【完結】侍女が王女に転生?!英雄と結婚して破滅の国を救います!

カナタカエデ

文字の大きさ
76 / 117
第二章

35話 闇の中にあるもの

しおりを挟む
その夜。
公爵邸の別館では、暗闇の中、一人の女がキャンドルの明かりだけを頼りに荒い息を殺しながら部屋を漁っていた。

薬品が整然と並んだ棚から、瓶や薬草、本までもをかき集め、部屋の中央へ積み上げる。

「これで……全部よね?」

小さな声で呟くと、震える手で胸ポケットに手を入れた。
その瞬間——


パチン


灯りがともり、闇が一気に払われた。

「……テティ、あなた何してるの?」

振り返ったテティの前には、アメリア、ヴァルク、シンシア、ジオ——
そしてマリアとフィリップまでもが立っていた。

「あ、アメリア様……どうして…
マリア様と……フィリップ様まで……」

ヴァルクが一歩前へ出る。

「男爵夫人が手を下せるのは侯爵だけだからな…アメリアに関わることは誰か協力者がいると思っていた。
証拠隠滅か……君は彼女の手下なのか?」

テティの顔が青ざめていく。

「ち、違います! 私は……あの方の手下なんかじゃ……!」

マリアが苦しげな声で問う。

「どうしてなの? テティ……どうしてお母様を庇うようなことを……」

その視線に耐えられず、テティは歪んだ表情でフィリップへ目を向けた。

「私は……フィリップ様のために……」

「えぇ? 僕を巻き込むの?」
フィリップは肩をすくめる。

「ちがっ……違います! 私は、ただ……フィリップ様が……」

「はぁ……君が僕に惚れてるのは知ってるけど、まさかここまで愚かだとは思わなかったよ」

彼の冷たい溜息に、テティはうつむき、唇を噛んだ。
アメリアは、過去にテティが話した過去の恋人との別れの話との話を思い出した。
きっとあれは、フィリップとのことだったのだろう。彼と恋人という関係だったかは定かではないが…それでも二人の関係が特別だったことは間違いない。
そう考えるとアメリアの怒りは目の前にいるテティよりも、自分は無関係だとでも言いたげな男に向いた。



「…いい加減にしなさいよ」

地の底から響くような低い声が部屋を震わせた。
誰も、それがアメリアの声だとは思わなかった。

アメリアは一歩詰め寄り、フィリップの胸ぐらを掴むと——

バチンッッ!

凄まじい音と共に、彼の頬を打ち抜いた。

「あなたの軽薄さが、こういうことを招いてるのよ!」

その怒声が響きわたった刹那——
テティは胸ポケットから何かを取り出し、部屋の中心に撒き散らした。

次いで、手にしたキャンドルを高く掲げた。

「——テティ!」

アメリアは咄嗟に飛び出し、彼女を庇うように抱き寄せる。
跳ね飛んだキャンドルが床へ落ち——

ボウッ!!

散らばった薬品に火が移り、二人と他の者たちとの間に炎の壁が立ち上がる。

「アメリア!」
ヴァルクの声も灰色の煙にかき消された。

アメリアはテティの手を引き、奥の部屋へ逃げ込んだ。

扉を閉めると、炎の轟音が少しだけ遠ざかる。

「ど、どうしよう……!
テティ、逃げ道はある?」

「……ありません。
この部屋は実験室なので…外へ通じているのは、いま入ってきた扉だけです」

アメリアは一瞬、言葉を失った。
扉の隙間から白い煙が漏れてきて、焦げた匂いが鼻を刺す。

アメリアは口元に布をあて、静かに問いかけた。

「ねえ、どうして……こんなことを?
あなたがスーザンから毒を貰ってアレクサンダーを殺したの?」

テティの表情が、すっと陰に沈む。

「……私は……ただ、フィリップ様に愛されたかっただけなんです」

「……」

アメリアは胸の奥が痛んだ。

テティは続けた。

「スーザン様は……フィリップ様を王族にしたいそうです。
でも私は、そんな恐れ多いこと望んでません」

炎が反射して揺れる瞳には、恋する少女の面影が微かに残っていた。

「私はただ……フィリップ様が嫌いなヴァルク様を、失脚させたかっただけなんです」

アメリアは息を呑む。

「し、失脚……?」

「ええ。フィリップ様はヴァルク様が伯爵となられたことをとても疎んでおられました。なぜ、どこの誰かもわからない人間に爵位を渡すのかと…。
だから、国王の最愛の娘であるあなたを守れなければ……英雄ヴァルク・ストーンの名は地に落とせる。
そうすれば……フィリップ様は、私を見てくださるかもしれない」

アメリアの声が震える。

「そんなことを企んで……マリアの印章を利用したり、アレクサンダーを殺したの?」

テティは淡々と頷く。

「そうです。マリア様もダリオン様も優しすぎて、誰も疑わないので。
アレクサンダーは……ずいぶんお喋りな男でしたから。
こっそり毒を仕込みました。
侍女がどこにいようと王宮では誰も気にしませんから。」

淡々と、恐ろしいことを告げるその顔は、どこか壊れていた。

アメリアは深く息を吸い、静かに呟く。

「ねえ、テティ……
私の知ってるあなたは、愛らしくて……見習い騎士に恋してたわ。
あれは全部、嘘だったの?」

テティはふっと微笑んだ。

「嘘じゃないですよ。
リンク様を素敵だと思いました。恋したと本気で思ってました」

アメリアは一瞬だけ、胸が痛む。

「でも……無理だったんです」

テティは胸を押さえ、苦しげに続ける。

「幼い頃から……ずっとフィリップ様に魅せられてしまったから。
どれだけ忘れようとしても……この呪縛から逃れられなくて……
私がすべてを捧げたいのは……いつもフィリップ様なんです」

炎の明かりだけが照らす中、テティの横顔は——
悲しく、そして痛ましいほど歪んでいた。

アメリアはただ黙って彼女を見つめるしかなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

追放令嬢、辺境王国で無双して王宮を揺るがす

遊鷹太
ファンタジー
王国随一の名門ハーランド公爵家の令嬢エリシアは、第一王子の婚約者でありながら、王宮の陰謀により突然追放される。濡れ衣を着せられ、全てを奪われた彼女は極寒の辺境国家ノルディアへと流される。しかしエリシアには秘密があった――前世の記憶と現代日本の経営知識を持つ転生者だったのだ。荒廃した辺境で、彼女は持ち前の戦略眼と人心掌握術で奇跡の復興を成し遂げる。やがて彼女の手腕は王国全土を震撼させ、自らを追放した者たちに復讐の刃を向ける。だが辺境王ルシアンとの運命的な出会いが、彼女の心に新たな感情を芽生えさせていく。これは、理不尽に奪われた女性が、知略と情熱で世界を変える物語――。

【完結】男爵令嬢は冒険者生活を満喫する

影清
ファンタジー
英雄の両親を持つ男爵令嬢のサラは、十歳の頃から冒険者として活動している。優秀な両親、優秀な兄に恥じない娘であろうと努力するサラの前に、たくさんのメイドや護衛に囲まれた侯爵令嬢が現れた。「卒業イベントまでに、立派な冒険者になっておきたいの」。一人でも生きていけるようにだとか、追放なんてごめんだわなど、意味の分からぬことを言う令嬢と関わりたくないサラだが、同じ学園に入学することになって――。 ※残酷な描写は予告なく出てきます。 ※小説家になろう、アルファポリス、カクヨムに掲載中です。 ※106話完結。

規格外で転生した私の誤魔化しライフ 〜旅行マニアの異世界無双旅〜

ケイソウ
ファンタジー
チビで陰キャラでモブ子の桜井紅子は、楽しみにしていたバス旅行へ向かう途中、突然の事故で命を絶たれた。 死後の世界で女神に異世界へ転生されたが、女神の趣向で変装する羽目になり、渡されたアイテムと備わったスキルをもとに、異世界を満喫しようと冒険者の資格を取る。生活にも慣れて各地を巡る旅を計画するも、国の要請で冒険者が遠征に駆り出される事態に……。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~

深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。 ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。 それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?! (追記.2018.06.24) 物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。 もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。 (追記2018.07.02) お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。 どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。 (追記2018.07.24) お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。 今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。 ちなみに不審者は通り越しました。 (追記2018.07.26) 完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。 お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!

処理中です...