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189.異世界のあなたへ
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両手を広げてウェルカムポーズの私は悲鳴を上げる。やばいやばいやばい! 殺りかねない!
「待ったグリ! ルシャ、煽るのをやめなさいっ」
『あれ、オレに命令するの?』
叱りつけると、私の中の炎がゆらりと妖しく燃え盛る。それまでお調子者っぽいだけだった声の中に、あの時のような狂気がにじんだ。
『オレの憎悪は消えていない、よくも一世一代の大舞台を台無しにしてくれたな。そうやって油断してるといいさ、いつかこの身体を乗っ取って……』
そこでハァッとため息をついた私は、心の中に一つ小箱をイメージした。小さいながらも頑丈そうな白い箱で、銀のフレームがガッチリと四隅を囲っている。
『あ、ちょ、アハハじょーだんだって、またそんな横暴なアキラちゃ』
心の手で揺らめく炎を掴み、問答無用でその小箱の中に放り込む。すかさず蓋を閉めてしっかりと鍵を掛けるとガタガタ小刻みに動き出した。しばらく中からくぐもった声が聞こえていたのだけど、やがてふてくされたように静かになる。ふぅっと息をついた私は目を開けた。
「大丈夫、主導権は私にあるみたいだし、しばらくは間借りさせてあげるわ。いずれ落ち着いたら方法を探しましょ」
ぶすっとしていたグリだったけど、封印された箱を持ち上げるイメージを見せると渋々と鎌を下ろしてくれた。
「まぁ、時間は死ぬほどあるわけだしね。そういえばルカから聞いた? 逆ハーレムのこと」
いきなり話題を振られてぎくっと跳ねる。あ、あの男~、本気でやるつもりか。熱くなる頬をごまかすよう、私は腰に手をあてて顔をしかめてみせた。
「まったくもう、ふざけてるとしか思えないよね」
「あれ、俺は含めなくていいよ。待つから」
「そうそう、含めないでい――ん?」
『待つ』という単語が引っかかる。どういう事かと視線を上げると、グリは考え事をするように宙を見つめていた。ぽやっとした雰囲気はそのままにとんでもない事を言う。
「寿命で言えばぷーくんが最初かな、吸血鬼もそうとう長生きだけど限度はある。んー、ライムももしかしたら挟むかもしれないけど、最後に残るのは俺と君だけだろうし」
「な、なに言ってるのよ。私がそんなに長生きするわけ……」
半笑いを浮かべながら返すと、グリは至極真面目な顔をして言った。
「するよ。あきらの肉体は人形だもの。魔力ある限り寿命はない」
いきなり突き付けられた事実に固まる。死ねない? 私が?
普通に年を重ねていくんだとばかり思っていた私は、心が人のままでしかない私は実感が湧かずに呆然とする。永遠というキーワードは、あまりにも未知なる言葉だった。
畏れにも近い感情が身体を振るわせようとした瞬間、温かい手が優しく頬に触れる。見上げた先の灰色の目は澄んだ落ち着きを湛えていた。
「安心して、あきらを一人ぼっちにはさせないよ。たとえ何百年、何千年経ったって俺は君の傍にいるから」
柔らかい響きは、じわりと胸に広がり安堵感をもたらすのだけど、依存してしまいたくなるような妙な甘さを含んでいる。感情のジェットコースターで言葉を失う私をわずかに引き寄せ、グリは上から声を降らせてきた。
「まぁ、今すぐ俺を望むっていうんなら大歓迎だけど」
ふわりと香る甘い匂いが私を包み込む。髪に軽く触れる感触がして、少しだけ笑いを含んだ声が響いた。
「知ってる? 死神って神様の一種なんだよ」
***
ぎこちない動きで階段を下りた私は、大広間の横を通り抜けエントランスホールに出ようとした。ところで誰かにトスンッと衝突する。
「おっと、ちょうどよかった。戴冠式での警備の事なんだが――おい、どうした?」
ラスプのお腹に頭突きをしたまま、私は停止していた。怪訝そうな声が降って来るけど構わず体重を預け続ける。
死なない? 老けない? それってどういうこと、私って結局いったい何なの永遠の命とか要らないんですけど普通に生きれば十分なんですけど。そう考えているとぽつりとつぶやいていた。
「……おいていくのと、おいていかれるって、どっちが辛いんだろう」
「は?」
「いやー、ちょーっとスケールの大きすぎる問題にぶち当たりまして、頭が付いていかないって言うか、混乱してると言いますか」
半ばヤケになりながら愚痴をブツブツと呟く。ほんとに何なのよ、ルカもグリも。人を混乱させるようなことばっか急に言い出して!
やり場のない鬱憤がたまってきたところで、空気が読めない事に定評のある狼さんはしれっと言い放つ。
「ふーん、大変だな」
「他人(ひと)事!」
腰を掴んでバッと視線を上げると、きょとんとした顔がそこにあった。
わかってない、全然わかってない。ラスプだって無関係じゃないのに。この人もいつか私より先に死んじゃうなんて。
いずれ来るその時を思うと勝手に視界がじわぁとにじみ出す。水滴が目の縁に溜まりそうになった時、ぶに、と片手で頬を両側から挟まれた。留まっていた涙がひと筋流れ、呆れたような声で言われてしまう。
「泣き虫。そこだけは全然成長してないのな」
「ぁによ~~」
ぐにぐにと弄ばれて顔が変形する。酸欠の金魚みたいに口をパクパクさせながら私は抗議しようとするのだけど、その前にラスプは口を開いた。
「あぁ他人事だ。正直心配する必要さえないと思ってる。だって、お前はいつだって正しい道を選び取れることをオレはもう知ってるからな」
外そうと手をかけた状態のまま、私は目を瞬いた。確信に満ちた声は、自分からは見えなかった「あきら」という人物の側面を語りだす。
「いや、時には間違うこともあるかもしれないな。それでも正しくあろうとするアキラの心を知っているからオレは心配していない。あがいて泥まみれになりながらも乗り越えていける強さがお前の中には確かにある。折れることもない、オレらが支えるからだ」
頬を掴んでいた手をようやく放したラスプは何の裏もない笑顔を浮かべた。こちらの頭に手を置いて、いつものようにクシャッと撫でる。
「心配すんな、その『スケールの大きすぎる問題』とやらも、お前ならいつの間にか笑って解決してるはずだから。オレを上手に『使って』くれるんだろ?」
「……」
大丈夫、なのかな。ラスプからみた「あきら」がそうなら、この先もやっていけるのかな。
「どうして、私が一番欲しい言葉をくれるんだろう……」
「あ?」
そっか、そうだよね、方法を探せばきっと解決策はあるはず。同じスピードで時を重ねて行けるはずだ。私が望めば世界は好転する。今までもそうだった。嘆く必要はない。
はぁぁ~っとため息をついた私は、目の前の身体にむぎゅーと抱き着いて顔を埋めた。
「いきなりヘンな事いいださないから、やっぱラスプがいい」
「そ、そうか?」
ちょっと照れたような声が聞こえて来るけど、まんざらでもなさそうなので更にぎゅうぎゅうと抱き着く。
「アキラ、ちょっ……どうした」
――それではお覚悟を、主様。私は本気ですからね
――何百年、何千年経ったって俺は君の傍にいるから
ふいに二人の声が蘇る。……正直、ちょっとだけ揺れた。一ミリも心が動かなかったと言えば嘘になる。
(だからって、逆ハーレムはどうかと思うけど)
顔を上げた私は抱き着いたまま彼をじっと見上げる。たじろいだラスプに向かって、私は不安げにつぶやいた。
「私のこと、ちゃんと捉まえていて」
赤い目が見開く。戸惑って泳いでいた視線は、やがて決意を固めたようにこちらに一心にそそがれた。それでもためらいがちにそっと問いかけられる。
「なぁ、オレは結局お前の何なんだ?」
「……どうなりたい?」
ちょっとだけ挑発的な返しをしてチラリと上目遣いで見つめる。急に真面目な顔をしたラスプは私の頬に手を添えた。
「態度で示していいのか?」
「……ん」
真剣な顔が少しずつ降りて来て、私は自然と目を閉じ――
「アキラ様ーっ!」
「「!?」」
割り込むように響いた元気な声に、私たちは瞬時にバッと離れヘンなポーズで固まった。見下ろせば、正面玄関からライムがパタパタと走り込んできたところだった。胸に抱えていたステラを放した彼は、こちらを見上げてニヤニヤと含み笑いを浮かべる。
「あーっ、こんなところでイチャついていけないんだ~。ルカ兄ぃに言いつけちゃおっかな~」
「バッ……誰がイチャついて!」
反射的に言い返すラスプをさえぎるように、少年はチッチと指を振る。
「ダメダメ、まだしばらくは『みんなのアキラ様』だもん。ぷー兄ぃに独り占めなんてさせないよ。ねー? ステラ」
『ぴぁー』
元気に鳴く氷竜に毒気を抜かれたのか、拳を握り込みプルプルと震えていた狼さんは、脱力したようにため息をついて階段を降り始めた。
「そろそろ訓練の時間だし、行くわ」
「アハハ……がんばってね」
正面玄関から出ていくしっぽを、ライムもステラを連れて追いかける。だけど玄関をくぐる直前で振り向き、満面の笑顔を浮かべてこんなことを言った。
「アキラ様、明日が来るのが待ち遠しいねっ!」
その言葉の意味を考えていた私は、次第に口の端がつり上がっていくのを感じた。
今日も、明日も、その先も、ずっとワクワクする。これからも楽しい日が続いていくような予感は始まったばかりだ。
「うんっ」
同じだけ笑い返した私は、力強く頷いた。
彼らを見送った後、私も正面玄関から表に出てみた。いつか集合写真を撮った広場に立ち、街を見下ろす。
朝の光がキラキラと光り輝く街並みは、あの時と比べるとずいぶん様変わりした。
網目状に伸びる路地。ぐるりと張り巡らされた城壁。行き交う多種多様な種族。一日が始まろうとするざわめきが風に乗ってここまで届く。
(私の国、私の大切な居場所)
なびく髪をおさえた私は、いつかグリと通った時空トンネルが見えないかと空を仰いだ。その向こうに居るはずの『あなた』に向かって、メッセージを想う。
ねぇ、日本に居るもう一人の私
あなたは私の事これっぽっちも知らないだろうけど、でも、私は確かにあなたという存在から生まれた
私が躓きながらもここまでやってこれたのは、あなたが『まっすぐであろう』としたからに他ならないと思うの
苦しいことも悲しいこともあったけど、決して諦めない心をあなたから貰った
だから……ありがとう。どうか、その心を保ったまま、あなたも精いっぱい生きて下さい
その勇気は、きっとまた別の誰かを救うはずだから
青く澄んだ空に投げた思いは、届くだろうか。
ふしぎと誰かに届いたような気はした。
「さぁーって、今日も忙しいぞー!」
清々しい気分でグーッと伸びをする。待ち構えていたようにどこかで大きな音がして、この王国にはまた新たなトラブルがやってくる。
「魔王様ー!」
誰かが呼ぶ声に私は振り向いた。大きく息を吸って返事を返す。
「はーいっ」
力強く地面を蹴って、新しい未来へ駆けだしたのだった。
召しませ我らが魔王様 おわり
+++
ここまで御覧頂きありがとうございました。
ひと月ほど置いて番外編をこちらで更新する予定です。
満足度をお聞かせ頂ければとても嬉しいです。よろしくおねがいします
「待ったグリ! ルシャ、煽るのをやめなさいっ」
『あれ、オレに命令するの?』
叱りつけると、私の中の炎がゆらりと妖しく燃え盛る。それまでお調子者っぽいだけだった声の中に、あの時のような狂気がにじんだ。
『オレの憎悪は消えていない、よくも一世一代の大舞台を台無しにしてくれたな。そうやって油断してるといいさ、いつかこの身体を乗っ取って……』
そこでハァッとため息をついた私は、心の中に一つ小箱をイメージした。小さいながらも頑丈そうな白い箱で、銀のフレームがガッチリと四隅を囲っている。
『あ、ちょ、アハハじょーだんだって、またそんな横暴なアキラちゃ』
心の手で揺らめく炎を掴み、問答無用でその小箱の中に放り込む。すかさず蓋を閉めてしっかりと鍵を掛けるとガタガタ小刻みに動き出した。しばらく中からくぐもった声が聞こえていたのだけど、やがてふてくされたように静かになる。ふぅっと息をついた私は目を開けた。
「大丈夫、主導権は私にあるみたいだし、しばらくは間借りさせてあげるわ。いずれ落ち着いたら方法を探しましょ」
ぶすっとしていたグリだったけど、封印された箱を持ち上げるイメージを見せると渋々と鎌を下ろしてくれた。
「まぁ、時間は死ぬほどあるわけだしね。そういえばルカから聞いた? 逆ハーレムのこと」
いきなり話題を振られてぎくっと跳ねる。あ、あの男~、本気でやるつもりか。熱くなる頬をごまかすよう、私は腰に手をあてて顔をしかめてみせた。
「まったくもう、ふざけてるとしか思えないよね」
「あれ、俺は含めなくていいよ。待つから」
「そうそう、含めないでい――ん?」
『待つ』という単語が引っかかる。どういう事かと視線を上げると、グリは考え事をするように宙を見つめていた。ぽやっとした雰囲気はそのままにとんでもない事を言う。
「寿命で言えばぷーくんが最初かな、吸血鬼もそうとう長生きだけど限度はある。んー、ライムももしかしたら挟むかもしれないけど、最後に残るのは俺と君だけだろうし」
「な、なに言ってるのよ。私がそんなに長生きするわけ……」
半笑いを浮かべながら返すと、グリは至極真面目な顔をして言った。
「するよ。あきらの肉体は人形だもの。魔力ある限り寿命はない」
いきなり突き付けられた事実に固まる。死ねない? 私が?
普通に年を重ねていくんだとばかり思っていた私は、心が人のままでしかない私は実感が湧かずに呆然とする。永遠というキーワードは、あまりにも未知なる言葉だった。
畏れにも近い感情が身体を振るわせようとした瞬間、温かい手が優しく頬に触れる。見上げた先の灰色の目は澄んだ落ち着きを湛えていた。
「安心して、あきらを一人ぼっちにはさせないよ。たとえ何百年、何千年経ったって俺は君の傍にいるから」
柔らかい響きは、じわりと胸に広がり安堵感をもたらすのだけど、依存してしまいたくなるような妙な甘さを含んでいる。感情のジェットコースターで言葉を失う私をわずかに引き寄せ、グリは上から声を降らせてきた。
「まぁ、今すぐ俺を望むっていうんなら大歓迎だけど」
ふわりと香る甘い匂いが私を包み込む。髪に軽く触れる感触がして、少しだけ笑いを含んだ声が響いた。
「知ってる? 死神って神様の一種なんだよ」
***
ぎこちない動きで階段を下りた私は、大広間の横を通り抜けエントランスホールに出ようとした。ところで誰かにトスンッと衝突する。
「おっと、ちょうどよかった。戴冠式での警備の事なんだが――おい、どうした?」
ラスプのお腹に頭突きをしたまま、私は停止していた。怪訝そうな声が降って来るけど構わず体重を預け続ける。
死なない? 老けない? それってどういうこと、私って結局いったい何なの永遠の命とか要らないんですけど普通に生きれば十分なんですけど。そう考えているとぽつりとつぶやいていた。
「……おいていくのと、おいていかれるって、どっちが辛いんだろう」
「は?」
「いやー、ちょーっとスケールの大きすぎる問題にぶち当たりまして、頭が付いていかないって言うか、混乱してると言いますか」
半ばヤケになりながら愚痴をブツブツと呟く。ほんとに何なのよ、ルカもグリも。人を混乱させるようなことばっか急に言い出して!
やり場のない鬱憤がたまってきたところで、空気が読めない事に定評のある狼さんはしれっと言い放つ。
「ふーん、大変だな」
「他人(ひと)事!」
腰を掴んでバッと視線を上げると、きょとんとした顔がそこにあった。
わかってない、全然わかってない。ラスプだって無関係じゃないのに。この人もいつか私より先に死んじゃうなんて。
いずれ来るその時を思うと勝手に視界がじわぁとにじみ出す。水滴が目の縁に溜まりそうになった時、ぶに、と片手で頬を両側から挟まれた。留まっていた涙がひと筋流れ、呆れたような声で言われてしまう。
「泣き虫。そこだけは全然成長してないのな」
「ぁによ~~」
ぐにぐにと弄ばれて顔が変形する。酸欠の金魚みたいに口をパクパクさせながら私は抗議しようとするのだけど、その前にラスプは口を開いた。
「あぁ他人事だ。正直心配する必要さえないと思ってる。だって、お前はいつだって正しい道を選び取れることをオレはもう知ってるからな」
外そうと手をかけた状態のまま、私は目を瞬いた。確信に満ちた声は、自分からは見えなかった「あきら」という人物の側面を語りだす。
「いや、時には間違うこともあるかもしれないな。それでも正しくあろうとするアキラの心を知っているからオレは心配していない。あがいて泥まみれになりながらも乗り越えていける強さがお前の中には確かにある。折れることもない、オレらが支えるからだ」
頬を掴んでいた手をようやく放したラスプは何の裏もない笑顔を浮かべた。こちらの頭に手を置いて、いつものようにクシャッと撫でる。
「心配すんな、その『スケールの大きすぎる問題』とやらも、お前ならいつの間にか笑って解決してるはずだから。オレを上手に『使って』くれるんだろ?」
「……」
大丈夫、なのかな。ラスプからみた「あきら」がそうなら、この先もやっていけるのかな。
「どうして、私が一番欲しい言葉をくれるんだろう……」
「あ?」
そっか、そうだよね、方法を探せばきっと解決策はあるはず。同じスピードで時を重ねて行けるはずだ。私が望めば世界は好転する。今までもそうだった。嘆く必要はない。
はぁぁ~っとため息をついた私は、目の前の身体にむぎゅーと抱き着いて顔を埋めた。
「いきなりヘンな事いいださないから、やっぱラスプがいい」
「そ、そうか?」
ちょっと照れたような声が聞こえて来るけど、まんざらでもなさそうなので更にぎゅうぎゅうと抱き着く。
「アキラ、ちょっ……どうした」
――それではお覚悟を、主様。私は本気ですからね
――何百年、何千年経ったって俺は君の傍にいるから
ふいに二人の声が蘇る。……正直、ちょっとだけ揺れた。一ミリも心が動かなかったと言えば嘘になる。
(だからって、逆ハーレムはどうかと思うけど)
顔を上げた私は抱き着いたまま彼をじっと見上げる。たじろいだラスプに向かって、私は不安げにつぶやいた。
「私のこと、ちゃんと捉まえていて」
赤い目が見開く。戸惑って泳いでいた視線は、やがて決意を固めたようにこちらに一心にそそがれた。それでもためらいがちにそっと問いかけられる。
「なぁ、オレは結局お前の何なんだ?」
「……どうなりたい?」
ちょっとだけ挑発的な返しをしてチラリと上目遣いで見つめる。急に真面目な顔をしたラスプは私の頬に手を添えた。
「態度で示していいのか?」
「……ん」
真剣な顔が少しずつ降りて来て、私は自然と目を閉じ――
「アキラ様ーっ!」
「「!?」」
割り込むように響いた元気な声に、私たちは瞬時にバッと離れヘンなポーズで固まった。見下ろせば、正面玄関からライムがパタパタと走り込んできたところだった。胸に抱えていたステラを放した彼は、こちらを見上げてニヤニヤと含み笑いを浮かべる。
「あーっ、こんなところでイチャついていけないんだ~。ルカ兄ぃに言いつけちゃおっかな~」
「バッ……誰がイチャついて!」
反射的に言い返すラスプをさえぎるように、少年はチッチと指を振る。
「ダメダメ、まだしばらくは『みんなのアキラ様』だもん。ぷー兄ぃに独り占めなんてさせないよ。ねー? ステラ」
『ぴぁー』
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「アハハ……がんばってね」
正面玄関から出ていくしっぽを、ライムもステラを連れて追いかける。だけど玄関をくぐる直前で振り向き、満面の笑顔を浮かべてこんなことを言った。
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今日も、明日も、その先も、ずっとワクワクする。これからも楽しい日が続いていくような予感は始まったばかりだ。
「うんっ」
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彼らを見送った後、私も正面玄関から表に出てみた。いつか集合写真を撮った広場に立ち、街を見下ろす。
朝の光がキラキラと光り輝く街並みは、あの時と比べるとずいぶん様変わりした。
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(私の国、私の大切な居場所)
なびく髪をおさえた私は、いつかグリと通った時空トンネルが見えないかと空を仰いだ。その向こうに居るはずの『あなた』に向かって、メッセージを想う。
ねぇ、日本に居るもう一人の私
あなたは私の事これっぽっちも知らないだろうけど、でも、私は確かにあなたという存在から生まれた
私が躓きながらもここまでやってこれたのは、あなたが『まっすぐであろう』としたからに他ならないと思うの
苦しいことも悲しいこともあったけど、決して諦めない心をあなたから貰った
だから……ありがとう。どうか、その心を保ったまま、あなたも精いっぱい生きて下さい
その勇気は、きっとまた別の誰かを救うはずだから
青く澄んだ空に投げた思いは、届くだろうか。
ふしぎと誰かに届いたような気はした。
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清々しい気分でグーッと伸びをする。待ち構えていたようにどこかで大きな音がして、この王国にはまた新たなトラブルがやってくる。
「魔王様ー!」
誰かが呼ぶ声に私は振り向いた。大きく息を吸って返事を返す。
「はーいっ」
力強く地面を蹴って、新しい未来へ駆けだしたのだった。
召しませ我らが魔王様 おわり
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