!」

 かけた者に強烈な痛みを与える魔法【奴隷紋】。
 相手を屈服させることが目的の魔法・隷属魔法の一種である。
 セイリーヌは幼い頃から、ガイムへの隷属の証として、これを刻みつけられていた。

『……帝国で路頭に迷っていたお前と、お前の家族を救い、面倒を見てやったのは、どこの誰だ?』

 こちらの訴えを無視し、ガイムは冷たい声でそのような質問を投じる。
切れ目なく与えられる痛みに抗いながら、セイリーヌは引き結んだ口を僅かにほどき、

「ガ、ガイム様……です」

 そう。
 それは事実なのだ。
 帝国での権力争いに負け、没落貴族となったセイリーヌの家族を召し抱えたのは、このガイムだ。

 しかし、セイリーヌは知っている。
 その権力争いは、ガイムによって引き起こされたものだということを。
 セイリーヌの父親は、それに巻き込まれて没落したということを。
 そして彼がセイリーヌの家族を召し抱えたのは、まだ幼かったセイリーヌの身体が目当てだったということを。
 セイリーヌは、知っているのだ。

『そしていまなお、お前の家族の面倒を見ているのは、このわしではないのか!?』
「…………っ!」

 それは、違う。
 面倒を見ているといっても、田舎の貧しい領地の代官という閑職を与え、飼い殺しにしているだけだ。
 言うなれば人質。
 セイリーヌが命令に逆らうことがあれば、父親と母親、そして妹ふたりの命は……!

『答えろ、セイリーヌ!』
「ひぎぃ!!」

 ガイムが叫ぶと同時、込み上げてくる痛みが倍増した。
【奴隷紋】は、送り込む魔力の量を増やすことで、与える痛みの量も増やすことができる。
 いきなりこんな量の魔力を送り込まれたら卒倒しかねないが、ガイムはそんなことを気遣うような人間ではない。
 人を壊すことなど、なんとも思っていないのだ。

「ガ、ガイム様! ガイム様、です! うう、うっ!」

 この地獄を終わらせるため、セイリーヌは涙声でそう叫ぶ。
 逆らうことなどできない。

『お前の主人は誰なのだ!? ああ!? 言ってみろ、汚い雌豚が!』

 ──例えそれが、殺したいほど憎い相手であっても。

「ガ、ガイム様! ガイム様です! 申し訳ございません、申し訳ございません!!」
『ふん……分かればいいのだ、奴隷が』

 そこでようやく痛みが治まり、ガイムは冷酷な口調で告げる。

『ともかく、こちらは計画通りにことを進める。お前も仕掛けと準備を怠るな』

 そこで彼の声に、僅かに喜色が混じり、

『『アンペルマン』を完全終わらせるための、準備をな……!』

 吐き捨てるようにそう告げると、ガイムは一方的に念話を切った。
 同時に奴隷紋も消え去り、痛みの波が引いていく。
 そしてセイリーヌの中に残ったのは、怒りや悲しみだけだった。

「はあ……あァ……あっ……あぁ……」

 セイリーヌは床にへたり込む。
 身体が重い。
 奴隷紋による痛みの所為でもあるが、それだけではない。
 悔しさと怒り、悲しみ、苦しみ……。
 そして、罪悪感。
 あらゆる負の感情が質量を持ったかのように、身体へとのしかかってきて、立つことができない。

「……ぅぐ……ぐす、ひっく……うぅ……」

 自分はいつまで、こんなことを続ければいいのか。
 あの優しいヒィロを、シークエンスを、そしてユーリたちを、いつまで欺き続ければいいのか。
 自分さえいなければ、きっとユーリたちだって、引退することなどなかった。
 自分が情報を流し続けた所為で、彼らは……。


「うぅ、ぅ……ごめんなさい、ごめんなさい……ひっく、ごめんなさい……」

 そのままセイリーヌは、しばらく泣き続けていた。
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