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第1章 勇者の帰還
17 緋ヶ崎穂乃花2
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放課後。
「今日は誰もいませんねー」
雫がオカルト研究部の部室を見て、寂しげにため息をついた。
「確か、お前の他に二人部員がいるんだよな?」
「はい。二人とも良い人ですよ」
雫が言うなら、きっとそうなんだろう。
「せっかくですし、よかったら二人で過ごしますか?」
「えっ、二人っきりで?」
雫の言葉にドキッとする。
「ふ、ふた……っ、二人っきり……そ、そういえば、そうですね、いえ、その、変な意味じゃないんですっ」
顔を赤くして両手を振る雫。
雫と部室で、二人っきりで過ごすのか……。
あらためて考えると、一気に照れ度が上がった。
頬が熱くなるのが分かる。
「じゃあ、何して過ごす? ゲームでもやるか?」
「トランプなんてどうでしょう」
とてとて、と歩き、部室の棚からトランプを取り出す雫。
誰かとトランプで遊ぶなんて久しぶりな気がする。
「いいな。やってみるか」
「では、ババ抜きを」
「二人でやると盛り上がりに欠けるような」
「では、七並べで」
「それも盛り上がりに欠けるような」
「そうですね……うーん」
悩む俺たち。
「ま、無難にポーカーかな」
俺が提案した。
「あ、私、ルール知らないです」
ひょこっと手を上げて申告する雫。
「俺が教えるよ。いくつか役があって、まずワンペアが──」
そんな感じで、俺たちはトランプで妙に盛り上がってしまった。
──で、帰り道。
「彼方くん、ポーカー強いですねー。私、負けっぱなしでした」
「……むしろ雫が弱すぎないか」
何せ、こいつはすぐに感情が表に出る。
ポーカーフェイスというやつが、まったくできないのだ。
俺は特段カードが強いわけじゃないけど、こいつの表情でだいたいの手が読めてしまうから、おのずと勝率が上がった。
「楽しかったです」
「そっか、よかった」
今度やるときは、もうちょい手加減して、雫にもっと勝たせてやろう。
と、
「きゃぁぁぁぁっ!」
学校前の大通りから交差点に差し掛かったところで、悲鳴が聞こえてきた。
コンビニのほうだ。
俺は雫と一緒にそこへ向かった。
「ち、近寄るんじゃねえ! 近寄ったらこの女を殺す! 警察を呼んでも殺す! おら、さっさと道を空けろ!」
コンビニの前で、三十代くらいの男がナイフを手に、女性店員を捕まえている。
どうやらコンビニ強盗らしい。
意外とこの世界も物騒だな。
「ひええええ……ど、どうしよう」
雫がガタガタ震えている。
俺は異世界で数えきれないくらいに命のやり取りをしてきたから、こういう光景を見ても落ち着いていられるけど、彼女はそうはいかないよな。
「大丈夫だ。俺があの店員を助ける」
「今日は誰もいませんねー」
雫がオカルト研究部の部室を見て、寂しげにため息をついた。
「確か、お前の他に二人部員がいるんだよな?」
「はい。二人とも良い人ですよ」
雫が言うなら、きっとそうなんだろう。
「せっかくですし、よかったら二人で過ごしますか?」
「えっ、二人っきりで?」
雫の言葉にドキッとする。
「ふ、ふた……っ、二人っきり……そ、そういえば、そうですね、いえ、その、変な意味じゃないんですっ」
顔を赤くして両手を振る雫。
雫と部室で、二人っきりで過ごすのか……。
あらためて考えると、一気に照れ度が上がった。
頬が熱くなるのが分かる。
「じゃあ、何して過ごす? ゲームでもやるか?」
「トランプなんてどうでしょう」
とてとて、と歩き、部室の棚からトランプを取り出す雫。
誰かとトランプで遊ぶなんて久しぶりな気がする。
「いいな。やってみるか」
「では、ババ抜きを」
「二人でやると盛り上がりに欠けるような」
「では、七並べで」
「それも盛り上がりに欠けるような」
「そうですね……うーん」
悩む俺たち。
「ま、無難にポーカーかな」
俺が提案した。
「あ、私、ルール知らないです」
ひょこっと手を上げて申告する雫。
「俺が教えるよ。いくつか役があって、まずワンペアが──」
そんな感じで、俺たちはトランプで妙に盛り上がってしまった。
──で、帰り道。
「彼方くん、ポーカー強いですねー。私、負けっぱなしでした」
「……むしろ雫が弱すぎないか」
何せ、こいつはすぐに感情が表に出る。
ポーカーフェイスというやつが、まったくできないのだ。
俺は特段カードが強いわけじゃないけど、こいつの表情でだいたいの手が読めてしまうから、おのずと勝率が上がった。
「楽しかったです」
「そっか、よかった」
今度やるときは、もうちょい手加減して、雫にもっと勝たせてやろう。
と、
「きゃぁぁぁぁっ!」
学校前の大通りから交差点に差し掛かったところで、悲鳴が聞こえてきた。
コンビニのほうだ。
俺は雫と一緒にそこへ向かった。
「ち、近寄るんじゃねえ! 近寄ったらこの女を殺す! 警察を呼んでも殺す! おら、さっさと道を空けろ!」
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どうやらコンビニ強盗らしい。
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雫がガタガタ震えている。
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「大丈夫だ。俺があの店員を助ける」
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