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6-フライアウェイ!
61.少女、見学する。
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少女の慌てふためく様子を物ともせず、シルミアは聞こえていないかのように笑顔でこう返した。
「心配ない、サポートにランをつけよう」
それまで部屋の壁に寄りかかっていたランバールは、いきなり話を振られて慌ててあくびを噛み殺した。
「オレ? まぁ、いいけど」
「いや、だからサポートがどうとかそう言う問題じゃなく!」
乗り手に問題があると言っているのだ。根本的なところを分かって貰おうとするのだが、シルミアは風のようにスルリとすり抜けた。
「おぉっと! そろそろ明日の打ち合わせの時間だ。それでは楽しみにしてるよー」
「待っ……」
それだけ言い残し、風の精霊はいきなり風を巻き起こして消えてしまう。空を掻いた手をガクリと落とし、ニチカは嘆いた。
「だからどうしてこの世界の人たちは、人の話を聞かないのーっ!!」
***
「さぁどーぞ、汚ないとこだけど」
居ない相手に向かって抗議するだけ無駄だと割り切ったニチカは、ランバールに案内され階下にある工房に向かった。
外から見た時は分からなかったが、シルミア宅は斜面に建っているらしく、地下なのに大きな窓から明るい日差しが差し込んで室内を暖かく照らしていた。工房の壁には何本ものホウキが並んでいて、削りたての木の匂いがふんわりと漂っている。ニチカは目を閉じて深呼吸した。
「良い香り……」
「ここでホウキを削ったり調整するんだ、えーっと巻き尺どこだっけ」
「お前にこんな趣味があったなんてな」
遅れて入ってきたオズワルドの発言に、青年は照れたように頭を掻く。
「学校じゃ言わなかったっスからねー。ほら、この里以外じゃ男がホウキに乗るのはタブーみたいなとこあるし」
メジャーを古ぼけたデスクから取り出したランバールは、少女の寸法を測り始めた。背丈、肩幅、腕の長さ、指先から手首まで。フンフンと頷きながらメモをした彼は明るい声で言った。
「ニチカちゃんのサイズならかなり削っちゃって良さそうだね。こりゃ軽量化が期待できるな。あ、いやでも削りすぎると今度は強度が落ちるから……ここはこうして。ならこっちは」
職人はシルミアから貰ったホウキに黒炭で印を付けて行く。その黄色い目に楽しそうな色が浮かんで居るのを見て少女は微笑んだ。邪魔をしないよう、彼が立ち上がったところで話しかける。
「ホントに好きなんだね。ホウキいじるの」
「え? あー、そうかな? うんそうかも」
戸棚から鋸を取り出したランバールは、まずは長すぎる柄を切り落とす。それに合わせて房の部分もおおまかに抜いて調整していく。迷いなく手を動かしながら口を開いた。
「昔っからの趣味だし、手慣れてる感はあるかな。しばらくやってなかったから勘が鈍ってなきゃいいけど」
「そういえば改造規定とかあるの?」
そう聞くと今度は何本ものヤスリを持ち出して来ながら答えてくれた。
「もちろん。まずホウキは大会指定されたのを使わなきゃいけない。これを削って減らしていくのはいいけど他の材料足すのはダメ。風に乗る物だからいかに乗り手に合わせてギリギリまで重量を減らせるかがカギになってくるんだけど、やりすぎると今度は強度が足りなくて脆くなるんだよね、後は空気抵抗とかも考えて――」
荒いヤスリでガシガシと削り、大まかな形を整える。だんだん目を細かい物に変えて行くとなめらかな表面に仕上がっていった。
「あと風のマナは美しいものが好きだから装飾が良いとスピードが出るんだ」
彫刻刀で下書きもなしに美しい彫り込みを入れていく。その魔法のような手際の良さにニチカはすっかり魅せられていた。
「わぁぁ……すごいよラン君! 職人さんみたい!」
繊細な透かし模様に目を輝かせる少女を見て、ランバールは軽く微笑む。ところがその後ろから覗き込んできた師匠がなにやら懐から取り出した。
「コイツを仕込める場所はないのか」
「……なにそれ」
手にした黒い筒のようなものの正体を不信感丸出して尋ねると、師匠は真顔のままで答えた。
「何って、ブースターだ。風と炎のマナを取り込んで爆発的な推進力を産みだす事ができる」
「話きいてなかったの!? オプションを着けるのは禁止って言ってたでしょ!」
「すごいぞこれは、実験で噴射口を岩場に向けたら辺り一帯消し飛んだからな」
「そんな危ない物に弟子を乗せるな!」
いつものようにツッコミを入れると、機嫌を損ねた師匠はチッと舌打ちをした。
「んな悠長なこと言ってる場合か。明日のレースに優勝しないと旅はここで断たれるんだぞ」
「そ、れは……」
急に現実を突きつけられてニチカは言いよどむ。正直いって自信があるかと言われれば答えはノーだ。だがそれでも不正をしてまで勝とうという気持ちはない。俯きながらボソボソと呟く。
「ズルして勝ったって、後で自分が許せなくなるに決まってるもの」
その答えを聞いたオズワルドは、ため息をついて背中を向けた。
「ここに来てもヒロイン思考か。なら勝手に正々堂々とやってろ」
それだけ言い残し、工房から出て行ってしまう。取り残されたニチカはぶすっとしたまま小さく言った。
「……怒らせたのかな」
「さぁね~。でも、センパイもセンパイなりに考えてくれたのかも知れないね」
ランバールの言葉を聞いて少しだけ反省する。戻ってきたら謝ろう。
だが夜がとっぷり暮れても男が帰って来る気配はなかった。
「心配ない、サポートにランをつけよう」
それまで部屋の壁に寄りかかっていたランバールは、いきなり話を振られて慌ててあくびを噛み殺した。
「オレ? まぁ、いいけど」
「いや、だからサポートがどうとかそう言う問題じゃなく!」
乗り手に問題があると言っているのだ。根本的なところを分かって貰おうとするのだが、シルミアは風のようにスルリとすり抜けた。
「おぉっと! そろそろ明日の打ち合わせの時間だ。それでは楽しみにしてるよー」
「待っ……」
それだけ言い残し、風の精霊はいきなり風を巻き起こして消えてしまう。空を掻いた手をガクリと落とし、ニチカは嘆いた。
「だからどうしてこの世界の人たちは、人の話を聞かないのーっ!!」
***
「さぁどーぞ、汚ないとこだけど」
居ない相手に向かって抗議するだけ無駄だと割り切ったニチカは、ランバールに案内され階下にある工房に向かった。
外から見た時は分からなかったが、シルミア宅は斜面に建っているらしく、地下なのに大きな窓から明るい日差しが差し込んで室内を暖かく照らしていた。工房の壁には何本ものホウキが並んでいて、削りたての木の匂いがふんわりと漂っている。ニチカは目を閉じて深呼吸した。
「良い香り……」
「ここでホウキを削ったり調整するんだ、えーっと巻き尺どこだっけ」
「お前にこんな趣味があったなんてな」
遅れて入ってきたオズワルドの発言に、青年は照れたように頭を掻く。
「学校じゃ言わなかったっスからねー。ほら、この里以外じゃ男がホウキに乗るのはタブーみたいなとこあるし」
メジャーを古ぼけたデスクから取り出したランバールは、少女の寸法を測り始めた。背丈、肩幅、腕の長さ、指先から手首まで。フンフンと頷きながらメモをした彼は明るい声で言った。
「ニチカちゃんのサイズならかなり削っちゃって良さそうだね。こりゃ軽量化が期待できるな。あ、いやでも削りすぎると今度は強度が落ちるから……ここはこうして。ならこっちは」
職人はシルミアから貰ったホウキに黒炭で印を付けて行く。その黄色い目に楽しそうな色が浮かんで居るのを見て少女は微笑んだ。邪魔をしないよう、彼が立ち上がったところで話しかける。
「ホントに好きなんだね。ホウキいじるの」
「え? あー、そうかな? うんそうかも」
戸棚から鋸を取り出したランバールは、まずは長すぎる柄を切り落とす。それに合わせて房の部分もおおまかに抜いて調整していく。迷いなく手を動かしながら口を開いた。
「昔っからの趣味だし、手慣れてる感はあるかな。しばらくやってなかったから勘が鈍ってなきゃいいけど」
「そういえば改造規定とかあるの?」
そう聞くと今度は何本ものヤスリを持ち出して来ながら答えてくれた。
「もちろん。まずホウキは大会指定されたのを使わなきゃいけない。これを削って減らしていくのはいいけど他の材料足すのはダメ。風に乗る物だからいかに乗り手に合わせてギリギリまで重量を減らせるかがカギになってくるんだけど、やりすぎると今度は強度が足りなくて脆くなるんだよね、後は空気抵抗とかも考えて――」
荒いヤスリでガシガシと削り、大まかな形を整える。だんだん目を細かい物に変えて行くとなめらかな表面に仕上がっていった。
「あと風のマナは美しいものが好きだから装飾が良いとスピードが出るんだ」
彫刻刀で下書きもなしに美しい彫り込みを入れていく。その魔法のような手際の良さにニチカはすっかり魅せられていた。
「わぁぁ……すごいよラン君! 職人さんみたい!」
繊細な透かし模様に目を輝かせる少女を見て、ランバールは軽く微笑む。ところがその後ろから覗き込んできた師匠がなにやら懐から取り出した。
「コイツを仕込める場所はないのか」
「……なにそれ」
手にした黒い筒のようなものの正体を不信感丸出して尋ねると、師匠は真顔のままで答えた。
「何って、ブースターだ。風と炎のマナを取り込んで爆発的な推進力を産みだす事ができる」
「話きいてなかったの!? オプションを着けるのは禁止って言ってたでしょ!」
「すごいぞこれは、実験で噴射口を岩場に向けたら辺り一帯消し飛んだからな」
「そんな危ない物に弟子を乗せるな!」
いつものようにツッコミを入れると、機嫌を損ねた師匠はチッと舌打ちをした。
「んな悠長なこと言ってる場合か。明日のレースに優勝しないと旅はここで断たれるんだぞ」
「そ、れは……」
急に現実を突きつけられてニチカは言いよどむ。正直いって自信があるかと言われれば答えはノーだ。だがそれでも不正をしてまで勝とうという気持ちはない。俯きながらボソボソと呟く。
「ズルして勝ったって、後で自分が許せなくなるに決まってるもの」
その答えを聞いたオズワルドは、ため息をついて背中を向けた。
「ここに来てもヒロイン思考か。なら勝手に正々堂々とやってろ」
それだけ言い残し、工房から出て行ってしまう。取り残されたニチカはぶすっとしたまま小さく言った。
「……怒らせたのかな」
「さぁね~。でも、センパイもセンパイなりに考えてくれたのかも知れないね」
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