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7-偽りの聖女
76.少女、呻く。
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一瞬だけ部屋が静まり返る。少女は自分の血がサァァと引いていく音を聞いたような気がした。
「だ、誰ですの!?」
アンジェリカお嬢様の悲鳴が響く。いち早く我に返ったオズワルドがニチカの襟元をひっつかみベッドの下から飛び出した。引きずられる最中、驚いたような顔をしたウルフィと目が合う。その首には見覚えのない黄色い首輪がはめられていた。バウッと一声吠えたオオカミは驚いたように目を見開いた。
「ニチカ? ご主人っ!?」
「ウルフィ!」
彼はこちらに来ようとしたのだが、執事に首環の紐を引き戻されてしまった。一瞬それを火炎弾で焼き切ることも考えたがなぜか師匠に止められる。
「どうやって牢から脱出したんですの!? 捕まえてっ」
そう叫ぶアンジェリカの胸元に、紫の水晶が揺れている。だが確かめようとしたときにはもう、開け放たれた窓から飛び出していた。オズワルドの単純な命令で意識をひっぱたかれる。
「飛べ!」
「ひぃっ!?」
ニチカはほとんど無意識下で腰のホウキを外す。気づけば二人は星のない夜の下を猛スピードで飛んでいた。
***
さきほどの木立の中に戻ってきた師弟は、ほとんど自由落下に近い形で着陸した。ザッと、とび降りたオズワルドの横で、疲労困憊した少女がボテッと地に落ちる。頭に葉っぱを付けたニチカは暴れる心臓を抑えながら苦情を言った。
「ぜ、はぁ、いきなり飛べとか、無茶ぶりやめてよね……っていうか、自分で飛べるんだからホウキの一本くらい持ってよ」
だが頑なに飛ぶことを拒否する男はその提案をあっさりと却下した。
「断る。疲れるから嫌だ」
「だからって私にぶら下がるな!」
相変わらず男女逆転の労働作業である。ようやくホウキを小さくした少女は、屋敷に振り返り追手が来ていないかどうかを確かめた。ポツポツと火が灯り始めたところを見ると捜索隊が組まれたのだろう、このまま見逃しては貰えなさそうだ。木の影に身を隠しながら師匠に問いかける。
「どうして止めたの? あの紐さえ焼き切っちゃえばウルフィなら簡単に逃げられたはずでしょ」
「いや、それはマズい」
「え?」
バツの悪そうな声にそちらを見る。微妙に視線を逸らしたオズワルドは、後ろめたい事でもあるのか頭を掻きながらボソボソと呟いた。
「アイツの首に黄色い輪があっただろ?」
「あのゴツゴツした首輪?」
そう言われて先ほどの光景を思い出す。何やらアゴの辺りに箱のような物がついていたような気がするが?
内緒話でもするように身を屈めた師匠は、握り拳をニチカの眼前に持っていき、パッと開いた。
「あの箱には爆薬が入ってて、スイッチ一つでボン!と……」
「…………」
ニチカは目を一つ瞬く。一目見ただけで仕組みが判るということは、つまり――。言葉の意味するところを理解した瞬間、少女は思わず目の前の男を指して叫んでいた。
「製作者ーっ!」
「ええいうるさい! 俺だってこんなところで使われているとは予想外だ!」
分が悪くなったオズワルドは、むすっとした顔で腕を組み、何やら弁解を始めた。
「言っておくがあれは売り物じゃないんだ。趣味で作ったようなもの――」
「趣味で作らないでよそんなもんっ!」
そんな倫理ギリギリの物を作って何に使うつもりだったのか。そこは気になったが、ふと冷静になってニチカは問いかける。
「売ってないなら、どうしてここにあるわけ?」
「そこなんだよな。作ったはいいが特に使うでもなく放置していて、興味を持ったシャルに二つ、三つ譲ってやった他は……」
同時にハッとした二人は同じタイミングでうめいた。あのお嬢様は配送業シャルロッテの上客ではなかったか。
先に頭を切り替えたのはニチカだった。顔を上げ勇ましい表情をとる。
「仕方ない、とにかく情報があるのは良しとしましょう。物事は前向きに考えなきゃ」
「もう置いてっても良いんじゃないか、アイツ」
「それ本気で言ってたら殴るからね」
少女はジト目でにらみつける。そんな弟子にオズワルドは冗談だと返そうとした。が、茂みからのっそりと現れた影に言葉を失う。
「え、なに」
師匠の視線の先を振り向いたニチカは、自分のすぐ背後でぬぼーっと立つ人影に悲鳴を上げた。
「きゃああああ!!」
「ああああすみませんすみません!! 驚かせるつもりはなかったんです申し訳ありません!!」
慌てて飛び出して来た青年は地に頭を擦りつける。その姿には見覚えがあった。地味な風体に茶髪、とって着せられたような黒いローブ、全身からにじみ出る「下っ端」感がすさまじい彼は
「えっと、ウィルさん……でしたっけ」
オズワルドが成り代わっていた執事のはずだと思い出し、ニチカは声をかける。だが彼はなぜか震え上がった。
「ひぃぃ!! なぜ僕の名前をご存じなのですか! あっ、あれですか! これを上のお偉いさんに報告してニセモノを捕らえるつもりなんですね! ああああごめんなさいごめんなさい僕は無理やりお嬢様に付き合わされてるだけなんですそもそも屋敷を出た時点で相当嫌な予感はしてたんですけど僕は両親が世話になってるから逆らえなくてですねお許しくださいお嬢様もあぁ見えて本当は素直な良い子なんですただちょっと今は欲に目がくらんでると言いますか平たく言うと家出の資金繰りに必死になってるだけで決して精霊の巫女様を貶めようだなんてそんな大それた考えはもしかしたらほんのちょびっとは持ってるかもしれませんけどいやいやいや! まさかそんな」
放っておくと永遠に謝罪し続けそうなウィルを前にして、オズワルドがイラッとしたように言う。
「おい、黙らせていいか」
「話がこじれるからやめて」
それをやんわりと制したニチカはため息をついた。頭を打ち付けながら必死に謝罪する執事はしばらく止まりそうにない……。
「だ、誰ですの!?」
アンジェリカお嬢様の悲鳴が響く。いち早く我に返ったオズワルドがニチカの襟元をひっつかみベッドの下から飛び出した。引きずられる最中、驚いたような顔をしたウルフィと目が合う。その首には見覚えのない黄色い首輪がはめられていた。バウッと一声吠えたオオカミは驚いたように目を見開いた。
「ニチカ? ご主人っ!?」
「ウルフィ!」
彼はこちらに来ようとしたのだが、執事に首環の紐を引き戻されてしまった。一瞬それを火炎弾で焼き切ることも考えたがなぜか師匠に止められる。
「どうやって牢から脱出したんですの!? 捕まえてっ」
そう叫ぶアンジェリカの胸元に、紫の水晶が揺れている。だが確かめようとしたときにはもう、開け放たれた窓から飛び出していた。オズワルドの単純な命令で意識をひっぱたかれる。
「飛べ!」
「ひぃっ!?」
ニチカはほとんど無意識下で腰のホウキを外す。気づけば二人は星のない夜の下を猛スピードで飛んでいた。
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さきほどの木立の中に戻ってきた師弟は、ほとんど自由落下に近い形で着陸した。ザッと、とび降りたオズワルドの横で、疲労困憊した少女がボテッと地に落ちる。頭に葉っぱを付けたニチカは暴れる心臓を抑えながら苦情を言った。
「ぜ、はぁ、いきなり飛べとか、無茶ぶりやめてよね……っていうか、自分で飛べるんだからホウキの一本くらい持ってよ」
だが頑なに飛ぶことを拒否する男はその提案をあっさりと却下した。
「断る。疲れるから嫌だ」
「だからって私にぶら下がるな!」
相変わらず男女逆転の労働作業である。ようやくホウキを小さくした少女は、屋敷に振り返り追手が来ていないかどうかを確かめた。ポツポツと火が灯り始めたところを見ると捜索隊が組まれたのだろう、このまま見逃しては貰えなさそうだ。木の影に身を隠しながら師匠に問いかける。
「どうして止めたの? あの紐さえ焼き切っちゃえばウルフィなら簡単に逃げられたはずでしょ」
「いや、それはマズい」
「え?」
バツの悪そうな声にそちらを見る。微妙に視線を逸らしたオズワルドは、後ろめたい事でもあるのか頭を掻きながらボソボソと呟いた。
「アイツの首に黄色い輪があっただろ?」
「あのゴツゴツした首輪?」
そう言われて先ほどの光景を思い出す。何やらアゴの辺りに箱のような物がついていたような気がするが?
内緒話でもするように身を屈めた師匠は、握り拳をニチカの眼前に持っていき、パッと開いた。
「あの箱には爆薬が入ってて、スイッチ一つでボン!と……」
「…………」
ニチカは目を一つ瞬く。一目見ただけで仕組みが判るということは、つまり――。言葉の意味するところを理解した瞬間、少女は思わず目の前の男を指して叫んでいた。
「製作者ーっ!」
「ええいうるさい! 俺だってこんなところで使われているとは予想外だ!」
分が悪くなったオズワルドは、むすっとした顔で腕を組み、何やら弁解を始めた。
「言っておくがあれは売り物じゃないんだ。趣味で作ったようなもの――」
「趣味で作らないでよそんなもんっ!」
そんな倫理ギリギリの物を作って何に使うつもりだったのか。そこは気になったが、ふと冷静になってニチカは問いかける。
「売ってないなら、どうしてここにあるわけ?」
「そこなんだよな。作ったはいいが特に使うでもなく放置していて、興味を持ったシャルに二つ、三つ譲ってやった他は……」
同時にハッとした二人は同じタイミングでうめいた。あのお嬢様は配送業シャルロッテの上客ではなかったか。
先に頭を切り替えたのはニチカだった。顔を上げ勇ましい表情をとる。
「仕方ない、とにかく情報があるのは良しとしましょう。物事は前向きに考えなきゃ」
「もう置いてっても良いんじゃないか、アイツ」
「それ本気で言ってたら殴るからね」
少女はジト目でにらみつける。そんな弟子にオズワルドは冗談だと返そうとした。が、茂みからのっそりと現れた影に言葉を失う。
「え、なに」
師匠の視線の先を振り向いたニチカは、自分のすぐ背後でぬぼーっと立つ人影に悲鳴を上げた。
「きゃああああ!!」
「ああああすみませんすみません!! 驚かせるつもりはなかったんです申し訳ありません!!」
慌てて飛び出して来た青年は地に頭を擦りつける。その姿には見覚えがあった。地味な風体に茶髪、とって着せられたような黒いローブ、全身からにじみ出る「下っ端」感がすさまじい彼は
「えっと、ウィルさん……でしたっけ」
オズワルドが成り代わっていた執事のはずだと思い出し、ニチカは声をかける。だが彼はなぜか震え上がった。
「ひぃぃ!! なぜ僕の名前をご存じなのですか! あっ、あれですか! これを上のお偉いさんに報告してニセモノを捕らえるつもりなんですね! ああああごめんなさいごめんなさい僕は無理やりお嬢様に付き合わされてるだけなんですそもそも屋敷を出た時点で相当嫌な予感はしてたんですけど僕は両親が世話になってるから逆らえなくてですねお許しくださいお嬢様もあぁ見えて本当は素直な良い子なんですただちょっと今は欲に目がくらんでると言いますか平たく言うと家出の資金繰りに必死になってるだけで決して精霊の巫女様を貶めようだなんてそんな大それた考えはもしかしたらほんのちょびっとは持ってるかもしれませんけどいやいやいや! まさかそんな」
放っておくと永遠に謝罪し続けそうなウィルを前にして、オズワルドがイラッとしたように言う。
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