ぼっちの俺が、学校一の美少女を傘に入れたら懐かれた件 〜雨の日から始まった急速接近ラブコメ〜

ゆうな

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​第1話:嵐の後の、君の香り

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​第1話:嵐の後の、君の香り

​「うわっ……なんだこれ、マジかよ……」
​俺――悠真(ゆうま)は、昇降口のガラス扉の向こう側に広がる景色を見て、思わず呆然と立ち尽くした。
さっきまで晴れ間も見えていて、今日の天気予報は確か「一日を通して晴れ。絶好の洗濯日和」だったはずだ。それなのに、今の空はまるで巨大なバケツをひっくり返したかのように、濁った雨水を地面に叩きつけている。
轟音と共に叩きつける雨粒が、アスファルトを白く煙らせ、視界を塞いでいた。学校の校庭はすでに小さな湖のようになっていて、排水溝が悲鳴を上げている。校舎の屋根から滝のような雨水が流れ落ち、排水パイプが耐えきれずにあちこちから水が噴き出していた。
​「嘘だろ……なんで今日に限って傘なんて持ってきてないんだよ……」
​リュックのポケットを何度も確認するが、そこには教科書と弁当箱しか入っていない。今朝、天気予報を信じて傘を家に置いてきた自分の甘い考えを呪った。昨日、天気予報を見た時には「傘は不要」と出ていたはずだ。気象衛星のデータはどうなっているんだ。
しかも最悪なことに、今日は予備の折り畳み傘も学校のロッカーに置いていないのだ。先週、壊れたのを修理に出して、まだ戻ってきていないことをすっかり忘れていた。今、俺のロッカーに入っているのは、履きつぶした体育館シューズと、去年の教科書だけだ。
​「どうしようかな……しばらく待てば止むか? いや、この雲の厚さはしばらく無理そうだな……。このまま学校に泊まるわけにもいかないし」
​俺は下駄箱の前で立ち尽くし、雨の勢いが弱まるのを待つという、あまりに無策で希望的観測に基づいた作戦に賭けることにした。
周りの生徒たちは次々と傘を開いて、楽しそうに帰っていく。
中には、相合傘をしてキャッキャと騒いでいるリア充カップルの姿もちらほら見え、見ていて少しばかり、いや、かなり心がチクッとした。俺のような「ぼっち」には、その光景が眩しすぎて目が潰れそうだ。なぜあんなに楽しそうにできるんだ。雨なんて、ただ濡れるだけの災害じゃないか。
​「……あ」
​その時だった。
俺のすぐそばで、小さく、しかし鈴の音のように可憐な声がした。
その声の主を探して振り返ると、そこには誰もが一度は振り返るであろう、圧倒的な美少女が立っていた。
クラスの、いや学校中の男子の憧れであり、高嶺の花である、雫(しずく)だった。
彼女は困ったような顔で、自分のバッグの中を何度も覗き込んでいた。その横顔もまた、絵画のように美しくて見惚れてしまう。普段の彼女からは想像できないほど、人間味のある表情だった。いつもは完璧な笑顔で周囲を魅了しているのに、今は少しだけ眉をひそめて、困惑している。
​「どうしたの?」
​声をかけるか迷ったが、気づけば俺は声をかけていた。普段の俺なら、そんな馴れ馴れしいことは絶対にできない。クラスの隅で息を潜めているのが俺の日常だ。雫のような美少女に話しかけるなんて、おこがましい。
だが、その困った表情が、あまりに儚げで、そして可愛らしかったからかもしれない。俺の口が勝手に動いていた。
​「えっ? あ、あの……傘を、忘れちゃって」
​雫は少し驚いたように顔を上げ、俺を見ると小さく笑った。
その笑顔の破壊力は凄まじい。思わず俺の心臓が「ドクン」と激しく跳ね上がった。まるで心臓が喉から飛び出しそうだった。周りの景色がスローモーションになり、彼女だけが輝いているように見えた。昇降口の薄暗い空間が、彼女の笑顔で一瞬にして明るくなったような錯覚に陥った。
​「そうなんだ。俺もなんだよ。ひどい雨だよね。今日の天気予報、完全にハズレだよ。気象庁に文句を言いたいくらいだ」
「本当……。あ、悠真くんだよね? 一緒のクラスの」
​雫が俺の名前を呼んでくれた。それだけで、少しだけ雨に濡れた気分が晴れるようだ。クラスの端っこにいる俺のことを、認識してくれていたんだ。その事実だけで、今日一日を乗り切れた気がする。もし俺が死ぬ瞬間に、この瞬間を思い出せば、きっと幸せな気持ちで死ねるだろう。
​「そうそう、悠真。……雫さんは、誰か迎えに来るとか?」
「うーん、お母さんは忙しいみたいだし……しばらく待ってみるけど、止みそうにないよね」
​彼女はそう言って、再び激しく叩きつける雨を見つめた。
二人で沈黙して、雨の音を聞く。
なんだか、不思議な空間だった。学校一の美女と、ぼっち気味の俺。
この不釣り合いな対比が、今の状況をさらにドラマチックにしている気がした。雨の音のせいか、二人だけの秘密の世界にいるような錯覚に陥る。このまま時間が止まってしまえばいいのに、という不埒な考えが頭をよぎる。この雨音が、二人だけの空間の壁になって、世界から隔離してくれているような感覚だ。
​「……あの、悠真くん」
​数分後、雫が唐突に俺の方を向いた。
その瞳が少しだけ潤んでいて、真剣な表情をしていた。その瞳に吸い込まれそうになる。彼女は何を考えているんだろうか。ただの暇つぶしの会話? それとも、俺に対して何か……いや、そんなはずはない。
​「な、なに?」
「これ……使わない?」
​そう言って彼女が差し出したのは、彼女のバッグから取り出された、小さく可愛らしい薄ピンク色の透明の傘だった。
しかし、その傘は二人で入るには、あまりに小さい。
​「え? でも、それ雫さんのだろ? 俺が使ったら雫さんが濡れちゃうよ。雫さんこそ使って帰ったほうがいい。俺はなんとかなるから」
「いいの。……その、もしよかったら、一緒に帰らない?」
​雫の頬が、ほんのりと赤くなっている。
その提案の意図を理解するのに、俺は数秒の時間を要した。
学校一の美少女が、俺に相合傘の提案? そんな漫画みたいなことが現実に起こるなんて、夢でも見ているんじゃないだろうか。もし夢なら、誰か起こさないでくれ。
​「い、一緒に……相合傘, ってこと?」
「う、うん……。ダメ、かな?」
​上目遣いでそう言われて、ダメだなんて言えるはずがない。そんなことを言ったら人間失格だ。それどころか、このチャンスを逃したら、俺の人生に二度とこんなイベントは発生しないだろう。
​「……そ、そうだね。じゃあ、遠慮なく。悪いね、雫さん」
「ううん、私こそ強引でごめんね。……じゃあ、行こ?」
​雫が傘を開く。透明なビニール傘の中に、二人で足を踏み入れた。
傘が小さい。予想以上に、小さい。
必然的に、俺と彼女の距離は極限まで近づくことになった。
​「っ……!」
​肩が触れ合う。
彼女の柔らかい体温が、俺の腕に伝わってくる。その熱は、俺の鼓動をさらに速くした。
そして、彼女の髪からだろうか、甘く心地よい香りが鼻をくすぐった。桜のような、あるいは石鹸のような、心を落ち着かせる良い香りだ。この香りは一生忘れないだろう。この瞬間、俺の人生の最高潮が訪れた。
​「近い……よね?」
「え? あ、いや、そんなことは……」
​動揺を隠そうと必死に取り繕うが、声が少し裏返ってしまった。最悪だ。カッコ悪い。雫さんに嫌われたらどうしよう。
​「あはは。悠真くん、すごく緊張してる」
「そ、そりゃあ、雫さんとこんな風になったら……」
​そう言ってから、余計なことを言ったと気づいた。俺の心の動揺が露骨すぎる。
だが、雫は困る様子もなく、逆に嬉しそうに微笑んだ。
​「ふふ、可愛い。……じゃあ、濡れないように、もっとくっついちゃおっか」
​彼女はそう言うと、さらに俺の方へ身体を寄せてきた。
腕が、腰が、完全に密着している。
もはや限界を超えた。俺はただ、前方を見つめることしかできなかった。心臓の音が、雨音よりも大きく聞こえそうだった。
​「……雨も、悪くないね」
​雫の呟きが、俺の心に深く刺さった。
このまま、この時間が続けばいいのに。
俺の長い、けれどあっという間に終わってしまうような相合傘の時間が、こうして始まった。
この傘の境界線が、俺と彼女の新しい関係の始まりだった。
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