三十路共の戯れ

おもちのかたまり

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セクハラ死すべし慈悲はない

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「では、こちらがギルドカードになります。」

教会を後にしてすぐ。大聖女なんて書かれてる認定カードを身分証として使うことが難しい私と、同じく私の所為で使えないゼロさん二人分の新しい身分証を作ろう。という事で、話に上がったのは冒険者ギルド。他にも商業ギルドとかでもいいらしいけど、登録人数が多くかかる税金も少ないから王様に探されたときに見つかるまで時間がかかって便利だろう。という事で冒険者ギルドで決定した。なにより、ゼロさんは冒険者登録しないと剣を持ち歩けないそうなので。…武器だもんね。当たり前か。

「ありがとうございます。」

名前を書いて、渡されたカードに血を垂らすとカードの色が赤褐色に変わり登録終了。ううん、謎技術。魔道具らしいけれど、そもそも魔道具がなんなのかわからないからね。仕方ないね。それよりカードの受け取りの時に受付のおねぇさんに二度見されたけれど、なんだったんだろう?

カードに書かれた名前に年齢・性別はわかるけれど、顔写真はどうやって撮ったんだ?撮られた覚えがないよ。認定カードの情報は反映されないそうだから、顔が載ってても大丈夫だろう。空いている席に座り、出来立てほやほやの冒険者カードの情報を読んでいると、とんでもないことに気が付いた。

「あっ!身長に体重まで載ってるじゃないか…ッ!なんてカードだ!」

何で知ってるんだ!と戦慄していると、ゼロさんが笑いながら開示設定の仕方を教えてくれて、即座に非表示にした。操作がタッチパネル式なのすごいな。基本は名前と顔とランクが表示されていれば問題ないらしい。名前と写真の後ろ、透けるように大きくFと書かれている。最低ランクだそうだけれど、ただの身分証だから気にならない。

「あれ、ゼロさんはFじゃないんですか?」

「昔に作ったものを更新した。」

銀色のカードにはBと書かれていて、ゼロさんのフルネームに今の顔が映っている。

「ランクが低いと入れない場所もある。総じて浄化が必要な、魔物が湧き出る土地だ。必要に応じてシンジョウのランクも上げよう。」

「…私の運動神経ゴミですよ?」

「ははっ、見ていればわかる。」

言外に戦えないとアピールすれば、何を思い出したのか笑っているゼロさんに、ぬかしよる…。と笑い返したらんん゛っと咳払いされた。くそう、後で覚えてろよ。

「高ランク者が付いていれば、ランクを飛ばして受注することもできる。俺がBランクだから、シンジョウもBランクまで同行できるぞ。Aランクの依頼は俺しか受けられないが…その時は良い子で留守番していてくれ。」

「いや、一人で依頼受けますよ。子供じゃないんだから。」

アルたんの過保護がうつったんですか?と、頭を撫でてくる手を叩き落とす。なんで煮えきらない顔してるんだい。女性の頭を許可なく触ったら嫌われますよ。

「顔がいいからって、何をしても許されると思ったら大間違いだぞ!」

「そうだそうだ!」

おや?私が言ったのかと思って同意したけど、男の人の声だったないま。辺りをきょろきょろ見回すとゼロさんが斜め下を嫌そうに見つめているのに気が付いた。視線の先を追うと、ニコニコ笑う人懐っこそうなおっさんが一名。しゃがみ込んでこちらを見ていた。

「よぉ嬢ちゃん。ロックスの彼女か?」

「どちらかというと保護対象者ですね。」

IT'S ME。と付け足しながら親指でくいっと自分を指さすと、おっさんが愉快そうに笑っている。陽キャオーラ凄いな。ロックスってゼロさんのことだろう。嫌そうな顔で見ている辺り、ゼロさんも知っている仲で間違いないようだし。

「で?騎士団長様はこんなとこで何やってんだ?」

「お前に説明する必要性を感じない。」

おお、冷たい。淡々と返事をしているゼロさんに、でも仲が悪そうというより気安い?ウィリアムとジョセフの名作感があるな。給仕さんが出してくれたお茶を飲みつつ、茶々でも入れてみようかな。

「オレとお前の仲だろ?兄ちゃんに話してみろよ。」

「お前のような兄は御免だ。」

「つめてぇな。嬢ちゃんもそう思わねぇ?」

取りつく島もなく切り捨てられる様が面白くて観戦していたら、水を向けられてしまった。ふむ。

「関係性が美味しそうなので、どうぞ続けてください。」

「茶菓子感覚で眺めるんじゃない。」

にっこり笑って続きを催促したら、ゼロさんに叱られてしまった。さっきの仕返しだから反省する気がないので、てへっぺっろ~☆と返しておく。…やめてそんな目で見ないで。チベットスナギツネみたいな目で見ないで。

「ふ~ん?なぁ嬢ちゃん、名前は?」

「知らないおじさんに名乗るなって、保護者からきつく言われてるんですよねぇ。」

ゼロさんと私を面白そうに見てくるおっさんに笑って返すと、にこやかだったおっさんの目が、その奥が笑っていないことに気が付いた。でも名乗ってこない奴に名乗る名前なんてないんだYO。大人のマナー講習にでも行ってくれ。名前を聞くときはまず自分から!

おっさんにバッチバチに笑い返し続けていたら

「面白れぇ嬢ちゃんだな。」

ふぅん。と顎を撫でて私に向かってごつい手が伸びてきて。

「触るな。」

動かずに眺めていたらゼロさんがおっさんの手首を掴んで止めた。保護者ですからね。まぁそうなりますわ。頬杖をついたまま静観していると、おっさんがゼロさんと私を交互に見て、瞬間、大笑いしだした。

「ロックスお前、少女趣味かよ!」

「誰が少女趣味だ。殺すぞ。」

ゼロさんからピリピリする圧迫感が来るけれど、殺気って奴だろうか。生まれて初めての殺気体験なう。流れ弾だからまだ生きてるよ。生暖かく見守ろうと思ったけどこれはゼロさんが不名誉すぎるよねぇ。仕方ない止めるか。

「私は30歳ですよ。」

「…は?」

「30歳です。」

はい。と出来立てのギルドカードを見せる。下の方に年齢が乗ってるからね。名前はこの際仕方ない。カードと私を二度見して、おっさんが神妙な顔で黙った。

「嬢ちゃん、魔女か?」

「魔女?」

そんなものまでいるのかこの世界。首を傾げると、おっさんはドワーフにしては筋肉が…エルフ…顔が…とぶつぶつ言っていて、心ここにあらずという感じだ。一瞬失礼なことを言われた気がするんですけど。それにしても私はそんなに幼い顔ではないはずなのに、なんで間違われるのか…いやまて。辺りをぐるっと見回す。ギルド内にはカラフルな髪や眼の西洋人達が。そう、長い手足に豊満な身体をお持ちの…そしてその中には東洋人顔の人間なんていなかった。

「海外で日本人が子供に間違えられるアレか…。」

オーマイガ。顔に手を当てて天井を仰ぐ。西洋人に比べれば低身長に低い鼻と小さい眼。発育もそこそこじゃぁ間違えられるよなぁ。どうしようもない現実に気が付いてしまってため息が漏れた。

「いや、その。確かにシンジョウは小さいが、可愛らしくていいんじゃないか?若く見られるのも、老けて見られるよりいいと思う。」

しょんぼりなうしていたら、慌てたようにゼロさんにフォローされてしまった。明らかに女性を慰め慣れていない言い方に笑ってしまう。

「何事にも限度が…。まぁいいです。ありがとうございます。」

ゼロさんが最初驚いていたのも、本当は25歳どころじゃなく未成年に見えていたのかな…。もしや受付のおねぇさんが二度見してきたのも…?なんとなく察して、黙る。まさか毎回、知り合う人に説明する羽目になるとはこの時思っていなかった。

「つまり、リンは合法ロリってことか。」

「勝手に名前で呼ぶのやめてくれませんかねぇ。」

何が合法ロリだ。その概念この世界にあるんか。と拳を握ると、おっさんが勝ち誇ったように笑って私からでは届かない距離に下がられたけれど、そっちではゼロさんが拳を握ってますぜ。

ゴッ!

と岩でも叩いた様な凄い音が鳴って。脳天かち割れたんじゃないかな?しゃがみ込んで痛みに耐えているおっさんを鼻で笑う。

「女の容姿を揶揄うものではありませんよ。おっさん。」

「いってぇ…。誰がおっさんだ…。大して変わらねぇだろうが…。」

「あら、ごめんなさい。名前も年齢も存じ上げないものだから。」

にっこり笑うと、恨めしそうに睨まれた。涙目で睨まれても怖くありませんよ。

「名前はダズビー、歳は36。揶揄って悪かった。」

謝るからあれ止めてくれ。と今だ拳を握っているゼロさんを指差している。ちら、とゼロさんを見ると目が合って、ため息をつきながら拳を収めてくれた。うむ。私の保護者強いな。

「ゼロさんのお友達ですか?」

「腐れ縁だな!」

「同業でも友人でも仲間でもなく、家族でもなく…腐った縁なら、猫と鼠の関係?」

ニカッと白い歯を輝かせて笑うダズビーさんに、聞いてみる。悪友かな。きょとんと眼を見開いた後、思わせ振りに赤茶色の目を細め同色の髪かき上げてニンマリ笑っている。ゼロさんが紺色の髪に青い目で寒色だし、ダズビーさんが暖色系だから眼が賑やかだなぁ。黄色が来たら三原色がそろうわ。

「シンジョウ、こいつのことは気にするな。忘れろ。それよりそろそろ買い物に行かないと、店が閉まるぞ。」

「おっと、それは困ります。行きましょう。」

ため息ひとつ落とすゼロさんに急かされ席を立つ。身分証は出来たし、詳細の確認は宿でもできるからね。出口に向かって歩こうとしたら、ひょい、と誰かに抱えられた。

「うぉ、本当に小せぇな。」

お腹に丸太みたいな腕を回されて、背中が腹筋か何かにぶつかっていて温かい。言動的にダズビーさんに抱えられたのだろう…ぞわっと鳥肌が立つ。いや、陽キャで済まされんぞ。セクハラだこれは。

「…おっさんの温もりとか感じたくないんで、離してくれませんかねぇ。」

顔がいいからって許されると思うなよ…。と恨み言の様に呟くと、笑っているのか背中に当たる腹筋が揺れている。何とか降りようと藻掻いても足がまったく床に届かない。ぐぬぬ、巨人しかいないのかこの世界は。

「ダズでいいぞ。リンは特別にな。」

「うげぇっ」

背後からの楽しそうな提案に吐き気がした。すまんね、素直なんだ。私の物言いが面白いのか、頭上から笑い声が聞こえるがなにも嬉しくないぞ。親しくもないおっさんの特別扱いとか気色悪すぎて鳥肌が立つ。チキンスキンで空飛べそう。敬称なんて要らないわこんなヤツ

「うおっ!あっぶねぇ!」

ブンッ!と風を切る音がして、ダズビーの態勢が崩れた。見ると、さっきまでダズビーの頭があったであろう位置に、ゼロさんの足が。…足なっが!どうなってんだ。

「触るなといった。」

「恋人じゃねぇならいいだろ少しくらい。」

キレ気味のゼロさんが面白いのか、ご機嫌なダズビーがゼロさんを煽っている。保護者から保護対象攫うなんて、そりゃあキレられますよ。アルたんに職業強要されてるんだもの。…ゼロさんほんとごめんなさい。

私を抱えたままではやはりゼロさんの攻撃が避け辛いのか、うわの空で考え事をしている間に床に下ろされた。おお、放り投げられるかと思ったけれど、案外ちゃんとして

「あ、結構デカいな。」

背後から胸を鷲掴みにされている。驚きすぎて頭が真っ白になっている間にもでかい両手に持ち上げるみたいに寄せられた胸をむにゅむにゅ揉まれて、関心するみたいな言い草が降ってきた。

「死ね。」

「おおっと!?」

「強制猥褻、迷惑行為、営業妨害…。今日こそ牢にぶち込む。」

「なんだよやっぱり恋人だったのかぁ?」

ぎゃんぎゃんと目の前で言い合って暴れまわっている図体のデカい男二人。真っ白になった頭の中に、じりじりと怒りが湧いてくる。まぁね、私だって三十路にもなって生娘じゃないんだから、そんなに騒ぐ必要がないのはわかってますよ?でもだからって無断でおっさんに触らせるほど、価値のない身体だとは思ってないわけで。毎日推し事の為に自分磨きして、コラボカフェで逢瀬を重ねたりするわけで。そのためにボディメイクだ温活だって、金もかけた血の滲む努力だってしているんですよ。全ては愛するマリカたんの為に。…決して、おっさんに触らせるためではない。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



ひらひらと攻撃を避けては笑うダズにイラつく。いつの間にかギャラリーができて、どちらが勝つか賭けまで始まっていた。陽気で知り合いの多いダズの所為で発端のシンジョウまで賭けの対象になってしまっている。早く捕まえて終わらせなければ…いや、先ほどの光景がチラつく。勝手にシンジョウの名を呼び、シンジョウの身体に触れ、あまつさえ、シンジョウの…

「おいおい、殺気飛ばしすぎだろぉ。保・護・者・さ・んよぉ!」

「…死ね、羽虫。」

腹の虫がおさまらず、テーブルに乗っていた皿とカトラリーを顔面目掛けて投げる。

「あぶねッ!!」

叩き落されることはわかっていた為、次々に投げては蹴りを入れる。コイツがシンジョウに興味を持っているのは、半分以上俺の所為だ。しかし、騎士団長ではなくなったと分かればなおさら追いかけてくるだろう。自分の部下…盗賊ギルドの者達を使って、シンジョウを調べる可能性も高い。いや、恐らく手遅れで俺の事も調べさせているはずだ。いっそのこと、ここから離れて直接話した方がマシか…?どちらにしろ、一発殴ってやらないと気が済まないが。

「…おすわり。」

は、と気が付いた時には、シンジョウが俺とダズの間に立っていて。身体が勝手に跪いていた。驚き顔を上げると、ダズが呆気にとられた顔で床に転がっている。

「は?!なんだ?身体が…ッ、」

身をよじろうとしているのか、声に力が入っているのに一切身体は動いていない。仰向けのまま、頭だけ見回している。俺の身体も、跪いたまま指一本動かない。頭以外全て、見えないなにかに押さえつけられていた。…まさか、神聖力か?

「ねぇ、賭けはいくら集まってる?戦闘不能な動けないんだから私の勝ちだよね。」

「あっ、はい!大穴でしたので、配当が…。」

「勝手に賭けたんだから、私に八割。君達は二割。それでも十分な額だよね?」

「ひぇッ…。も、もちろんです!」

無表情のまま淡々と話すシンジョウに寒気がする。異様な空気に野次馬も息を潜めていわれるがままにどうぞ!と膨らんだ革袋を渡していた。礼を言って戻ってきたシンジョウはその革袋を、

「許可なく私に触ったのだから、私も勝手にしますね。」

口元だけにっこりと笑って、仰向けで転がるダズの急所に思い切りよく叩きつけた。


ズドジャッ


「ぐぁあっ!!!!!」

「「「ヒィイ!!」」」


重々しい革袋の音と鶏を締めた様な叫びを残し、ダズが泡を吹いて気絶した。ギャラリーから聞こえた悲鳴も、すぐに静まり返りみな口を噤んで青褪めたまま震えている。

「それ、ゼロさんが回収してきてください。」

感情の抜け落ちた顔で、革袋を指差してシンジョウはギルドから出て行ってしまった。…いや、いやいやダメだろう!つい見送ってしまったが、シンジョウは恐らく宿の場所を覚えていない。いつの間にか戻っていた身体の自由に、触りたくないが革袋を回収して急いでシンジョウを追いかけた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「慰謝料という事で。それはゼロさんに差し上げます。」

「いや、慰謝料ならシンジョウが…、」

「気色が悪くて触りたくない。」

そ、そうだよな。と若干青ざめた顔のゼロさんが、嫌そうにお金入りの革袋をしまってくれた。賭けられてたのはムカつくし、気持ち悪かろうけどお金だからね。

気持ちを切り替えたくて大きく腕を伸ばして深呼吸すれば、いい匂い。日が沈んできてそこかしこの屋台に明かりが灯されてますね。ふむ。

「嫌なことは食べて忘れる派です。いかがか?」

「…そうだな。なにがいい?」

「ゼロさんのおススメで。」


提案にノってくれたゼロさんが、自然に私の手を引いて屋台の方へ歩いていく。うむ。人が増えてきたから迷子防止再開ですな。ご苦労お掛けします。

謎肉の串焼きや、見た目がリンゴなのに桃の味がする果物などに舌鼓をうちつつ、あれやこれやと買い食いして回る。だんだん楽しくなってきて、下がったテンションも打ち上がってまいりました。

「明日、準備ができ次第王都から出よう。必要なものがあれば、今のうちに買うが?」

「服と下着と靴と鞄と…、サニタリー系?」

そもそも身一つで何も持ってないんですよね。と話すと、ちょっと耳の赤いゼロさんがんん゛っと咳込んだ。なんか喉に詰まったのかい?

「どうしました?」

「いや、あー…そうだな、装備や服を取り扱う店はまだ開いている。行こう。」

道中相談した結果、元々着ていた服や下着は燃やすことにした。あんまりにも珍しいからね。家の中から素足で召喚させられて靴を履いていなかった私に、ゼロさんがフリーサイズのサンダルを買ってくれていた。今日はそれを履いて出かけていたので、今後もこれでいいのでは?と思ったが、しっかりした靴でないと長距離移動は足を痛めるそうで。結局一式買うことになった。金ならあるからね!

「乾きやすい素材、頑丈で、シンプルなのがいいなぁ。後、下は伸縮性のある…。」

「ふんふん、そうなると、お嬢ちゃんのサイズ的に男の子の服がいいかねぇ。」

誠に遺憾だけれど、私の身長158cmはこの世界でお子様サイズだそうで。子供サイズで女性用だと、ワンピースかエプロンドレスしかなかった。成人女性用だとあちこち緩くてダメだし、他のお店を回ってもあんまり代わり映えはなさそう。

「古着屋はあたしらみたいな一般人が使うからね。女冒険者なんかはほら、防具屋へいくだろ?」

「ああ、それで。後はベルトとかあります?」

「そうだねぇ、女物ならコルセットか…、男物だと大きすぎないかい?」

「あ、これにします。」

古着屋のおばちゃんとあれやこれや、とっかえひっかえ服を着ては購入していく。いまは着れて動きやすければ問題ない。時間が出来たらまともな服にするつもりだ。お嬢ちゃんの身体はオーダーメイドじゃないと無理だろぅねぇ。とはおばちゃんの言である。

「邪魔だから髪も切りたいな。道中手入れできないし。」

「切っちまうのかい?艶々の黒髪なのに勿体無いねぇ。あたしの娘が床屋だから、サービスで切ってあげようか?」

「えっ、いいんですか?」

「こんだけ買ってもらったからね。構やしないよ!」

あっはっは!と豪快に笑うおばちゃんにバシバシ背中を叩かれた。休日だったという娘さんにお礼をいいつつ、結局髪も切ってもらってすっきり。腰まであった髪は、ハンサムショートにバッサリいったから頭が軽い!ついでに気分も軽くなった。これならすぐ乾くから、野宿でも丸洗いできるぞい!

「……ッシンジョウ、髪が…、」

いや、まさかここまで驚かれるとは思いませんでした。買い物を終えて、折角だから買ったものに着替えさせてもらっておばちゃんと娘さんから太鼓判を貰ったんだけれどな。

「絶句するほど似合わないですか?」

「い、いや、似合っている!とてもいいと思う!」

外で待ってくれていたゼロさんが、魂が半分抜けた様な状態で髪を見るから、心配になってしまった。自分で確認したけど結構似合っていたと思う。まぁゼロさんが似合わないと思っていようが、私は気に入っているので問題ナッシングですがね!

古着屋さんで靴も鞄も下着も手に入って助かった。たぶん、大人用だと専門店になるんだろうな。古着屋さんのおパンツ、ドロワーズカボチャパンツだったし。古布を手縫いしてるそうで、一応新品。ブラもナイトブラみたいな被るタイプを買いました。リュックに服の替えと、ベルトのポーチに防具屋さんで買ったナイフ。心臓を守る革の胸当て。こんなもので大丈夫かな?問題は…

「まさか生理用品が無いとは…っ!」

そう、古着屋のおばちゃんと娘さんに聞いたのだが、なんとこの世界生理中は綿花を包帯に包んで使っているといわれた。なんてこったい!おばちゃんから肌触りのいいコットン生地の服を大量に買って、お高いスライム加工の防水服も買った。吸収帯は魔道具屋さんでスライムパウダーという、水を吸って膨らむ粉。

突然あわただしく買い物した上に、何に使うかわかっていないゼロさんが私用に借りた部屋のテーブルに広げられた材料を、首を傾げながら見ている。

「すみません、明日一日作るものがあるので、出発は明後日でもいいですか?」

「かまわないが…、何をするのか聞いても?」

「あー…、まぁいいか。月経用品作るんで「気が利かなくてすまん!自由にしてくれ!おやすみ!」

どうせ旅の途中とかでわかっちゃうんだし、よく考えたら道中そこらへんで用もたさなきゃいけないんだよな…。と考える程億劫になって投げやり気味に口を開いたら、瞬間湯沸かし器の様に真っ赤になったゼロさんが部屋から一目散に出て行った。

「そこまで過剰に反応するとか、魔法使いかよぉ。」

35歳成人男性に聞こえるはずもないが、バタンと激しく閉められたドアの向こうについ、投げかけた。いや、私にデリカシーがないだけなんですがね。






次の日、朝食を食べつつ今日の予定を話し合う。ゼロさんは地図や食料の買い出しだそうで、私は一日中部屋に籠ってますからご安心を。と告げると、耳と眦が赤くなって、うろうろと目を彷徨わせた後頷かれた。

「昼に一度帰ってくる。」

「あ、昨日の謎肉美味しかったので、買って来てくださると信じてますよ!」

お昼ご飯の催促をしなくてはならぬ。絶対疲労困憊で倒れる自信しかない。

「…わかった。」

ふ、と笑うゼロさんに、初めて彼女ができた高校生男子みたいな甲斐甲斐しさだな。と、微笑ましく思いつつ。

「いってらっしゃい。楽しみに待ってますね。」

お見送りだけしっかりしとこう。たぶん返ってくる頃には疲れ目と肩凝りで錯乱しているから。申し訳なさを誤魔化すために笑って送り出すと、なにか察知されたのかゼロさんの動きが一瞬止まったが、そのまま出かけて行った。セーフ!!

案の定、お昼に戻ってきたゼロさんにお礼をいう事は出来たが、手を止められない為サイドボードにお昼ごはんを置いて貰って。そのまま無言で縫い続けていたら気がつけばゼロさんは退出していった。何とか予備含め縫い切った頃には、晩御飯の時間がとうに過ぎているみたい。周りを見ると、布の切れ端で部屋がごちゃごちゃになっていた。これから片付けのことを思うと遠い眼になるけど、いやいや集めるだけだ頑張れ私。

「ああ、…お疲れ。で、いいか?」

「ありがとうございます…。」

掃除を終えてへろへろになってベットに倒れていると、ゼロさんが晩ごはんと一緒にご登場してくれました。ありがたや…ありがたや…。

「ごはん美味しい…。」

「…その、大変なんだな。」

「そうですねぇ。まぁ、作ってしまえば後は洗うだけなので。」

途中から凝り始めてしまって、そのせいで余計に時間がかかったからね。結構可愛くできたんだけれど、しかしてゼロさんに見せる訳にもいかぬ。褒められたいけれど、流石に相手は選びますとも。ええ。

「身体に違和感や異変があったら、すぐに言ってくれ。俺は今までの経験があるが、シンジョウは違うだろう?ゆっくりでいい。無理をして俺に合わせず、シンジョウのペースで行こう。」

神妙な面持ちで気遣ってくれるゼロさんは、本当にいい人だ。初対面から助けられてばかりで申し訳なくなってくる。アルたんにいい人オーラを見抜かれて、大聖女の騎士なんて押し付けられて。

「うん。ありがとう。」

どうにか大聖女の騎士私を護る仕事から解放してあげられないかな。次にアルたんに会ったらお願いしてみようか…もし、ゼロさんが私を国王に売っても、一回くらいなら許してもいいな!うんうん。ゼロさんは苦労した分報われて頂きたい。

なんだか嬉しくなって頬が緩む。準備も終わったし、ごはん美味しいしね!明日が楽しみだなぁ。鼻歌を歌いながらお肉をフォークに刺して頬張っているとゼロさんから手が伸びてきて、ざらつく親指で口の端を拭かれた。おお?

「ははっ、ついてる。」

笑いながら、親指についたそのソースをゼロさんが舐めた。…お、おおお? お母さん!!ゼロさん保護者じゃなくてお母さんじゃないか?!バブみが強すぎてオギャりそうなんだが?!

「あんまりにも甘やかされて、タオパンパになったらどうしてくれるんですか。」

「なんて?」

危ない。生身の年上男性に尊みを感じる日がくるなんて…罪深すぎませんかね。ギルティ。はぁ、と溜息を尽きつつごはんの残りを楽しみ、その間ゼロさんはずっと首を傾げていて面白かった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「おはようございます。いい天気でよかった。」


部屋から出てきたシンジョウは、準備バッチリ!と意気込んでいて。…よかった、先日はダズに嫌な目に遭わされ、綺麗な黒髪を切ってしまうほど傷ついていたから心配した。女は恋人と別れたり傷ついたりすると髪を切るのだと、昔部下が言っていたのを思い出したからだ。泣いてしまうかと思ったが、シンジョウは昨日もずっと笑っていたし大丈夫だろう。念のため、無理をしないように言い含めた。

「ずいぶん機嫌がいいな。外門は大通りを真っ直ぐだ。ついでに朝飯と昼を買っていこう。」

「了解です、隊長!」

何の隊長だ?と聞くと、探検隊ですね。と子供のような返事が返ってくる。…今の服装も相まって、本当に子供に見えなくもない。髪を短くしたシンジョウは、美人とも可愛いらしいともとれる、綺麗な少年の様だ。背が低く声もハスキーで、人買いに攫われそうで目が離せない。

切ってしまった髪は女にしては短すぎる。しかし逆に白くて華奢な首が目立って、サイズの大きい女物のシャツが鎖骨を見せている。目はきつめのアーモンド形で黒目勝ちだし、小さい鼻に厚めの唇は何も塗っていないだろうに瑞々しい。膨らみは胸当てで潰されて成長期前の少年のようなのに、腰は括れて柔らかそうな尻と太腿を強調して…

バシィ!!

「うぉお?!び、びっくりした!何事かねゼロさん?!」

「…すまん、なんでもない。」

馬鹿か俺は。自分で殴った頬がジンジンと痛む。騎士としてもシンジョウの信頼を得なければいけないのに、どうかしている。…頬に熱が上がっているのは、殴ったせいだと思いたい。

『あ、結構デカいな。』

幻聴が聞こえた気がして、頭を振る。やめろ、忘れろ…ダズの所為だ。そうに違いない。今度会ったらやはり一発殴ろう。心配そうに見上げてくるシンジョウへ戻しそうになる視線を無理矢理引き剥がす。握りしめた拳が、皮手袋を擦ってギチ、と音を立てた。

「朝ごはんも食べてお腹いっぱい!元気百倍~ふんふんふ~ん♪」

「ここから次の街は徒歩で三日、馬車で一日だがどうする?」

「徒歩で!初めから慣らしていきます。休み休み様子を見ながらでもいいですか?」

「ああ。無理はしないように。」

「は~い!」

浄化はシンジョウがいるだけで行われるというし、調節がきくようだから俺にできることは道中の安全確保位か。…昨日、買い出しのついでに王城の聖女…いや、修道女アイリについて探った。すでに貴族の社交会に、聖女兼妃候補として出席している彼女は、愛らしい見目に加えて謙虚で礼儀正しいと評判になっている。こちらに召喚されてまだ数日だというのに、たくましいというか…、

「魔物っておいしいのかな…。」

じゅる、と涎をすする音がする。シンジョウも十分たくましいな。

「朝食が足りなかったのか?」

「いえ、まだ見ぬ食材に思いを馳せているだけです。日本人なもので。」

キリッと謎の音を自ら口に出しながら、なぜか凛々しい顔で告げてくる。

「ニホンジン?」

「人種の一つです。特性的に、器用・変態・食いしん坊・真面目・礼儀正しいとか言われますね。」

「…ふっ、なるほど?」

今は食いしん坊が前面に出ているのか。笑いを嚙み殺していると、人間の三大欲求だと力説された。あれやこれやとシンジョウの世界の話を聞きつつ、外門にたどり着く。

「おお、門でっか…凱旋門かよ。人がゴミのようだ…。」

「並んでいる間に、手続きの仕方を教える。」

基本的に簡単な質問くらいしかないが、念のために流れを教えておこう。説明にうんうんと頷きながら入国審査と同じか。と呟いていたから大丈夫だろう。実際、順番が回ってきた際も教えた通りギルドカードを提出できている。俺の分の処理を待っていると慌てたように門番が戻ってきた。

「先輩!騎士団長を解雇なんて、どうなってるんスか!!」

「アルト…。」

「自分、先輩に憧れて騎士団に入ったのにッ!こんなのって無いっス…!」

「アルト、勤務中だぞ。お前は何をやっている?今この瞬間、王都内部に不審人物が侵入したらどうするんだ。職務を全うしろ。」

取り乱すアルトに注意するがこれ以上は上官の仕事だから、今の俺にその権限はない。うぐ、と言い淀むアルトと俺を、シンジョウが心配そうに見ている。そんなアルトとシンジョウの目が合い、俺とシンジョウを素早く二度見したかと思うと、

「せ、先輩まさか少年趣味…ッ!?」

わなわなと唇を震わせて吐き出された言葉は、別れのあいさつにしては最悪の一言だった。

「ぶっふぉ!ぐっ…ははは!!あはっあははは!!」

「王都じゃ同性婚出来ないからって、隣国に行く気っスか?!」

「あははははは!!げっほげっほ!ひぃい~!」

「…シンジョウ、笑い過ぎだ。」

絶叫するアルトが余程面白いのか、笑い過ぎて痛むのか、わき腹を押さえて涙を流すシンジョウの背をさする。頼むから二人とも落ち着いてくれ。アルトの叫び声とシンジョウの笑い声に、並んでいる者や審査中の者達の視線が突き刺さってくる。

「先輩がこんなに甲斐甲斐しく…っ、本気なんスね…!自分、応援してますから!」

「お前はちゃんとギルドカードの確認をしろ…。」

涙ながらに熱く応援され、いい加減にしろとアルトの頭をはたく。正直、これくらい許されるだろう。審査が終わったというのにいまだ引きつり笑いをして蹲っているシンジョウの首根っこを掴んで持ち上げる。…軽すぎないか。

「行ってらっしゃい先輩!結婚式には呼んでくださいね!お幸せに!!」

いたたまれず速足で通りすぎる背後で、とどめの様に絶叫されて頭痛がする。勘弁してくれ。

「はぁあ~、アルト君おもしろいねっ!」

「笑い終わったのか。」

十分に外門から離れ、ようやく会話ができるようになったシンジョウを降ろす。笑いすぎて流れていた涙を拭いて深呼吸を繰り返していたが、何がそんなに面白いんだ。

「道ならぬ恋を応援された感想をどうぞ。」

にこにこと笑いながら、何のつもりか握った拳を向けられる。俺を揶揄う気だな、これは。

「…結婚するか?」

「いいね!次にアルト君に会ったら、私達結婚しました!ってやってみよう!」

そうはいくかと冗談のつもりで言った言葉に満面の笑みで返されて、言葉に詰まる。片手で押さえてもじわじわと顔に熱が集まって、心臓が痛むほど五月蠅い。

「うわ、ごめん、怒った?」

冗談だから許してください!と下げられたシンジョウの頭を、顔の熱が引くまで押さえつけた。
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