残念令嬢の恩返し~婚約者に浮気されている公子様、あなたにお味方いたします!~

伊簑木サイ

文字の大きさ
40 / 46
【8】お姑様にお茶会に呼ばれました。

しおりを挟む
 キ、と何かが軋む音に、はっとする。確認したいのに確認するのが怖くて、ギシギシとした動きで首をめぐらせると、ワゴンを持って来たヴェステニアと目が合った。

 み、見られたーーー!!!

「お嬢様の体が冷えてしまわれます。どうぞお部屋へ」

 淡々とした口調で無表情に促される。私がシュリオスの頭にキスを降らせているところを見たのに、私を気遣う言いよう……。それがよけいにいたたまれない。
 ただちに居間に入り、ソファに座って、問題のない令嬢を心がけた。

 玄関で抱きしめ合っていちゃいちゃしていたのも、廊下でシュリオスの頭を撫でまわしていたのも、たまたまで! ところかまわず人目を憚らないことは、いつもはしないんです、信じてええええ……。

 ヴェステニアは粛々とミルクを供し、暖炉の火の具合を確認すると、すみやかに出て行った。
 できる執事すぎて、弁解する隙もない。いえ、私とシュリオスが何をしていたとしても、執事に弁解する必要はないのだけれど。見て見ぬふりをしてくれた話題を、わざわざ蒸し返すのもなんだし……。
 ……次回から気をつけよう。それしかないわ。

 冷める前に、さっそくミルクをいただいた。
 こんな夜遅くなのに、手抜きなく美味しい! さすがヴェステニアと言おうか、ジェダオ家と言おうか……。

 そもそも居間の中が暖かい。シュリオスがいつ帰ってきてもいいようにしてあったのだろう。玄関や廊下の明かりもそうだ。財力のない家ならば、いつ帰ってくるかわからない主人のためだけに、煌々と灯されることはない。

 本当に財力のある家なのだわ。私が教わってきた――同じ階級はもちろん、下位の貴族や商家に嫁いでも困らないように――経済観念では、上手く取り回せそうにない。そのへんは早いうちに、マデリナ様やラーニア様に教えを請わないと。

「セリナ、……セリナ、……セリナ?」
「え? はい! なんでしょうか?」

 何度か名前を呼ばれていたらしい。あわてて答えた私に、苦笑する。

「もう遅いですね。お部屋まで送ります。お話は明日に……」
「眠くありません! お話を聞きたいです!」

 今にも立ち上がりそうな彼の袖を、はっしと掴む。もう少しだけ一緒にいたいー!

「そうですか? たいした話ではないのですが……。実は、ヴィルへミナ殿下を招いて、お祝いを述べる機会を設けてはくれないかと、下々から声が上がっていまして。そこで、公爵家で茶会を開くことになりました。ついては、セリナにも私と出席してもらいたいのですが」
「下々?」
「いまだ王都に残っている子弟です。セリナが親しくしている友人方の兄弟や、レンフィールド家の所属するマルセール派からも、多く嘆願を受けましたよ」

 そうして挙げられた名前に、まだ知り合いがたくさん王都に居たことに驚く。てっきり、もう帰ったと思っていた。
 実家に居るのとは違うから気軽に行き来はできないけれど、茶会に来るなら会えるわね!

「承知しました。いつですの?」
「五日後です。ドレスはこれから作るのはさすがに間に合わないでしょうから、手持ちの物で我慢してもらうしかないのですが」
「我慢だなんて! どれも素敵ですのに」

 社交はほとんどないはずなのに、夜会用だけでも十数着用意されていて、驚いたのよね。こういう急なことがあるからだったのね。

「よかった。あれらだと、私の方も揃いで用意してあるので」
「まあ。そうでしたのね」
「どれか着たい物はありましたか?」
「うーん……。主賓のヴィルへミナ殿下とドレスの色が被らないようにしたいのですが、こっそり知ることはできますか?」
「フレドリックが贈ったドレスを着るはずですから、わかります。私たちも明日、着ていくものを決めませんか?」
「ええ。用意は早い方がいいですものね」

 やったー! 明日はシュリオスとたくさん過ごせそう。

 それからもう少しだけお話しして、明日のこともあるから遅くならないうちにと寝室に送ってもらった。
 そうして、扉の前で今日の最後にと少々長めのキスをして、ふわふわした気分のままベッドに入ったのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】裏切られ婚約破棄した聖女ですが、騎士団長様に求婚されすぎそれどころではありません!

綺咲 潔
恋愛
クリスタ・ウィルキンスは魔導士として、魔塔で働いている。そんなある日、彼女は8000年前に聖女・オフィーリア様のみが成功した、生贄の試練を受けないかと打診される。 本来なら受けようと思わない。しかし、クリスタは身分差を理由に反対されていた魔導士であり婚約者のレアードとの結婚を認めてもらうため、試練を受けることを決意する。 しかし、この試練の裏で、レアードはクリスタの血の繋がっていない妹のアイラととんでもないことを画策していて……。 試練に出発する直前、クリスタは見送りに来てくれた騎士団長の1人から、とあるお守りをもらう。そして、このお守りと試練が後のクリスタの運命を大きく変えることになる。 ◇   ◇   ◇ 「ずっとお慕いしておりました。どうか私と結婚してください」 「お断りいたします」 恋愛なんてもう懲り懲り……! そう思っている私が、なぜプロポーズされているの!? 果たして、クリスタの恋の行方は……!?

転生したら地味ダサ令嬢でしたが王子様に助けられて何故か執着されました

古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
皆様の応援のおかげでHOT女性向けランキング第7位獲得しました。 前世病弱だったニーナは転生したら周りから地味でダサいとバカにされる令嬢(もっとも平民)になっていた。「王女様とか公爵令嬢に転生したかった」と祖母に愚痴ったら叱られた。そんなニーナが祖母が死んで冒険者崩れに襲われた時に助けてくれたのが、ウィルと呼ばれる貴公子だった。 恋に落ちたニーナだが、平民の自分が二度と会うことはないだろうと思ったのも、束の間。魔法が使えることがバレて、晴れて貴族がいっぱいいる王立学園に入ることに! しかし、そこにはウィルはいなかったけれど、何故か生徒会長ら高位貴族に絡まれて学園生活を送ることに…… 見た目は地味ダサ、でも、行動力はピカ一の地味ダサ令嬢の巻き起こす波乱万丈学園恋愛物語の始まりです!? 小説家になろうでも公開しています。 第9回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作品

【完結】中継ぎ聖女だとぞんざいに扱われているのですが、守護騎士様の呪いを解いたら聖女ですらなくなりました。

氷雨そら
恋愛
聖女召喚されたのに、100年後まで魔人襲来はないらしい。 聖女として異世界に召喚された私は、中継ぎ聖女としてぞんざいに扱われていた。そんな私をいつも守ってくれる、守護騎士様。 でも、なぜか予言が大幅にずれて、私たちの目の前に、魔人が現れる。私を庇った守護騎士様が、魔神から受けた呪いを解いたら、私は聖女ですらなくなってしまって……。 「婚約してほしい」 「いえ、責任を取らせるわけには」 守護騎士様の誘いを断り、誰にも迷惑をかけないよう、王都から逃げ出した私は、辺境に引きこもる。けれど、私を探し当てた、聖女様と呼んで、私と一定の距離を置いていたはずの守護騎士様の様子は、どこか以前と違っているのだった。 元守護騎士と元聖女の溺愛のち少しヤンデレ物語。 小説家になろう様にも、投稿しています。

扉の先は異世界(船)でした。~拾ったイケメンと過ごす異世界航海ライフ~

楠ノ木雫
恋愛
 突然異世界の船を手に入れてしまった平凡な会社員、奈央。彼女に残されているのは自分の家とこの規格外な船のみ。  ガス水道電気完備、大きな大浴場に色々と便利な魔道具、甲板にあったよく分からない畑、そして何より優秀過ぎる船のスキル!  これなら何とかなるんじゃないか、と思っていた矢先に私の好みドンピシャなイケメンを拾い上げてしまった。目覚めたと思ったら、首を絞められる寸前となり絶体絶命!  何とも恐ろしい異世界ライフ(船)が今始まる!  ※大幅に改稿しました。(旧題:異世界でイケメンを引き上げた!〜突然現れた扉の先には異世界(船)が! 船には私一人だけ、そして海のど真ん中! 果たして生き延びられるのか!)

家族から邪魔者扱いされた私が契約婚した宰相閣下、実は完璧すぎるスパダリでした。仕事も家事も甘やかしも全部こなしてきます

さら
恋愛
家族から「邪魔者」扱いされ、行き場を失った伯爵令嬢レイナ。 望まぬ結婚から逃げ出したはずの彼女が出会ったのは――冷徹無比と恐れられる宰相閣下アルベルト。 「契約でいい。君を妻として迎える」 そう告げられ始まった仮初めの結婚生活。 けれど、彼は噂とはまるで違っていた。 政務を完璧にこなし、家事も器用に手伝い、そして――妻をとことん甘やかす完璧なスパダリだったのだ。 「君はもう“邪魔者”ではない。私の誇りだ」 契約から始まった関係は、やがて真実の絆へ。 陰謀や噂に立ち向かいながら、互いを支え合う二人は、次第に心から惹かれ合っていく。 これは、冷徹宰相×追放令嬢の“契約婚”からはじまる、甘々すぎる愛の物語。 指輪に誓う未来は――永遠の「夫婦」。

王家を追放された落ちこぼれ聖女は、小さな村で鍛冶屋の妻候補になります

cotonoha garden
恋愛
「聖女失格です。王家にも国にも、あなたはもう必要ありません」——そう告げられた日、リーネは王女でいることさえ許されなくなりました。 聖女としても王女としても半人前。婚約者の王太子には冷たく切り捨てられ、居場所を失った彼女がたどり着いたのは、森と鉄の匂いが混ざる辺境の小さな村。 そこで出会ったのは、無骨で無口なくせに、さりげなく怪我の手当てをしてくれる鍛冶屋ユリウス。 村の事情から「書類上の仮妻」として迎えられたリーネは、鍛冶場の雑用や村人の看病をこなしながら、少しずつ「誰かに必要とされる感覚」を取り戻していきます。 かつては「落ちこぼれ聖女」とさげすまれた力が、今度は村の子どもたちの笑顔を守るために使われる。 そんな新しい日々の中で、ぶっきらぼうな鍛冶屋の優しさや、村人たちのさりげない気遣いが、冷え切っていたリーネの心をゆっくりと溶かしていきます。 やがて、国難を前に王都から使者が訪れ、「再び聖女として戻ってこい」と告げられたとき—— リーネが選ぶのは、きらびやかな王宮か、それとも鉄音の響く小さな家か。 理不尽な追放と婚約破棄から始まる物語は、 「大切にされなかった記憶」を持つ読者に寄り添いながら、 自分で選び取った居場所と、静かであたたかな愛へとたどり着く物語です。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

虐げられた私が姉の策略で結婚させられたら、スパダリ夫に溺愛され人生大逆転しました。

専業プウタ
恋愛
ミリア・カルマンは帝国唯一の公爵家の次女。高貴な皇族の血を引く紫色の瞳を持って生まれたワガママな姉の陰謀で、帝国一裕福でイケメンのレナード・アーデン侯爵と婚約することになる。父親であるカルマン公爵の指示のもと後継者としてアカデミーで必死に勉強してきて首席で卒業した。アカデミー時代からの恋人、サイラスもいる。公爵になる夢も恋人も諦められない。私の人生は私が決めるんだから、イケメンの婚約者になど屈しない。地位も名誉も美しさも備えた婚約者の弱みを握り、婚約を破棄する。そして、大好きな恋人と結婚してみせる。そう決意して婚約者と接しても、この婚約者一筋縄ではいかない。初対面のはずなのに、まるで自分を知っていたかのような振る舞い。ミリアは恋人を裏切りたくない、姉の思い通りになりたくないと思いつつも彼に惹かれてく気持ちが抑えられなくなっていく。

処理中です...