無能な村人〜異世界でも強く生きていく〜

奥戸ユウ

文字の大きさ
10 / 11
第一章 新たなる人生

第十話 一件落着

しおりを挟む
 村長がアレンを背負い集合場所へと向かっている頃、ミーナたちやその他の子供たちに加え彼らの母親が集合場所にてアレンと村長の帰りを待っていた。
 そこは、ゴブリンの話でもちきりであった。
 子どもたちは好奇心旺盛なのかゴブリンに近づき、「これがゴブリンか」と興味を示している者もいれば、少し離れたところから「もう動かないよね」と怖がっている者もいた。
 また、母親たちは「あの子たち無事でよかったわね」と安心する者や「どうしてこんなところにゴブリンがいるのかしら」と疑問を抱く者たちがいた。
 ゴブリンに襲われた当の本人たちは母親にこっぴどく叱りつけられてる。
 幸いにも軽傷者が一名で済んだ。カイルの取り巻きの一人がゴブリンから逃げている際に、転んだ時にできた小さなすり傷だけである。
 ゴブリンに襲われ、死者が出なかったことが奇跡ともいえる。

「……この子って子はもう、本当に心配かけてぇ……。無事でよかったよ」

 ミーナの母、リネットはそう言うと我が子を強く抱きしめた。力強くミーナを抱きしめるリネットの姿からどれほど心配していたのかが窺える。リネットの目の端にはキラリと光るもの浮かんでいた。

「ゔっ……ごめんなざああああぁい!」

 初めて魔物に襲われ、ここまで逃げてきたのだ。母親に抱きしめられたことにより、込み上げてくるものがあったのだろう。声を上擦らせ泣きながら謝った。

「おばさん! 悪いのは俺なんだっ。俺が……俺がゴブリンを見に行こうって誘わなきゃ……。だ、だから……、怒るなら俺を怒ってくれ」

 カイルがリネットに怒られるのを覚悟して話しかけにいく。これから悪の組織にでも殴り込みに行くかのようにカイルの顔は強張っており、両手は強く握りしめられている。
 リネットはミーナを放し、カイルのもとまで歩を進めていく。リネットの表情からは怒りなど微塵も感じらず、子を想う母のような優しい表情を覗かせていた。

「誰も怒ったりなんかしてないわ。カイル、よく無事に戻ってきたわね。心配したのよ」

 カイルの頭を優しく一撫でし、悪戯をした子どもを諭すような声で言う。余談であるが、リネットは村では子ども好きとして有名である。彼女は近所の子どもたちに手作りの料理を振舞ったり、怪我をした子どもの手当てなどをよくしている。

「どうしてゴブリンを見に行こうとしたの。村長に奥には行かないようにって言われてたわよね」

 リネットの表情は一変し、真剣な眼差しでカイルを見つめそう問いかけた。

「そ、それは……。アレンのやつが、その……」

 何か後ろめたいことでもあるのかはっきり言わず口ごもっている。

「そう、まあいいわ。村長とアレン君が戻ってきたらゆっくり話しましょう。ほら、カイルも皆のところに行っておいで」

 今度はカイルの頭をクシャクシャと少し乱暴に撫で、背中を叩いて笑顔で子どもたちのもとへと送り出した。

「大丈夫よ、エレン。アレン君ならきっと無事だわ。ほら、元気出して」

 まだアレンが森の奥にいると知り、先程から顔をしわくちゃにさせ涙を流しているエレンに声をかけるリネット。その様子は傍から見ると、まるで泣き叫ぶ子どもとその子どもをあやしている母親のようである。

「……して、どゔぢて、そんな事が言えるの。アレンはまだ3つなのよ。ゴブリンに襲われて無事な訳ないじゃない」

「何言ってるのっ。母親が自分の息子を信じてないでどうするのっ!」

 リネットが励ますと、「そうよね」と目に涙を浮かべながら微笑み返すエレン。


 村長がアレンのもとへと向かってから数十分後、森の奥から人影が見えた。
 森を抜けて姿を見せたのは、アレンを助けに向かった村長であった。その背中にはぐっすりと眠っているアレンの姿も見受けられる。

「村長っ! アレンは……、アレンは無事なんですかっ」

「落ち着きなさい。ほら、この通りアレンは無事じゃよ。今はぐっすり眠っておるがの」

 迫りくるエレンに少し気圧されながらもアレンを地面に寝かせて何があったのかを説明する。
 村長が見つけた時には全身傷だらけであったこと、さらにゴブリンの食糧となる寸前であったこと、応急処置として足に木の棒を巻きつけたこと、そしてそれから眠ってしまったことを話した。
 その話を聞いたエレンは、その場にぐったりと倒れこみ「あぁ、よかった。ありがとうございます」とお礼を言うと、アレンを抱き寄せた。

「さあ皆! 少し想定外の事が起こったが、これで魔の森の散策はお終いじゃ。村に帰るぞ」

 村長が声をかけると、皆村長の後に続いていった。アレンはエレンの背中でまだ眠っている。
 こうしてアレンの初めての親睦会、魔の森のの散策が幕を閉じた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...