24 / 117
第一章
23話 巫女
しおりを挟む
「アメリア様」
軽く肩をゆすられ、目を開けると、テティの顔が目の前にあった。
「そろそろご準備を」
アメリアはゆっくりと身体を起こす。二時間ほど眠ったのだろう。久しぶりの柔らかい寝心地に、すっかり寝入ってしまっていた。
「そうね……あなたは休めた?」
「はい!こちらのお城には、侍従用に大きな天然の温泉があるんです。入らせていただいたんですが、それはもう、すごーーーく気持ちよかったです!」
「温泉……」
そういえば、この土地は温泉が湧いていた。かつて子どもたちと一緒に大衆浴場へ行ったことがあるが、城にも湯を引いているとは。
「いいわね。私も入ってみたいわ」
「ふふっ。城の侍女によれば、伯爵様には専用のお風呂があるそうですよ。ご結婚されたら、ご一緒に入れるんじゃないですか?」
「ええっ!? 一緒になんて入らないわよっ!」
「えっ……入らないんですか?」
「……とにかく、ドレスを選びましょう」
ローラが用意した衣装は、どれもアメリアを引き立てるものばかりだった。その中から、白地に首元と手首へ金糸の古典的な刺繍を施したドレスを選ぶ。身体を露わにしていたシンシアの姿が脳裏をよぎり、あえて露出の少ない一着を選んだのだ。それでもアメリアの曲線美を際立たせるには十分な品だった。
ゴールドのネックレス、ピアス、指輪。髪はトップを編み込んで整えさせる。
「装飾品はすべて金にするのですか?」
「ええ」
「白と金だけなのに……アメリア様を輝かせるには十分ですね」
テティの言葉に、アメリアは満足そうに微笑んだ。鏡に映るその姿は、紛れもなく──かつて仕えた王女そのものであった。
コンコン──。
「……お迎えかしら」
テティが入り口へ向かい、やがて戻ってきた。
「あの……テリー卿がお見えです。お話があるそうですが……」
「テリー卿が? どうぞお通しして」
やがて扉が開き、堂々とした体躯のライオネル・テリーが現れた。普段の戦場で見せる鋭さは影を潜め、どこか気まずそうな表情をしている。
「アメリア様」
深く一礼した後、言葉を選ぶようにして口を開いた。
「先ほどのシンシアの無礼……あれについて、まずは謝罪を」
「……」
アメリアは姿勢を正し、黙って続きを待った。
「彼女は…以前お話しした山の民の巫女なんです。彼らには古くからの風習がありまして……最も強い者と子を成すことが、巫女の務めとされているのです。ゆえに、団長に負けた日から彼女はよくああいったことを申してまして…どうかご容赦いただきたい」
アメリアは小さく目を瞬いた。
彼女が、あの狼を操る山の民の巫女…
なるほど、だからあのようにヴァルクへ向けて臆せず言葉を投げたのか。
「……では、彼女は巫女だから第二部隊の隊長を?」
問いかけに、ライオネルはきっぱりと首を横に振った。
「…確かに第二部隊の所属は山の民出身の者が多いですが、彼女の実力は本物です。団長は、山の民を従えるために巫女を隊長にすえるようなことはしません。彼女にその資格とつよさがあったからこそです。」
ライオネルにとってシンシアは仲間として必要な人なのだろう。
彼女の非礼を詫び、騎士としての名誉も守る姿で彼にとってもシンシアが大切な人なのだろうと察した。
「彼女の発言は、衝撃的でしたが、ヴァルク様が相手にしていないのあれば、私がとやかく言える問題ではありませんね。」
「ええ、もちろん!団長がシンシアとどうにかなるなんて….ありえないです!」
アメリアはほんの僅かに微笑んだ。
「お気遣い感謝いたします、テリー卿」
ライオネルはもう一度深々と頭を下げると、静かに部屋を辞した。
扉が閉まると同時に、アメリアは胸の奥でそっと息を吐いた。
コンコン──。
ライオネルが去り、化粧を施した後しばらくすると、今度は力強くも、控えめに扉がノックされた。
「どうぞ」
扉が開き、鎧を脱いだヴァルクが現れた。
深黒の衣を纏った彼の姿に、アメリアは思わず息を呑む。
白いドレスを着た自分と並ぶその姿は、まるで意図したかのように調和しており、胸の奥が熱を帯びる。
互いに言葉を失ったまま見つめ合う二人。
気まずさを破ったのは、弾んだ声のテティだった。
「わぁ……! 白と黒でまるで対になっていますわ。とっても素敵です!」
はっとして視線を合わせたアメリアとヴァルクは、同時に赤くなり、そっと目を逸らした。
沈黙の中、ほんの小さな声でヴァルクが言う。
「……いいんじゃないか」
その低く響く声に、アメリアの胸が高鳴る。
しばし逡巡した後、彼女は勇気を振り絞って口を開いた。
「ヴァルク様も……その……とても素敵です」
勇気を振り絞った言葉に、アメリアは頬を真っ赤に染めて視線を落とした。
ヴァルクは驚いたように彼女を見つめ――そして、わずかに口元をほころばせる。
言葉の続きを交わすことなく、静かな空気がふたりを包む。
やがてアメリアはそっとヴァルクの腕に手を回した。
その仕草に、彼の肩がほんのわずか揺れる。
白と黒、対をなす姿のまま。
ふたりは寄り添いながら、灯りの溢れる宴の間へと歩みを進めていった。
軽く肩をゆすられ、目を開けると、テティの顔が目の前にあった。
「そろそろご準備を」
アメリアはゆっくりと身体を起こす。二時間ほど眠ったのだろう。久しぶりの柔らかい寝心地に、すっかり寝入ってしまっていた。
「そうね……あなたは休めた?」
「はい!こちらのお城には、侍従用に大きな天然の温泉があるんです。入らせていただいたんですが、それはもう、すごーーーく気持ちよかったです!」
「温泉……」
そういえば、この土地は温泉が湧いていた。かつて子どもたちと一緒に大衆浴場へ行ったことがあるが、城にも湯を引いているとは。
「いいわね。私も入ってみたいわ」
「ふふっ。城の侍女によれば、伯爵様には専用のお風呂があるそうですよ。ご結婚されたら、ご一緒に入れるんじゃないですか?」
「ええっ!? 一緒になんて入らないわよっ!」
「えっ……入らないんですか?」
「……とにかく、ドレスを選びましょう」
ローラが用意した衣装は、どれもアメリアを引き立てるものばかりだった。その中から、白地に首元と手首へ金糸の古典的な刺繍を施したドレスを選ぶ。身体を露わにしていたシンシアの姿が脳裏をよぎり、あえて露出の少ない一着を選んだのだ。それでもアメリアの曲線美を際立たせるには十分な品だった。
ゴールドのネックレス、ピアス、指輪。髪はトップを編み込んで整えさせる。
「装飾品はすべて金にするのですか?」
「ええ」
「白と金だけなのに……アメリア様を輝かせるには十分ですね」
テティの言葉に、アメリアは満足そうに微笑んだ。鏡に映るその姿は、紛れもなく──かつて仕えた王女そのものであった。
コンコン──。
「……お迎えかしら」
テティが入り口へ向かい、やがて戻ってきた。
「あの……テリー卿がお見えです。お話があるそうですが……」
「テリー卿が? どうぞお通しして」
やがて扉が開き、堂々とした体躯のライオネル・テリーが現れた。普段の戦場で見せる鋭さは影を潜め、どこか気まずそうな表情をしている。
「アメリア様」
深く一礼した後、言葉を選ぶようにして口を開いた。
「先ほどのシンシアの無礼……あれについて、まずは謝罪を」
「……」
アメリアは姿勢を正し、黙って続きを待った。
「彼女は…以前お話しした山の民の巫女なんです。彼らには古くからの風習がありまして……最も強い者と子を成すことが、巫女の務めとされているのです。ゆえに、団長に負けた日から彼女はよくああいったことを申してまして…どうかご容赦いただきたい」
アメリアは小さく目を瞬いた。
彼女が、あの狼を操る山の民の巫女…
なるほど、だからあのようにヴァルクへ向けて臆せず言葉を投げたのか。
「……では、彼女は巫女だから第二部隊の隊長を?」
問いかけに、ライオネルはきっぱりと首を横に振った。
「…確かに第二部隊の所属は山の民出身の者が多いですが、彼女の実力は本物です。団長は、山の民を従えるために巫女を隊長にすえるようなことはしません。彼女にその資格とつよさがあったからこそです。」
ライオネルにとってシンシアは仲間として必要な人なのだろう。
彼女の非礼を詫び、騎士としての名誉も守る姿で彼にとってもシンシアが大切な人なのだろうと察した。
「彼女の発言は、衝撃的でしたが、ヴァルク様が相手にしていないのあれば、私がとやかく言える問題ではありませんね。」
「ええ、もちろん!団長がシンシアとどうにかなるなんて….ありえないです!」
アメリアはほんの僅かに微笑んだ。
「お気遣い感謝いたします、テリー卿」
ライオネルはもう一度深々と頭を下げると、静かに部屋を辞した。
扉が閉まると同時に、アメリアは胸の奥でそっと息を吐いた。
コンコン──。
ライオネルが去り、化粧を施した後しばらくすると、今度は力強くも、控えめに扉がノックされた。
「どうぞ」
扉が開き、鎧を脱いだヴァルクが現れた。
深黒の衣を纏った彼の姿に、アメリアは思わず息を呑む。
白いドレスを着た自分と並ぶその姿は、まるで意図したかのように調和しており、胸の奥が熱を帯びる。
互いに言葉を失ったまま見つめ合う二人。
気まずさを破ったのは、弾んだ声のテティだった。
「わぁ……! 白と黒でまるで対になっていますわ。とっても素敵です!」
はっとして視線を合わせたアメリアとヴァルクは、同時に赤くなり、そっと目を逸らした。
沈黙の中、ほんの小さな声でヴァルクが言う。
「……いいんじゃないか」
その低く響く声に、アメリアの胸が高鳴る。
しばし逡巡した後、彼女は勇気を振り絞って口を開いた。
「ヴァルク様も……その……とても素敵です」
勇気を振り絞った言葉に、アメリアは頬を真っ赤に染めて視線を落とした。
ヴァルクは驚いたように彼女を見つめ――そして、わずかに口元をほころばせる。
言葉の続きを交わすことなく、静かな空気がふたりを包む。
やがてアメリアはそっとヴァルクの腕に手を回した。
その仕草に、彼の肩がほんのわずか揺れる。
白と黒、対をなす姿のまま。
ふたりは寄り添いながら、灯りの溢れる宴の間へと歩みを進めていった。
11
あなたにおすすめの小説
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!
追放令嬢、辺境王国で無双して王宮を揺るがす
遊鷹太
ファンタジー
王国随一の名門ハーランド公爵家の令嬢エリシアは、第一王子の婚約者でありながら、王宮の陰謀により突然追放される。濡れ衣を着せられ、全てを奪われた彼女は極寒の辺境国家ノルディアへと流される。しかしエリシアには秘密があった――前世の記憶と現代日本の経営知識を持つ転生者だったのだ。荒廃した辺境で、彼女は持ち前の戦略眼と人心掌握術で奇跡の復興を成し遂げる。やがて彼女の手腕は王国全土を震撼させ、自らを追放した者たちに復讐の刃を向ける。だが辺境王ルシアンとの運命的な出会いが、彼女の心に新たな感情を芽生えさせていく。これは、理不尽に奪われた女性が、知略と情熱で世界を変える物語――。
【完結】男爵令嬢は冒険者生活を満喫する
影清
ファンタジー
英雄の両親を持つ男爵令嬢のサラは、十歳の頃から冒険者として活動している。優秀な両親、優秀な兄に恥じない娘であろうと努力するサラの前に、たくさんのメイドや護衛に囲まれた侯爵令嬢が現れた。「卒業イベントまでに、立派な冒険者になっておきたいの」。一人でも生きていけるようにだとか、追放なんてごめんだわなど、意味の分からぬことを言う令嬢と関わりたくないサラだが、同じ学園に入学することになって――。
※残酷な描写は予告なく出てきます。
※小説家になろう、アルファポリス、カクヨムに掲載中です。
※106話完結。
規格外で転生した私の誤魔化しライフ 〜旅行マニアの異世界無双旅〜
ケイソウ
ファンタジー
チビで陰キャラでモブ子の桜井紅子は、楽しみにしていたバス旅行へ向かう途中、突然の事故で命を絶たれた。
死後の世界で女神に異世界へ転生されたが、女神の趣向で変装する羽目になり、渡されたアイテムと備わったスキルをもとに、異世界を満喫しようと冒険者の資格を取る。生活にも慣れて各地を巡る旅を計画するも、国の要請で冒険者が遠征に駆り出される事態に……。
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~
深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。
ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。
それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?!
(追記.2018.06.24)
物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。
もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。
(追記2018.07.02)
お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。
どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。
(追記2018.07.24)
お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。
今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。
ちなみに不審者は通り越しました。
(追記2018.07.26)
完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。
お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる