暁にもう一度

伊簑木サイ

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閑話 ルティンの恋

6-2

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 得た情報を持って司令部へと向かう途中、ハイデッカーは珍しくルティンの隣に並んだ。

「ウルティア将軍の尋問は俺が代わろう」
「必要ない」
「いや、おまえは彼女に入れ込みすぎているように見受けられる」

 ルティンは立ち止まった。しっかりとハイデッカーの視線を捉える。そこにはなんの感情も浮かんでおらず、ただ冷静で冷徹な精神があるだけだった。ルティンはそれに満足した。

 妙な気でもまわされて、見当違いな同情でもされていたらたまらなかった。この感情はそんなものではない。恋情ならば、もっと執着や独占欲を伴うもののはずだ。ルティンを愛していると喚いた彼らが見せたように。しかし、ルティンの中にそういった化け物じみたものは一切見当たらなかった。ただ、彼女の思いをたわめぬままに生かし、望むままに死なせてやりたいだけだった。たったそれだけのことだった。

 だが、それを説明するつもりはなかった。必要もなかった。そんな個人の感情は、公の立場で許される範囲を越えるものであってはならない。特にルティンのように様々なものを背負っている立場の者は余計に。

「私は自分が誰かを知っている。我が名はルティン・コランティア。ウィシュタリア王妃ソラン陛下の弟だ。国王陛下からは情報局情報部主任も承っている。この名は我が誇り。私がこの名に背くことはない」
「ああ、知っている。しかし、人は理性でのみ動くものではないのも知っている。人を突き動かすのは感情だ。今のおまえにはその恐れがあると思う」
「我が王妃陛下以上に私を動かすものはない」

 ハイデッカーは眉を顰めた。ルティンを睨むように観察していたが、やがて視線を外して、苛立たしげに息をついた。

「わかった。ただし、逸脱したと判断した時は、警告なしで実力行使する」
「了解した」

 ルティンは態度に出さなかったが、妙に安堵するのを感じていた。もしもがあるとは思っていない。けれど、有り得べからざるそのもしもがあった時、ハイデッカーなら必ず阻止してくれると確信できた。いけ好かない奴だが、それだけは信頼できる。良くも悪くもルティンの向こうを張れるのは、ハイデッカーだけだった。

 ルティンは再び歩きだした。いつものように数歩下がって、ハイデッカーもそれに続く。ルティンは今日中に王に送る報告書の内容を頭の中で吟味しはじめた。
 だから、ハイデッカーの小さな呟きをその耳が拾うことはなかったのだ。

「知っているさ。だから、心配なんだよ」

 気遣いにあふれたそれを、ルティンは知ることがなかった。
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