【完全版製作記念連載再開】金貨1,000万枚貯まったので勇者辞めてハーレム作ってスローライフ送ります!!

夕凪五月雨影法師

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ざまぁされたらやり返す編

26話 言うべきこと、やるべきこと  イラストあり

 時間は、少し前へと遡る。


「……セイリーヌさん、君が帝国のスパイだったなんて」

 ユーリはそう言って、悲しみに暮れる女スパイの元へと近づいていった。
 そして目の前にそっと膝をつき、彼女の肩に優しく触れると、

「──そんなの、気付いていたに決まってるじゃないか」
「……へ?」

 と、頓狂な声を上げるセイリーヌ。
 ユーリはにっこりと微笑みながら、懐からケータイを取り出すと、

「こっちはそんな感じなんだけど、そっちの首尾はどう?」

 そう訊ねると、念話をかけっぱなしにしていたケータイの向こうから、おしとやかな声と快活な声が返って来た。

『つい先ほど、全員の救出が終わったところですわ』
『いやぁ~。計画が四日も早まったって聞いたときには、マッッジで焦ったけど、どうにかこうにかなるもんだね~』
「うわー! マジで良かった~! ほんっとありがとうふたりとも! 映像通話に切り替えて貰ってもいい?」
『ん~。まだ追手から逃げてるところだからアレだけど……ちょっとだけならいいよ~ん』
「ありがとう! セイリーヌさん、これ見て、これ!」
「……え、え?」

 と、訳も分からないまま会話を聞いていたセイリーヌの目の前に、ケータイの画面が提示された。
 そこには映し出されていたのは、うす暗い馬車の荷台だ。
 その中にいる人物は……。

「お、お父さん! お母さん!?」

 セイリーヌの父と母、そして幼い妹ふたりも、静かな寝息を立てながら、母の手に抱かれているのだった。
 父親はセイリーヌに気付くと、食い入るようにして画面へと近づいて行った。

『セイリーヌ……セイリーヌか!? お前、いまどこにいる!? 無事なのか!?』
「父さんたちこそ、大丈夫なの!? というか……えっと、ど、どういう状況!?」
『い、いや、私たちにもよく分からんのだ……。屋敷にいたところを、そ、そこにいる方たちに、急に連れ出されて……』

 と、ケータイの持ち主に向けて、あからさまに不審な目を向ける。
 それに気づいた撮影者は、「あぁ」と声を上げて、インカメラへと切り替えた。
 そうして映し出されたのは、フルフェイスのマスクをかぶったふたりの女性だ。

『ごめ~ん。こんなマスクしてたら、不審者全開だよね』
『ですわね。もう正体を明かしてもよろしいのでは?』
『だねだね。もう辞めるしね~♪』
『そういう問題でもないのですが……』

 そう言って、二人同時にマスクを取り外し、露わになったその顔は……。

『勇者直属隠密機動部隊隊長、カリナ・ブランシェットだよ~♪』

『同じく副隊長、ハンナ・ブランシェットですわ』

「…………っ!」

 勇者直属隠密機動部隊。通称『別班』。
 その大物二人の自己紹介に、セイリーヌは思わず瞠目した。
 セイリーヌがいくら調査をしても、尻尾のひとつも見せなかったふたりなのだが……。
 いや、どうでもいい。
 そんなことは、もうどうだっていいのだ。
 そうではない。
 セイリーヌが言うべき言葉は、そうではないのだ。

「……お、おふたり、が、私の家族を、た、助けてくださったの、ですか?」

 震える声でそう訊ねると、カリナとハンナは優しく微笑み、

『にひひぃ。そだよー。今回はガイムがだいぶ大きく動いたからね。その隙に連れ出したったー!』
『セイリーヌさん、でしたわよね? お父様とお母様、そして可愛らしい妹さんおふたりは、必ずあなたの元まで送り届けて差し上げますわ。安心して待っていて下さいまし』
「……ああ、あ、ああぁ……!」

 ありがとうございます。
 その一言すら言えず、セイリーヌは再び泣き崩れてしまった。

 ガイムよって、身柄を縛られていた家族。
 そして、心を縛られ続けてきたセイリーヌ。
 その鎖が消え去る日が来るなど、思ってもみなかった。
 ──人間に戻れる日が来るなど、思ってもみなかったのだ。

「で、でも、どうし、て……?」
『どうしてって、そりゃあ……ありゃ?』

 と、それまで柔和な笑顔を浮かべていたカリナの顔が、険しいものへと切り替わった。

『ごめん勇者。追手が近づいてきちゃったっぽい。一旦切るね』
「うん、マジでありがとう、カリちゃむ、ハンナさん! 気をつけて帰ってきてね!」





「勇者様の配下の方たちであるとは知らず……無礼な態度を取ってしまい、まことに申し訳ありませんでした!」
「あ~。いいのいいの。カリナたちも名乗んなかったし」

 セイリーヌの父親、セイジャ―の謝罪に、カリナは馬車の幌をめくり上げながら言葉を返す。追手はまだ遠いが、一本道を走っているので、すぐに近接してくるだろう。
 頭を上げたセイジャ―は、横目で妻と娘二人を視界に収めながら、

「そして、また、家族五人で暮らせる日が訪れるとは……」

 感極まったような声を出す彼だったが、次の瞬間にはクっと顔を引き締め、小さな杖を握り直した。
 
「私もAクラス賢者セイジの端くれです! 迎撃のお手伝いをさせてください!」
「わおっ、イッケおじ~! 奥さんいなかったら、パパ活申し込んじゃってたかも♡」
「ありがとうございます、セイジャ―様。しかし、ご心配には及びませんわ」

 カリナとハンナはそう言って、懐に手を差し入れると……。
 彼女らの細腕には似つかわしくない、大口径のリボルバー拳銃を取り出した。

「わたくしたちには、これがありますので」
「銃、ですか……」

 銃、ないしは拳銃と呼ばれるもの。それは確か、機械仕掛けによって、火薬の詰まった弾を打ち出すといった代物だったはずだ。
 下位のレベル帯に属するモンスターになら、一定の効果が見込めると聞いたこともあるが……。

「それでは、敵の結界魔法に防がれてしまうのでは?」

 そう。銃には結界魔法を破れるほどの貫通力はないのだ。ゆえに、魔法使い相手には通用しないし、【気】をその身に纏える剣士や拳闘士にも効果が薄いという。
 それでいて恐ろしく値が張るため、市井にはあまり流通せず、要人が護身用に持ち歩く程度の用途に落ち着いてしまっているのだった。

「そだね~……。まっ、普通の弾なら、ね」

 ふたりはサムピースを押してシリンダーを横にズラし、手早く弾を入れ込んでいく。ガシャン、と、手首のスナップでシリンダーを戻すと、ふたり同時に追手へと狙いを定め、

「魔弾【炸裂弾ブレイクバレット】」
「魔弾【氷結弾アイシングバレット】」

 ガゥンッ! と、ほとんどひとつに重なって響いた銃声。
それに送り出された弾丸は、片方は追手の馬車の手前で爆裂し、もう片方は隣の馬車の一部を氷結させ、両者ともに派手に転倒をさせた。

「こ、この距離で、なんて精密な射撃を……!」

 魔弾なるものの効果もさることながら、セイジャ―はそちらのほうに驚きを禁じ得なかった。この銃の有効射程がどれほどかは知れないが、遥か遠方に見える敵の馬車を正確に撃ち抜くなど、自分の持つ攻撃魔法では不可能だった。
 そんな神業を披露したカリナとハンナは、しかし軽い調子で不敵な笑みを浮かべると、

「まぁね~。カリナたち一応、Sランクの狩人ハンターだし」
「その前は暗殺者アサシンでしたけれどね」
「その片手間でコックさんやってま~す♡」
「一応、いまはそれが本業なのだけど……」

 そんな軽口を叩きながら、ふたりは迎撃を続けていくのだった。
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