【完結】侍女が王女に転生?!英雄と結婚して破滅の国を救います!

カナタカエデ

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第一章

35話 夏風の記憶

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シンハライトが発見されたことで、新たに採掘師や作業員が雇われ、人の出入りはさらに激しくなった。
アメリアは安全のため坑道へ行くのを控え、時間を持て余す日々を送っていたが、ヴァルクは掘り起こした坑道を起点とした経路の検討に追われ、夜通し働き詰めだった。

シンハライトの発見を知らせる電報はすでに王都へ送られ、いまは王国からの正式な返答待ちの状態だったが――結果は決まったも同然だった。

それ以降も金鉱石や他の鉱石がいくつも見つかり、この鉱山が並外れて豊かなものであることは明らかだった。
あまりに優秀な鉱山ゆえに、坑道を道として利用するなら、すべての鉱石を採りきらなければ強盗に狙われる――そんな懸念の声さえ上がるほどだった。

それでも、アメリアの心は不思議と穏やかだった。
自分の知る未来では、この坑道は安全な道として完成していた。
誰もが行き来できるようになっていたのだ。
――きっと、すべてはうまくいく。

そんな確信が、彼女を静かに包んでいた。

ノルディアの夏は、陽射しが強くても風がやわらかい。
高地特有の澄んだ空気が肌を撫で、王都の蒸し暑さとはまるで別世界のように感じられる。

この心地よい季節が少しでも長く続くようにと、明日から三日間、城下では“夏風の祭り”が開かれる。

ヴァルクは忙しいし、テティを誘おうかな――そう思っていた矢先、テティから先に申し出があった。

「アメリア様、明日はお休みをいただいてもよろしいでしょうか?」

「えっ、明日? もちろんよ。どこか出かけるの?」

「はい!以前お伝えしたリンク様とお出かけする話、お祭りに行くことになったんです!」

「まあ、そうなのね。」

「お伝えが遅くなってすみません。休みの順番が決まったのが昨日で、さっき誘われたんです。」

「そんなの気にしないで。ずっと私についてくれていたんだもの。楽しんできてね。」

アメリアは微笑みながらそう言った。
翌日、祭り当日。アメリアには護衛がつく予定だったが、「出かけないから」と断った。

窓辺に座り、街の情景を見下ろす。
石造りの建物と建物のあいだに、色とりどりの布が渡されていた。
風を受けて軽やかにたなびくそれは、ノルディアの爽やかな風をまるで“目に見える形”にしたようだった。

街のあちこちから、音楽と笑い声が混じり合って響いてくる。
太鼓の音、笛の音、子どもたちのはしゃぎ声。
アメリアは窓を少し開け、夏の匂いを含んだ風を胸いっぱいに吸い込んだ。
その風景を眺めているだけで、胸の奥がじんわりと温かくなる。

(――あの頃は、祭りなんて考えられなかったのに)

思わず、カリナとしての記憶がよみがえる。

子どもたちを連れてノルディアに移り住んだ頃、まだ戦火の影は濃かった。
ノルディアは戦場になることはなかったが、氷狼騎士団が不在のため民の不安は大きかった。
だから祭りが再び開かれるようになったのは、勝利の兆しが見え始め、ロキアが安定を取り戻し始めた頃。

けれどその頃には、子どもたちはもうずいぶん大きくなっていて――
一緒に祭りへ出かけることはなかった。

(そういえば、“売る側”になったことがあったわね……)

鉱山での仕事のおかげで生活にも余裕ができはじめると、夫はノルディアの片隅に、小さな革細工の店を開いた。
といっても、王都で構えたような工房ではない。
人が一人座ればいっぱいになるような、小さな箱のような店だった。

壁には古びた革靴が並び、作業台の上には道具がきちんと並べられていた。
夫は黙々と、靴底を縫い直し、擦り切れたベルトを繕っていた。
その姿を、カリナは今でもはっきりと思い出せる。
――大きな夢を追うでもなく、ただ静かに“生活を直す”ような仕事だった。

夫からもらった皮の切れ端にロキア王室の紋章を刺繍し、紐を通して“お守り”として祭りで売った。
お守りは瞬く間に売り切れ、手伝いにやってきた子どもたちから商才があると絶賛されたことを思い出す。

王家の者が1人残らず暗殺されていたにもかかわらず、この地の人々はあのお守りを大切そうに手に取ってくれた。

そういえば、あの時は咎められるかと心配したが、実際は街民だけでなく、多くの城に仕える者たちも購入していた。
戦争が終結すれば、ヴァルクが王になると誰もが信じていたし、カリナもそれに意を唱えたいわけではなかった。
ただ、かつて仕えた誇り高い王家と主人への忠誠を示したかった。

アメリアはそっと目を閉じ、当時の光景を胸の奥にしまい込む。
窓の外からは今も祭りの音楽と笑い声が響いてくる。
風に揺れる旗の音が、過去と現在をつなぐように耳に心地よく届いた。

「……ずいぶん考え事をしているんだな。」

背後から聞こえた低い声に、アメリアはゆっくりと振り返る。
昼の会議を終えたばかりのヴァルクが立っていた。
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