【完結】侍女が王女に転生?!英雄と結婚して破滅の国を救います!

カナタカエデ

文字の大きさ
89 / 117
第三章

8話 準備

しおりを挟む
ノルディアに戻ってからのアメリアは、ヴァルクのことを思い出す暇もないほど忙しい日々を送っていた。

王都へ赴く前に最終段階まで詰めていた城下町の足湯計画が、整備段階へと進んでいたからだ。

城下町の各所に足湯を設け、既存の銭湯に加えて新たな浴場もいくつか建設する。
さらに陶管を街中に通し、足湯の源泉を繋ぐことで、街全体をゆるやかに温める仕組みを作る。
雪を溶けやすくし、凍結を防ぐだけでなく、冬でも人を呼び込める観光資源にもなる、それが、アメリアが描いた計画だった。

整備や維持には当然費用がかかるため、反対意見も少なくなかった。
しかしノルディアには十分な資金力があり、工事や管理によって雇用も継続的に生まれる――そう説明するアメリアの提案に、ヴァルクもまた賛同した。

その後押しもあって、計画は無事に予算を通すことができ、不在の間にも着々と準備が進んでいった。

「足湯ができるの、楽しみですね」

シーリーンが嬉しそうに、工事の進む城下町を眺めながらそう言った。

「そうね、全部は無理でも今年の冬までに何箇所かは完成できそうだわ」

季節は夏の終わりへと差しかかり、アメリアは腹部を目立たせない服装へと変えていた。
城外へ出かけるときは特にできる限り気づかれないよう心がけている。

「それはそうと、アメリア様。
ヴァルク様から、またお手紙が届いておりますよ」

小さな声で告げられても、アメリアはただ微笑み返すことしかできなかった。
王都を発つ前に彼に宛てた手紙の返事は、驚くほど早く届いていた。

身体を気遣う言葉。
約束どおり帰れなかったことへの謝罪。
サイグ民主共和国で、詳しくは書けないが、いくつかの問題解決に関わることになったという報告。
そして、必ず帰るから近況を知らせてほしいという願い。

その筆跡からは、彼の焦りと不安が滲み出ていた。

けれどアメリアは、その手紙に一度も返事を書くことなく、時が過ぎるのを待っていた。
やがて毎週のように届くようになった手紙も、いつしか中身を確かめることすらしなくなった。

――できることなら、このまま。
子どもが生まれるまで、帰ってこないでほしい。

そんなことさえ、心の奥で思ってしまう。

かつては、ヴァルクに別れを告げたいと考えたこともあった。
けれど、再会して未練がましく何かを言う必要はない。

彼が帰ってきたとき、そこにいるのは――
可愛らしい赤子と、王女アメリア。

それが、きっと正しい姿なのだ。

だからアメリアは、手紙を書くことなく、ただ目の前の務めに心を注いだ。
ノルディアを、少しでも豊かに。
人々が、幸せに暮らせる場所にするために。

何かに邁進していると、時が過ぎるのは驚くほど早い。
夏が終わり、秋が来て、そしてすぐに冬が到来した。
雪が散らつくほど寒さが増し、アメリアの腹がすっかり大きくなっても、ヴァルクはまだノルディアへ戻っていなかった。

「アメリア様、いい加減にヴァルク様の手紙を読んであげてください!」

シーリーンは手紙の束を、どさりと机の上に置いた。
いつの間にか、読まなくなった手紙がこんなにも溜まってしまったのか。
そう思うと、かつて自分が送り続けた手紙のことを思い出し、胸が痛んだ。

「わかったわ……読むから、席を外してもらえる?」

部屋に一人になると、アメリアは一番新しく届いた封書を手に取った。
開けると、丁寧なヴァルクの文字が目に入る。

『まだ怒っているのか。
体調はどうだ。ハロルドからの報告では、城下の整備に力を入れているそうだが、無理はしないでくれ。
すぐに帰ってあげられず、すまなかった。
ようやくサイグ民主共和国を出立した。できるだけ早く戻るつもりだ。
ノルディアは、もう寒さが厳しくなる頃だろう。
どうか、体を大切に。』

(不思議な人……)

彼は、なぜ一言も怒らないのだろう。
他の手紙には、怒っているものもあるのかしら。

残りの手紙もすべて開けてみたが、どれも短くとも謝罪と、アメリアの身体を気遣う言葉ばかりだった。

最後の手紙が届いたのは三週間前。そろそろ国境を越えている頃だろうか。

アメリアは、大きくなった腹をそっと撫でた。

「もうすぐ、お父様が帰ってくるわよ」

そう呟くと、応えるかのように胎動が強くなる。
何度も、内側から蹴られるような感覚。

前世で三人の子を産んだカリナは、悪阻もなく安産続きだった。
だからこそ今になって、あれがどれほど幸運だったのかを身に染みて感じていた。
悪阻が落ち着いても、身体のだるさは消えない。
それでも――お腹の子への愛おしさだけは、日に日に増していった。

ようやく筆を取り、アメリアは返事を書いた。
ヴァルクに、最後に会えるかはわからない。
それでも。


――会いたい。



ただ、一言、手紙に書いた。

怒っていないことは、きっと伝わるだろう。
それは、紛れもなく今の気持ちだから。

だけど、決して、「待っています」とは書けなかった。
その確証はどうしても持てなきまま、伝書鳥が空へと飛び立つ姿を静かに見送った。


そして、願いは届かないまま
アメリアは運命の日を迎えることになる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

追放令嬢、辺境王国で無双して王宮を揺るがす

遊鷹太
ファンタジー
王国随一の名門ハーランド公爵家の令嬢エリシアは、第一王子の婚約者でありながら、王宮の陰謀により突然追放される。濡れ衣を着せられ、全てを奪われた彼女は極寒の辺境国家ノルディアへと流される。しかしエリシアには秘密があった――前世の記憶と現代日本の経営知識を持つ転生者だったのだ。荒廃した辺境で、彼女は持ち前の戦略眼と人心掌握術で奇跡の復興を成し遂げる。やがて彼女の手腕は王国全土を震撼させ、自らを追放した者たちに復讐の刃を向ける。だが辺境王ルシアンとの運命的な出会いが、彼女の心に新たな感情を芽生えさせていく。これは、理不尽に奪われた女性が、知略と情熱で世界を変える物語――。

【完結】男爵令嬢は冒険者生活を満喫する

影清
ファンタジー
英雄の両親を持つ男爵令嬢のサラは、十歳の頃から冒険者として活動している。優秀な両親、優秀な兄に恥じない娘であろうと努力するサラの前に、たくさんのメイドや護衛に囲まれた侯爵令嬢が現れた。「卒業イベントまでに、立派な冒険者になっておきたいの」。一人でも生きていけるようにだとか、追放なんてごめんだわなど、意味の分からぬことを言う令嬢と関わりたくないサラだが、同じ学園に入学することになって――。 ※残酷な描写は予告なく出てきます。 ※小説家になろう、アルファポリス、カクヨムに掲載中です。 ※106話完結。

規格外で転生した私の誤魔化しライフ 〜旅行マニアの異世界無双旅〜

ケイソウ
ファンタジー
チビで陰キャラでモブ子の桜井紅子は、楽しみにしていたバス旅行へ向かう途中、突然の事故で命を絶たれた。 死後の世界で女神に異世界へ転生されたが、女神の趣向で変装する羽目になり、渡されたアイテムと備わったスキルをもとに、異世界を満喫しようと冒険者の資格を取る。生活にも慣れて各地を巡る旅を計画するも、国の要請で冒険者が遠征に駆り出される事態に……。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~

深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。 ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。 それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?! (追記.2018.06.24) 物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。 もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。 (追記2018.07.02) お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。 どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。 (追記2018.07.24) お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。 今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。 ちなみに不審者は通り越しました。 (追記2018.07.26) 完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。 お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!

処理中です...