たわごと。

ぜつむ

文字の大きさ
上 下
1 / 4

雨の季節

しおりを挟む
雨の天候が続くほど、心がザワザワしてやまない。

昨年の梅雨時期。
4畳ほどの部屋にてデスクトップPCで文章作成をしている時、何気なく天井を見上げた。

木目調の壁紙シール、電気…
ふと、1cm程度の黒い線が一本ある事に気付く。

なんだこれは。以前からあったものとは思えない。何らかの汚れだろうか?

下からまじまじ見つめるも、何一つピンと来ず。
しばらく観察した後、その部屋で作業を再開する。

ある程度進めた所でキーボードから手を離し、伸びをした。

ポタッ

目の前に何かが落ちた気がする。
しかし、机の上を見渡しても何も見当たらない。

再びキーボードに触れようとしたその時、気が付いた。

…小さな黒い虫が傍で丸まっている。
キーボードが黒だった為、同色で気付かず、危うく触れてしまう所だった。

天井を見上げると、先ほどの黒い線は消えていた。
つまり、線の正体は無視だった訳である。

Gの巣靴育ちであるくせに虫が大の苦手ゆえ、丸まってビービー玉程度のサイズになったそれに対しても、しばらく鳥肌が収まらない。

とはいえ、きっともう会う事はないだろう。
何らかの拍子で偶々家に迷い込んだものと考える。


翌日、作業の合間に何気なく天井を見上げると、昨日とは少し異なる位置に、見覚えのある黒い線があった。

前回は偶々目に付く所に落ちたが、頭や身体に落ちてきたらと思うと気が気ではない。

しかしながら天井にあるそれを、どうしたら良いのか…
逃がす為に取るには位置が高くて届かず、駆除するにも落ちてくるのは怖すぎる。

結果、何も良い案が浮かばず、動向を観察する事にした。

…全く動かない。

30分程経ち、飽きた所でキーボードを叩き始める。

ツー

手元に上から何かが降りてきた。
先ほどの黒い虫。

蜘蛛のように細く透明な糸を出しながら(?)
下に向かってゆっくり降りてきている。

なんてことだ。

空のペットボトルの先にそれをキャッチして外へ放置。


そういえば、この虫は一体何なのか?
調べてみた所、どうやらヤスデの幼虫説が濃厚な様子。

ちょうど今頃の季節に見かける事があるらしい。
湿気を好みつつ水が苦手だそうで、雨から逃れるべく這って家へ侵入し、壁や天井に…との事。

偶々入り込んでしまったのは仕方がない。
我が家は隙間だらけのボロマンションだし、現れたものが成虫ではなかっただけまだマシだ。
ただ、3階まで少しずつ這っていたのだと思うと複雑な心境。

しかしながら、この部屋には洋服がむき出し状態でラックにかかっている。
もしも衣類に入り込んでいたら…
不安で仕方無いが、服を確かめている最中に手に付いたりしても困る。

色々調べて「空間に放出するタイプの殺虫剤」を入手し、早速噴射してみた。

しばらくして、やはり天井に奴がいる。
今度は二本の黒い線。
思いのほか数が少ない事が分かって安心し、帰宅した夫に後を任せた。

それから更に時間が経ち、天井を確認する。
そこにはもう何もいなかった。

ホッと胸をなでおろしてキーボードを触り始める。

…ふと、壁が気になって目を向けると、まっしろな壁紙に奴がいた。

三本の黒い線。
しかも今度はジワジワ動いている…
悲鳴を上げた。

いずれも幼虫とはいえ、虫は虫。
どうにも慣れる事が難しい。


侵入経路を考えるに、恐らくは窓。

幸い、他の部屋では見かけていないが、この部屋に至っては大きな窓がある。
目立った隙間は無いものの、隙間風がなかなかなので虫セキュリティーもガバガバと見た。

とはいえ、サッシに隙間テープを発布してしまう訳にもいかない。
住み始めの頃に窓に補助鍵を付けていた所、夏場のサッシの暑さでゴムの部分が溶けてしまった。
つまり、シールを貼ったらドロドロになってしまう恐れがある。

汚いまま落とせなくなったら、退去時に厄介な可能性がある。

どうしたものか
どうしたものか
どうしたものか…

引っ越すには資金が足りな過ぎてまだまだ厳しい。
結局、良い案が出ず放置。

以後、雨の日は5分に一度のペースで天井を見る癖がついた。

有難い事にあれから奴を見かけていないが、念には念。
一先ず、一~二日程度の雨は大丈夫そう。

ただ、どうしても梅雨の時期は雨が続きやすく、止んでいる日でも空気の温かさと湿気のジメジメ感が残り続ける。

出来るだけ湿気対策を行ってはいるが、雨水から逃れるべく、今年も入り込んでくる可能性は否めない。

秘かに憂鬱である。
しおりを挟む

処理中です...