残念令嬢の恩返し~婚約者に浮気されている公子様、あなたにお味方いたします!~

伊簑木サイ

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【5】お酒で失敗しました……。

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 やわらかな光に目を覚ます。ぼーっと起き上がると、天蓋の向こうから声を掛けられた。

「おはようございます、お嬢様。お湯浴みはいかがなさいますか?」

 えっ、誰!? 何!? あっ、これ、私のベッドじゃない!? そうだった、ここはジェダオ公爵家の客室!

「ええ、お願いするわ」

 何事もなかったかのように返事して、侍女がいったん下がったとたんに、大きく息を吐き出した。ああ、驚いた!

 さほど待たないうちに侍女が戻ってきて、浴室に案内された。淡いピンクや白の薔薇がそこかしこに飾られていて、お湯にも花が散らされている。ほわんと立ち上っている薔薇の香り。なんというおもてなし。さすが公爵家。
 ささっと済ませてしまうのがもったいなくて、しばらく一人にしてもらうことにした。

 わあ、花びらがすべすべ。可愛らしい色。それに、なんていい匂い。
 バスタブの縁に肘を掛けて、その上に頬をのせ、ぼんやりと花びらをすくっては落としていたら、扉の向こうから声が掛かった。

「お嬢様、シュリオス様とラーニア様から、ご伝言を預かって参りました」
「ええ、何かしら?」
「ご一緒にお食事なさいませんかとのことです。いかがなさいますか?」
「喜んでご一緒しますとお返事をしてください」

 そうと決まれば、ぐずぐずしていられない。侍女を呼び入れて入浴を手伝ってもらい、ドレスを着付けてもらった。

 寝衣もそうだったけれど、靴下一枚とっても、持参した物ではない。下着まで揃えてもらっているって、変な感じ……。なんというのか、自分の家と思ってくださいと言われているような……。
 昨夜のプロポーズを思い出して、顔が熱くなる。

「いかがでございましょうか」

 髪が結い上がって、姿を確かめるようにと用意された鏡の中には、素朴な愛らしさのある溌剌とした感じの令嬢が目を丸くしていた。

「素敵ね。ありがとう」

 さすがだわ、公爵家の侍女さんたち! 地味は地味でいいではないかという、地味の良さを最大限に引き出したこの仕上がり! 朝食にぴったりですね! プロフェッショナルだわー。いえ、もちろん、うちの侍女たちもなかなかのものなのですがね!

「シュリオス様がお迎えにみえました」
「まあ! 入っていただいて」

 ドキドキしてきて、手を胸に当てた。……昨夜のことは夢ではないのよね? もしかして、あまりに思いが募ったせいで、あんな夢を見たのだったらどうしよう? ダンスを踊って、酔っ払って、そのまま寝てしまっただけだったりして。……ありえる! だって、私よ!? いまだかつて誰からも交際を申し込まれたことも愛を打ち明けられたこともないのに、よりによって紳士の中の紳士なシュリオス様にプロポーズされるなんてあるのかしら!?

「セリナ嬢」
「ごきげんよう、シュリオス様」

 つかつかと入ってきた彼は、まっすぐにやってきて私を抱きしめた。眼鏡が冷たく光っていて表情は全然わからなかったけれど、頭のてっぺんに、チュッとキスを落とされる。

「よく眠れましたか?」
「はい」

 答えながら、彼の背に手をまわした。胸に頬を寄せる。……いいのよね? たとえこれがシュリオス様にとってただの挨拶だとしたって、これだけのことをされているのだから、私だってやらかしたって、おあいこよね?

「昨夜のプロポーズを覚えてくれていますか?」
「はい、もちろんです」

 やはり夢じゃなかった! 本当に申し込まれていたみたい!! よかったあ!!!

「後悔していませんか?」
「え?」

 急にそんなことを言われて、びっくりして顔を上げる。
 なななななぜ? いったい何を?
 戸惑う私をまじまじと見ていると思ったら、再びぎゅうと抱きしめられた。

「……よかった。お酒のせいでプロポーズしたことさえ忘れられているのではないかとか、酔った勢いで承諾してくれただけではないかとか、考えはじめたら眠れなくなってしまって……」

 あ。ああああ~、酔っ払っていましたもんね、私。

「私こそ、酔って眠ってしまった末に見た夢だったかもしれないと思いはじめていたところです」
「夢ではありませんよ。……もし夢だったとしたら、二度と目覚めたくないです」

 またチュッと、今度はこめかみにキスされる。私も、キュッとしがみつく。
 うあー!! 死にそうにどきどきするーー!! でも離れたくないーーー!!! 
 しばらくして、抱きしめてくれる力が弱まって、背を撫でられた。

「こうしていたいですが、まずは何か食べませんとね。祖母も待っていますし」

 そうだった! ご飯を食べないで、ラーニア様が待っているのだった!

「お待たせしてはいけませんね、参りましょう」

 差し出してくれた肘に手を添える。彼の口元がにこりとして、なんだかそれだけで、とても幸せな気分になったのだった。
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