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9 貴族令嬢ジュリエッタ
しおりを挟む「俺は本気でこの領地を立て直すつもりだ。特産品の開発はその肝になる」
俺はクリスティナをまっすぐ見つめる。
「君には大いに期待している」
「いいよ、任せておきな」
クリスティナが笑った。
「ワインが出来上がったら、あんたと一緒に飲みたいねぇ……と思ったけど、未成年か」
「はは、俺がもう少し大人になったらな」
「そうだね、ふふ……楽しみ」
クリスティナの俺を見る目が妖しくなった。
「そのときは大人の女のよさを教えてあげる」
その後、俺は他の農民たちにクリスティナを紹介して回った。
彼女はもともとこの辺りで細々と栽培をしている小さな農家の人間だったが、俺が【人心掌握】で彼女の能力や才能について説明すると、すぐにみんな納得してくれた。
クリスティナには何の実績もない、と反対する人間がいなかったのは、ありがたい。
その後、ワイン醸造の責任者についても【鑑定】で何人かを選び、特産ワインの開発はいったんクリスティナたちに一任することにした。
こうしてローゼルバイト領のワイン事業が始まる。
今後の道のりは決して平坦じゃないだろう。
予期せぬトラブルだって起こるだろう。
けれど、俺は没落の運命を覆すために全力を尽くしていく。
領地改革を、もっともっと押し進めるぞ――。
「ディオン様、どちらにいらっしゃったのですか?」
館に戻るなり、メイドたちが駆け寄ってきた。
「何かあったのか?」
「ジュリエッタ様がお越しです」
と、メイドの一人が説明する。
「ジュリエッタ?」
誰だろうと思って、ディオンの記憶を探った。
すぐに理解する。
ジュリエッタ・フォルテ。
王国有数の貴族の令嬢であり、
「俺の婚約者――か」
彼女は優雅で気品にあふれた美少女だ。
プライドが高く、華やかな彼女は原作のディオンに負けず劣らず気が強い。
いや、ディオン以上かもしれない。
もともと二人の婚約は、この時代の貴族なら当たり前といえる政略結婚だ。
愛情による結びつきではないうえに、二人の相性は最悪で、しかもディオンの家はかつての名門とはいえ、没落する運命にある。
しかも彼女は原作のディオンの圧政を糾弾し、やがて彼の破滅の一因となるのだが――。
「わざわざ敵に回すような相手でもないし、仲良くしておくべきだろうな」
原作のディオンとは違い、俺ならジュリエッタとそれなりに上手くやっていけるかもしれない。
まずは――彼女にとっての『ディオンの悪印象』を少しでも覆すところからだな。
「支度を終えたら、すぐに行くと伝えてくれ」
俺はメイドたちに言った。
さあ、これもまた『戦い』だ。
「ようこそ、ジュリエッタ。わざわざ訪ねてくれて嬉しいよ」
俺はジュリエッタに会うなり、できるだけ爽やかな笑みを浮かべてみせた。
「……あなたがそんなことを言うなんて。どういう風の吹き回し?」
ジュリエッタが怪訝そうな顔をした。
「本音を言ったまでだよ、ジュリエッタ。美しい婚約者に会えて、俺は心から喜んでいる」
もちろん俺の言葉には例の【人心掌握】が乗っている。
薄っぺらいお世辞ではなく、真実の言葉として彼女の心を揺さぶるはずだ――。
「へ、へえ……」
ジュリエッタの頬が赤くなった。
ん? 思ったより、だいぶチョロいぞ……?
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