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第1章 勇者の帰還

1 スキル持ち越しで人生リスタート1

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 俺の命は、尽きようとしていた。

 薄れゆく意識の中で、これまでの人生の出来事が次々と浮かび上がる。

 ああ、これが走馬灯ってやつか。

 異世界に来てから、数十年。
 ここに召喚されたのは、まだ俺が高校生だったころだ。

 勇者として魔王を倒せ、と言われた。
 俺はチートそのものといっていい圧倒的な力を授かり、仲間たちとともに魔王を討って世界を救った。

 そこまでは、よかった。

 だけど、その後──人々の態度は一変した。
 俺が新たな魔王になり、世界征服を目論んでいる、なんて疑いをかけられ、人々から追い立てられた。
 かつての仲間たちも手のひらを返したように、俺を追った。

 理由は、はっきりとは分からない。
 俺の力があまりにも強大すぎて人々が恐れたのか、魔王退治の栄誉を仲間たちだけで独占するために俺を排除しようとしたのか、今となっては不明だ。

 どうにか逃げ延びた俺は、素性を隠して過ごすことになった。

 そして、数十年の時が経ち──。
 俺は今、間もなく死のうとしている。
 老衰だ。

 俺の人生ってなんだったんだろうな。
 勇者として世界を救い、その世界から感謝されることもなく、非難され、追い立てられて。
 報われることなく、俺の命は消える──。

「久しぶりですね、カナタ」

 誰かが、俺の名を呼んだ。

「あなたは……」

 振り向こうとしたが、体に力が入らない。

「ここです」

 美しい女性が俺の顔をのぞきこむ。

 俺をこの世界に召喚した女神さまだった。
 数十年ぶりの再会である。

「あなたには辛い思いをさせてしまいました。本来なら、もっと早く来るべきだったのですが……遅れてしまい、お詫びのしようもありません」
「いえ、もう……いいんです」

 今さら怒りも恨みもない。
 俺の中にあるのは圧倒的な虚無感と諦念だけだった。

「償いとして、あなたの望みを叶えさせてください」

 女神さまが俺を見つめる。

 深い青色をした瞳に映る、俺の顔。

 すべてを諦めた。
 すべてに絶望した。
 すべてを失った。

 俺の、顔──。

「この世界はもう嫌だ」

 言いながら、心の内で何かが芽生えるのを感じた。

「もし願いが叶うなら……元の世界でやり直したいです」
「地球に戻りたい、ということですか」
「向こうにもいい思い出なんてないけど……ここよりはマシですから」

 それに、勇者としての能力を持って行けるなら、以前とはまるで違う生活を送ることができるだろう。

「──分かりました。それがあなたの望みなら叶えましょう」

 うなずく女神さま。

「能力や装備品なんかも全部向こうに持っていけるんですか」
「いえ、召喚前の時間軸に戻す関係上、いくつかの制約が出てきます」

 と、女神さま。

「まずアイテムの類は何も持っていけません。次のステータスはすべて初期状態──つまりレベル1の数値に戻ります」

 ちなみに今の俺のレベルは791である。
 また最初からやり直しか。

「引き継げるのは固有の特性──カナタの場合は取得したジョブと固有スキルを一つ取得した状態になります」
「ジョブについては基本的なものはすべて取得していますね。これは向こうの世界でも有効です。後は固有スキルですね。何を選びますか?」
「俺は──」
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