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第一章
21話 入城
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狼の襲撃を逃れた一行は、ついにノルディアの領地へと足を踏み入れた。
険しい山道が続くものの、襲撃の気配はなく、ただひたすら進む日々が続く。
時折ヴァルクがかけてくれる優しい言葉も、テティが語る恋の物語も、アメリアの胸のつかえを取り去ってはくれなかった。
そして数日後――視界の先に、ようやくヴァルクの治めるストーン城が姿を現した。
切り立った岩の上に築かれたその城は、まるで要塞のように威容を誇り、背後にそびえるエルノイム山を護るかのようにそびえている。
(ああ……ついに帰ってきたのね……)
込み上げる熱を、アメリアは必死に飲み込んだ。
そうしなければ、涙がこぼれてしまいそうだったからだ。
三十代から晩年までを過ごしたこの地は、彼女にとって故郷そのものだった。
けれど目の前に広がる光景は、かつての記憶よりも物寂しく、物足りなく――過去の世界であることを思い知らせてくる。
ストーン城は湖のほとりに築かれている。街へと通じる正門が開かれるとき、必ず橋を架けねば渡れない仕組みだ。
もとは小さな集落を守るだけの砦にすぎなかったが、今では立派な街へと姿を変えている。すべてはヴァルクの努力の賜物だった。
「氷狼騎士団! ヴァルク・ストーン伯爵のお帰りだ!」
地響きのような音とともに橋が架けられ、正門が開かれる。
太鼓の音が響き渡り、街の人々が一斉に歓声を上げた。
外から見れば寂しげだった城も、ひとたび中へ入れば活気に満ちている。
石畳の道は整然と舗装され、人々の笑顔と声があふれていた。
ヴァルクは群衆の歓声にも顔色を変えず、悠然と馬を進めていく。
アメリアもその隣に並ぶと、あちこちから「姫様?」「王女様だ!」という声が上がった。
声の方へ振り向き、アメリアはできる限りの笑顔を振りまいた。
すると歓声はさらに大きくなり、行く手には人だかりが波のように押し寄せていった。
群衆の熱気の中を進み、やがて一行は城門をくぐった。
街の喧騒を背に、石橋を渡り切ると、そこには重厚な石造りの城郭が広がっている。
高くそびえる塔と分厚い城壁は、幾度の戦乱を耐え抜いてきた歴史を物語っていた。
「お帰りなさいませ、伯爵!」
「ご無事で何よりでございます!」
門の前には家臣や騎士たちが整列し、深々と頭を垂れる。
彼らの視線は次にアメリアへと注がれた。
「姫様だ……」「王女殿下がお越しくださるとは……」
その声に、アメリアは背筋を伸ばし、微笑みを返す。
心の奥底では戸惑いと不安が渦巻いていたが、それを悟られまいと、かつて宮廷で身につけた気品を纏った。
ヴァルクは黙したまま、馬から降りた。
その大きな手が、当然のようにアメリアへ差し伸べられる。
一瞬、心臓が跳ねた。
だが彼女は迷わずその手を取り、馬上から軽やかに降り立った。
その姿に、集まった人々の間から感嘆の声が漏れる。
口々にアメリアの容姿や佇まいを称賛する声があがり、アメリアは胸を締めつけられた。
――自分は彼らの知る「王女アメリア」ではない。本物のアメリア様ならきっともっと素敵な振る舞いをできるのだろう。
バレるはずがないのに、侍女の自分が演じるアメリアが偽物だと露見しないか心配になる。
不安を隠すように隣に立つヴァルクに視線を送った。
ヴァルクがアメリアに一瞥を送り、わずかに口元を緩める。
「……ようこそ、ストーン城へ」
その声に、アメリアの胸は熱く震えた。
ヴァルクのエスコートで城の中へ足を踏み入れると石造りの壮大な広間が現れわれた。
ノルディアでの彼女は、街の片隅にある食堂で働く一介の住民にすぎなかった。
だからこそ――この壮麗な城の中で繰り広げられる世界を、何度となく想像していた。その場所に今のまさに立つことになるなんて、夢にも思わなかった。
「こちらは城の執事長、ハロルドだ。私が不在の時、城の采配を任せている」
ヴァルクに紹介され、アメリアは慣れない笑顔で会釈した。
老年の執事長は穏やかな目でアメリアを見やり、恭しく頭を下げる。
その時だった。
――ドシン、ドシン、と重い足音が響き渡る。
空気を震わせるような駆け足の音に、周囲の侍従や騎士たちが一斉に顔を上げた。
「ヴァルク!」
先頭を切って現れたのは、毛皮を肩にまとい、獣の牙をあしらった首飾りをかけた女だった。
陽の光を受けて輝く鎧は、体の線をあらわにする簡素な造り。
城の騎士たちが着る整った甲冑とはまるで違い、彼女の野性をそのまま映し出していた。
彼女は迷うことなくヴァルクへ駆け寄ると、勢いそのままにその胸へと飛び込んだ。
「……!」
広間にどよめきが広がり、アメリアは思わず息を呑んだ。
視線の先でヴァルクの逞しい腕に抱きつくその女性は、まるで長い別離をようやく終えた恋人のように見えたのだ。
そうして彼女はヴァルクの腕を引っ張ると軽やかに頰にキスをした。
「なっなんなんですか!あなた!!」
思わず叫んでしまった自分に驚いてハッと口を押さえても遅かった。
広間にいた全員がアメリアを見ている。ヴァルクの腕に捕まった女が艶かしく笑った。
険しい山道が続くものの、襲撃の気配はなく、ただひたすら進む日々が続く。
時折ヴァルクがかけてくれる優しい言葉も、テティが語る恋の物語も、アメリアの胸のつかえを取り去ってはくれなかった。
そして数日後――視界の先に、ようやくヴァルクの治めるストーン城が姿を現した。
切り立った岩の上に築かれたその城は、まるで要塞のように威容を誇り、背後にそびえるエルノイム山を護るかのようにそびえている。
(ああ……ついに帰ってきたのね……)
込み上げる熱を、アメリアは必死に飲み込んだ。
そうしなければ、涙がこぼれてしまいそうだったからだ。
三十代から晩年までを過ごしたこの地は、彼女にとって故郷そのものだった。
けれど目の前に広がる光景は、かつての記憶よりも物寂しく、物足りなく――過去の世界であることを思い知らせてくる。
ストーン城は湖のほとりに築かれている。街へと通じる正門が開かれるとき、必ず橋を架けねば渡れない仕組みだ。
もとは小さな集落を守るだけの砦にすぎなかったが、今では立派な街へと姿を変えている。すべてはヴァルクの努力の賜物だった。
「氷狼騎士団! ヴァルク・ストーン伯爵のお帰りだ!」
地響きのような音とともに橋が架けられ、正門が開かれる。
太鼓の音が響き渡り、街の人々が一斉に歓声を上げた。
外から見れば寂しげだった城も、ひとたび中へ入れば活気に満ちている。
石畳の道は整然と舗装され、人々の笑顔と声があふれていた。
ヴァルクは群衆の歓声にも顔色を変えず、悠然と馬を進めていく。
アメリアもその隣に並ぶと、あちこちから「姫様?」「王女様だ!」という声が上がった。
声の方へ振り向き、アメリアはできる限りの笑顔を振りまいた。
すると歓声はさらに大きくなり、行く手には人だかりが波のように押し寄せていった。
群衆の熱気の中を進み、やがて一行は城門をくぐった。
街の喧騒を背に、石橋を渡り切ると、そこには重厚な石造りの城郭が広がっている。
高くそびえる塔と分厚い城壁は、幾度の戦乱を耐え抜いてきた歴史を物語っていた。
「お帰りなさいませ、伯爵!」
「ご無事で何よりでございます!」
門の前には家臣や騎士たちが整列し、深々と頭を垂れる。
彼らの視線は次にアメリアへと注がれた。
「姫様だ……」「王女殿下がお越しくださるとは……」
その声に、アメリアは背筋を伸ばし、微笑みを返す。
心の奥底では戸惑いと不安が渦巻いていたが、それを悟られまいと、かつて宮廷で身につけた気品を纏った。
ヴァルクは黙したまま、馬から降りた。
その大きな手が、当然のようにアメリアへ差し伸べられる。
一瞬、心臓が跳ねた。
だが彼女は迷わずその手を取り、馬上から軽やかに降り立った。
その姿に、集まった人々の間から感嘆の声が漏れる。
口々にアメリアの容姿や佇まいを称賛する声があがり、アメリアは胸を締めつけられた。
――自分は彼らの知る「王女アメリア」ではない。本物のアメリア様ならきっともっと素敵な振る舞いをできるのだろう。
バレるはずがないのに、侍女の自分が演じるアメリアが偽物だと露見しないか心配になる。
不安を隠すように隣に立つヴァルクに視線を送った。
ヴァルクがアメリアに一瞥を送り、わずかに口元を緩める。
「……ようこそ、ストーン城へ」
その声に、アメリアの胸は熱く震えた。
ヴァルクのエスコートで城の中へ足を踏み入れると石造りの壮大な広間が現れわれた。
ノルディアでの彼女は、街の片隅にある食堂で働く一介の住民にすぎなかった。
だからこそ――この壮麗な城の中で繰り広げられる世界を、何度となく想像していた。その場所に今のまさに立つことになるなんて、夢にも思わなかった。
「こちらは城の執事長、ハロルドだ。私が不在の時、城の采配を任せている」
ヴァルクに紹介され、アメリアは慣れない笑顔で会釈した。
老年の執事長は穏やかな目でアメリアを見やり、恭しく頭を下げる。
その時だった。
――ドシン、ドシン、と重い足音が響き渡る。
空気を震わせるような駆け足の音に、周囲の侍従や騎士たちが一斉に顔を上げた。
「ヴァルク!」
先頭を切って現れたのは、毛皮を肩にまとい、獣の牙をあしらった首飾りをかけた女だった。
陽の光を受けて輝く鎧は、体の線をあらわにする簡素な造り。
城の騎士たちが着る整った甲冑とはまるで違い、彼女の野性をそのまま映し出していた。
彼女は迷うことなくヴァルクへ駆け寄ると、勢いそのままにその胸へと飛び込んだ。
「……!」
広間にどよめきが広がり、アメリアは思わず息を呑んだ。
視線の先でヴァルクの逞しい腕に抱きつくその女性は、まるで長い別離をようやく終えた恋人のように見えたのだ。
そうして彼女はヴァルクの腕を引っ張ると軽やかに頰にキスをした。
「なっなんなんですか!あなた!!」
思わず叫んでしまった自分に驚いてハッと口を押さえても遅かった。
広間にいた全員がアメリアを見ている。ヴァルクの腕に捕まった女が艶かしく笑った。
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