召しませ我らが魔王様~魔王軍とか正直知らんけど死にたくないのでこの国を改革しようと思います!~

紗雪ロカ@失格聖女コミカライズ

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11/1 ルカ誕生日SS「ニヤニヤ草」-前編

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以前企画で書いた物をルカ寄りに再編成した短編です。

+++

「……」
「……」

 どうしてこうなった。
 ハーツイーズ城の執務室全体を、そんな空気が満たす。

「グリ、この落とし前はつけて貰いますよ」
「えー、この状況は俺だって被害者でしょ」

 悪鬼みたいな顔をして立つルカの腰に、まるでウエストポーチのようにグリが付着している。何を言っているのか分からないと思うけど、実際その通りなんだからそう表現するしかない。

「だいたいさ、俺の私物を勝手に持っていく方が悪くない?」
「廊下の端に落ちているのに誰の私物かなんて分かるわけないでしょう。名前でも書いておけばよかったんじゃないですか?」

 聞いてるこちらがひやりとしてしまうほど冷たい声色だと言うのに、死神は恐れるどころかフッと軽く笑うと挑発するようにこう返した。

「へぇ、じゃあルカは自分の持ち物全部に名前書いてるんだ。『三年一組 りゅかりうす』って? 初耳」

 下手に飛び火するのが怖くて、私とライムはソファに座って身を寄せ合うことしかできない。だけど空気を読めないことに定評がある人物がガチャリと扉を開け入ってきてしまう。

 彼は一瞬室内の様子にポカンと口を開けていたのだけど、密着している二人を指し、命知らずにも爆発するように笑い出した。あぁ……

「ぶわぁーっはっは!! なんだそりゃ、お前らアホすゴぁ!?」

 最後まで言うことも叶わず、ルカの風魔導がその身体を突風で吹き飛ばす。壁に叩きつけられたその上からグリが投げた大鎌がカッ!と刺さり、磔にされた狼男の頭頂部からバラッと赤毛が舞い散った。

「ぷー兄ぃって、ほんとバカ」

 呆れたようにつぶやいたライムの隣で、私は事の経緯を思い返していた。

***

「主様、これ何だか分かりますか」

 緑色の何かを手にルカが入ってきたとき、私は執務室の大きなデスクで書類整理をしている真っ最中だった。

 有能なる右腕が目を通しておいてくれた書類にハンコを次々押していくという単純作業を続けること数十分。二百枚を超えた辺りから飽きていた私はすぐさまその問いかけに飛びついた。

「なになに、どうしたのそれ」

 休憩のためにお茶を入れてきてくれたバンパイアは、ティーセットをローテーブルに置くと『それ』を見せてくれた。

 手のひらサイズの生き物?で、ボールみたいな丸っこい身体にちっちゃな手足がついている。全体に小さなトゲというか突起が付いているのだけど、刺さるほど鋭いものではないようでルカは「グニグニ」と握りこんではひっくり返して観察していた。

「そこの廊下に落ちていたんですよ、心当たりは無いみたいですね」
「へぇぇ、ちょっと可愛くない?」

 興味深々で覗き込むと、緑ボール君は(・∀・)ヤァ、と片手を上げてみせた。ん? 顔文字で表現できそうな顔ってことは……

「もしかして、この子もマンドラゴルァと同じ死神界の植物なんじゃ」

 指先でそれにハイタッチしようとした瞬間、扉がすごい勢いで開けられた。めずらしく血相を変えたグリが私たちと間に挟まれた(・∀・)を見て目を見開く。

「離れて!」
「うわっ!?」

 割り込んできたグリに突き飛ばされ、私は応接ソファに背中からダイブする。消えていく視界の向こうでは、とっさに身を引いたルカが不思議生物を取り落としていて

「いたた、どうしたの――え、なにそれ、どういう状況?」

 身を起こした私が見たのは、(・∀・)を接点にして腰辺りで固定された二人の姿だった。

***

「ニヤニヤ草っていう死神界の植物で、ひっつき虫みたいに二人をくっつけちゃう植物なんだって」

 磔からようやく抜け出すことに成功したラスプは、私のざっくりした説明を受けてそちらを見る。座ることも出来ないので立ちっぱなしの二人は、かなり精神的にも来ているようで仏頂面のままだ。

「強制的に二十四時間ハグさせ続けて、周りの人がそれを見てニヤニヤするのが名前の由来だとか」
「そりゃ異性の場合だろ? 男が二人くっついてんのを見ててもなぁ……」

 絵面的にキツイわ。とぼやいた狼は、壁にかけられていた大剣をひょいと取り上げる。正眼に構えると剣を向けられた二人は青ざめた。

「そこを動くなよ!」

 ブンッと振りかぶると同時にルカが跳ぶ。標的を失った切っ先は執務室の固い床を削るだけに終わった。

「おい、避けんなって言っただろうがっ」
「ちょっと! 部屋壊さないでよね!」

 グリを小脇に抱えたルカは、大きな花瓶を置いた台の上に着地する。日頃、常に余裕の笑みを浮かべている彼とは思えないほど狼狽したように叫んだ。

「いきなり何をするんですかっ、信用できるわけないでしょう! あと主様、部下より床の心配とかさすがに傷つくのでやめてください」
「え、ルカでも傷つく事ってあるの? 意外」
「……」

 恨みがましい目でこちらをにらんでいた吸血鬼さんだったけど、顎に手をやると何かおかしいとブツブツ呟きだした。

「こういった役回りは本来ラスプのはずでは? 私はその不憫担当を外から嘲笑うポジションのはず……」
「聞こえてんだよコラ」

 誰が不憫担当だと噛みつく横で、私は先ほどから一言も発しない彼の様子に気づいた。グリ、寝てる。小脇に抱えられたまま寝てる。

「あなたと言う人は……」
「あぇ」

 青筋を立てたルカが片手で眠りこけている頭を掴むと「めきょっ」と軽い音が鳴る。その手をうっとおしげに払った死神は全てを諦めたように脱力した。

「むりむり、こーなったら何やっても無駄だもん。俺、諦めた。今日一日は死神ポーチに成りきるから気にしないで」
「こんな邪魔くさいポーチ、一時間だって我慢できないのですが」

 確かに、上背のあるグリを抱えて移動するのはいくら魔族のルカでもきつそうだ。せめて平等に時間で交代したら?と提案すると、とろんとした目でこちらを見上げながら彼は言った。

「やってもいいけど、接着向き的に俺がルカをお姫様抱っこする形になるよ」

 ブフゥッ!と私とラスプが同時に噴き出す。それがとどめになったのか、吸血鬼は本格的に眉間に皺を刻み始んで叩きつけるように叫んだ。

「どうにかして下さいよ! あなたと違って私は忙しいんですから!」
「そうだ、死神のすり抜け術は?」

 物理無視で透過できる反則技はどうかと提案すると、ニヤニヤ草を指しながらグリが頭を振る。

「死神が通り抜けられるのはこの世界の物質だけだよ。元々同じ次元にあったものは無理だって」

 八方塞がりじゃないかと唸りかけた時、自分の部屋へ「ある物」を取りに行っていたライムが戻ってきた。その手には一抱えもありそうな銀色の箱がぶら下げられている。

「っじゃーん、こういう時は滑らせて取るのがお約束でしょ。僕が使ってるからくり用のオイルだよ!」
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